人外になった者   作:rainバレルーk

108 / 124



現在のアキトは彼であって、彼ではありません。

ドン「どういう事であろー?」

では、どうぞ・・・・・



白は駆け、紅は待ち構う

 

 

 

『ウルフッド小隊、連絡途絶!』

 

『ベルディウェール隊も連絡応じません!!』

 

『空中巡洋艦より打電ッ、ウィルゴー小隊の連絡途絶! 誰も応答しませんッ!!』

 

大画面のモニターが映し出された飛行戦艦『デクス・ウクス・マキーネ』の一室。

ここでは時代遅れの無線機から各部隊、各員から引っ切り無しに通信が入っていた。

そんな騒めかしい空間の中で白い軍服を纏った眼鏡の男がモニターから発する状況をレンズに映しだし、画面に食い付いて見ている。

 

『ウゲェエエエエエッ!!』

 

『ギャァアアアア!!』

 

『拘束術式零号』の解放により、一気に形勢は逆転してしまった。

通信機からは亡者の怨嗟と共に吸血鬼兵の阿鼻叫喚がスピーカーを叩き、モニターにはゴミの様に血の河に飲み込まれる姿が映し出されている。

 

それでも尚―――

 

パチ・・・パチ・・・パチ・・・

 

「街は滅び・・・IS部隊は滅び、吸血鬼の大隊(ヴァンパイア・バタリオン)も滅びつつある・・・・・()調()だ」

 

この男は、大隊長は『笑っていた』。

愉快に・・・素敵だからと言わんばかりに拍手をし、嬉しそうにニタニタと薄ら笑みを浮かべて笑っていた。

 

 

「そしてアーカードはそこにいる。そして私はここにいる。全ては順調、全く以って順調だ

 

もし・・・ごく普遍的な知識と論理観を持っている真っ当な一般人がここにいると仮定したならば、大隊長を一目見た者はこう言うであろう―――

 

 

「さくりさくりと死んでいく。だが、涙一粒舌打ち一ツ誰一人こぼさない。何故なら彼らの心にあるのは歓喜だからだ。一つの歓喜を共通意思として無数の命が一つの命のようにうごめきのた内、血を流しながら血を求め、増殖と総滅をくりかえしながら無限に戦い続ける・・・・・夢のようじゃないか・・・!」

 

―――――『狂っている』と。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「ウヲオオオオオオオオオオオ!!」

 

ザシャァアンッ

 

阿鼻叫喚。怨嗟の渦と化した地上において、白銀の衣を纏った戦士が血の河に逆らって進んでいた。

 

 

「VAAAAA!」

 

「VRyyyyyyyッ!」

 

「邪魔だァアア!!」

 

ガシュゥウ!

 

襲い掛かる亡者の波を携えた得物で薙ぎ払い、ただひたすらに前へと駆けて行く。

 

肉が切られても前へ。

骨が砕けようと前へ。

腕が斬られようと前へ。

脚が折れようと前へ。

眼が刺されようと前へ。

耳が千切れようと前へ。

鼻が潰されようと前へ。

 

斬られ、砕かれ、折られ、刺され、潰された身体を武装錬金の能力で『修復』し、前へ前へと進む。

 

 

「デァアアアアアアアッ!!」

 

彼の眼に亡者の兵は映ってはいなかった。

ただ眼前の目の前に薄ら笑みを浮かべて立つ、たった一人の化物の心臓に刃を突き刺す為にランスロットは駆け抜けていく。

 

 

「ガはッ!」

 

されど超高速で傷を修復するには、当然のことながら自らの生体エネルギーを使用する為に疲労が蓄積される。

 

 

「ハァ・・・! ハァ・・・!」

 

蓄積された疲労は修復の妨げとなり、人体の修復スピードは徐々に衰えていった。

 

「AAAAAAAA!」

 

ザクリッ

 

「ぐアッ!!?」

 

その間にも亡者の兵はランスロットに剣を斬り、槍で突き刺す。

 

 

「ぐ・・・グ・・・ウヲオオオオオオオッ!!」

 

ザンッ!

 

『『『VAAAAAAAAAッ!!?』』』

 

それでも彼は倒れはしなかった。

斬りつけられた剣を薙ぎ払い、突き刺さった槍は兵ごと叩き折ると呼吸を整えはじめる。

 

 

「どうした誉高き騎士よ、調子はどうだ? 化物はここだぞ?」

 

「ゼェ・・・! ハァ・・・!」

 

不意に臣下が担ぐ御輿で見物を決め込んでいた化物(アキト)がランスロットに語り掛けて来た。彼はそれを乱れた息で答える。

 

 

「満身創痍・・・だな。腕が千切れかけているぞ? どうするんだ?・・・・・おまえは犬か? それとも人間か?」

 

彼は楽しそうに笑う。嬉しそうに眺める。

激戦の修復力が衰え、全身から血を吹き出し、片腕の筋肉が露わになっても此方に殺気を送る騎士に羨望の眼差しを送る。

 

 

「それがどうした吸血鬼・・・?!」

 

ランスロットは肉が露わになった片腕を僅かばかりに修復すると体勢を整える。

 

 

「まだ、腕が千切れかけただけじゃあないか! 能書き垂れてねぇで来いよ、かかって来い!早く(ハリー)早く(ハリィイイ)!!

 

「ッ・・・!」

 

彼の言葉にアキトは感嘆する。

ボロボロになりながらも向かって来るその姿に驚き、喜々とした。

 

 

素敵だ・・・やはり、人間は素晴らしい」

 

刹那の静寂。

一秒にも満たない静寂が場に起きる。

 

 

「SIYYYYYAAAAAッ!!」

 

その静寂をぶち破るかのようにランスロットは、槍を構えて走る。

騎士は狂戦士となり得ながらも、新たな傷を負おうとも、『宿敵』に向かって走り続ける。

 

 

『『『VAAAAAAAAAAAA!!』』』

 

「キィイイイヤァアアアアアッ!」

 

凝り固まった亡者の津波を斬り刻み、突き刺し、押し進んで行く。100m、200m、300mと徐々に徐々に距離を詰める。

 

 

「『爆導鎖』ッ!!」

 

ボグォオッン!

 

懐から鎖に繋がれた破裂榴弾を投げつけ、点火。

一直線にばら撒かれた榴弾が轟音を響かせながら爆発すると遠目にそびえ佇む黒騎士の姿が見えた。

 

 

「オオオオオ!! 前へ! 前へ!! 前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ、前前前前前ッ!!!」

 

爆発によって開いた道に亡者が雪崩れ込む。それでもランスロットは止まらない。

鮮血に肌を濡らし、流血に衣を濡らし、白が赤へと変わろうとも騎士は尚も歩みを止めない。

 

 

「何という男だ・・・」

 

アキトは此方に向かって来る彼を見ながら『何時かの日』を思い出した。

 

 

「まるで・・・まるであの『男達』のようだ」

 

彼の記憶の奥底。

残忍で冷血で気まぐれな闇の者(ミディアン)だった頃に出会った最初の『強者』。

 

 

「来いよ! さぁ来いよ、叛逆の騎士(ランスロット)! 私を完全に『絶って』みせろ!! あの男達のように、あの(ヤギ)のように! 見事・・・私の心の臓腑に刃を突き立ててみせろ!!」

 

又してもアキトの容姿が変化していく。

黒衣の鎧は零号解放前のジャケット姿へと変わり、整えられた髭は綺麗さっぱりなくなった。

ただ・・・解放前と違っていたのは、その表情が狂喜に塗りつぶされた吸血鬼(ヴァンパイア)の顔をしている点である。

 

 

「ヲオオオオオオオッ!!」

 

「VAAAAAA!!」

 

開かれた道を猛進するランスロットの前に巨漢の亡者が行く手を塞いだ。

 

 

「どけぇえ! 邪魔ァアするなァアアアアアッ!!」

 

ズブシッ!!

 

彼は激戦の矛先を亡者の口の中へと刺した。

 

ズシュウッ

 

「ッガぁあ!!?」

 

その瞬間、亡者は口に刺さった刃を歯で固定し、ランスロットの身体に銛を突き刺したのだ。

銛には鋭利な返しが付いており、彼を離すまいとする。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ

 

これを好機とばかりにその首を挙げようと槍を携えた騎馬の群れが向かって来た。

 

 

「む・・・ムゥウ・・・!」

 

『ここまでなのか』とランスロットは見開いていた眼を細め、迫りくる騎馬兵を見据える。

前衛の騎兵達は隊列を乱さずに血に濡れた矛先をランスロットへ集中させていく。

―――――――刹那!

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

「ッ!?」

 

彼の後ろから耳をつんざく電動ノコギリの音が響いた。

響いたと同時に燕の様に曲がりくねる不可解な動きをする弾頭が、ランスロットへ槍を向けた騎兵と銛を突き刺す亡者の頭を吹き飛ばす。

 

 

「貴様らぁ・・・! 来やがったか、この・・・この馬鹿野郎共! 大馬鹿野郎共めッ!!

 

叫び声を上げながらランスロットが振り向くとそこには、彼と同じ白衣の戦装束に身を包んだ騎士甲冑の部隊がいた。彼と道を共にすると誓った極悪中隊がそそり立っていた。

 

 

「抜け駆けとは頂けぬなッ、ランスロット中尉!」

 

「吸血鬼兵共の撤退助力で、あの大隊長への恩義は十分に果たした! 今こそ、貴方の御側に仕えるッ!!」

 

「さぁこれより、我ら狂人の手管を御覧にいれましょうッ!」

 

騎士達は大手をふってランスロットへ並び立つ。彼らが同胞にして、狩人(イェーガー)部隊の筆頭『スカー・ランスロット』へ並び立つ。

 

 

「馬鹿野郎供がッ! 誰も彼も、どいつもこいつも俺について来やがるか! ふざけやがって、どうしようもないイカれ共めッ! これでは当分地獄(リンボ)満杯になっちまって、代わりに本営の守りはガラガラだッ!!」

 

彼は横へ後へ立つ同胞に罵詈雑言の悪態を言い放つ。

 

 

「良いだろう、ついて来い。これより地獄へ墓穴(まっしぐら)に突撃する! いつものようについて来い!!

 

だが、ランスロットはすぐに彼等と同じ方向を見た。嘲笑うハロウィンカボチャの様に顔を歪ませる怪物に己が刃を向け直した。

そして、彼等の口上を命一杯、戦場に言い放つ。

 

 

「我らは己らに問う、汝ら何ぞや?!」

 

『『『我らは軍団(レギオン)軍団(レギオン)兵士(ソルジャー)なり!!』』』

 

「ならばレギオンよッ、汝らに問う。汝らの右手に持つ物は何ぞや?!」

 

『『『剣と爆弾なり!!』』』

 

「ならばレギオンよッ、汝らに問う。汝らの左手に持つ物は何ぞや?!」

 

『『『棍棒と銃なり!!』』』

 

「なァアらばレギオンよ、汝らは何ぞや?!!」

 

『『『我ら兵士にして、兵士にあらず。戦士にして、戦士にあらず。忠臣にして、忠臣にあらず。逆臣にして、逆臣にあらず! 我ら一なり、一にして全なり。ただ伏して世界を見守り、ただ伏して世界に刃向かうものなり!!』』』

 

彼等は叫ぶ。轟かせる。

 

 

『『『闇夜で剣を振い、戦場に発破をかける者なり。我ら刺客なり、刺客(レギオン)の兵士なり! 時至らば、我ら棍棒で砕き、銃を撃ち放つなり!!』』』

 

自らが何者であって、何者でないのかを響かせる。

 

 

『『『さらば我等徒党を組んで、地獄へと下り。隊伍を組みて、布陣を布き。幾千幾万の闇の者(ミディアン)と合戦所望するなり、この身滅ぶ日までッ!!』』』

 

バ―――――――ッン

 

何とも言い例えのないオーラが彼等を包み、満身創痍だったランスロットの身体に力が漲っていく。

 

 

「アキトッ!!」

 

これには二人の戦いを手を出さずに見守っていたシェルスも堪えを聞かず、ドンを背中に乗っけたままアキトの前へと急ぎ立つ。

彼女は知っていた。手負いの戦士がどれだけ強いのかを知っていた。

 

 

「・・・良い」

 

「え・・・ッ?」

 

「とても良い・・・素晴らしい。素晴らしい戦士達だ」

 

だが、彼は前に立つシェルスなど眼中に入ってはいなかった。ただ、ただ、目の前に立並ぶ騎士の軍団に惚けていた。

 

 

「あ・・・・・」

 

シェルスは彼のその眼を見て、一瞬で理解した。油絵具の赤よりも『紅く』、どんな宝石よりも輝く『朱い眼』を覗き込んで理解した。

『闘い』たがっている。『殺したい』と願っている。『殺されたい』と望んでいる。

彼から血を与えられ、血を吸われている彼女だからこそ理解できる、感じる事のできる『吸血鬼の心』。

 

 

「そう・・・そうなのね・・・」

 

「シェルス・・・?」

 

『止める』事ができないと、『並び立つ』事ができないと理解してしまった彼女は寂しそうに呟くと後ろへ退いた。

 

 

「行きましょう、ドン。ここは彼の・・・『彼等』の戦場だわ」

 

「・・・うむ、わかったであろー。ならば、往くであろー!」

 

バッシュンッ

 

シェルスは背中に翼を広げて、飛び立った。今、自分にしか出来ない事を行う為に彼女はドンを乗せて、飛び立った。その飛んで行く様は、朱い矢羽の様に美しい。

 

 

「・・・・・追わないのか?」

 

飛び立った矢羽を目で確認した化物は、構える騎士に問いかける。

 

 

「構いはしない」

 

「あの娘はいい子だ。そして、恐ろしいぞ?」

 

「貴様が言うのならばそうなのだろう。されど悲しくて、可哀そうな娘だ。貴様のような怪物に見初められた可哀そうな子だ・・・・・『あの人』のように・・・」

 

騎士が答えると夏だというのに凍えた。

吹きすさぶ冬の北風が戦場に舞い降りるかのように凍えた。

 

 

「もうすぐ陽が昇る・・・・・お前の命も還る時だッ!!」

 

「我が兵よ、我が愛する英傑達よ、征け・・・我に相対する者は一人で良いッ!!」

 

ドウッ

 

凍える風から一転・・・灼熱の熱波を纏い、赤の軍勢と白の軍団が駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回は、着目シーンをずらしていきたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。