明日の彼方に   作:紺南

2 / 44
1話

どうしてこんなことになった。何故こんな場所に居る。

何時まで経ってもその疑問は解消されない。

 

周りを見れば女女女。どこを見ても女女女。姦しいとかの問題じゃない。

 

ふざけんなと、俺の自由は何処に行ったんだと政府に言いたい。

俺にだって選ぶ権利はあるはずなんだ。なのに奴ら特にこれと言った説明せずにこんな場所に突っ込みやがった。

 

ちゃんと入学しないとこういう危険がありますよ。こうなりますよと徹頭徹尾、微にいたるまで説明してくれたら諦めもついただろうに。

何も説明しないから未だに希望を捨てられないんだ。政府死ね。

 

「おーい、嘉神。食堂行こうぜ」

 

日課の政府への恨みごとを呟いていると、呼びかけの声。

その声に振り向けば、ついこの間まで「生贄ご苦労様でーす(笑)」とか馬鹿にしてた世界初のISの男性操縦者がいた。

テレビで見た時もそうだったが、生で見てもやはりイケメンだった。しかも予想に反して性格もいいと来た。

恋愛面に関しては奥手でハーレムなんかとてもじゃないが築けそうにない、酒池肉林なんか以ての外という真面目な性格。

その点に関しては馬鹿にしてて悪かったなと心中で謝る。

しかし謝るからと言ってお前と食事を共にするとは思わないことだ。

 

「嫌だ」

 

「え、何でだよ?」

 

疑問系か。そうか。分からんか。

厭味ったらしく大きなため息を吐いた後、小ばかにしたような顔をして正面に向き直った。

そして届かないかどうかの小さな声で、

 

「お前の周りドロドロしてるんだよ」

 

「え? 何だって?」

 

やっぱり難聴系か。

 

「何も」

 

「そうか。なあ、偶には一緒に飯食おうぜ。折角二人しかいない男同士なんだからさ」

 

つい最近まで三人いたような気がする。

とあるお方へ目をやると露骨に目を逸らされた。そこそこ仲良くしてやったのにその態度は何なのか。

 

まあそれは置いておいて、一夏の誘いは魅惑的だった。普通なら一も二もなく飛びついてしまうその餌に、でも俺は食いつかない。

 

「悪いが俺は弁当でな」

 

「弁当でも一緒に食べることは出来るだろ? なあ、行こうぜ」

 

「おっと、悪いが部屋に弁当を忘れてしまったようだ。またの機会にな」

 

「取りに戻るのか? なら俺も行くよ」

 

「悪いから」

 

「遠慮なんかすんなよ」

 

俺たち友達だろと、後に続きそうな爽やかな笑顔で執念深く追いかけてくる一夏。

ああ。友達だとか親友だとか、臆面もなく面と向かって言えるその性分が羨ましい。

俺もお前の事友達だと思いたいよ。

 

「いや、やっぱ悪いし。お前らどこで食べるんだ?」

 

「そうだな。食堂で食べようと思ってたんだけど、今日は天気もいいし屋上もよさそうだな」

 

「じゃあ屋上な。先に行ってろよ」

 

「来てくれるのか!? 本当か!?」

 

「俺は部屋に物取りに行くから」

 

「ああ!! 待ってるからな!!」

 

満面の笑みで、ガッツポーズを浮かべながら待っていてくれた女子生徒の元へ駆けていく一夏。

一言二言、苦言を呈されながらも笑顔を消すことなく教室を後にしたあいつは、やっぱり羨ましい脳構造してると思う。

 

俺も少し時間を置いて、遠回りしながら食堂に向かう。

多分今頃俺たちの会話を聞いていた女子たちが屋上に続く階段にごった返していると思うから、そこには絶対に近づかないように気を付ける。

もし近づいて存在に気づかれたら、モーセの奇跡みたいに屋上までの道が作られそうだから。

 

「かがみーん、どこ行くのー?」

 

食堂への道すがら、後ろから何だかよくわからない生物に声を掛けられる。

変なあだ名と間延びした声。萌え袖やりすぎ制服。はて、名前は何と言ったか。のほほんさん?

 

そんな名前の日本人がいてたまるか。

 

しかし考えても結局思い出せなかったので、諦めて名前の出さない会話を心掛けることにする。

この人もさっきの会話聞いてたのかな。

 

「部屋」

 

「うーん。こっち遠回りだねぇ。どっちかって言うと食堂だぁ」

 

「ああ。そうなの。まだ道分からなくてね。まあ最終的に着くんだしどうでもいいでしょ」

 

「ふっふーん。私が教えてあげてもいいよぉ? 報酬は一番高いパフェで!」

 

「絶対に自分一人の手で辿り着く。手貸すな」

 

ぶーぶーとブーイングを浴びたが、知った事ではなかった。

何が悲しくて他人にパフェ驕らなきゃいかんのか。むしろお前が俺に奢れ。

 

「何で着いてくんの?」

 

「えー? うーん。かがみんがちゃんと屋上に行くようにー?」

 

「ああ。ちゃんと行くよ。心配せずとも大丈夫」

 

「前にもそれ聞いたんだよねぇ」

 

言ったね。双方しみじみと思い出す。

確かに前も言った。いつだったかは忘れたが。確かに。

 

「でもかがみ?、いかないでしょ?」

 

「放課後までにはちゃんと行くよ」

 

「意味な」

 

思わず素が出たように平坦な口調だったのほほんさん。あまり聞いたことがない声音だったので興味をそそられ、ぐいっと顔を向ける。

そしたらてへぺろ顔を見せてくれたのでそれに満足し、顔の向きを元に戻す。

 

「うんっとね。実はたっちゃんに言われてて」

 

「はぁ」

 

「おりむーとかがみんを仲良くさせなさいって命令? されてるんだよねー」

 

ああ。あの生徒会長の命令か。命令する人物で思いっきり人選ミスしてるのはご愛嬌かな。

あの人は大層な肩書きを持ってるくせに詰めが甘いから。

 

「あの人、時々ピッキングして俺の部屋に居るんだけど、不法侵入でしょっぴけないかな」

 

「握りつぶされるのが関の山かなぁ」

 

「そうか」

 

権力強いな。あれは一番権力持たせちゃいけない人種だと思うが。

ISの私的利用が蔓延してる学園内ではあまり意味がある言葉とも思えないか。

多分他の誰がやっても大なり小なり同じようなことを仕出かすのだろう。

この学園は魔境か。

 

「というか、かがみん。たっちゃんが部屋に入ってること知ってるんだねー。たっちゃん、まだ一度もちゃんと顔合わせ出来てないって悔しがってたよ?」

 

「悔しがる意味が分からんのだが」

 

「たっちゃんだから」

 

「負けず嫌いか。そうか」

 

子供だな。17歳なら当然なのだが。

しかしそれなら余計に権力持たせちゃいけない気がしてきた。

 

「小食の草食動物の危機察知能力を舐めたらいけない。100m離れてても面倒事の臭いは分かる」

 

「そっかー、かがみんは小食の草食動物だったのか」

 

「雑食の大型動物だよ」

 

「うん」

 

「平均の高校生ぐらいにはよく食べる」

 

「うん。ああ、お腹減ったなあ」

 

「もう食堂に着くから、思う存分食べればいいじゃないか」

 

「はぁ……。何だか人生って疲れるね、かがみん」

 

「よく食べてよく寝れば、そんな疲れ吹っ飛ぶ」

 

そんなこんなで食堂に到着。入口でのほほんさんと別れ、今日のノルマ終了。

よく喋った。

 

醤油ラーメンを頼み、一人で啜る。お好みで胡椒なんかかけちゃったりして。

美味い。

 

やっぱり食事は静かにとるべきだと思う。

女同士の醜い抗争が隠す気一切なく目の前で繰り広げられていて、時には好いた男にまでIS向けてくるような奴らと一緒に食べることが間違いなんだ。

 

そうは思わないか、一夏。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。