実を言うと人狼は吸血鬼よりも古い伝説を持ってたりする。
ドン「されど、狼よりも吸血鬼の方が有名であろー」
では、どうぞ・・・・・
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
ダンッダンッダンッダン!
轟々と炎が燃え滾る中、遂に白髪の人狼と赤毛の吸血鬼による物理的な戦闘の火蓋がきって開けられた。
互いに構えた銃が火を上げ、激しい銃撃戦が展開される。が、両者の放った銃弾はするりするりと間を抜け、その身体に当たりはしなかった。
タタタタタタタッ
シェルスは、撃鉄が連打される機関銃を両片方に担ぎながら大尉に向かって走る。
彼女は撹乱の為に銃撃を展開し、自分の武装錬金『バルキリー・スカート』で一気に決着をつけようとしたのだ。
ボグォオンッ!
そして、銃撃による粉塵と外からの引火によって生じた小規模の爆発に紛れ、シェルスは大尉の身体に刃を突き刺すべく飛び込んだ。
バッサァッ
「なッ!?」
だが、煙をかき分けた時、彼女の目に最初に飛び込んで来たのは大尉が羽織っていたコートであった。そのコートがシェルスの視界を奪い、奇をてらう筈が逆に利用される形へと至ってしまったのだ。
「・・・」
ダァッン!
「がッ!?」
視界を奪われたこの瞬間を逃す程、大尉は甘くはない。彼はまず彼女の腰へと一発、鉛玉をめり込ませる。
ダァッン!
「グぁあッ!!?」
次に体勢がよろけ仰向けになったシェルスの口に銃口を咥えさせ、脳本体をグチャグチャにする為に止めの一発を撃ちこむ。
「!」
普通の出来損ないや並の吸血鬼ならば、脳を破壊された時点で再起不能の致命傷を負ってしまうであろう。
シャキンッ
「フフッ!」
しかし、彼女『シェルス・ヴィクトリア』は違う。
何故ならば彼女は『選択者』にして、アキトこと『吸血鬼アーカード』から血を啜られ、血を与えられた最上特級の吸血鬼であるからだ。
そんなシェルスは、大尉から受けた傷をありえない速度で治癒すると高速移動の為に仕舞っていたバルキリー・スカートの刃を大尉へと振り向ける。
ズザザ・・・
「・・・」
思わぬ反撃に斬られた頬から血を垂らす大尉であるが、人狼特有の凄まじい反射速度で跳ねて後退する。
「WRYYYYYYッ!!」
後退着地場所をあらかじめ予測していたシェルスは、大尉が着地すると同時にその切先を肉に喰い込ませようとマジックハンドを伸ばす。
ピシィイイ・・・!
「!?」
が、刃は彼の身体へは届く事はなかった。見えない力のようなモノが働き、寸での所で刃が止まったのだ。
「・・・・・GRUUUA・・・!」
その見えない力は紛れもない大尉本人から発せられていた。
加えて、何時でもどんな状況になっても一言も言葉を発しようとはしない一文字に閉じられた彼の口が開いている。そこから見えるのは、得物の肉を断ち切る鋭い『牙』が生え揃っていた。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
そして、大尉の褐色の燃える肌に純白の毛が生える。体毛が皮膚を覆っていくと同時に人型に編成されていた骨格が変形し、筋肉が膨張していく。
「あ・・・あぁッ・・・!?」
そうしてシェルスの前に顕現したのは、身の丈5mを優に超える銀色の大狼であった。
「GURUU・・・!」
「こ・・・この・・・!」
射殺す大尉の眼から逃げようとシェルスは必死に体を動かそうとする。されど彼から打ち付けるプレッシャーに筋肉が硬直してしまっていたのだ。
「GAAAAAAAaaッ!!」
「いぃッ!?」
大きく咆哮を上げた銀狼は、蛇に睨まれた蛙のように固まった彼女目掛けて襲い掛かった。
バキィイイ!
「ぐバはッ!?」
狼大尉はその巨体に似合わぬスピードでシェルスに体当たりをする。常人ならば一撃で全身打撲の複雑骨折をする攻撃を受けた彼女は後ろ数mまで吹っ飛ぶと通路の壁へと身体をめりこませ、血反吐をぶちまけた。
「GUOOOOOOOOOO!!」
「な・・・舐めるんじゃあないわよッ!」
追撃の一手を放とうと高速移動で近づいて来る狼大尉。今度は止めの一撃であろう噛み付き攻撃がくると予測したシェルスは、その巨体にバルキリー・スカートを突き刺そうと待ち構える。
シュバ―――ンッ
「え?!」
ところが大尉は高速で移動をしながら狼形態から人型形態へと身体を変化させ―――
ズドゴォオオッ!!
「ぶハァアアッ!!?」
―――刃の合間を縫って、強烈な蹴りを彼女の腹部に叩きつける。蹴りの衝撃で壁ごと吹き飛ばされたシェルスは、飛行艦の真下へと落下していった。
ドゴォオオオン
「が・・・は・・・!」
通路の下にあった大きな空間へと叩きつけられたシェルスは、力なく倒れ伏している。
「・・・・・」シュタッ
そこへ人間態へ戻った大尉が止めを刺そうと下へと降りて来た。
二人が今いる空間は、様々な大型兵器や組織の資金源が積み込まれた大型倉庫である。
「(・・・ダメだ・・・・・強すぎる・・・)」
・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・
「・・・」
此方へ近づいて来る自分よりも格段に強い敵にシェルスは虚ろな目で見据えている。
大尉はまたしても大狼形態へと身体を変化させ、確実なる止めを刺すべくゆっくり彼女に近づくと勢いよく跳躍した。
「(・・・ダメだ・・・・・だめ・・・)」
意識が徐々に掠れ、瞼がどんどん重くなっていく。
眼を瞑れば、全てから解放される。こうして、シェルスはゆっくりと瞼を―――――
≪―――ヤレヤレ。
「・・・アァッ!?」
―――見開いた。
≪―――立ちなさい。私の知ってる『シェルス・ギッシュ』とアキトくんが愛する『シェルス・ヴィクトリア』は、もっと往生際の悪い女だったわよ? シシっ♪―――≫
ドゴォオオッッン!
「・・・・・?」
「仕留めた」と大尉は思った。だが、蹴り突き刺した足に得物の手応えがない事に疑問符を浮かべる。
辺りには、彼の蹴りによって破壊されたコンテナから飛び出した組織の資金である紙幣がバラバラと舞っている。
ダンッ
「ハァ・・・はぁ・・・!」
「・・・!」
クルリと後ろを振り向くとそこには息を切らし、身体中に傷を負った満身創痍の女吸血鬼が立っていた。
≪―――このお馬鹿ちゃん。目は覚めた? 寝坊助さん?―――≫
「ハァ・・・ハァ・・・フフッ・・・ええ、勿論よ!」
シェルスはこの声を、この『少女』の声を知っていた。
『7年前』、博物館の騒動で瀕死になった彼女を吸血鬼に生まれ変わらせた自称『石仮面の妖精』を名乗る少女の声であった。
≪―――さぁて、目も覚めた所で・・・行きなさい、シェルスちゃん。あのワンころに貴女の力、存分に見せてあげなさい!―――≫
先程とは打って変わり、シェルスの表情は明るくなった。
虚ろだった眼は闘志の炎に掻き消え。苦悶に曲がった唇は、大きく三日月に歪んでいた。
バシュゥウッ!
「!」
シェルスは紙幣の紙吹雪に紛れて、発射された弾丸の速さで大尉に飛び蹴りをぶちかます。大尉はそれを難なく避けるが、先程よりも彼女の移動速度が上がっている事を本能で感じた。
ズザザ・・・
「ッチ!(『点』の攻撃では、向こうが有利。なら、これは!)」
「?」
シェルスは傷から流れる血を掌に塗りたくり、それを床へと叩きつける。
「『
ズザシュゥウッ!
「!?」
叩きつけた掌から血で造られた槍が四方八方に伸び、前から後ろから大尉の身体を貫いた。
「取った?!(あ!? ヤバい、これフラグ!)」
「・・・」
シュゥウウ・・・
彼女が自分で言って自分で気づいた様に大尉は貫かれた自分の身体を霧状へと変化させ、血槍から脱する。彼は霧へと変えた身体を実体化させるとシェルスの造った血槍の穂先に佇んだ。
「『
≪―――あら、シェルスちゃん? 良い顔になって来たわね?―――≫
シェルスが大尉を見据えながら口上のような文句を垂れていると又もや少女が彼女に語り掛けて来た。
≪―――でぇも。さっきみたいに自分で敵の生存フラグを建てるのは頂けないわね?―――≫
「まったく、自分でも嫌になるわ。この頃、暇な時にアキトとアニメ見てたせいね・・・って、あら?」
カラカラと少女の嫌味に柔らかい表情で答えていると叩きつけた掌に違和感を覚えた。手を挙げてみるとそこには金色に光る貨幣が血に濡れていた。
「金貨・・・? じゃあこれ全部・・・!」
シェルスの血槍攻撃によって、辺りのコンテナが皆ひっくり返された為に詰まっていた中身が外へとブチ撒かれる。中身の正体は『4年前』、レギオンが本拠地としていた東欧から奪って来た金塊やら札束であった。
「なるほど・・・要するにそういう事なのね。お前達レギオンは、軍団とか言ってるけど軍隊ですらないじゃない。言ったところの殺し屋集団じゃあないの」
最初はISによって差別された者が、格差を差別をなくす為に作られた組織だったのだろう。しかし、それを理由にした略奪や殺戮はただの賊と同類なのだ。
「認めない・・・糞程も認めないわ。『無敵の軍隊』? 『鋼鉄の騎士』? ッハ! 笑わせないでよ」
「・・・」
キィイイン!
パシッ
「ッフン・・・何よコレ?」
大尉の健脚の蹴りによって投擲さえた物をシェルスが掴み取ってみる。するとそれは銀で制作された指輪であった。
「これって・・・!」
「・・・・・」
決してそれが大尉からシェルスへの好意による贈り物なんかではない。
「そう・・・お優しい犬ッコロね。これで
「・・・・・」ザッ
大尉は決して答えようとはしない。その代わりに言葉ではなく、態度で示し合わせるように戦闘態勢に身体を構える。
「沈黙は肯定と受け取るわ。そうね、そうなのね。『黙して戦え』と『言葉はいらない』と、そういう訳ね。良いじゃない来なさい! 死にたがりの
「・・・!」
ダッッ
「待っていた。そんな言葉を待っていた」とばかりに大尉は跳躍した。
「逃げないッ。受け止める!」
身体を霧状にして、スピードに乗ると剣戟の刺突のような鋭い蹴りを放つ。
バキバキィイッ!
「ぐゥうウ!!?」
鈍い嫌な音が蹴りを受け止めた腕から聞こえてくるばかりか、内部から骨が肉を押しのけて突き出した。
「・・・フフ!」
だが、シェルスは笑う。「もらった」とばかりに不敵に笑う。耳まで裂けるくらいに獰猛な笑みを浮かべる。
「!」
彼女の表情に大尉は「?」を浮かべる。が、すぐにその笑みが何を物語っているのかを理解した。されどもう遅い!
「
ズザシュッ!!
「!!?」
解除していたバルキリー・スカートの4つの刃が大尉の腹部に貫通したのだ。今度は確実に肉を捉え、実体を捕らえた。
「狼男、4年前のどっかの誰かの御返しよ。取っておきなさい!」
グシュゥウウ!
「!!!」
シェルスは指に抓んだ銀の指輪を大尉の心臓へとめり込ませた。
人智を超越した反射速度と運動能力、変幻自在の能力を持っている人狼でも体内に一片の銀は致死量である。
「あばよ、
ブシャァアアッ
心臓から突き刺した手を引き抜くと噴水のように血が溢れ出し、大尉はそのままドタリと力なく身体を横たえる。
「・・・・・・・・♪」
倒れた大尉は無表情で通していた顔をクシャリと皺をつけ、満面の笑みを浮かべた。
ボワァッ
浮かべた笑顔のまま、蒼白い炎が彼の身体を包むと炎は狼の遠吠えのような音を上げて燃える。
「(まるで・・・・・まるで楽しい夢を見た子供のよう・・・)」
燃える蒼白い炎は辺りに引火し、大きな火柱を建てていく。
「(そうだ・・・きっと今日、今夜のこの夜は、彼等の満願成就の・・・・・一夜の夢なんだ・・・)」
その炎は遠巻きに眺めてもさぞや美しい炎であった。
「ねぇ・・・?」
≪―――どうしたの、シェルスちゃん?―――≫
炎を見ながら大尉から受けた傷を修復するシェルスは、少女に語り掛ける。
「貴女はこれからどうするの?」
≪―――眠るわ。だから、当分起こさないでね?―――≫
「フフ・・・わかったわ。ありがとう。そして、おやすみなさい」
≪―――ええ・・・おやすみ、シェルスちゃん―――≫
それからパタリと石仮面の妖精を名乗る少女の声は聞こえなくなった。
「・・・・・」
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
少女の声が聞こえなくなった途端、シェルスは蒼白い炎を背にして歩き出す。彼等を終わらせる為に、醒めない夢を終わらせる為にドンの後を追った。
静かになった通路に足音だけが響いていた。
←続く
『仮面の娘は一体誰なのか?』は後の話にしようと思っています。
次回は、あの男・・・じゃなくて、あの山羊からいきます。
そろそろ、この章に名前を付けようか・・・な?