明日の彼方に   作:紺南

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16話

「なんだ……お前?」

 

オータムとか言う性悪女が会長を警戒していた。突然現れたのだから当たり前と言えば当たり前。こんな状況でISスーツなんか着ているのだから、専用機持ちかと警戒するだろう。

銃撃が止んだ隙に一夏を隅っこの方に避難させた。いくら一夏でもISの戦闘に巻き込まれたら死ぬだろう。多分。

 

「楯無さん!?」

 

「はろー。一夏くん。そこで見てなさい。お姉さんの格好いいところをね」

 

と言いつつISを展開する素振りを見せない会長に、一夏は不安を隠せないようだ。

 

「気を付けてください! そいつISを奪ってきます!」

 

「知ってるわ。剥離剤(リムーバー)ってやつね。どこから盗んだのかしら……でもそんなことで私とISの絆は切れやしない。そうよね? 一夏くん?」

 

ウインク付きで素敵な笑顔。

そんな場違いな顔を見て、一夏の怒りは少し冷めたらしい。はっと何かに気づいた様子。

逆に性悪女は小馬鹿にした態度だった。

 

「ISとの絆ぁ? 夢でも見てんのかガキ?」

 

「あら。夢を見るのは子供の特権よ。おばさん」

 

「……ぶっ殺す!」

 

女って年のこと言われたら大体怒るよね。怖いなー。

 

鉤爪が会長を貫こうと襲い掛かる。一本でも脅威なのに、同じものが八本もある。それらを全て生身で躱すのは困難だろう。そんなのは織斑先生ぐらいにしかできない。

案の定、会長は最初の一本目に貫かれた。一夏が悲鳴を上げ、性悪が会心の笑みを浮かべた。俺はISが収集している周囲の状況を確認していた。

 

「ふふふ」

 

「……あ? なんだこりゃぁ?」

 

「残念でした」

 

ぱしゃりと会長の姿が水に変わる。

水かぁ……道理でこの辺湿度高いわけだ。

 

性悪の背後に現れた会長がランスを振り抜いた。蜘蛛をモチーフにしているだけに性悪のISは機動性が高い。ダメージはそこそこ。

 

「なんだてめえは!?」

 

「礼儀を知らないのね。人に物を訊ねる時はお願いしますでしょう?」

 

性悪が舌打ちする。俺も舌打ちする。あの女いつからいたんだ。……いや、生体反応はなかったからいなかったのか? 俺たちの会話は聞いていたようだが。

 

「私は貴方ほど性根が腐ってないから教えてあげるわ。更識楯無。ISは『ミステリアス・レイディ』よ。よろしくね。亡国機業のオータムさん?」

 

どことなく自慢げに槍を回す会長のIS。水色を基調とし、装甲の薄さは操縦者の自信の表れか。操る水をドレスのように身に纏う姿は、今まで見たどのISよりも美しい。

 

「お縄についてもらいましょうか」

 

「ほざけ!」

 

「ふふ。いっそ惚れ惚れするぐらい悪役のセリフね。笑っちゃう」

 

八本の鉤爪を自在に操る性悪と、一本のランスで立ち回る会長。

どう見ても性悪の方が有利なのに、実際にやってみたら会長が優勢だった。これはISの性能ではなく操縦者の腕だな。

 

「ぐっ……!」

 

「やられ方も悪役みたいで面白いわよ?」

 

「舐めんなぁ!!」

 

性悪が鉤爪の使い方を変えた。

半分を格闘に、半分を射撃に。すると会長が防御一辺倒になる。今まで反撃に移れていたはずの隙を鉤爪の射撃が潰しているらしい。

直前までの軽口が鳴りを潜め、真剣な面持ちで防御に専念している。対して、性悪の高笑いが響き渡った。

 

「どうしたどうしたどうした!! さっきまでの余裕はよぉ!? 大したことねえなあ、更識楯無!!」

 

会長の腹に鉤爪が突き刺さる。思わずと言った感じで後退する会長。性悪の高笑いは増すばかり。

 

「はっはっは!! そろそろとどめと行こうかぁ!?」

 

「……」

 

「命乞いでもしてみるかぁ? 聞くだけ聞いてやるぜ?」

 

うわぁ……。典型的な悪役の発言だ。頭に血上りすぎだろ。周り何も見えてないじゃん。

 

「そうね。一つ言っておくとしたら……自分の体ぐらい気にしなさいな、ってこと」

 

「あ?」

 

「それともう一つ」

 

ようやく、性悪が自分の体を包む霧に気づいた。

俺のISが収集した情報によれば、あの霧は会長の操るナノマシンによって制御されている。戦いの最中に無駄なことはしないだろうから、あえて気づかせた時点で詰みと言うことだろう。

 

「私はこの学園で最強なの。あまり舐めないでくれる?」

 

「こ、の……!!」

 

「遅い」

 

パチンと会長が指を鳴らした直後、性悪が爆発に包まれる。

爆発はちょっと予想外だった。何をどうしたら爆発するんだ。集中している一夏の前に出て爆風から守ってやる。こっちもそろそろのようだ。

 

「まだ……まだだっ!! 更識楯無!!」

 

「頑丈ね。でも終わりよ」

 

「終わりじゃねえ!!」

 

「いいえ、終わりなの。ね? 一夏くん?」

 

会長に水を向けられ、久しぶりに性悪の視線がこっちを向いた。……見るんじゃねえ。腐った性根が移るだろうが。

 

「来い! 『白式』!!」

 

ISの遠隔起動。普段よりも時間はかかっていたが、コアを奪われただけで不可能になったわけではないらしい。致命的な欠陥品だな。

 

「お待たせしました、楯無さん」

 

「待ってないよ。よく出来ました」

 

正面には会長。背後には一夏。

絶体絶命に陥った性悪は頬を引き攣らせている。

目的は失敗したし、あとは逃げるしかないと思うが、何か手段は隠しているだろうか。

 

「もう一度だけ言うわ。観念してお縄につきなさい。亡国機業、オータム」

 

「……」

 

逃げ道を探して目を走らせる性悪だが、唯一の出入り口は会長が塞いでいる。

どこにも逃げ場のないことを悟り、肩を落とす。ISの武装を放棄した。その行動は観念したように思えた。

 

「くっくく……観念? お前こそ、私を舐めるなよッ……」

 

けれども吐き出されたその言葉で、観念していないことに気づく。

放棄した武装を蹴り、壁まで転がす。瞬間、爆発。壁に大穴が空く。

会長が動き、ランスを突き立てていた。その槍はISに深く突き立てられはしていたけれど、人は逸れている。それが命取りになった。

 

性悪がISを乗り捨てた。ISに会長を掴ませ道連れにするつもりだ。

自爆するつもりだと誰もが気づいた。当然、一夏も。

 

「楯無さん!!!」

 

一夏が突撃する。

俺はマシンガンで乗り捨てられたISの腕部を破壊した。

これで拘束は解けた。あとはナノマシンで防御するなり何とでも出来るだろう。

 

今までで一番大きな爆発が起きる。

その間に出口に疾走した。更衣室から出る間際、念のため二人の無事を確認すると、庇うような形で会長が一夏を押し倒している。しかし、ついでと言わんばかりに会長の胸に顔を沈めているのは何故なのか。……あの野郎。

 

とりあえず無事は無事だったので逃げる。

一応命は助けられたが、それはそれとして関わりたくない。あの女怖いよ。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

王冠を奪った人間へのご褒美は、一夏と同居する権利だったらしい。

事後処理を終わらせた一夏とISの整備室で落ち合って教えてもらった。

 

なるほどなあと納得する。それぐらいのご褒美ならあの女どももあれだけ必死になるだろう。一周回って痴態を晒してたし。一夏からの印象を考えると逆効果な気もするが、恋は盲目と言う格言で辛うじて理解できる範疇に収まっている。

 

結局のところ王冠は会長の手に渡り、一夏は会長と同居することになった。そして生徒会副会長に任ぜられた。

副会長としての職務は、各部活動への貸し出しとのこと。貸し出された先で何をするのかはわからない。まあ、ろくでもないことだろうな。

げんなりとした顔で報告して来た一夏は俺に恨みがましい目を向けていたが、用意しておいたエロ本を渡すと機嫌は治った。現金な奴だ。

 

これから一夏は忙しくなる。

普段からの特訓に部活動が重なるのだ。俺だったら死ぬぐらいの忙しさだろう。

相変わらず部屋には会長が居座っているようだし、これからは会う頻度も減るに違いない。つうか減らす。悲しいね。

 

「なあ、嘉神」

 

「なんだ、一夏よ」

 

「手伝ってくないか」

 

「なにを」

 

「部活」

 

「いやだね」

 

「そう言うなよ。友達だろ?」

 

「人を貶めようとする奴を友達とは言わん」

 

「お前だって足引っかけようとしたじゃないか」

 

「忘れたな」

 

忘れた。

 

「生徒会の役職が一つ空いてるんだよ」

 

「あ? どこ? 空いてたっけ?」

 

「副会長補佐」

 

「そんなんねえだろ。捏造してんじゃねえぞ」

 

「会長補佐でもいいって言ってた。会長特権で作るらしい」

 

「やりたい放題じゃねえか」

 

生徒会長の権限が強すぎる。学園最強の称号らしいが、教師と同じぐらいの権限はありそうだ。下手すれば教師以上。たかだか学生に持たせる権限じゃない。

まあ、あの人はただの学生じゃない。ロシア国家代表だ。代表候補じゃない。国家代表。日本人の癖に、ロシアの国家代表だ。やっぱり怪しい。スパイじゃないのか。どこの国のスパイだよ。なーにが対暗部用暗部だ。

 

とは言え、生徒会長の権限を行使するのに何かしらのストッパーはありそうだ。そもそも会長は自分の意思で一夏を鍛えているのだろうか。誰かの指示だと考えるのが普通か。誰の指示だろう。織斑先生? ……違うな。もっと上、日本政府かな? ……なんかしっくりこないな。

 

「頼むよ、俺一人じゃきついんだ」

 

「俺がいたってきつさは変わらないだろ。むしろ二人そろってきついだけだ」

 

「仲間がいてくれた方が心強いだろ?」

 

「俺は地獄を歩きたくねえ」

 

捨てられた子犬の様な顔の一夏を横目に見る。

もし俺が女ならきゅーんと来たのかもしれない。実際の所、しょうがねえなと言いたくなる。しかし思い出せ。更衣室での爆発後、会長の胸に顔を埋もらせていたあの光景を。こいつの近くにいるとあんなのが日常茶飯事だぞ。付き合ってられるか。

 

「そんなことより今日もやるぞ。あまり時間もないからな」

 

「……そんなことよりって」

 

「うるせえ。地獄は一人で歩け。俺は別の地獄歩いてるから余裕ねえんだよ」

 

ため息をついた一夏が『白式』を待機状態で呼び出す。

俺はISのマニュアルを取り出して付箋を付けておいたページを開いた。

 

「今日はどのパラメータ弄るんだ?」

 

「ここ」

 

ページの内、蛍光ペンで線を引いてある箇所を見せる。

 

「そこ? そこはこの前弄らなかったか?」

 

「違う組み合わせを試してみようと思う」

 

男二人、人目を忍び、ひと気のない整備室でISを弄る。

馬鹿が聞いたら馬鹿な風に喜びかねない光景だったが、これは俺たちが学園に入学した直後から続いている試行錯誤の現場だった。

 

何を隠そう一夏の『白式』は燃費が悪い。単一仕様(ワンオフアビリティ)がシールドエネルギーを消費して繰り出す高威力の攻撃なだけに消耗が激しいのだ。

 

加えて、先日の臨界学校の一件で第二形態移行(セカンドシフト)したことで、各種スペックが向上した代わりに燃費はさらに悪くなった。各武装を一回ずつ使ったらすかんぴんになるぐらいの燃費の悪さだ。一撃必殺は男の浪漫だが、追い求めすぎて初心者泣かせのISになっている。限度と言うものがあるだろうが。

 

いつもの馬鹿五人と定期的に試合を行っている一夏は、セカンドシフトしてからと言うものの勝てた試しがないらしい。頑張っていいところまで持って行っても、エネルギー切れで負けてしまうとのこと。

 

その悩みを解消するために日夜試行錯誤を行っている。とはいえ、ISと言うのは機密の塊で、誰かの助けを借りるよりも一人でどうにかする方が望ましい。よしんば助けを借りるにしても信用できる人に限られる。

俺たちみたいな男のIS操縦者なんてのは、最初は誰を信用していいか分からなかったから、自然と二人で協力する形になった。涙ぐましい努力だぜ。

 

今までは騙し騙し何とかやってこれたが、それも限界に近付いている。俺たちの学習スピードなんて大したことないんだから、最初から無理があったのだ。

今では誰が信用できて誰が信用できないかは分かっている。出来ないことを一人でやるよりも、出来る人に教えを請うた方が良いなんてのは当たり前の話だ。

 

問題は誰に教えを請うべきか。とりあえずデュノアは駄目だ。あいつは元男だから駄目だ。オルコットさんも駄目だ。機械みたいに細かくてうぜえ。篠ノ之さんも駄目だ。開発者の妹の癖に専門的なことは何も知らん。ボーデヴィッヒも駄目だ。常識知らずで脳筋だから。

 

そうなると残るのは凰さんのみとなる。凰さんかぁ……と微妙な気持ちになりながら一夏に告げてみると、一夏自身も「鈴かぁ……」と微妙そうな顔になった。

悪くはない。悪くはないんだが、じゃあ良いかと言うとそうでもない。俺なんかは龍砲を至近距離からぶっ放されたことがあるから、そのせいでイメージが最悪に悪い。一夏も似たような経験があるのだろう。

 

そういった恨みつらみを思い出した上で、あの凰のくそ馬鹿野郎に頭下げて教えを請えるのか? と考えると絶対に嫌だった。

やっぱりあれだな。消去法は駄目だな。生身に龍砲ぶちかますような奴は頭おかしいから駄目だ。

 

さて、知り合いで多少なりとも信用できそうな奴は日頃の行いのせいで全滅したわけだが。

 

「他にあてはあるか?」

 

「うーん……」

 

悩む一夏。

その頭にはクラスの顔ぶれが順々に浮かんでいるに違いない。

しかし誰も彼も決定打に欠けると言うか、少なからず『白式』の情報に触れてしまう以上、消去法で選びたくないのが正直なところだ。

そう言う意味ではさっきの五人――篠ノ之さん除いて四人か――は惜しかったな。やっぱり日頃の行いって大事だから。暴力振るってくる奴に頼み事なんかできねえよ。

 

悩みに悩んだ末、苦渋の決断を下したらしい一夏が、消え入りそうな声で意見を求めてきた。

 

「のほほんさんは、どうだろう?」

 

「…………え?」

 

素のリアクションが出てしまった。

のほほんさん。本名を布仏本音。普段からおっとりとした言動で、語尾を伸ばした口調が特徴的な不思議さん。天然と言うか掴みどころがないと言うか、よく言えば可愛い、悪く言えば電波のクラスのマスコットだ。着痩せするタイプで何気に胸がでけえとか、パジャマは着ぐるみみたいで可愛いとか、そんな話を聞いたことがある。主に一夏から。

 

そんなのほほんさんだが、俺の中では正体を隠した凄腕の達人疑惑を拭いきれていない。多分違うだろうとは思うのだが、たまに見せる素みたいな部分にドキッとする。

 

裏の顔があるにせよないにせよ、普段の顔があれだから、一夏がのほほんさんの名を出したことは驚愕の一言だ。むしろ戦慄した。あの人に『白式』弄らせるとか、死ぬつもりかお前?

 

「なぜ……のほほん……」

 

「だって、のほほんさん整備科だろ?」

 

整備科ってなに? そんなのあるの? じゃあ俺たち何科? 戦闘科? 見世物科?

倍率4000だか40000だかの裏に複数の学科があるのを初めて知った。やっぱり不人気の学科とかあるんだろうか。

 

「整備科ってことは、詳しいはず、だよな?」

 

「……のほほんさんが? 詳しい? 本当に?」

 

「……」

 

二人で黙りこくる。

いくらのほほんさんと言えども、仮にもIS学園の生徒なのは間違いなく。あの恐ろしいほどの受験競争を勝ち抜いたエリート中のエリートだ。

 

俺のような平凡な人間にとっては、何かの間違いでISを動かしさえしなければ生涯出会うことのなかった人たちだ。俺なんかより億倍優秀なのは間違いない。

……なんで俺はISを動かしたんだ。何でISは動いたんだ。誰でもいいから教えてくれ。おかげでこんな目に遭ってるぞ。

 

「いや、実はのほほんさんって生徒会なんだよ。会長の幼馴染らしくてさ」

 

「へえ。幼馴染?」

 

「うん。だから頼りに出来る……かはともかく信用できると思うんだ」

 

会長の関係者と言うことなら、『白式』のデータを盗まれる心配もなさようだ。

『白式』は初心者泣かせの癖に無駄に高性能なISで、所々に第四世代機の技術が使われている。

第四世代機は世界にただ一つ篠ノ之さんの『赤椿』だけだから、それに関連するデータと言うことなら、各国要人は喉から手が出るほど欲しがるだろう。加えて世界で二人だけの男のIS操縦者の専用機だ。第四世代機とか関係なく、それだけで価値がある。

誰とは言わないが、性別偽ってデータを盗もうとする奴もいるぐらいだからな。誰とは言わないが。

 

「だからのほほんさんに頼めば、もしかしたら会長も――――」

 

「よし。のほほんさんは駄目だな」

 

会長がくっついてくる可能性を示唆されて即決する。のほほんさんは駄目だ。

 

「嘉神……」

 

「いいか一夏。俺はあの女が恐ろしい。初対面で失神させられたお前なら俺の気持ちが分かるはずだ」

 

「そりゃあ、分かるけど……でもいい人だぜ? 付き合ってみればわかるって」

 

「いいや。あれは性悪だね。オータムとか言う奴とタメ張るぐらい性格悪いね。小悪魔の部類だね」

 

一夏が何と言おうと断固拒否する。

あんなのと真面に関わったらどうなるか。すでに一夏と言う前例がいるのだ。地獄を味わうに違いない。

 

「すっげえお世話になってるんだけどなあ……」

 

「お前は懐が広いから気づかないだけだ。俺の懐の狭さはペットボトルの蓋並みだぞ。大浴場には到底敵わねえよ」

 

「俺の懐はそんなに広くねえよ」

 

「こういうのは自分だと気づかないもんなんだよ。特にお前って鈍感じゃん?」

 

「鈍感でもねえよ」

 

「あ? 殺すぞ。鈍感野郎」

 

「は? やるのか?」

 

「やってやろうじゃねえか」

 

立ち上がって胸倉を掴み合う。

ぶっちゃけ俺はいつだって口だけ野郎なので、そんなにやる気はなかったのだが、一夏の方はやる気満々だったので拳を握りしめた。

 

かかってこいやぁ!!

やんのかおらぁ!!

 

とか言いながら喧嘩をする。

双方ほどほどに手加減した男の喧嘩だった。全部終わった後は仲直りの印にアイスを奢り合うぐらいの茶番。たまにこういう形でストレスを発散したりする。見世物パンダなりの処世術だった。

 

やってる内に段々と楽しくなってきていつまでも喧嘩していたら、後から人がやって来た。

ポカポカと殴り合っている俺たちを見て、呆然と佇んでいた女子生徒。その髪の毛が水色だったので思わず手を止めた。その隙に一夏の拳が顔面に入ってノックダウンする。

 

「わ、悪い! 大丈夫か!?」

 

「……いい拳だったぜ」

 

へへっと笑いながら仲直りの握手。今日のアイスは俺の奢りだ。

で、後からやって来た水色の髪を見る。二人の男に見られた水色髪はあからさまに狼狽えた。

 

「な、なに?」

 

「いや、べつに」

 

どっかで見たことある顔だと思いながら女子生徒を見続ける。

水色の髪。眼鏡をかけている。髪は内側に巻かれていた。ひょっとして会長が変装しているのかと思ったが、会長にしては身長が低い。あと妙におどおどしてる。敵を前に自信満々に仁王立ちしていたあの人とは似ても似つかない。

 

一夏と顔を見合わせる。

どっちが聞くかと言うアイコンタクトを経て、一夏の方から聞いてみた。

 

「なあ、ひょっとして楯無さんの……」

 

「っ……。姉さんが、なに?」

 

「会長の妹か」

 

一夏共々「へえ」と言う感じのリアクション。

会長の面影を探してじろじろ見る。そんな俺たちに対し、妹は嫌悪感と憎悪を滲ませている。一夏に対してこの反応は珍しい。俺たちのことが嫌いなのかもしれない。ついでに姉のこともよく思ってなさそうだ。親近感が湧く。

 

「俺もあの人のこと嫌いだから気持ちは分かるぞ。弱点教えてくれ」

 

「……あの人に、弱点なんかない」

 

「じゃあお前の名前教えてくれ」

 

「……簪」

 

関わらないで、と拒絶感を露わにして更識妹は去って行く。

俺と一夏は顔を見合わせてその背中を見送った。

 

「……仲、悪いのかな」

 

「さあな」

 

そこには気づいたくせに、当の自分が嫌われていることには気づいてないらしい。さすが鈍感野郎。まあ、初めて会う相手で思い当たる節もないしな。

 

他人の家庭事情なんか知ったことじゃないが、しかし姉妹か。生まれてからずっと一緒にいたのだろうし、姉の情報はたくさん持ってるだろう。何とかして弱点を聞き出したい。

しかしどうやって――一夏をけしかけるか。

 

姉妹の不仲に心を痛めていそうな一夏を横目に見ながら、ちょっと画策する。

一夏のことが嫌いと言ったって、関わってみればそんな気持ちはすぐなくなるだろう。

その結果、一夏に惚れている女が一人増えたとしても、俺としては別にどうだっていいかなって思う訳だ。

 

ま、要検討と言う感じかな。

喧嘩が一段落したところで、ここにいる理由を思い出した俺たちは『白式』の設定をいじり続ける。何とかならないかなと頭を悩ませながら。

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