槍衾の三勢力ではなく、二勢力です。
ドイツ語がありますが、お構いなく。
それでは、どうぞ・・・・・
ズダダダダダダダダッ
銃声が響く。
ドッゴォオ―――ッン!!
爆音が轟く。
「うギャァアアッッ!」
悲痛な絶叫が木魂する。
海辺に位置するあの煌びやかに輝いていた美しい街は跡形もなく、ゴウゴウと燃えている。炎と共に噴き出した黒煙はその体で空に浮かぶ満月を覆い隠し、地上の火を反射して赤黒く色付いている。
化物達の進撃から早数時間。火の手は彼らの思惑通りに進行していた。
「・・・ククク・・・」
この惨状を眼下にせせら笑う男が一人・・・・・
「ハッハッハッハッハッ・・・!」
男は飛行戦艦の屋上デッキから地上を眺めていた。
断末魔の劫火、怨嗟の業火が燃え上がる光景に男は心を躍らせ、身震いする。
「ハァ・・・ッ」
白いコートを風でたなびかせ、男は二ヤツいた口からため息を漏らす。
「これだ・・・これが見たかったッ・・・・・あァ、スゴく良い・・・!」
満面の笑み。どうしようもない程に男は良い笑顔を浮かべていた。
空へと伸ばした右手には、生温かい空気が触れている。
「ゾーリン死んじゃったよ~、『大隊長』~。『虫』みたいに」
笑う男『大隊長』の後ろに忽然と現れたのは、シュレディンガーである。彼、もしくは彼女はどこか朗らかにヴァレンティーノの屋敷でゾーリンが果てた事を言づけた。
「ククク・・・やっぱりな・・・馬鹿な小娘だ・・・」
大隊長はさも当然の様に言う。死んで当然だと言わんばかりに冷たく、単調に。
「『滅び』が始まったんだ。心が躍る・・・!」
彼は楽しんでいる。心の底から殺戮を、戦慄を。それが例え、部下の死であっても、それすら大隊長は楽しんでいた。
「酷い人だ、貴方は・・・・・どいつもこいつも連れまわして、一人残らず『地獄』に向かって進撃させる気だ」
シュレディンガーは呆れながらに言う。どうしようもない我らが頭目にシュレディンガーは呆れ果てる。口角を三日月に歪めながら呆れ果てる。
「クク・・・戦争とは『それ』だ。地獄はここだ。私は無限に奪い、無限に奪われるのだ。無限に滅ぼし、無限に滅ぼされるのだ。その為に私は野心の昼と諦観の夜を越え・・・今、『ここ』に立っている・・・・・・・・見ろッ!」
大隊長は眼を見開き、彼の方向を見定める。
「来るぞ・・・『滅び』が来る。焼夷と共に・・・ッ!!」
大隊長は感じていた。薄々だった『気配』が、直に肌を凍らせる『気配』へと変わって行っている事を『本能』で感じていた。
そして、ここにもその気配を感じる者が格納庫に一人・・・・・
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
「感じる・・・・・感じる・・・!」
笑顔の絶えない兵士共の中で一人だけ・・・ギリギリと歯を食いしばり、青筋を立てる者がいた。
その者の装いは大隊の大半を占める吸血鬼兵が来ている黒の戦闘服ではなく、『白』を貴重とした『甲冑』である。他に特出すべき点があるならば、それは顔左半分を覆う『火傷』であろう。
「中尉殿・・・『ランスロット』中尉殿」
白銀の鎧に身を包んだ男に部下であろう、同じ白の戦闘服に身を包んだ吸血鬼兵が声をかける。
「・・・どうした?」
「スカー・ランスロット中尉。大隊長閣下より、『ゾーリン・ブリッツ中尉の敗死を受け、貴官の出撃準備されたし』との事です」
「・・・・・」
彼は兵士の方を向くと吸血鬼兵は手元の通達紙を読み上げた。
通達を受けるとランスロットはゆっくりと無言のまま腰をあげ、ツカツカと出撃用カタパルトへと向かって歩き出す。
「・・・Was gleicht wohl auf Erden dem Jägervergnügen~♪」
歩きながら彼はアカペラで歌いだす。
「Wem sprudelt der Becher des Lebens so reich♪」
「Beim Klange der Hörner im Grünen zu liegen♪」
「den Hirsch zu verfolgen durch Dickicht und Teich~♪」
歌いつられてランスロットの後ろに一人、また一人と兵士が連なっていく。懐かしむ様に歌いなれた歌を唄う。
『あの人』が好んで唄った歌を高らかに。
「「Ist fürstliche Freude, ist männlich Verlangen~♪」」
「「Erstarket die Glieder und würzet das Mahl♪」」
「「Wenn Wälder und Felsen uns hallend umfangen♪」」
彼らの装備は他の吸血鬼兵とは違う物だ。
全員が長物のライフルを担ぎ上げ、先端には切先鋭い銃剣が装着されている。そして、背中には半身を覆う程の大きさの長方形の盾を背負っている。
『『『Tönt freier und freud'ger der volle Pokal!♪』』』
「Jo, ho!」
『『『Tralalalala! lalalalalala・・・・・』』』
彼らは出撃用カタパルトに足を入れると同時に白いヘルメットを被った。黒の軍勢が占める中に色も装備も雰囲気も違う彼らの部隊の名は・・・・・
「『
『『『Ja―――――――ッ!!!』』』
彼らは飛び出す。鯨が吹いた潮の様に勢い良く飛び出していく。
歌劇『魔弾の射手』を高らかに歌いながら・・・・・
―――――――
「あそこを見張れ、そこを見張れッ。人に仇なす化物共をここから先へ一歩も通すなッ!!」
『『『はい!!』』』
爆裂烈火走る地上では、皇家特設武装連隊を率いた『藤堂 鏡志朗』が破壊された瓦礫を用いて、吸血鬼兵の進行ルートに簡易バリケードを造設していた。
「藤堂隊長ッ、東部方面から連絡。『我ら、藤堂元二等陸佐の指示に従う』との事です! 他にもこちらの応答に加わる者が多数!」
「昔の伝手が役に立ったな・・・・・なら、普通科連隊は機動隊と共に東エリアへの敵進撃を阻止。テロリストとの近接戦闘は避けよと通達。あと、テロリストは頭か心臓を確実に破壊する事を忘れない様に!」
「了解ッ!」
他にも藤堂は昔の伝手や同期だった者等を惜しみなく使い、自衛隊や警察組織などと連携線を展開していった。
テロリストの掃討などISで簡単に済むなどと考えていた上層部、内閣の混乱で一時は多大な犠牲者を出すかに思えた。だが、藤堂をはじめとする退役士官達の尽力で不利だった状況は僅かばかりに好転していく。
陸自が誇る戦車や装甲車、対戦ヘリやらが次々と出動し、砲口を敵へと向ける。
『撃てェッ!!』
ダァッン
ドォオッン
ズダダダダダダダダッ
彼らは撃った。
歩兵も、戦車も、対戦ヘリも撃った。民間人
チュドォオーンッ
「ぬおおッ!!?」
勿論、放たれた銃弾や砲弾は空を悠然と泳いでいた飛行戦艦にも当たる。
飛行船の甲板が爆発によって吹き飛ばされ、宙へと舞っていく。
「だ、大隊長! ヒエッ!?」
吹き飛ばされた装甲が屋上に上って来たドクトルの頭上を掠めた。彼は船体にへばり付きながら大隊長の元へと進んで行く。
「大隊長、中にお入りを! 特殊軽金装甲とて、長くは持ちません!」
ドクトルは叫ぶ。
「大隊長、大隊―――・・・ッは!!?」
しかし、彼は目前の大隊長に息を飲む。ポカンと口をあっ広げて息を飲んだ。
「お・・・音楽を奏でている・・・『戦場音楽』をッ!」
ドクトルの目の前に立つ大隊長は、小刻みにテンポを取りながら腕を振っていたのだ。その姿はまるでオーケストラを先導する指揮者であった。
「指揮を・・・しておられる! 戦争音楽をッ!」
彼は随分と楽しそうに腕を振る、手を振る。
銃撃に合わせて右へ、爆発に合わせて左へ、剣戟に合わせて上へと上体を傾ける。
「我々は
そんな常人には手に負えない本当の狂騒曲を指揮する大隊長の隣に飛行戦艦の下から対戦ヘリが現れ、ライトを彼へと向ける。
「敵上官と思しき人物を視認!! 飛行船上です!」
「何をしてやがるッ?!」
ヘリのパイロットはチェーンガンの安全装置を外して、照準を大隊長へと定めていく。
「狂人め、テロリストめッ! 死ねぇッ!!」
「大隊長ッ!!」
チェーンガンの銃口が向いているにも関わらず、大隊長は逃げもせずに大の字でヘリのライトを浴びる。
カラカラとパイロットが発射スイッチを押した為にチェーンガンの砲身が回り出し、銃弾が彼の分厚い皮膚にめり込むかと思われた・・・その時ッ!
ズザアァッン!!
「ッ!!?」
硬い装甲版に覆われたヘリが飴細工の様にバラバラに切り刻まれ、爆発した。
「良い仕事だ・・・
一体目の前で何が起こったのか分からないと呆然としているドクトルを余所に、大隊長は平然と口元を緩める。
ヘリを墜としたのは、先程地上へと出撃した『白騎士』であった。
燃えるヘリの残骸がすぐ横に落ちると同時に、彼は一緒に落ちて来た『十文字の槍』を掴む。
「フハハハハハッ! さぁ・・・さあッ! 油を注ぐぞ、火にくべるぞ! 戦火にもっと油を注ぐぞッ!! フハッハッハッハッハッハッ!!」
彼らの進撃いずれも止まらず。
戦争の賛歌と惨禍を唄いながら吸血鬼兵の軍隊は進撃する。
敵を殺し、仲間を殺され、彼等は進んで行く。
だが・・・
「ってぇえ―――ッ!!」
ズガガガガガガガガガガガアッ!
「ぐぎゃッ!?」
「ぶゲエェッ!??」
そんな彼らの前に立ち塞がったのは、この国の人間であった。彼らが
人間達は化物達に有効な山羊印の銀製武器で対抗し、遂に彼らの進行を止める事に成功した。
「GRyyy・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・」
斯くして両軍は相対した。
IS委員会本部での宣戦布告から数日、ニューヨークでの狼煙から数時間。
互いの主義主張もISがどうとかの理由もなくなり、人間と化物との泥沼の戦いになってしまった。
「止まった・・・? 止まったぞ、ヤツら!」
「どうする? このままだと持久戦だぞ」
「援軍はどうなってる?!」
「このまま進めるな!!」
「人間め!」
「化物めッ!」
銃による攻撃から互いが互いを罵り合う
「どうします、藤堂隊長?」
「先走るのは危険だ。銀製弾は幾つ残ってる?」
「・・・もう残り少ないです。精々もって、一人20発でしょうか」
「もうそんなにか・・・無駄弾は使えないな・・・」
藤堂は焦っていた。
自衛隊や警察と連携し、敵よりも兵力は多いといっても所詮は人間。訓練された吸血鬼兵には到底敵わない。それに吸血鬼兵に有効な硫化銀弾が尽きれば、一気に形勢は傾く。それだけは防がなくてはならない。
かと言って太陽が顔出す日の出までは待てない。何故なら、それまでには吸血鬼兵が突撃でもして来るだろう。そうなれば、彼らの威圧に押されて進撃を許してしまう。
どちらにしても進撃を止めたは良いが、人間軍に打つ手はなくなってしまっていたのだ。
「(どうする? 『紅蓮の錬金術師』は突撃したまま、音信途絶。警察の最大戦力である『荻野警部』は他のエリアに廻っている。ここを破られれば、首都への進撃を許しかねない。この場において素でヤツらに対抗できるのは、武装錬金を使える私と牙狩りの術を持っている眞田兄弟だけだ)」
他にもISが吸血鬼兵に対抗できるのだが、男である藤堂の指示には従えないという事で女尊男卑主義者のIS操縦士達は勝手に戦線を離脱してしまっていた。
因みに離脱という言葉を使っているが、決して逃げた訳ではない。
「(どうする・・・一体どうすれば・・・!)」
「と、藤堂さん! 藤堂隊長ッ!」
悩む藤堂の元に一人の部下が飛び込んで来た。ゼハァ、ゼハァと肩で息をしながら彼の元へと駆け寄った。
「どうした朝比奈?」
部下に不安を悟られまいと何時もの古武士の面持ちで部下の方を向く藤堂。そんな彼に部下は短く答える『来ました』と、『
藤堂の周りにいた他の隊員達は、なんだなんだと騒めき出す。
「・・・来たか・・・」
「ええ、来ました」
藤堂は再度確認し、再び部下の言葉を聞いて確信した。
「(コイツは素敵だ・・・・・全部、台無しだ)」
藤堂はすぐさま『彼ら』に会いに行った。まるで奈落の底の様な眼をした、人の形をした恐ろしい彼らに。
←続く
次回:台無しの歌が唄われる。