明日の彼方に   作:紺南

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むっつり

馬鹿五人が電脳世界に囚われてしまい、なぜかその救出に俺が出向いた一件からしばらくが経ち。

生徒会長こと更識楯無がいつの間にか一夏に本気で惚れていて、恋する乙女たちの心に嫉妬の火が灯ったり、電脳世界と現実の乖離にただでさえ少なかった正気を完全になくしてしまったのか、馬鹿五人が一夏に夜這いを仕掛けようとしたところを阻止したりと、平穏な日常が戻って数日。

 

放課後、アリーナでISの訓練をしていた一夏を馬鹿五人から拉致することに成功したので、そのまま部屋に招いた。

冷蔵庫からペットボトルの茶を出してから椅子に座る。対面にいる一夏にコップを差し出して、一夏は美味そうな顔で茶を飲んだ。

一息つくのを見計らい、深刻な表情で告げる。

 

「わざわざ悪いな。実は由々しき事態が起こってな」

 

ごくりと、ウーロン茶を飲み込んだ一夏の喉が鳴る。

コップを置き、不思議そうな顔で聞き返してくる。

 

「嘉神にしては強引ではあったけど、何かあったのか? また楯無さん関係か?」

 

「微妙に鋭いな。けどそれとは無関係だ。まずはこれを見てくれ」

 

会長と言うか政府関連のドタバタが進行中だったりするのだが、一夏を巻き込む気もないのでスルーしてタブレットを差し出す。

ブックマークからとあるサイトに跳んだ。18歳未満閲覧禁止のエロサイト。端末に保存してあったIDとパスワードでログインする。

 

ずらっと並ぶAVのパッケージ。一夏は品定めするような目でスクロールした。

 

「これって……」

 

「ああ。日ごろ世話になってるサイトだ」

 

18歳未満閲覧禁止とは謳えども、実際のところ年齢認証はなく、プリペイドカードで支払いできる優良サイトである。

16歳の高校生。女子が箸が転がるだけで笑う年頃なら、男子はスカートから覗く太ももだけでも欲情する年頃だ。生足とか靴下とかスパッツとか関係ない。あくまで雰囲気。ふとした瞬間に覗く無防備な姿がたまらない。

だから許してくれ、とこの世界のどこかにいる両親か、はたまたお天道様に許しを請う。

俺は今IS学園にいるんだ。俺と一夏以外みんな女なんだ。世界で二人だけの男のIS操縦者なんだ。

この学園の女子はみんな綺麗で、とにかく可愛い。しかもISスーツがえろいときた。だから許してくれ。許してくれるよな? なあ、おい?

 

「見れば分かると思うが」

 

「ああ……セール期間なんだな」

 

「そうだな」

 

トップページにデカデカと踊るSALEの四文字。

今だけ最大半額!の謳い文句。年に一度あるかないかの一大イベントだった。

 

「見逃してたぜ。危なかった。サンキュー」

 

「いや、まあ、それならよかった」

 

一夏も同じサイトを愛用している。俺が教えた。

ドイツのちんまい妖精軍人にことあるごとに夜這いされ、つい最近まで会長と言う年上悪魔と同棲していた一夏である。男ならば溜まらないわけがない。

同じ男のよしみでこのサイトを教えたのだが、すっかり愛用家になってしまった。四六時中女子生徒につき纏われているのだから、使う機会は少ないはずだが、それでも出来る時にしているのだろう。

 

「じゃあ早速買ってくる」

 

「待ってくれ。本題はまだだ」

 

嬉々として自室に戻ろうとする一夏を引き留める。

 

「SALEは一週間続くからまだ時間はあるだろ。今は俺の相談に乗ってくれ」

 

「相談? 何を買うか決めきれないとか? それなら全部買っちゃえよ」

 

「言われなくてもそうするしもう買った。とりあえずこれを見てくれ」

 

アカウントの項目から購入履歴を選択する。

 

「これだ」

 

指で示したそれを一夏は読み上げる。

 

「『爽やかイケメンに襲われる。二人だけの世界』……なんだこれ」

 

「なんで読み上げた。つうかタイトルじゃねえ。購入した日付を見ろ」

 

「……今日だな。さっきだ」

 

「そうだ」

 

一時間ほど前に購入されたその動画。

ジャンルとしては女性向けの動画になる。どことなく気取ったパッケージと素直になり切れていないタイトル。恥じらいと言う意味では嫌いではないが、内容は俺の好みではない。

 

「お前こういうの好きだったっけ?」

 

「まさか」

 

「だよな。胸と足だよな」

 

「最近は腋も気になってる」

 

「わかるぜ」

 

頷き合う俺たち。ISスーツはピッチピチの水着みたいなもので、下着は履かず、当然腋は露わになっている。スカートから垣間見える太ももにすら耐え難いものを感じてしまう16歳に、そんな破廉恥極まりない格好の影響がないとは言い切れない。悲しき性癖の変化だった。

 

「で、これどうしたんだよ。間違って買ったのか? ……どんまい」

 

「たまにあるよな、外れ動画。金返せって思うわ」

 

そのためにお試し視聴もあるのだけど、欲望が逸ってる時は即断即決してしまう。そして突きつけられる失望感。萎えるんだよねあれ。

 

「まあ、でもこれは違う。今回は全部吟味したからな。俺が買ったのはそれから下の動画」

 

「ええっと『高校の先輩と教室で――」

 

「やめろ。口を閉じろ。殺すぞ」

 

「年上が好きなのか?」

 

「年上が好きなのはお前だろ」

 

いつかの臨海学校で実の姉である織斑先生の水着姿に見惚れてたの知ってるんだぞ。

織斑一夏=年上好きは学校中で周知の事実だ。

 

「問題なのは、覚えのない動画がいつの間にか購入されてることだ」

 

「アカウント乗っ取られたんじゃ?」

 

「乗っ取られたなら嫌がらせにパスワードの変更ぐらいするだろ」

 

「まあ、そうか」

 

「あとそれわざわざプリカ入金してから購入してるから」

 

「まじかよ」

 

プリカの入金履歴を見てみると、動画購入の5分ほど前に入金されていた。金額は動画の値段ちょっきりだ。

 

「クレジットカードなんて持ってないし、乗っ取りならパスワード変更すれば済む話だが、その前にこの不可思議な状況を相談したくてな」

 

「うーん……」

 

さしもの一夏も頭を抱えている。女関係以外で頭を抱える姿を見るのは珍しい。

もしかしたら一夏が悪戯目的でやったのではないかと疑っていたが、この様子を見るに違うようだ。

まあ、一夏はこういうことはしない男だとはわかっていた。もしかしたらの可能性に賭けただけだ。

 

「思いつくことある?」

 

「いや……悪いけど」

 

「別に悪くはねえよ。まあ、パスワード変更だな」

 

それから少しだけ談笑して、年上が好きか年下が好きか、もしくは同級生かという話で盛り上がり、一夏はAVを吟味するため帰っていった。

 

俺はタブレットに表示されているパスワード変更の項目を眺めながら少し考える。

一夏にも述べた理由で、アカウントの乗っ取りの線は薄いように感じた。そして俺のIDとパスワードを知っている一夏は違うと言う。ならばこの動画を購入したのは何者なのか。

 

正直に言って、心当たりはある。

女性向けの動画と言うただ一つのヒントが自ずと答えを導いてくれた。

 

その人物を念頭に入れて、どうしようかなあと考えあぐねる。

パスワードを変更するのは容易いことだ。しかしそれをしていいものなのか。

あいつはきっと何も考えずに購入したのだろう。いや、考えはしたのだろうけど、性欲に負けたのだ。欲望の赴くままにプリカを購入し、そして動画を買ったのだ。むっつりにもほどがある。そんなに興味あるのか、このAVに。

 

パスワードを変更すること。それは知っているぞと宣言するのに等しい行為だ。間違いなくギクシャクする。俺が気にしなくてもあっちが気にする。そうなった後のことを考えると少し面倒くさい。

ならば直接問いただすか。でもそれしたら顔真っ赤にするんだろうなあ。一人で後悔するんだろうなあ。内気だからなあ。劣等感と被害妄想凄いからなあ、あいつ。

姉の方からそれとなく言ってもらうと言うのも考える。しかしあの姉は信用ならんから却下だ。

最近の一夏への態度を考えるに、あれだけ経験豊富なお姉さんを演じておきながら、実際のところはただの初心な乙女なのは一目瞭然。

あなたの妹さん、俺のエロサイトに勝手にアクセスしてるんですよと伝えたところで、上手く対処できるとは思えない。

下手すれば姉妹仲が悪化してしまう。折角一夏の献身で改善したのに、また身を粉にさせるつもりか。一夏が死ぬわ。

 

言うべきか言わないべきか。変更するべきかしないべきか。

秒針が一周するぐらい考えて、しないことにした。

サイトからログアウトしてタブレットの電源を落とす。

 

男に性欲があるように、女にだって性欲ぐらいあるだろう。そうじゃなくても高校生。好奇心は止められない。

プリカは自分で用意しているようだし、まあいいだろう。俺のポイントに手を出したら問い詰めよう。それまでは放置してよう。

 

人はこれを事なかれ主義と言うかもしれないが、とんでもない。相手のことをよく考えた結果だ。

馬鹿六人の中では一番ましだと思うから。電脳世界では世話になったし。そのお礼。

 

むっつりでいいじゃないか。えっちなことに興味あったっていいじゃないか。俺は応援するぞ。

なあ、更識妹。

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