彼らは来たり、吸血鬼。
ドン「行くであろー!」
それでは、どうぞ・・・・・
―――『恐怖』―――
それは全ての生物が等しく持つ、ごく一般的な感情。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「あ・・・あぁ・・・!?」
「な、なんだ・・・コイツら・・・?!」
たとえ、それが人を喰らう化物である吸血鬼であっても持っているモノだ。
吸血鬼兵は恐怖する。
屋敷に突如として突っ込んできた戦闘機の操縦ハッチから現れた二人の人物に恐れおののく。目の前に佇む年若い男女に吸血鬼兵達は心の底から恐怖した。
「あ・・・あぁ・・・!」
「あ、あろぉ・・・ッ!」
「ハハ・・・ハハハ・・・!」
ゴクリと後ろにいたドン達も二人の出すオーラに喉を鳴らす。生き残った構成員達は二人の登場に顔を引きつらせて笑った。
「「・・・・・」」
二人は辺りを見回すと男の方が床に跪く。そして床に掌を添わせ、床に付いていた血をとって舐めた。
「・・・ドン、無事かい?」
指に付いた血をアイスキャンディーみたいに美味しそうに味わった彼は、後ろでへばっているドンに語り掛ける。ドンは少々おっかなびっくりであるが、冷静さを取り戻して口を開く。
「・・・大丈夫であろー・・・」
「そうか、良かった・・・被害状況は?」
「わからん・・・だがわかっている事はロレンツォが重傷を負い、多くの命が奪われた。最悪の一言であろー・・・!!」
「そうか・・・そうか・・・!」
彼は静かに呟き、立ち上がる。ギロリと眼を紅く光らせ、ギチチッと牙を噛み鳴らす。
「『シェルス』・・・ここは・・・」
「Jaー。わかってる、わかってるわ『アキト』。存分にやってやりなさい。遠慮は無用よ、私が守るから」
「あぁ・・・!」
アキトは前にシェルスはドン達のいる後ろへと進む。
「シェルス姉ッ!」
「ノア、無事で良かった」
近づくシェルスにノアは勢いよく抱き着いた。その頬には小さな雫が流れる。
「シェルス!」
「シェルス、無事だったんだな」
「シェルス・・・」
「ドンにガブリエラも無事で良かった。さ、ロレや他の皆を運ぶわよ!」
「や・・・優しく頼みますよ・・・?」
彼女は皆との再会を端的に済ませ、負傷したロレンツォを抱えてバリケードが損壊した研究室へと走り込んだ。
「シェルス! どうするであろー!?」
この時、肩に乗ったドンがシェルスに心配そうに語り掛けて来る。
「なにが?」
「何がではなかろーッ! アキトの事であろ!」
叫ぶドンの目線の先には吸血鬼兵達に向かうアキトがいた。その姿はとてもじゃないが、元気そうではない。
顔の左側の皮膚は焼け爛れ、右頬からは歯茎が見えている。機内で血液パックを飲んだとはいえ、彼の戦いの傷は癒えてはいなかったのだ。
「大丈夫よ」
「あろッ?!!」
「ぷッ!」
「ククク・・・」
されど、シェルスは平気な顔をして答えた。
彼女の言葉にドンは唖然とし、周りにいたガブリエラやノアはたまらず噴き出した。
「アキトを・・・信じているんですね・・・」
「Jaー。勿論よ、それに・・・」
「「「「それに?」」」」
「今のアキト、最高にセクシーで
『『『OH・・・』』』
悪戯っぽく笑って惚気るシェルスに全員、何も言えなくなった。
「WRyyy・・・」
満身創痍、傷の回復も済んでいないアキトは一歩、また一歩と吸血鬼兵達との距離を詰める。
「・・・行こう・・・」
彼が歩く度に血が跡から湧き出る。
その血の一滴、1μℓまでが屋敷で討ち果てた構成員達の仲間達の血液であった。歩いた跡から噴き出た血は、彼の足から上へ上へと纏わり付いていく。
「行こう・・・行こうぜ・・・」
身体に纏わり付いた血は赤いジャケットスーツへと変わり、傷や焼け爛れた肌は陶磁器の様に白く透き通って完治していく。
「行こうぜ、皆・・・ッ!」
瞬きの次に開かれた眼はガーネットの様に深く、ルビーの様に真紅で、ルベライトの様に輝いていた。
「なんだと・・・!?」
「周囲の技が・・・!」
床から溢れた血が全て吸収されると同時に屋敷に張り巡らされていたゾーリンの術式がひっくり返したパズルのようにバラバラと崩壊していく。
「一緒に行こうぜ・・・・・アイツらを・・・アイツらをやっつけようぜッ!!」
「(なんだ・・・なんだコレは?!)」
自分が敷いた術式が崩れ去る光景を目の当たりにして、ゾーリンは辺りを見回す。
「(兵士共が脅えているッ、あの吸血鬼達が! 戦場を跋扈し、砲火を疾駆した百戦錬磨の武装吸血鬼兵がッ・・・!)」
周りにいたのは近づいて来る目の前のアキトに釘付けとなり、額から脂汗を噴き出す部下の姿であった。
「(眼前の・・・一人の小僧に脅えている・・・・・満身創痍の一人の小僧に脅えているッ! コイツは一体・・・・・なんだッ!!?)」
「WRYYYyyyyyyy―――――ッ!」
アキトは走る。脚に並々ならぬパワーを注ぎ込んで走る。
「う、撃てッ、撃て撃て!」
「うおおぉぉ!!」
ズガガガガガガガガッ
吸血鬼兵はこちらに向かって来るアキトへ一斉射撃を行う。
しかし、彼は秒速900mで迫る弾丸を容易く避け、撃って来た吸血鬼兵の真上に移動した。
「うわぁああッ!」
「無駄ァアッ!」バメギャァッ
大きく振り抜いたアキトの拳は、吸血鬼兵の頬にめり込む。その殴った勢いのまま吸血鬼兵頭は砕け、首は捻じ切られて吹っ飛ぶ。
「ひッ!!?」
「KUAAAAA―――ッ!!」
ドシュバッ!!!
そのまま床に着地すると同時に鋭い手刀で吸血鬼兵達を切り刻み、押し潰す。
尚も吸血鬼兵共は彼に向かって銃を乱射するが、当たらずに斬壊される。
「ウげェッ!」
「グギャぶ!!」
「(ヤバい・・・ヤバいッ!)」
「いギャああッ!!」
「ギげぇぇえ!!」
「(なんだかよくわからんがッ、コイツはヤバい!!)」
前で陣形を張っていた部下が軒並み惨殺されていく現状にゾーリンは新たな大鎌を構える。
「ブぎァアッ!!」
「Aaa・・・嫌いだ・・・」
「なに・・・?!」
最後の吸血鬼兵の頭を引き千切った時、アキトは静かに言い放つ。言葉一つ一つに怒りを織り込んで言い放つ。
「『グール』の肉は嫌いだ、胸焼けがする。『ゾンビ』の肉は嫌いだ、胃もたれがする。だが―――――」
ガシャァアッ!
「ぶゲェエッッ!!?」
「―――テメぇら『ド外道』の肉は食えたもんジャあねぇッ!!!」
ドゴォッ
彼は素早く回り込むとゾーリンの頭を掴み、壁へと打ち込んだ!
ゾーリンが構えていた鎌は宙を舞い、床へと突き刺さる。
「ぐぐ・・・! こ、この糞餓鬼ィイッ!!」
ゴキィッ
「がッ!」
防御の姿勢も取れずに壁に打ち付けられたゾーリンは、この体勢から脱しようとアキトの顔面に拳を叩きこむ。吸血鬼特有の腕力で叩き込まれる殴打は、常人が喰らえば一発で顔面をグチャグチャにされる威力だ。
「このッ、この! 離しやがれ糞餓鬼ィッ!」
ゴキィ バキィッ
そんな殴打を何発受けようと諸共せず、彼は掴んでいる力を強める。
ガコリッ!
遂にゾーリンの殴打が鬱陶しくなったのか、その拳に喰らい付き、嚙み砕いた。
「ウギャァァアアア―――ッ!!」
「っぺ」
牙で噛み砕き、嚙み千切った拳の肉を彼は吐き出す。
「貴様の血など一滴、一片、1μℓと飲んでやるものか!! やるものかァアアッ!!!」
「うグググ、グえッ!!」
押さえ付けられる力は益々強くなっていき、壁が陥没していく。
「ぐぐ・・・ぐアアッ!!」
ガシィッ
「ッッ!!?」
ゾーリンは逆転を賭け、アキトの顔面を掴んだ。そして、そのまま術式を彼の頭に流し込んでいく。術式の影響からか、彼はゾーリンの頭から手を離してしまう。
「げへへへへへッ! 奥へ、もっと奥へ!」
ゾーリンは術式を完全で完璧な物とするべく脳内を覗いていく。
「奥へ、もっと奥へ、もっともっと奥へ!!」
だが、幸か不幸かゾーリンは知らなかった。
「ッ! な、なんだ・・・誰だこれは!?」
この黒髪の青年が世界中の
「違うッ、
彼の頭の中の記憶には、
「誰だコレは、なんだコレは!? 違う、コイツはコイツじゃないッ! 記憶が、心が混ざり合って!」
一人につき、一つの身体と記憶と心。これを基本とするのが人間である。
しかし、彼は違う、人工とは違う本物の吸血鬼。吸血の本質を理解している真の怪物。
「なんだ、誰なんだ!
血を啜るという事は、即ち魂を我が物とする事である。その今まで我が物としてきた魂が錦糸細工の様に彼の心を形にしていたのだ。
これではゾーリンの得意にして、逆転技の術式は使えない。
「血液とは魂の通貨、意志の銀盤。血を吸う事、血を与える事とはこういう事ッ」
「はッ!?」
覗いた記憶の欠片からヒョコリ現れたのは、犬耳を生やした小柄な少年。この少年をゾーリンは知っている。
「お元気~? まだ生きてる?」
「『シュレディンガー』?!!」
「どうしてお前がここに!?」
「そんなに驚かないでよ~! 『僕は何処にでもいるし、何所にもいない』。ゾーリン♪ 大隊長からの伝言をお伝えしま~~~す☆」
シュレディンガーはハニカミながら半ズボンのポケットからメモを取り出す。そのメモを見ながら陽気なテンポでシュレディンガーは話し始めた。
「え~と、何々~? 『抜け駆け、先討ちは兵の華。ああやっぱり、ならばさして命令を反し、あたら兵を失った無能な部下を処断するのも又、指揮者の華』だってさぁ~☆」
「ッ!」
「本当なら今頃、体内の発火装置でボーボー燃えカスになってる所なんだけど! 大隊長もドクトルも今、戦火拡大に夢中でお前に構ってやる時間が無いんだってさ~。そ・れ・に! その怪物は―――」
「おい、喧しいぞ・・・!」
「な・・・に・・・!?」
シュレディンガーの言葉に割って入ったのは―――
「さっきから人の頭ん中通して喋ってんじゃあねぇよ!」
―――術式をかけられているアキトであった。
「ハハッ☆ 流石は本物。人工的に作られた吸血鬼なんて、歯牙にもかけない恐ろしい怪物・・・『吸血鬼アーカード』」
「あ・・・アーカードだと?! この青ッちょろい餓鬼が、アーカードだって言うのか?!!」
ゾーリンは身を凍らせる。この男が大隊長が言っていたアーカードなら自分の能力である術式が効かないことも頷けるとゾーリンは思った。そして、恐怖した。蛇に飲まれる蛙の気持ちが理解できる程の恐怖を全身に感じた。
「うるせぇよ、シュレディンガー・・・喧しんだよ、ゾーリン・ブリッツ!」
ガシィイ!!
「うがぁあッ!!?」
再びゾーリンは頭を鷲掴みにされる。彼は、そのままゾーリンを無造作に空中へと投げる。
「消えろッ! 俺の前から・・・俺の心からッ!!」
彼は両腕を大きく振り抜いた形で構え、力を込めた脚で投げたゾーリンに一気に近づき―――――
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!!」
「グぎゃギャぁぁァアアああああああアアああアアッッ!!?」
怒涛のラッシュを放った!
ラッシュからのフック、ラッシュからのアッパーカット。ついでのラッシュ、ラッシュッ、ラッシュッ!
「潰す、潰す、ぶっ潰す! ミンチになるまでぶっ潰す! スープになるまでぶっ潰してやらぁぁあ―――ッ!!」
目標の頭を砕き、心臓を破壊し、臓器をぶちまけても尚、アキトの攻撃が止むことはない。
「無駄無駄無駄無駄、無駄ァアッ!」
ベシャァァアッ
漸く攻撃が終わる頃。ゾーリン・ブリッツだった肉の塊は粉微塵のそれに成り果て、通路の壁には人の形をした血の絵が出来上がる。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・スゥ―――ッ・・・!」
息を切らし、肩を震わせるとアキトは大きく息を吸い込んだ。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAッ!!!」
得物を仕留めた吸血鬼の勝鬨の雄叫びが屋敷に木魂した。
←続く
BGMはロックテイストで・・・