人外になった者   作:rainバレルーk

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―――統合しました―――



Vampiro del sole e berserker spinoso

 

 

 

ドンと大隊長の前に映り出されたモニターには、一人の騎士が立っている。

満身創痍のボロボロで、身体中から血を吹き出しながら息を切らして立っていた。

 

 

「己らに問う・・・汝らは何ぞや?」

 

しかして尚も誉高き『湖の騎士』を名に持つ騎士は燦然たる眼を輝かせ、血潮の闘志を燃やしている。

 

 

『『『我等、軍団(レギオン)。レギオンの兵士(ソルジャー)なりッ!』』』

 

その彼が燃やす血潮の炎は、後ろに連なる騎士達にも燃え広がっていた。

 

 

「ウヲオオオオオオオオ!!」

 

『『『オオオオオオオッ!!』』』

 

傷だらけの騎士『スカー・ランスロット』を先頭とした必滅降下部隊『狩人(イェーガー)』が前へ前へと駆ける。その姿は真っすぐに放たれた白き矢の如くである。

 

 

『『『VAAAAAAAAAAAッ!!』』』

 

そんな彼らに対するは、紅の衣に身を包んだ幾万と流れる河のような亡者の戦士達。彼等は自らが仕える紅蓮の王『アーカード』を守ろうと布陣を敷き、立ち向かう騎士と相対する。

 

 

「オオオオオ!!」

 

「AAAAAAAAッ!」

 

ガキィイッン

 

ズダァアッン!

 

刃と牙が、銃弾と刃が、牙と刃が乱れ合わさる。ぶつけ合う刃は火花を散らし、飛び交う銃弾は血を啜った。

 

 

『『『ヲオオオオオオオッ!!』』』

 

ドドドドドドドドドドドドドドッ

 

騎士達は脇目も降らずにただ前へ前へと突っ切る。嘲笑う王の身印を奪う為に猪突猛進する騎士達のその姿は、流れ来る赤色の濁流を登る鯉のようだ。

 

 

「VRYYYYYッ!」

 

ズザクッ!

 

「グがッあ!?」

 

しかし、そんな騎士達の猛攻をただ黙ってやられている亡者達ではない。

仕える主を守ろうと進撃する彼等の身体に構えた刃と牙を突き刺す。それも一本や二本ではない。騎士達よりも多勢な事を活かした圧迫攻撃だ。

 

 

「・・・フ・・・ッ!」

 

「AA?」

 

だが・・・斬られ、突き刺され、貫かれた騎士はほくそ笑む。まるでこうなる事を予めわかっていたように。

 

 

()()()()!」

 

騎士の身体には大量のダイナマイトが括り付けられており、彼は手にはその起爆スイッチが握られている。

 

「いけぇッ!!」

 

「ヴァルハラで会いましょう!!」カチ

 

ボグォオンッ!!

 

仲間の声援を受けて、彼はスイッチを押した。すると彼に纏わり付いていた亡者ごと爆発四散し、火柱を昇らせる。

 

 

「お先に!!」カチッ

 

ドゴォオッン!!

 

「ヴァルハラでッ!」カチリ

 

バゴオォオンッッ!

 

先へ先へと、進めば進むほどに爆発は連鎖し、目の前にいる亡者を吹き飛ばす。

起爆スイッチを押した彼等は知っていた。自分がどんなに敵を殺そうとどれだけ前に進もうとあのニッコリと笑顔を浮かべた化物には、到底叶わない事を。

 

 

「行ってください!!」カチッ

 

「ランスロット中尉ッ!!」カチ

 

ボゴォオッッン!

 

だからこそ、彼等はその化物に対抗し得る力を持った者を送り出すために自らを犠牲にし、『』を作り出していたのだ。

 

 

「SIYYYAAAAAAAAAAッ!!」

 

バァ―――ッン

 

仲間が自らの命と引き換えに作り上げた道をひた走り、血生臭い硝煙の香りを漂わせる黒煙の中から笑って逝った彼等の思いを背負って、彼『ランスロット』は現れた。

 

 

「・・・私の前に立ったか・・・」

 

彼に語り掛けるのは、紅蓮の眼を輝かせてほくそ笑む()()()()()となった吸血鬼、アキトこと『アーカード』であった。

二人の周りには血に濡れた赤衣の亡者の姿はなく、ただ愛おしそうに見つめる者と殺気立った視線を突き刺す者がいるだけである。

 

 

「流石だ。流石はレギオン・・・流石は叛逆の騎士『ランスロット』ッ!!」

 

アーカードは喜々とし、嬉々としていた。

自らのこの長ったらしい夢を終わらせてくれるに足る『人間』が目の前にやって来たのだから。

 

 

「・・・・・」

 

だが、楽しそうなアーカードに対して、ランスロットは静かである。まるで何かを決心したようなそんな面持ちであった。

 

 

「さぁ、死合おうぜ誉高き騎士よッ!! 貴様が『4年』もの歳月をかけて培った全力で私に挑んで来い!!」

 

アーカードはそれに気づいてはいない。普段ならばすぐに気がつく理性が、冷静な思考が本能によって完全に機能していないからである。

 

 

「・・・殺しきれる武器を持っているのは、お前だけじゃあないんだぜ?」

 

「?」

 

スチャ・・・

 

ランスロットはそう言うとあろう事か、ここまで構えて来た自分の武装錬金『激戦』を待機状態へと戻したのだ。これにはその武器で向かって来るだろうと予想していたアーカードの眉がひそむ。

 

 

「・・・」

 

「?・・・・・ッ!」

 

ランスロットは激戦を待機状態に戻したと同時に戦闘でボロ雑巾と化した自分の衣服を脱ぎ捨てた。

 

 

「それは・・・・・その『術式』は・・・ッ!?」

 

アーカードは彼の衣を脱ぎ去った上半身を見て驚愕し、口を三日月からへの字へと歪める。彼はランスロットに施された『術式』なるモノを知っていた。

 

 

「『エンバーミング』・・・だと?! 完成していのかッ!?」

 

「そうだぁ・・・」

 

上半身裸となったランスロットの身体には、幾つもの縫合と機械的な装置が左胸に内臓されていた。

 

装置並びに術式の名を『エンバーミング』。

元々は19世紀にドイツの科学者『ヴィクター・フランケンシュタイン』によって発明、開発された禁忌とも言える術だ。

この術式を施された者は運動機能等が特化し、人智を超越した力を得られる。しかし、その代償として・・・・・

 

 

「『自らの命をもって、『怪物』となる』・・・」

 

「そうだァアアッ!!」

 

ランスロットは、その術式の起動及び動力となる核鉄を左胸の窪みに勢いよくはめ込もうとする。

 

 

「やめろッ! ランスロット!!」

 

「!」

 

はめ込まれる直前。アーカードの叫びが響く。その言葉が届いたのか、彼は一歩手前で核鉄を留めた。

 

 

「化物になるきか! アイツらと同じような、私と同じような化物に!!」

 

アーカードは言い聞かせるように説得する。

 

 

「不死身の本当の玩具に成り果てる気か? そうならば同じだ・・・まるで同じ糞ッタレだ! 人間でいられなかった者と人間でいられた者と・・・そんな出来損ないの残骸を使って、お前も化物に()()()()()つもりか?!!」

 

癇癪を起し、泣きじゃくる童の様に怒りと悲しみを無我夢中に吐露する。

 

 

「やめろ・・・やめてくれ・・・! 俺を・・・お前を・・・俺たちの闘争を・・・彼岸の彼方へ追いやるつもりか? 俺のような化け物は・・・人間でいる事にいられなかった弱い化け物は、人間に倒されなければならないんだ。頼む騎士よ・・・化け物にはなるな・・・私のような・・・ッ!」

 

泣き出しそうな表情で、懇願するような口調で、アーカードは「やめてくれ」と叫んだ。するとそんな彼の瞳を覗くようにランスロットが口を開く。

 

 

「・・・『4年前』と今。これ程戦ったのだ・・・本当はお前もわかっているはずだ」

 

「・・・・・」

 

「俺はあのガラクタが世に出てから全てを奪われた。何もかもだ」

 

彼もまた悲しそうに語り出す。自らの心の内を。

 

 

「だから俺は戦った。こんなイカれた世界が憎かったから戦った・・・・・だが、4年前・・・お前があの人を・・・中尉を・・・『リップヴァーン・ウィンクル』を倒した時から全てが変わった。お前を倒したい。お前を倒す剣でありたいと思った・・・・・心無く涙もない無尽蔵に作られた唯の刃になりたいと思った・・・」

 

それだけの言葉をランスロットは並べるとクスリと笑い―――――

 

 

「これをはめ込む事で、()()なれるなら・・・・・俺は喜んで・・・お前の言う化物に成り果てよう・・・・・ッ!」

 

―――声にならない叫び声を暁の空が覆う戦場に轟かせながら・・・窪んだ空っぽの胸へと核鉄をはめ込んだ

 

 

 

―――――――

 

 

 

「『エンバーミング』・・・『フランケンシュタインの怪物』・・・とんでもない外法を使ったモノであろー・・・ッ!」

 

モニターを眺めながらギリリとドンは奥歯を噛み締める。

画面には声にならない叫び声を上げる怪物になろうとしている人間と哀し気で悔しそうな表情でそれを見つめる化物が映っていた。

 

パチ・・・パチ・・・パチ・・・

 

「素晴らしいモノだろう。とてもこの技術が2世紀以上前に造られたものだとは、到底考えられない。いやはや、闇に葬られた先人たちはとんでもないモノを残してくれたものだ。因みにあれは、ウチのドクトルが設計した『再生機能特化型』だ」

 

モニターを眺めながらケラケラと大隊長は拍手をする。まるで映画を楽しむ子供のように。

 

 

「だが、あの術式は不完全なモノであろー。数時間とせぬ内に自壊する! よくもあんな無茶な施術をしたものであろーッ!」

 

「・・・・・ククク・・・ッ」

 

「ッ!?」

 

ガラスの向こう側で此方に蹄を指しながら言葉をぶつけるドンに対して、彼は相も変わらない歪んだ三日月を浮かべる。

 

 

「な・・・なにがおかしいであろー?!」

 

「ドン・ヴァレンティーノ。それはだ」

 

「?」

 

「我々の与える物は全てあの者に与えた。我々が奪える物は彼の者から全て奪った。自分の人生。自分の名前。自分の信義。自分の心得。全て賭けてもまだ足りない!!」

 

彼はいつものように言葉を並べていく。

 

 

「だから、君と同じようなヤクザ者な我々からも賭け金を借り出した。例えそれが一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしてもだ。あの男は、あのアーカードと勝負するために全てを賭けた。我々と同じ様にな。一夜の勝負に全てを賭けた!

 

 

言い聞かせるように、語り掛けるように、大隊長は言い揃える。

 

 

「運命がカードを混ぜ、賭場は一度! 勝負は一度きりッ! 相手は鬼札(ジョーカー)!! さてお前は何だ? 傷だらけの騎士(リッター・フォーラカッツァ)?!

 

画面の向こう側で怪物へと成り果てていく一人の騎士に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

ガチャンッ

 

六角形の窪みに核鉄がはめ込まれた事で左胸の装置が起動し、術式が作動する。その為か、装置からウネウネと薔薇の棘のような触手が肉の内から身体を覆っていく。

 

 

「こ・・・このォ・・・ッ!!」

 

そんな状況を見ながら・・・悲しさから一変、怒りを全身から滲みだす男が一人。『アーカード』である。

 

ザッザッザッザッザッザッザ・・・

 

彼は赤いジャケットを戦場の風になびかせ、牙を不機嫌にギチギチと鳴らして、怪物へと変わり果てていく宿敵『ランスロット』へと歩を進める。

 

ザンッ

 

「・・・」

 

ドドドドドドドドドドドドドド・・・

 

化物と怪物は無言で相対する。

怪物は目の前に化物が来ても跪いたまま、ボンヤリと虚空を仰ぐ。対する化物は怒りの眼のまま自らの血潮で槍を創造した。

 

 

「大馬鹿がッッ!!」

 

アーカードは創造した槍を構え、渾身の力で串刺しにしようと腕を振り下ろす。

 

シャキィインッッ!

 

「ッ!!?」

 

ところが、槍の切先はランスロットの肉に喰い込みはしなかった。その代わりに刃の一閃が槍を構えた腕ごと、アーカードの首を斬り裂く。

裂かれた腕からは真っ赤な血飛沫が舞い、斬り落とされた頭は苦悶の表情が伺える。

 

 

「・・・」

 

彼を斬ったのは、先程まで薄らボンヤリ虚空を見つめていたランスロット。その手には、腰に差していた二刀の刃が握られていた。

 

ザグシュゥウッ!

 

「ッ?!!」

 

対するアーカードもやられているばかりではない。頭が胴体を離れるその瞬間に鞘に収めていた刀を抜刀し、ランスロットの下顎から上を斬壊する。

正に一瞬の出来事であった。一秒にも満たぬ瞬きの間にアーカードは片腕と頭を。ランスロットは下顎から上を失ったのだ。

攻撃の衝撃で、二人は血を噴水のように噴き出しながら徐々に倒れていく。

 

ダンッ

 

だが、両者共に踏みとどまった。そして、同時に吹き上げる血も空中で静止した。

斬り落とされた腕と頭が噴き出した血によって元へと復元し、潰れた頭が棘によって構築される。

 

 

「ッ・・・!!!」

 

アーカードは歯を喰い縛りながらランスロットを睨み射貫く。未だ声帯が復元出来ていない為であろうか、ギリギリと歯軋りの音だけが聞こえてくる。

 

 

「い・・・ばら・・・棘か・・・」

 

しかし、軋んだ音を弾ませた後に声帯が復元されるとその口から吐き出される言葉は先程までとは打って変わり、いやに冷淡なものであった。

 

 

「身体は『人』ではなくなった・・・・・お前も私も死んで朽ち果てるには『ここ』を抉るしかないようだ・・・」

 

ポンッとアーカードが掌を置いたのは左胸。そこには人体で最も重要な内臓が潜んでいる。

 

 

「この・・・心の臓腑を・・・・・ッ!」

 

「・・・・・」

 

ダンッ

 

ランスロットは返答の代わりに地に足を踏み込み、二刀の剣を縦横に重ねて構えた。

 

「・・・・・」

 

カチャン

 

無言の言葉を受け取ったアーカードもまた刀を鞘に戻し、抜刀の体勢を整える。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・

 

両者の間にある温度が、空気が、大気が夏だというのに凍えそうになる程に冷たくなった。凍てついた空気が肌を刺し、生気のなくなった血潮が鼓動を叩く。

化物は怪物を、怪物は化物を目標にし、己が刃を喰い込ませようと殺気をぶつける。

 

 

「WRYYYYYYYYYYッ!!」

 

シァアキィイッン!

 

「!」

 

先に仕掛けたのはアーカード。彼は居合の体勢から自らが得意とするナイフの投擲を繰り出した。

 

ザスザスザスザスザスッ!

 

居合からの抜刀をフェイクにしたナイフ投擲によって放たれた幾十もの刃渡り15cmの刃は、余す所なくランスロットの身体を突き刺す。

 

ズブシュゥウ!

 

「がッ!?」

 

しかし、こんなものでランスロットは止まりはしない。大きく振り抜いた腕は剣と共にアーカードの心臓目掛けて突き出される。

突き出された刃は寸での所でアーカードが放ったナイフで軌道が外れ、心臓には当たりはしなかった。が、その数cmを貫いた。

 

 

「RYYY!」

 

ザシュッ!

 

アーカードは突き刺された刃を回避する為に今度こそ刀を鞘から抜刀し、剣を掴んでいるランスロットの腕ごと叩き切る。

 

グチャ

グチュチュッ

 

両者の互いに傷付けた箇所は、ビデオの逆再生のように塞がった。

 

 

「『血液創造(ブラッド・メイク)・レッドハンズ』ッ!!」

 

今度は血液創造で生み出した手でランスロットの腕を拘束する。

 

 

「・・・『Schwert von Dornen(棘の剣)』・・・」

 

シュババッ!

 

「ッチィイ!」

 

だが、ランスロットは腕に纏わり付いた赤い腕を自分の肉から突き出した棘をもって切断する。これではとんだイタチごっこだ。

 

 

「!」

 

その時、アーカードの目線の先に装置が見えた。ランスロットの左胸に取り付けられた核鉄が埋め込まれている古めかしい装置『エンバーミング』が。

 

チャキン

 

彼はこの隙を逃さまいと自分の中で最速の技を放つ為に刀を鞘に収め、構える。

 

 

「花鳥風月流居合『鳴雲雀(なきひばり)』ッ!」

 

ピィイイイイイイイッ!!

 

吸血鬼の特性である怪力無双の力で引き抜かれた刀身は、切っ先から音速を超えた鋭い衝撃波を飛ばした。

 

ザキィインッ!

 

「ッ!!?」

 

メスのような鋭く研ぎ澄まされた衝撃波は、ランスロットの左胸にぶち当たる。加えて衝撃の反動からか。メキメキと骨が軋む音も聞こえ、シュゥウッと煙が立ち込み、苦しそうにランスロットは胸を抑えている。

 

 

「!?」

 

しかし、煙が晴れるとアーカードは目を見開く。止まっていたのだ。

衝撃波が装置に当たる瞬間、身体から棘が突き出して装置を斬撃から守ったのである。

 

 

「SIYYYYYYYAAAAAAAAッ!!」

 

バ―――ンッ

 

ランスロットは駆け飛ぶ。眼前に立つアーカード目掛けて飛んだ。飛んだと同時に棘が彼の背中を覆い尽くし、アーカードの視界を『棘の翼』が包んだ。

それは最早人でなく、魔でなく、昼でなく、夜でもない。

 

 

「WRYYYYYYYAAAAAAAッ!!!」

 

チャッキン

 

アーカードは迎撃しようと刀を駆け飛んで来るランスロットへ向ける。

 

ズッザシュッッ!

 

「あ・・・ガッ!!?」

 

だが、遅かった。

こんま何秒か、それ以下が命運を分けたのであった。

 

バタンッ

 

ランスロットが突き出した剣がアーカードの額を貫き、彼は地に跪いてしまう。

 

ヒュッッッン!

 

額を貫いた剣を握ったランスロットの腕から棘が伸び、アーカードの身体に巻き付いていく。彼の身体を棘が縛り付け、刃を心臓へと運ぶ。

力なく地に沈んだアーカードの表情は、どこか恍惚さが感じられる。

 

 

「・・・」

 

シュボォオオオオオ・・・

 

心臓に向かって刃が進んで行けば、進み行くほどに消滅の炎が彼の身体を包んだ。

 

ボォッ

ボボォオッ!

 

「な、なんだ?!」

 

「も、燃えている!?」

 

王に炎が包まれると芋づる式にその臣下達である亡者達も炎に包まれる。

突然、目の前で謎の援軍が何故か自然発火した事に近くにいた者達に動揺が走った。

 

シュゴォオオ・・・

 

「・・・・・」

 

自らの身体から噴き出す炎を見つめながらアーカードは、無言のままに重くなった瞼をゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『許さない』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

『・・・熱い・・・・・身体が熱い・・・』

 

棘に締め付けられ、心臓に向かって銀の刃が進む。

意識が朦朧とし、頭の中を闇が覆っていく。

だが、なんと心地の良い事か・・・

 

『満たされる』

空っぽだった胸の奥底が、酒が注がれる杯のように満たされていく。

 

 

『なんて気分が良い・・・・・これが『最期』というヤツか・・・『終わり』というヤツか・・・』

 

どうしようもない眠気が思考を浸す。

焼けただれる肉の臭いが、焦がれる血の香りが、燃え盛る炎のさえずりがドンドン眠気を誘ってくる。

 

 

『よく眠れそうだ・・・グッスリと寝れそうだ・・・』

 

『私』は漸く自らの『生』に決着がつけられる。

ああ・・・なんと度し難い程の心地良さか・・・・・これが私の―――

 

 

 

 

 

 

 

≪―――・・・つまらない・・・―――≫

 

『・・・・・・・・おん?』

 

聞こえて来たのは、ヤレヤレと呆れ果てたように吐き捨てる言葉。

 

 

≪―――つまらない。全くもってつまらないぞ、お前―――≫

 

馴れ馴れしく語り掛けて来るこの声を『僕』は知っている。

 

自分自身の中にある混濁した記憶の中で最も古い記憶。

燃える炎。痛む身体。聞こえてくる悲鳴と断末魔。そして、手から伝わる血液の感覚。

 

 

≪―――あれだけ欲した『生』を、あれだけ望んだ『生』をこんなよくも分からない怪物においそれと渡してしまうのか? だとしたらお前、とんでもなくつまらないぞ―――≫

 

『煩いなあ・・・もう寝かせておくれよ。私はもう眠いんだ』

 

己を憂う力』を『今までの記憶』と引き換えに与えた。僕を『俺』にした謎の声。

『力』の使い方を身体に馴染ませ、力を受け継がせた。俺を『私』に変えた正体不明の声。

 

 

≪―――『眠い』? 馬鹿な事言ってるんじゃあないぜ―――≫

 

「おん?」

 

―――『夢』ならもうとっくに醒めているだろうが―――

 

「・・・・・は?」

 

疑問符を浮かべ、ただ茫然と佇む私の耳にある声が聞こえて来た。

 

 

『助けてくれ』

 

『まだ、生きていたい』

 

『嫌だ、死にたくない』

 

『生きていたい』

 

『生』に固執するみすぼらしい、見るに堪えない、聞くに堪えない言葉が。

 

ふざけるなよ。

私が何人殺して来たと思っているんだ。何百人の肉を喰って来たと思っているんだ。何千人の命を奪って来たと思っているんだ。ふざけるなッ!

それを自分の番が来たと言って『死にたくない』だと? フザケルナ!!

 

私が生きる為に。俺が生きる為に。僕が生きる為に啜って来た命だ、奪って来た命だ、喰って来た生命だ。その罪による罰が今まさに執行されようとしている。

ならば、私はそれを甘んじてこの身に受けよう。それが私の『贖罪』だ。

 

 

「許さない」

 

『え?』

 

その時だ。

見るにも聞くにも堪えない言葉とは全く違う言葉が聞こえて来る。

 

 

「何故そんなにも『死』を望む? それがただの『諦め』だと何故わからない?」

 

「『死』を望むのなら何故あの日、『生』を渇望した?」

 

『それは・・・ッ』

 

憎らしい程に『生』に執着したのは、皮肉にもここで『死』による罰を望んでいる私自身であった。

 

 

「お前は言ったな。『人間でいる事にいられなかった弱い化け物は、人間に倒されなければならない』と」

 

「ならば何故、お前は怪物へと成り果てた者に殺されようとしている?」

 

「許さないぞ。そんな事、お前らしくないだろう」

 

『・・・らしく・・・ない・・・?』

 

「それに・・・それにだ」

 

この声が『誰』の声なのかを私は知っている。

 

 

「愛する家族を」

 

「愛おしくも恋しいあの娘を」

 

「置いていくなんて許さない」

 

紛れもない自分自身の声

『暁 アキト』というあの山羊に拾われた禄でもない化物の声だ。

 

 

≪―――そう。お前の中の『私』が許してもお前の中の『俺』がそれを許さない。お前は『あの日、あの時』から夢なんてものから醒めて、現を歩んでいるのさ―――≫

 

『・・・カカカ・・・♪」

 

笑いがこみあげて来た。

 

 

「そうだ、何を『人間』みたいな事を考えていやがるんだよ。『化物』の癖に何を深く考えていやがるんだよ『俺』は」

 

そうだ、俺は人間なんかじゃあない。『化物』だ。

諦めを踏破し、進みゆく姿に。立ち向かって来る姿に。『憧れ』を抱くただの化物(フリークス)だ。

 

 

≪―――そうとわかれば・・・・・さあ、 踊れ躍れ! まだ怪しげな曲は終わってないぞ? 人外?―――≫

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「SIYYYYYYYAAAAAッ!!」

 

ズブリ・・・ズブリ・・・ッ!

 

ランスロットは突き立てた剣を心臓へと進ませる。徐々に肉を斬り裂いていく事で、炎の出力は上がっていった。

 

 

『GUAAAAAAAAッ!』

 

ガブリッ!

 

「ッぐ!!?」

 

斬り裂く剣を掴むランスロットの腕に齧り付いた黒い獣が一匹。使い魔の『ニコ』である。

今まで自分の主の心を知って別行動で戦場を疾駆していたが、主の危機を感じ取って駆け飛んで来たのだ。

 

 

『UGAAAAA!!』

 

ニコはワニにも勝る力で顎を締め上げる。厚さ10cmの鋼鉄もひしゃげる勢いでだ。

鋭い犬歯が腕の肉を貫き、バキバキと骨を砕いていく。黒い毛並みに紅の炎が燃え移ろうとお構いなしに。

 

 

「AA・・・AAAAAAA!!」

 

『ガッ!?』

 

それでもランスロットは腕の力を弱める事はない。それどころか、今まで以上に力を込めて刃を心臓へと進める。

『零号解放』で出撃した亡者の河は、一変して紅蓮に燃える炎の海へと変貌した。

 

 

『GUAAッ、GAAAAAAAッ!!』

 

ニコは叫んだ。「主、主!」と叫ぶように吠えた。「起きてください」と唸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさいぞ、ニコ」

 

『ワふッ!?』

 

そんな咆哮に答える声がニコの耳に聞こえた。

いつも頭と頬を撫でまわしながら語り掛けて来る自らの主の声が。

 

 

「お前の鳴き声は相変わらずよく響く。まるで目覚まし時計のアラームのようだ」

 

『ガうッ!!』

 

「くッ!」

 

寝ぼけた眼を擦り、アーカード・・・いや、アキトは損傷した手を復元させると自らに突き立てられた剣を掴むランスロットの手を掴んだ。

 

 

「ランスロット。お前に倒されても良かった・・・『あの日』なら」

 

「ッ!」

 

「あの暁に染まる荒野なら・・・あの日なら・・・お前に心臓をくれてやっても良かった」

 

アキトは物寂しそうにランスロットに語り掛ける。

 

 

「でももう・・・最早ダメだ!」

 

バキィイッン!

 

「ッ!!?」

 

突き刺さった剣を砕き、身体に絡み纏わり付いた棘をブチリッと千切ったアキトはニコと共にランスロットと距離をおいた。

 

 

「お前に私は・・・・・いんや・・・俺は倒せない。何故なら、化物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくてはいけないのだ!!!

 

ビシッ!

 

彼は斬り裂かれた傷を復元しながら傷口から『核鉄』を取り出す。取り出されたその核鉄は他の物とは違うある特徴がある。『黒い』のだ。

 

 

「お前を『カテゴリーV』と認識。出し惜しみは無しだ」

 

その核鉄は所謂『黒い核金』と呼ばれる物であり、彼『暁 アキト』が世界中の闇の者(ミディアン)達から異端の吸血鬼と呼ばれるかのもう一つの所以がその核鉄であった。

 

 

 

「武装錬金ッ!!!」

 

キィィインッッ

 

覚悟の声に反応し、起動した核鉄は光を放つ。暖かい『山吹色』の光を。

 

 

WRYYYYYYYAAAAAAAッ!!

 

光はアキトの身体全体を焼き尽くすと吸血鬼独特の白い肌を灼熱の赤銅色へと変化させ、漆黒の髪を蛍火に煌めかせる。その手には大剣のような突撃槍が握られていた。

彼を包む光はまるで『太陽』のようである。

 

 

「ロストナンバーⅢ『サンライトハート』・・・・・推して参るッ!」

 

「『暁の・・・・・アルカード』ォオ・・・ッ!」

 

山吹色の光が納まり現れたのは、陽を纏いし闇者であった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





遂に自らの武装錬金を現せたアキトッ!
『飛行船事件編(仮)』はいよいよ終盤に!
章の結末は、予想の斜め上をいくあっけないモノにッ!・・・なるだろうか?
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