ハイスクールD×D SPIRIT OF GUN×BLADE 作:DECADE
日本へ到着した俺は、まずいの一番にアーシアの住む場所の確保のために、俺の家に向かった。
揃った両親にアーシアの身の上を虚実折り合わせ説明し、アーシアを住まわせたいと説得すると、二人とも二の句も告げず承諾する。
「性欲だけが取り得のどうしようもない息子によくもまあ!」
「孫の顔も諦めていたのに、希望が持てるなんて!」
興奮しすぎだとも思ったけど、本気で嬉しがっているからほうっておいた。つうか大きなお世話だ!
で、電話とパソコンでアーシアの身元だのなんだのの諸々の事情を片付けて、夕方。俺はあるところへ電話をかけた。
「もしもし、アザゼルか? 俺だ」
『お、イッセー。今さっきメールに添付されたデータを受け取ったぜ、ご苦労さん。金はもう振り込んだから、また頼むわ』
「俺がデータのコピーをとって、どこかに売り飛ばそうとか考えてるとは思わないのか?」
実際はメールが着いたのを確認した時点で、PCのデータもメモリもとっくに破棄したけどな。
『んなセコい真似するくらいならとっくに金庫破りでもしてるだろ。お前の義理堅さはよく分かってるし、でなきゃ三勢力全てから重用されるなんてできてないだろ』
「信用は金になるからな。それはそうと、もう一つ話があるんだが……」
四人の堕天使の件を、アーシアの事も含め包み隠さず話す。なんだかんだで、俺もアザゼルのことは信頼してるからな。
『最初に言っておくと、まったくあずかり知らねえな』
「証拠は?」
アザゼルが俺を騙すとは考えにくいが、用心と信頼は別物だ。
『万に一つも接触する可能性があるんならお前の事は教えておくし、なにより貴重な回復系神器の保有者をそんな手荒に扱うような指示は有り得ねえ』
「つうことは、堕天使四人を始末したことは不問でいいのか?」
『当然だろ。単に上に内密で動くだけならまだしも、希少な神器を自己判断でどうこうしようとしたってのは論外だ。おまけにお前に喧嘩を売った? そんな馬鹿の為にお前と揉める気はねえよ』
傍に仕えたいと願った相手にこうもバッサリ言われるとは、自業自得とはいえ哀れなもんだな。あの女堕天使。俺の知ったことじゃないが。
『とにかく、わかった。その娘がうちに来たいって言うんなら歓迎しよう。それまでは堕天使側から接触はしないと誓う』
「ああ、それでいい。アーシアの意志を尊重したいからな」
『それと、コカビエルにも釘を刺しとく。あいつは戦争を望んでるが、俺はもうそんなの真っ平だし、ダチとしては手を下すような事態にもなってほしくないからな』
「大変だな、総督」
『全くだ。おまけに白龍皇のヴァーリの奴も、究極系のバトルマニアときてやがる。赤龍帝が見つかったら、飛んで行きそうな勢いだよ』
ヴァーリは生粋の戦闘狂だからな。俺と戦いたいと言い出したとき、面倒だったから無茶な金額を提示したら、本気で出したくらいだ。宿敵の赤龍帝との邂逅は、望んでやまないだろう。
「二天龍か。誰だか知らないが、歴代最強の白龍皇と戦う羽目になる今代の赤龍帝には同情する」
『よく言うぜ。人間でヴァーリに勝った唯一の男がよ』
「それとこれとは別だ。あんな天才くんと戦うのはもうゴメンだね。また金が詰まれりゃ別だがな」
『その金銭欲がなにより信頼できる。じゃあな』
電話が切れてすぐ、別なところへ電話をかける。
思ったより話込んじまった。それにしても赤龍帝か。俺もとある事情で探しちゃいるが、とんと見つからない。相当深く眠ってるか、持ち主がまだ生まれてないのか。それとも相当面倒な事情があるのか? なんにしても、早いとこお目にかかりたいもんだ。あ、繋がった。
「もしもし。サーゼクスか?」
『ああイッセー、久しぶりだね。君から電話をかけてくるとは珍しいが、どんな厄介ごとだい?』
いきなりだなおい。確かにサーゼクスに電話かけるのは、大抵厄介ごとが起きる前が、起きた後だけどよ。
「いいや、今回はそうでもない。お前の妹、俺が通ってる学校のリアス・グレモリー先輩って、駒王学園の辺りの元締めだろ? 一人、学園に通わせたい女の子がいてな。話を通してもらいたいんだ」
『ほおう? 通わせたい、ということは頼まれたというわけでもないんだね? よければ経緯を聞かせてもらいたいな』
興味を示したのか、サーゼクスの声が弾む。しょうがない、手短に説明するか。
「堕天使の依頼で海外へ行って、仕事を済ませた翌日に堕天使に絡まれてるのを助けて、友達になった。それだけだ」
『ざっくり言いすぎじゃないかね。とにかく、その彼女を妹の学校に通わせてやりたいと』
「ああ、代わりにこの間の仕事の報酬は三分の二でいい」
口に出してから減らしすぎたかな、と思ったが、アーシアのおっぱいの感触を思い起してみる。
うん、安いくらいだな。
『君らしい減額だな。しかし、君が報酬を削ってもいいと言う辺り、本気が窺い知れるね。わかった。妹には話を通しておこう。報酬の件もそのままで払う。長い知り合いの頼みだ」
「恩に着る」
『ただ……君のほうからも妹と話してもらえるかい? そろそろ君の事を言っておかなければならないと考えていたんだ』
おいおい……説明もしてなかったのかよ。通りで学校ですれ違ってもなにも感じられないわけだ。
「電話じゃ駄目か?」
『できれば直接会って話してもらいたいね』
仕方ない、アーシアのためだ。ため息と共に、サーゼクスに了承を返す。
「わかった。何時なら都合がつく?」
『ちょっと待ってくれ……。――今日で大丈夫だそうだが、どうかな?』
「それでいい。夜になったら向かうから、そう伝えてくれ」
そして夜。夕飯の後、俺たちはすぐに学校へ向かった。こういう事は早いに越したことは無い。
ほとんど使われてないとは思えないほどキレイな旧校舎へ入り、目的の部屋を前に、扉のプレートを確認する。
『オカルト研究部』
……相変わらずすごい違和感だ。
こんな部活、普通なら敬遠されるか幽霊部員だらけなはずだろうけど、生憎と入部を希望するやつは男女問わず後を絶たない。何せ、学園でも指折りの美男美女が集った部活だからな。
ノックした後、すぐに扉が開かれる。
若干気を引き締めつつ、アーシアを後ろに中へ入ると、少し薄暗い室内で、赤い長髪の女生徒、リアス・グレモリー先輩が正面のソファに座っている。
「どうぞ」
手で示されたソファに二人で座ると、姫島先輩が紅茶を出してくれる。妙なものは入ってないな。
「ありがとうございます」
ドアを開けた金髪の男子がグレモリー先輩の後ろに立ち、いつの間にか白髪の小柄な女の子がその隣に立っていた。
三年のリアス・グレモリー先輩に、姫島朱乃先輩。二年の木場裕斗に、一年の塔城小猫。学園の人気者が揃っているんだ。オカルトだろうがなんだろうが入部希望も殺到するだろう。
まあ、弾かれまくってるけど、そりゃそうさ。この面子、揃って悪魔だからな。普通の人間が入れるわけが無い。
「私達のことは知っているわね」
含みを持たせた言い方に、頷いて返答する。
「なら、自己紹介はいらないわね。二年の兵藤一誠君。貴方がお兄様の言っていた『何でも屋』の『シャーマン』なのよね?」
グレモリー先輩が値踏みするような声で聞いてくる。無理もない。俺の学校での評判を知ってるんなら、『当然の心境』だ。
「そうですよ。学園一の変態が魔王の依頼をこなすのが、そんなに不思議ですか?」
「いえ、そういうわけではないわ。ただ、今まで貴方を校内で見かけても何も感じなかったから、それが少し、ね。」
なるほど。流石はサーゼクスが自慢する妹だ。今は何もしていない俺を決して格下と捉えない辺りは結構なもんだ。
「単刀直入に言います。ここにいる女の子、アーシア・アルジェントをこの学園に通わせて欲しいんです。とりあえず三百万。足りなければまだ払います」
懐から札束を取り出し、机の上に積み上げる。
いきなり本題にはいったのがそんなに驚くことか? 見慣れない金額でもないだろうに。
「お兄様から聞いていたけれど、本当にビジネスライクね」
「金で片付く話は金で片付けたほうが早い。違いますか?」
「それはそうだけど……この場合、お金よりも信用が欲しいわ」
信用ね。こういうことを僅かでも本心から言える奴は始末が悪い。正直、笑顔で懐に拳銃でも仕込んでる奴のほうが力ずくに出られるだけ何倍もやりやすい。
「俺に何をしろと?」
「別に難しい話ではないわ。お兄様は貴方に特殊な能力が幾つかあるといっていたけれど、それを一つ教えてもらえないかしら?」
「そうすればアーシアの件を呑んでもらえるんですか?」
「約束するわ」
本当に上流階級には珍しいくらい誠実な人だな。契約を重んじる悪魔だから、か。
「……端的に言えば、俺は心を読むことができます」
「心を?」
「ええ。ただ傍にいるだけで、相手の大体の事情は把握できますよ。例えばグレモリー先輩が政略結婚で悩んでることとかね」
「……なるほど。どうやらハッタリでは無い様ね」
全員揃って、整った顔を引き締めて警戒をあらわにしてきた。まあ、心を読まれてるなんて言われれば当然の反応だ。
「悪いんですけど、俺のこれは自動で周りとチャンネルを合わせるラジオみたいな感じでね。調節はできてもオフにはできないんですよ」
「そうなの」
「同情はいりませんよ。俺自身が望んで得たものだし、みんなが思ってるほどキツくもないですから」
本人がこう言ってるのに、そこまで気にするのか。アーシアに負けず劣らず、優しいもんだ。
「それにこの手の能力者にありがちな、人の醜悪さに絶望した、なんて事もないですから。何事も慣れるもんだし、何より俺はそんな汚さが嫌いじゃない。確かに純粋で綺麗な心は好きだけど、その清らかさと汚濁を併せ持つのが当然でしょう。それを直視できなきゃ、当の昔に狂ってますよ」
波が引くように敵意が下がるにつれて、俺に対する畏怖が大きくなるのが察せられる。そんな怪物を見るみたいな目で見られてもな。
「それで? そちらの要求はこれでいいんですよね。じゃあ、次は俺の番だ」
「ええ、わかっているわ。そちらのアーシアさんの編入に関しては任せて頂戴」
「それじゃあお暇させてもらいます。アーシア、帰るぞ」
「は、はい」
アーシアと一緒に部屋を後にしようと、腰を上げようとしたそのとき、俺のケータイの着メロが鳴り響いた。このメロディは……。
「もしもし。どうしたサーゼクス。仕事か」
『相変わらず勘がいいね、イッセー。一体のはぐれ悪魔が、町外れの廃屋を住処として人間を誘い喰らっているらしい。しかもかなり派手に動いていて、すぐに対処しなければ色々と大事になりかねない。報酬は一億でどうだい?』
はぐれ悪魔狩りの依頼は何度か受けた事があるが、単体で億へいったことはほとんど無い。それだけ急ぎってことか。……だが、妙に嫌な予感がするのは気のせいか?
「了解した。場所はメールかなにかで添付してくれ」
『あ、その前に、リアスとの交渉は済んだかい?』
「あ? 今終わって帰る所だったが、それがどうした」
『それはちょうどいい。なら……』
俺は今、電話越しに心が読めない事を本気で悔やんでいる。
確かに一度でも依頼を受けた場合、相手の裏切りか虚言が無い限りは依頼達成を遵守するのが俺の流儀だ。だから信頼できる一部の連中以外は直接対面しない場合、依頼を断る。サーゼクスはその信頼できるカテゴリーに入る男ではある。だからってな……
「なんでわざわざこんな大勢で行かなきゃ行けないんだ」
「い、イッセーさん。失礼ですよ」
暗い夜道を俺が先頭になって歩きながら、その隣を進むアーシアはそう言って、後ろのオカルト研究部――グレモリー眷属のほうを振り向く。
『一緒にいるのなら話が早い。今回の仕事はリアス達と共にこなしてほしい。いやだ? ハハハ、悪いがこれも依頼の内と思ってもらいたい。一度受けた仕事はこちらの裏切りでもない限り、破棄しないのが君のポリシーだろう』
屁理屈だとか、事前に全部説明しろとか言いたい事はあるが、友人ということで全部のみこんでやった。だが覚えておけ。今度お忍びで人間界へ来ているのを見つけたら、即行グレイフィアにチクってやる。
「いいのよ。突然こんな事になれば、不機嫌にもなるわ。まったく、お兄様ったら……」
グレモリー先輩もサーゼクスに振り回される事が多い所為か、深いため息を吐く。おお、色々な過去の思い出が浮かんでは消えていく。でも結局好かれてる辺り、いい兄妹だな。
「いいえ、大丈夫ですよ。依頼がこういう形になったんなら、それに沿う形で仕事をするだけです。まあ極力皆を危険な目には会わせないようにしますから、そう気を張らなくても大丈夫ですよ」
「あらあら、頼もしいですわ」
「……」
「その実力、是非近場で拝見させてもらいたいね」
なんて言いながらも、姫島先輩、塔城、木場の胸中は、俺への警戒心が未だに渦巻いている。俺が悪魔だけでなく、天使や堕天使側からも依頼を受けているのを知っているからか。
バラキエルの娘に、聖剣計画の生き残り、そして猫魈ね。これはまた粒ぞろい。しかも、揃いも揃って物凄い心の闇だ。いいな、とてもそそられる。
「いい眷属を持ちましたね。グレモリー先輩」
「ええ、ありがとう」
素直に眷属をほめられた事を喜ぶか。
身も心も綺麗な人だ。純粋だけど、世界の残酷さや理不尽さを知っていて、それでもなお気高くいられる強さを持った彼女を、俺はとても好ましく思う。
それに、他の三人も決して悪くない。
脆い心を支える為に自分や父親を憎み、芯となるものを必死で求める姫島先輩。
復讐の憎悪に心を焼かれながらも、決してそれを忘れようとしない木場。
姉への不信と傷心を抱えながらも、未だに姉への愛情を捨てられない塔城。
歪で哀れで、けれど懸命に強くあろうとするその心は非常に面白い。悪くない付き合いができそうだ。
でもまあ、この中で一番綺麗で純粋なのはアーシアだな。それに加えて、教会を追い出されても神への信仰を持ち続ける心は、もしかしたらこの中では精神的に一番強いかもしれない。
思わず頭になでると、アーシアは恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑いながら顔を赤くする。うん、可愛い。
なんて事をやっているうちに、目的の廃墟までたどり着いたが……なんだこれは。
霊的におぞまし過ぎる。怨霊が生まれていないのが不思議なくらいだ。しかもこの空気。間違いない。あいつらだ。
「ふっ、ふふふ……」
ほとんど無意識に笑いながら、サーゼクスが言っていたことを思い出す。
『本来は大公を通してリアス達に依頼が行くはずだったんだが、私が止めさせた。神曰く、君に任せるべきだとね。その上でリアス達にも経験になるはずだと言っていた』
先生、これを予期していたのか? まいったなおい。こんな短期間で二回も遭遇できるとは。はぐれ悪魔を利用しようとしているのか、もう殺したのかは知ったことじゃないが。
いる。確実に奴らがいる。あの、腐れた掃き溜めの亡者共が。
「イ、イッセーさん、どうかしま――」
「待った」
近づこうとするアーシアを制止し、取り出した刀へ黄色い光を入れる。直後、宙へ砂が舞うように集まり、死神のような化け物を形作った。鎌を振り下ろそうとする無数の死神に対し、右手の柄を握り、抜き打ちざまに一閃する。
ズバァッ!!
金色に輝く刀身を持った巨大な刀に切り裂かれ、死神は跡形残らず消し飛んだ。
「
予想通りだ。しかも、まだ大量にいる。久々に派手に暴れられそうだ。
「今のはなに? 冥界の死神でもなければ、魔物でもない。しかも、この異様過ぎる魔力。一体なんだというの?」
グレモリー先輩が、狼狽しながら俺に問いかけてくる。……なるほど、こいつらのことを教えたくて同行させたってわけだ。なら教えてやるさ、これがなんなのか。
「悪魔だ」
「……え?」
「だから悪魔ですよ、こいつらは。魔力を感じられるのがいい証拠でしょう」
俺の返答に、先輩が頭を横に振りながら反論する。あまりに受け入れがたい、突拍子もないと否定するが、僅かながらに納得している部分がある辺りはさすがといえる。
「そんな馬鹿な……こんな存在、はぐれ悪魔でさえありえないわ! 感じる魔力だって、普通の悪魔とは異なり過ぎているもの!」
「そりゃそうでしょう。こいつらは先輩の知っている悪魔とはまた違った存在ですから」
「それはどういうこと?」
冷静さを取り戻した先輩だが、俺の答えに再び心が乱れる。
「こいつらは別の世界からきた悪魔。だから姿かたちも全然違うし、魔力の質もまったく異なる。で、この死神もどきは下級悪魔で、最弱の類ですね」
「か、下級!? この魔力で?」
確かに、こいつらは魔力量だけとれば並の中級悪魔くらいはあるからな。先輩が驚くのも無理は無い。
「こいつらは意志をもった魔力の塊みたいなものです。下級は自分の形をもたないですけど、凄まじくしぶとくて、普通の攻撃じゃしばらくすれば憑代を変えて復活します。倒すには魂そのものを消滅させるか、封印するしかない」
皆が知らない言葉を使えば、こいつらは巫力の代わりに魔力を使って、自分でO・Sを行っている。元の形さえもたない存在だから、どちらかと言えば魑魅魍魎といったほうがいいくらいだけれどな。
「さあ、いきましょう。どうやらパーティの準備が整ってるみたいだ。こっちも盛装して出向きましょう」
腰に付けた位牌を取り出し、そこから出てきた四つの光が、オカ研のみんなの周りをぐるぐると回り始める。
「そいつらが護りますから、安心してみていてください。アーシア、今回はアースは俺が使うし、四体は皆につけたから少し不安だろうけど、皆の傍にいれば一緒に守ってくれる。グレモリー先輩、そういうことですから……」
「ええ。アーシアさんからは離れないようにするわ」
ここで待ってるって選択もあるけれど、どこから悪魔が襲ってくるかもわからない以上、できればそばにいて欲しい。アースをつけるっていう手もあるけど、さすがに俺も霊がいないと厳しいからな。
「はい、大丈夫です。ちょっと怖いですけど、イッセーさんを信じてますから」
強い子だ。言葉の通り、恐怖を感じていてもそれ以上に俺を信じてくれている。
「それじゃあ、行くか」
ズガァ!
扉を切り裂いて廃墟へ足を踏み入れると、早々に悪魔が大挙して襲ってくる。
有象無象の雑魚が、クワセロクワセロとやかましい。食うのはこっちだ、阿保が。
手当たりしだい、襲ってくる奴から切り裂いていく。何匹かが皆に襲い掛かるが、炎と氷と風と雷に、あっけなく消し飛ぶ。唯一何も憑いていないアーシアが心配だが、四人が遮るようにアーシアの前に出てくれているおかげで、無事で済んでいる。
そうしてほぼ全ての雑魚を始末すると、暗闇の奥から何かが這い出てくる。
最初に見えたのは女の上半身。次に現れたのは、巨大な四足歩行の下半身。
間違いない。こいつが依頼のはぐれ悪魔バイサーだろう。女のほうは添付された画像と同じ姿をしている。血みどろなのを除けば、だけどな。
恐らく悪魔に襲われたんだろう。全身至る箇所から身肉が覗け、特に上半身は人間の体裁を保っている分、余計凄惨極まりない姿を演出している。顔の皮はほとんど剥げているし、顔面が半分砕けて、片目が神経でぶら下がっている。
だが、そんな有様にも拘らず、感じる魔力は増大し、変質している。恐らく憑代にされているんだろう。
「あ……ぎ……うぉっ………」
脳みそを掴むように頭を抱えている。自分を失うのが怖いのか。
人を殺して食べる事を眷属になってからも抑えられなくて、逃げ出して化け物になった。中々波乱万丈だが、これも運命だろう? 人を食うなら、逆に自分が食われる程度は覚悟しろよ。例えどんな結末だろうと、お前の選択だ。
ブジャア!
バイサーの尻尾の蛇が頭を食いちぎり、下半身の正面が裂けて牙の生えた口が現れる。だが、変質はそれで終わっていない。全身の傷から噴出した黒い泥がバイサーの全身を包み込み、肉が潰れ、骨が折れる音と共に、球状に形が変わっていく。
「ヒィッ!!」
アーシアの悲鳴が聞こえる。見てしまったみたいだけど、グレモリー先輩が庇ってくれたおかげで、少しで済んだようだ。
ジュブァ!!
黒い泥の卵から孵ったのは、紛れもない怪物。牙だらけの巨大な口と、昆虫のような長い腕と足を供えた、食うことのみを欲する怪物だ。複数の悪魔が憑依してこうなったのか。それだけに、結構な魔力を感じる。
しかも驚くことに、バイサーとしての意識が微かにだが残っている。
こんな有様になっても、まだ食いたい、か。食欲に忠実なのは健康的で結構なこったが、俺を食うだと?
GYUAAAAAAAAA!!!
吼える化け物が正面から俺に飛び掛る。まったく……
「ちっちぇえな」
ブゥン!!
GI!?
『!?』
なんだ。動けないのが不思議か? 気にするな。ただ重力の檻で固めただけだ。
「
黄色の巨人、S・O・Eが右手をバイサーにむけ、空を掴むように指を動かす。それだけで、重力の拘束は強まり、バイサーの全身が軋みをあげる。
GU……OAA……
「助けて? おいおい、今まで食った連中はどう言ってたよ? 因果応報、自業自得。言い方は自由だが、要は――やったらやり返されるんだよ」
ガオンッ!!
S・O・Eの右手が握り締められ、バイサーは空間ごと限界を超えて圧縮され、消滅した。
「お前には地獄ももったいない。ただ消えろ」
S・O・Eを消して振り返ると、全員固まっていた。恐怖するよりも、あれだけの魔力を持ったバイサーをあっさりと消したことに驚いているらしい。
そんな中、アーシアが真っ先に近づいてくる。
「イッセーさん。お疲れ様でした」
オカ研に俺が嫌われたと思って声をかけてくれたのか。見当違いだけど、嬉しい気遣いだよ。
「ああ、それじゃあ帰ろうか。何か美味いもんでも食って帰ろう。どうですか? 先輩たちも一緒に……」
ドンッ!
……あ?
ドサッ。
突然、アーシアが崩れ落ちた。
同時に聞こえてくる、耳障りな笑い声。
「ァァハハハハハハハッ!! 思い知ったか人間が! 至高の堕天使たるこの私に歯向か」
ズド!
「――アガッ!?」
「燃えろ!!」
ボッ!
異形の怪物が
……あのときの女堕天使、悪魔に蘇生されたのか。次元の狭間に隠れて、機会をうかがっていただと? この期に及んで、まだアーシアの神器を狙って……。
倒れたアーシアを見下ろして、膝を落とす。首に手を当てるが、当然脈なんかない。だって、全身に血液を送るべき心臓そのものが、もうないんだ。
胸を中心にぽっかりと開いた大きな穴から漏れ出る血液が大きな水溜りを作り、心臓ばかりか肺もまとめて消し飛んでいる。素人目にも間違いなく即死だと理解できる。
「アー……シア」
光を失った瞳は空虚に景色をうつすだけで、とっくに俺を見ていない。
「兵藤君、アーシアさんを生き返らせないの!? 確かシャーマンは、死者を蘇生させることもできる筈よね?」
「……無理だ」
「どうして!?」
「俺は傷を治すくらいしかできないんだ。蘇生の術を扱えるシャーマンの仲間はいるが、間に合わない。今すぐ生き返らせなければ、アーシアの魂は悪魔に囚われてしまう」
ダメ元で神さんへ電話をかけてみるが……チクショウ、やっぱりダメだ。あの人の適当っぷりをここまで憎らしく感じたのは初めてだ。
……いいや、違う。これは俺の責任だ。俺が油断せずに気を張っていれば、アーシアの攻撃を防げたかも……やめよう。過程の話に意味はない。
こうなったら、方法は一つしかない。俺はグレモリー先輩に向き合って、土下座をする。
「グレモリー先輩、お願いします。――アーシアを生き返らせてください」
「え……」
「
「ま、待ちなさい。それではアーシアさんを悪魔にすることになるのよ?」
わかっている。もうアーシアは、神に祈ることも許されなくなるんだ。それでも、あいつらに魂を奪われるよりは絶対にマシだ。俺がそうしてみせる。
「それでアーシアが憎しみを覚えたんなら、俺が受け止めます。アーシアの心は、俺が救います。だからどうか……アーシアの命を救ってください」
先輩が嘆息する。そして僧侶の駒を取り出すと、頭を上げた俺に目を向ける。
「これは、私がこの子を欲するからやることよ。断じてアナタの願いに答えるからではないわ」
キツい言葉とは裏腹に、先輩の心はとても温かい。合理的な悪魔らしくないほどに、この人は優しいんだ。
「それと、流石に体の損傷が激しすぎるわ。このままでは……」
「さっき言ったとおり、傷を治すだけなら俺にもできます。そこだけは得意なんです」
アーシアを仰向けに寝かせ、そこへ手をかざす。血は
先輩がアーシアへ手を翳し、アーシアの身体の下へ魔方陣が展開される。
「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。いま再びこの地に魂を帰還せしめ、我が下僕悪魔と成れ。汝、我が僧侶として、新たな生に歓喜せよ!」
魔方陣が赤く発光し、光が収まると、アーシアがゆっくりと目を開ける。
「――――んぅ……アレ?」
「……アーシア!」
すぐさま駆け寄って抱き起こす。ああ、暖かい。鼓動も感じられる。間違いなく生きている。
「い、イッセーさん……?」
「そう言えば、何でもするって言う約束だけれど……こうしてアーシアさんが転生した以上、彼女にもオカルト研究部に入ってもらうわ。そこで、兵藤一誠くん。アナタも一緒に入部しなさい」
……ずるいな。さすが悪魔、人心掌握はお手のものか。
「わかりました。先輩」
「違うわ。入部したのなら……」
ああ、そうですか。わかりました。
「はい、部長」
ちなみに、仲間のシャーマンはオリキャラで、全員神クラスです。一誠を除いても、半分はハオを超えています。