「どうして昼来てくれなかったんだ?」
「は?」
ISを実際に動かしてみる授業後、一夏は不機嫌そうにそうのたまった。
昼? 俺ラーメン食って教科書斜め読みしてたんだけど。
なんかあったっけ?
「何言ってるんだお前」
「昼飯一緒に食うって約束しただろ!?」
「したっけ?」
「した!!」
一夏はそう主張するが、さてしかたかな。今日一日の言動を振り返り、その中で一夏が絡む記憶を呼び起こす。
したか?
「してなくね」
「いや、したって。……した、はず」
「自信なくなってんな」
はて、そんな記憶欠片もないのだが。
それは一夏も同様だったのか、だんだんと小声になり、終いには一人でぶつぶつと呟きはじめる。
「まさか。いや、でも。前後の文脈を考えたら……」
集中し始めた一夏を置き、一人でシャワールームへ。
汗を流す。
5分ほど経って入ってきた一夏。その顔はまだ集中して考え事をしているのか、真剣そのものだった。
そんな一夏に良心からのアドバイス。
「いい加減言質を取るって覚えた方が良いぞ」
「え。……あ! やっぱりわざとか!?」
「将来高い壺買ったり変な宗教に入信してしまいそうだからな。今のうちに騙されておけ」
「騙したのか!?」
「悪意はないよ」
自己愛しかそこにはない。
自分が大好きすぎて辛い。もう本当に俺最高。
「なんだよ、またかよ。なんで騙すんだよ……」
「お前と行動すると碌なことがないから」
何で行事のたびに死にかけなきゃいけないのか。なんでピンポイントで俺の目の前に無人機が降ってくるのか。なんでその時に限ってひと気が全くないのか。
その無人機にしても、大会とか林間学校とか絶対に何かに乱入されるが、あれ8割方お前の身内関わってるだろ。
「それは……、でも――――」
「分かってる。お前は悪くない。でも俺だって命は惜しいんだ。もう二回入院してる。一回は意識不明の重体まで行った。
半年前までテレビの前で他人事だって言って笑ってた俺に命のやり取りは荷が重いんだ。分かってくれ」
「嘉神……」
関わってるだけならまだいいが主犯な可能性が濃厚。しかも今までの言動から察するに俺をやる気満々。
どこから俺の情報が漏れているのかわからない。もしかしたら今話していることも筒抜けかもしれない。
こんな状況、逃げたいと思っても不思議じゃない。ていうか逃げて当たり前だ。
逃げないだけまだ根性据わってる。ISの暴走事件に積極的に介入出来るお前らみたいなのは稀なんだよ。
「さあ、早くシャワー出て特訓に行かなくていいのか。女子達待ってるだろ」
「……ああ」
俺を見つめたまま動かなかった一夏も体を洗い始める。どちらも喋らないまま時間は過ぎて、洗いつくしてピカピカにした俺は一足先にシャワールームから出ることにした。
「お先」
「…………」
元気のない一夏。このまま放っておくと思い詰めてしまいそうだった。俺あいつと関わらない方が良いのかなとか、あいつが怪我するの俺の責任なのかなとか。
そうなると面倒臭いのが特攻してくること間違いない。
だから、ちょっとのネタばらし。
「なあ一夏。お前って基本的に人を疑わないよな」
「は?」
いきなり何を言い出すんだと、一夏は疑問の言葉を返す。
その際、呆けたアホ面が拝めたがあまり見てて面白い物じゃない。
「今までの全部言い訳な。俺が一人で飯食うための」
「え」
「実際はそこまであの糞うさ耳女を怖がってるわけじゃない。世界で二人だけの男のIS操縦者って肩書きに恐れをなしてるわけでもない。
だから今ここで話したことは全部うそな」
「え」
「今日の昼の事に関してはあれだ。特に理由はない。試しにだまくらかしてみたら予想外にちょろいから嘘ばっかり吐いてるだけだ」
「…………」
「強いていうならお前の周りの女が一々うるさいってのはある。どいつもこいつも正義感の塊で俺とは合いそうにない。あいつらがヒロインなら俺はヒールだな。しかも序盤で噛ませにされるド三流の」
一気にまくし立てる。言葉を挟む隙間なんか与えない。頭の中を整理される時間など与えない。
とっとと言い切るに限る。言いきったら早く部屋に帰ろう。
「そういう訳だから、お前は本当に人を疑うって覚えた方が良いぞ。いつまでもおんぶに抱っこで居たくなければな」
タオルを持って更衣室に向かう。
一夏は最後の最後まで呆けたままで、言葉を発することはなかった。
数分後、復活した一夏に訓練そっちのけで色々と質問攻めにされるのが予想外ではあった。
「む。嘉神か」
一夏を追い払った帰り道。はじっこにある自分の部屋へと続く廊下の途中、篠ノ之さんとばったりと鉢合わせた。
こんなところで何をしているのか。そんな野暮なことは聞く必要がない。この人がここに居る理由なんぞ一つしかない。
「何だ篠ノ之さん。一夏なら知らんぞ」
「何故そこで一夏が出てくる」
俺の投げやりな言葉にむっとした面持ちで問うてきた。それに対する答えなぞいくらでも持ち合わせている。
「誰かを探してますって全身で表現してる。篠ノ之さんが態々探すぐらい親しい人間なんて一夏以外に居ないからね。半分ぼっちだから」
「貴様にそんなことを言われる筋合いはない!」
篠ノ之さんは顔を赤くしながらぷんぷんと足音を立てながら去る。その様子はまるでツンデレの見本のように素晴らしかった。ツンデレとはこの人みたいな人間を言うんだろうな。
珍しく可愛らしい反応が見えた礼としてその後ろ姿に言葉を放つ。
「一夏ならいつものアリーナで特訓だ。会いたいならそこに行けばいい。ま、二人っきりにはなれないだろうけど」
その言葉にぴくりと反応して、直後に早歩きになる篠ノ之さん。
なんともまあ分かりやすい。初々しい恋する乙女って皆あんな感じだ。
恋する乙女だけじゃなく、生きとし生ける人間皆があれぐらいの脳構造でいてくれたら俺の人生ももう少し生きやすくなっただろうに。
人の恋路を眺め、にまにまと笑いながら自分の部屋の前に着き、ドアの隙間に挟まっている手紙を拾う。
表には大きな文字で督促状。筆で書かれたのか無駄に達筆だ。
差出人は更識楯無。内容は決闘のご案内。
書かれている日付の書かれている時間に書かれている場所まで来なさいと言うものだった。
ちなみにこの手紙には、日付は今日。時間は今から10分後。場所は一夏たちがよく特訓に使っているアリーナが書かれている。
行くか行かないか。その選択肢すらもう浮かばない。
一夏がこの人と勝負して容易く負けたと聞いた時から絶対にこの人の誘いには乗らないと心に決めてある。
とりあえずもう何枚目になるか分からないこの類の手紙を引き出しにしまって、制服を脱ぐ。
夕飯どうするか。
何を食べるか考えながら飯時になるまでベッドに寝転んでいた。