ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主 作:ZEXT933
「か~わ~い~い~!」
キラキラと目を光らせ、初めて見るランとフレスに好奇の視線を向けるルル、そしてレーア。
碧々とした地中海を背に、アークエンジェルとガラージュの2隻は、いまだ暴走MSによる被害を受けていない此処、地球連邦軍キプロス基地に寄港していた。
「2人ともお名前は? お名前はなんていうんです!?」
「ランといいますデス♪ こっちはお友達のフーちゃんデス」
「ふぃ~♪」
ランと名乗る少女に紹介されたフーちゃん……フレスは両腕をバタつかせ、ふわりと飛翔する。
「「浮いた―っ!」」
それを見て驚きの声を上げるルルとレーア。
「フーちゃんは飛べるんデスよー」
「どうなってるのよ……」
「わ、わかりませーん……」
頭上をパタパタと旋回するフレスを唖然として見つめる2人。
そうこうしている内にフレスのバタつきが忙しくなり、ゆっくりとレーアの頭に着地する。
「ぎゅむっ………えっ、乗ってる?」
「疲れたんでしょうか。……かわいい」
無表情でレーアの頭頂部にしがみつくフレス。まるで頭に乗るぬいぐるみのようだ。
よくわからない事態にレーアが固まっていると、背後から聞き覚えのある声が響く。
「おーいフレス、人の頭に乗るなつったろ」
「ふぃ~」
それに反応し、フレスはレーアの頭から赤髪の少女の胸に飛びついた。
「……え?」
聞き覚えのあるその声に、ルルはかつて戦いを共にした赤髪の少女を思い浮かべる。
「ハント……さん?」
振り向いた先にいたのはその少女ではなかった。
いや、ではなかったというのは間違いで……あまりにも想像とかけはなれていたために、そうとは認識できなかった。
赤いジャケットに黒のビキニトップとホットパンツ、サンダルを合わせた服装でオレンジのサングラスをかけ、たわわな両胸を揺らしながらショウマの手を引き、こちらに歩いてくるグラマーな女性。
「……は?」
同じくして振り向いたレーアもまた、想像とは違う人物の登場に困惑する。
「よっ、久しぶり」
サングラスの女性が気さくに声をかけると、身長の差からちょうどルルの眼前に、三角ビキニに包まれた双丘がその存在を主張する。
「あー……ルル、レーア、久しぶり」
手を繋がれたまま、前屈みのショウマがぎこちなく目を伏せている。
「……どちら様で?」
だが、今はショウマと再開した喜びより眼前の女性の方が気がかりだ。
目の前の巨峰から顔を上げその言葉を口にすると、女性はルルの顔を覗き込みサングラスを外す。
「なーに言ってんだよオレだよオレ、エクスハント!」
「へ……?」
「はぁ!?」
自分達の知るエクスハントとはあまりにもかけ離れた身体つきにレーアは驚愕の声を上げ、ルルは真っ白になり固まってしまった。
その受け入れ難い事実にルルはエクスハントの顔と胸を交互に見続け、凍りついた顔のままハントの胸にぽふっ……と顔をうずめる。 そして、顔の両側にある1つがバレーボールのような大きさのその胸をしっかりと、感触を確かめるように揉みしだく。 マシュマロのように柔らかくしっかりとした重さを感じつつ、押しては引き押しては引きをくりかえす。
「おっ……おい。 ルル、なにやって……んっ……」
ルルの行動と、しつこく胸を揉まれた初めての感覚に戸惑っていると、胸を揉む手がピタリと止まる。
顔をうずめたままルルは考えていた。自分の身体の発育が平均以下なのは自覚している。 それを是正するために色々なマッサージやグッズやサプリを試したが全く効果はなかった。 むしろ艦長としてデスクワークをこなしていく毎日で、最近下半身にいらない肉が付いてきた。自分は理想の体型を目指して毎日毎日、四苦八苦しているというのに……。
「イッタイ ドンナ魔法ヲ 使ッタンデスカ……」
「怖っ!?」
突然顔を上げたルルの瞳には……深淵が宿っていた。
「ドウシタラ コンナ牛サンミタイニ大キクナルンデスカ 手術デモシタンデスカ シリコンデモ注入シテルンデスカ 誰カニ揉マレタリシタンデスカ 妊娠デモシタンデスカ ミサイルデモ仕込ンデルンデスカ ソレトモ……」
光もなく何もかも吸い込みそうな真っ暗な瞳でハントを見つめるルルの口から、呪詛のような言葉が発せられる。
「おいレーアなんとかしてくれよ!」
「……どんなインチキを使ったの」
「うえぇっ!?」
ルルから逃れるためにレーアに助けを求めるも、彼女もまた、同じく暗く濁った目をしていた。
「いやいや、なにもしてねえって! この前は機能不全でスゲエちっさくなってただけで、これが本来のオレなんだよ!」
「信じられませんよ~!」
「大きければ良いというものではないわ……!」
涙目のルル、隣のレーアはくっ……と握りこぶしを震わせている。
「俺も最初見た時は驚いたよ……」
ショウマは悔し涙を浮かべる2人に、なんの慰めにもならない言葉をかけつつ、今朝のことを思い出していた。 ハントの服装はショウマが無理やり上着を着せたものだ。 何も言わなかったら彼女は上下ビキニ水着にサンダル姿でこの場に居たことだろう……。
「そんなに違うか? 身体がちょっと大きくなっただけだろ?」
「人間の基準じゃ身長が30cm伸びるのをちょっととは言わねーの!」
ジャケットを広げ豊満な身体を晒すハントから、ショウマは咄嗟に目を逸らす。
「ハントさん……女の子にとって胸の大きさはとっても重要な事なんですよ?」
ようやくショックから立ち直ったルルがぽふぽふと自らの胸を慰めるように触れる。
「ん……?人間って胸の装甲が厚い方がいいのか?」
ハントが不思議そうな表情で渾身のボケをかます。
「レーアさん、全然分かってませんよ」
「ここまでくるとむしろ清々しいわね……」
意味が分からず首を傾げているハントに背を向け、胸部装甲の薄い2人が苦々しい顔をする。
「おう、2人とも元気だったか―」
不意に飛び込む、もう一つの声。
ルルとレーアの2人にはその声の主がグラッドナイトだとすぐに気づいたが、振り向くに振り向けなかった。 ハントがあれだけ性徴しているのなら、グラッドナイトも同じくらいの……いや、もしかしたらもっと性徴しているかもしれない。
おそるおそる振り向いた2人に、ウェーブがかった黒髪のポニーテールをたなびかせ、腰の大小を揺らし歩いてくる女子高生の姿が映る。
「あぁ……」
「ハントさんの後ですからインパクトは薄いですね。格好もまぁ、まともですし」
確かに体格は増しているが、ハントと見比べると胸は一回り小さく、自分と同じくらいだとレーアは安堵した。
「おいおい、あんなチチデカと一緒にするなよ」
視線に気づいたのか、グラッドナイトはハントを顎でしゃくる。
その背後にピタリとくっつきながら、所在なげにキョロキョロと、ぎこちなく歩く影があった。
「おや? そちらの方は?」
「あぁ、己の弟子のレン。 こいつも連れて行くから」
「レ、レンです! よ、よろしくお願いします!」
肩を引き寄せレンを紹介するグラッドナイト。だが、当の本人は軍服姿のルルとレーアを前にしてガチガチに緊張しているようだった。
「なんだお前、緊張してんのか?」
「だ、だって軍の施設とか初めてっスから……」
「そんなに固くならないでいいんですよ」
「は、はいっス……」
そうは言われてもレンはなかなかグラッドナイトの影から離れようとはしない。
そこにガシン―。と足音を響かせエクスガンダムとサルバドールがやってくる。
「エクス、ソイツ誰だ?」
「あぁハント、彼は……」
エクスガンダムが紹介しようとした瞬間、サルバドールがそれを遮るように前に立つ。
「俺か? 俺はな――聞いて驚け!」
――――――
アークエンジェル内の食堂。
テンションMAXで名乗りをあげるサルバドールを黙らせ、それぞれの自己紹介と現状把握を兼ねたブリーフィングを終えた後、
「お腹すいたデース」
「ふぃ~……」
という小動物の声もあり、一行は少し早めの食事タイムとなっていた。
「へぇー。ランちゃんとフーちゃんとはその世界で知り合ったんですかー」
「そそ、世界樹っていうすげえでっかい植物が世界の中心に生えてるところでさ……」
フレスとランがランチを食べている横で、ハントとグラッドナイトはルルを交え、2人との出会いについて話す。
「んー。このお肉なんだかパサパサしてるデスー」
「ふぃ~……」
「ゴメンねー。軍用レーションだからそこまで美味しくないかも……」
「レンちゃんが作ったお料理がまた食べたいデース」
「ふぃ~?」
「美味しかったデスよー。甘辛くて美味しいお汁に浸かったお肉がそれはもう……デース♪」
「ふぃ~!」
美味しそうに感想を語るランにあてられ、フレスは興奮してレンの周りを飛び回る。
「ざ、材料が揃えばまた作ってあげるっスよ」
まだあまり緊張の解けていないレンだが、まんざらでもない表情をうかべていた。
「おまたせ……」
ふいに声のしたほうを見るとそこには、暗いおももちをしたレーアと。
「なぁ、これキツいんだけど」
ブリーフィングの後、レーアにまともな服装をしなさい。と連れて行かれたハントの姿があった。 一般女性士官の制服に見を包んでいるが、胸元は大きく開き、ピチピチのタイトスカートにはヒップとパンツラインがはっきりと浮き出てしまっている。
「レーアさん、それは……」
「……閉まらなかったの」
「え?」
「一番大きなサイズでも……胸のファスナーが閉まらなかったの……」
「えぇーっ!?」
一部が驚嘆の声を上げ、改めてハントの規格外の胸囲を実感する。
露出こそ少なくなったが、規律の象徴とも言うべき軍服を冒涜しているかのようなその着こなしは、見るものによっては先程よりも破廉恥に見えることだろう。
レーアは今にも吐血しそうな表情でうつむいている。
ハントを着替えさせる時、いくら寄せても押し込んでも納まらない「それ」の相手をし、ルル以上の圧倒的な敗北感を刻みつけられたのだ。
「……あれ?エクスは」
「エクスさんならまだ外にいますよ」
その頃、艦船ドックの前ではエクスガンダムがダハーカを倒すイメージトレーニングをしているサルバドールを背後に、何か考えているような眼差しでドック内のアークエンジェルとガラージュを交互に見つめていた。
――――――
2日後―。
「オーライ……オーライ……よし、そこでストップ!」
ガシン―。
轟音と共にアークエンジェルの両脚の間にガラージュがすっぽりと固定され、両艦を接続する通路が開通する。
「おー、ピッタリピッタリ」
グラッドナイトがパチパチと手を叩く。
両脚の隙間が埋まったアークエンジェルのシルエットは、コロニー連合軍のガーディー・ルー級戦艦を想起させる。
「あとはシステム調整……ハント、頼む」
「あいよ」
エクスガンダムが合図を送り、ブリッジにいるハントがアークエンジェルのコンソールに手を触れる。 触れた手を通してハントの意識が艦のシステムを駆け巡り、アークエンジェルとガラージュの機能を同期させるプログラムを構築していく。
直感でプログラムを作り上げていくその手腕は、彼女が機械生命体であればこそ出来る芸当だ。
「よっし完了~♪」
外のエクスガンダム達にスピーカーを使って作業の終了を告げる。
「艦同士を連結するなんて、エクスさんから聞いた時は驚きましたよ」
「これでガラージュの反重力ドライブとバリアフィールドがアークエンジェルでも使えるから、少しは防御力と速力が上がるはずだ。
でも、一番のメリットは艦を跨いで移動する必要がなくなった点かな」
「これでいつでもランちゃんとフーちゃんに会いにいけますね~♪」
「わーいデスー♪」
「ふぃ~♪」
ランとフレスはこの2日間でかなりルルに懐いていた。
彼女の朗らかなオーラが、故郷の平和な環境を思い起こさせるのだろう。
――キィン。
突然スピーカーがオンになり、ガタガタと慌てるような音がした。
「エクス、大変だ!今すぐ……」
「艦長!皆さん!今すぐブリッジに集まってください。緊急事態です!!」
ハントの声を遮り、マトックが鬼気迫る声でブリッジへの招集をかけ、ほどなく全員がブリッジに集合した。
「何があったんですか!?」
ブリッジではマトックとハントが険しい表情で待ち構えていた。
メインモニターを見ると、そこには大地を抉る巨大なクレーターに海水が流れ込む様子が映し出されていた。 クレーターの外周では街が燃え、黒煙が円を描くように立ち昇っている。
「これは一体、なにが……」
「先程、L5宙域からの巨大なレーザー攻撃により、シドニーが……消滅したそうです」
「なんだって!?」
一同がどよめき立つ。
「宇宙からのレーザー攻撃って、一体何が……!」
「報告によれば、この攻撃によってシドニーを中心に直径500キロの巨大クレーターが形成され、オーストラリア大陸の約16%が消失したとのことです」
「ハント、もしかすると……」
「あぁ、もしかするかもな……」
すると表示されていたディスプレイに突如大きなノイズが入る。
「なんだ!?」
「艦長、本部から入電が……いえ、違います! 回線に割り込んでくる!? ……これは!」
増大するノイズに画面が切り替わり、そこに映し出されたのは……。
「……っ! Sinエクスガンダム――!!」
「地球人類に告ぐ……」
そうして、Sinエクスガンダムの宣言が高らかに始まった―。