明日の彼方に   作:紺南

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フランス里帰り強制連行7

殴りました。

全員、殴りました。

ええ、殴りましたとも。

以上。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

頭のおかしいドイツ軍に導かれて訪れたホテルは、遠目から見てもエントランスを見ても、なんなら宿泊客を見ても、高級感溢れるホテルだった。

言っていた通り、一フロア丸々貸し切りで、階段やエレベーターには警備員が配置されていた。

それは確かにドイツ軍の主張するところの警護ではあるのだが、見方を変えれば俺たちを逃がさないよう監視しているようにも見える。

もしドイツ軍がその気になったら逃げ場がない。ISを使って抵抗することは出来るが、市街地のど真ん中である以上、民間人を巻き込む可能性が高い。

 

やっぱり空港で暴れておくべきだったんじゃないかと若干後悔する。

何か良い策はないだろうかと、同室の一夏共々頭を悩ませていたところに会長がやってきた。

 

「ご飯を食べに行くわよ」

 

その言い様は俺たちの悩みなど些細なことだと言わんばかり。

そもそも外に出してもらえるのか。そこのところどうなのかと投げかければ、任せろとボーデヴィッヒが通信を繋ぐ。

 

「クラリッサ、私だ。外に出たい。食料を調達する」

 

そんな感じであっさりと許可が出た。

そしてやってくるハルフォーフ。つい先ほどぶん殴ってやった変態女。今では後悔している。関わるべきではなかった……。

 

「出来れば食事はホテル内で済ませていただきたいところですが」

 

「ダメよ。万が一薬を盛られたら全滅だもの」

 

開かれた扇子には疑心暗鬼の四文字。果たしてドイツ人に四字熟語が理解できたのか定かではないが、変態は苦笑を浮かべながら頷いた。

 

「疑り深いのですね。了解しました。これより警護につきます。行き先は指定していただいて構いません。ただし近場でお願いします」

 

多少なり土地勘のあるボーデヴィッヒが行き先を選定する。読めないドイツ語を見せられて「ここに行くぞ」と連れて来られたのは近くのレストラン。レストランとボーデヴィッヒは言い張るが、どう見ても酒場だった。

 

ボーデヴィッヒ曰く、『美味い 食事 近く』で検索したら一番最初に出て来たそうだが、レストランと言うには明らかにネオンがきつく、客層が悪い。

 

一体ここは何なのかと、仕方なくグーグル翻訳先生にお願いしたところ、昼はレストラン、夜は酒場として営業している店らしい。食べられるものに違いはないから構わんだろうと言う判断で入店することになった。

 

念のため、俺は警護の軍人から借り受けたサングラスで変装していたのだが、見世物パンダ程度の自意識しかない一夏は一切変装することなく普通にしていた。

おかげで即行で正体がばれた。絡まれて、恐らくは喧嘩を売られ、ドイツ語の分かるボーデヴィッヒが仲介に入る。そして開催される飲み比べ。

 

「いや、なにやってんの!?」

 

急転直下の事態にデュノアが叫んだ。だがその突っ込みは虚しく響くのみ。

意気揚々と戦いに臨んだ一夏は、しかし生まれて初めて飲むドイツ産ビールに苦戦を強いられ、三杯目を飲み干したところで酔い潰れた。

更識妹が寝込んだ一夏をつつく。デュノアが慌てて介抱する。

嫁の仇は私が討つと、一夏の後を継いだボーデヴィッヒの奮闘によって場が盛り上がっていく。

 

「あらあら、賑やかね……あ、このソーセージおいし」

 

こんな状況になったと言うのに会長は静観の構えだ。

俺もウインナーを齧って内心で舌鼓を打つ。うまい。

 

「あの騒ぎは止められないのでしょうか。止めたほうがいいと思いますが」

 

「そう? 別にいいんじゃない? 警護は盤石だろうから。それとも何か不安があるのかしら?」

 

「……いえ、不安と言いますか、あれだけ不特定多数に囲まれていると不測の事態が起こった際に対応が難しく……」

 

流石の変態もこの状況には困惑している。軍人として、数少ない常識が正論を語らせていた。そもそもなぜ変装しないのですかと理解に苦しんでいる様子。

 

「警護としては事を起こさせないのが最も重要でして。あのような誘発させかねない状況に警護対象を置くのは常識から外れていると言うか……国家代表たる方がそれを理解していないとは考えにくいのですが……」

 

「回りくどいわね。言いたいことがあるのならはっきり言いなさい」

 

「頭、大丈夫ですか?」

 

「酷いわ。お姉さん傷ついちゃった。嘉神君、慰めてくれる?」

 

「キモ」

 

「……本当に傷ついちゃった……」

 

そんなことをのたまう会長にあれを止める意思はないらしい。

止めてくれないかなあと言う感じで説得を試みていた変態もついには諦め、通信で何か指示を出していた。

 

酔い潰れた一夏の近くにはデュノアと更識妹がついている。ISもあるし、何かあってもどうにか出来る状況ではあった。

ドイツ軍にどんな思惑があるのかは知らないが、まさか衆目の前で仕掛けてくることもないだろう。

そう思い、俺もとりあえずは静観を決め込んだ。

 

それから幾ばくかして、腹もくちくなった頃。

店内にどよめきが走る。

飲み干したジョッキをテーブルに勢いよく置く音が響いた。

見れば、テーブルに突っ伏す挑戦者と、平然とした顔で空のビールジョッキを掲げているボーデヴィッヒ。

盛り上がる店内。次は俺だと挑戦者たちが続々名乗りを上げている。酔っ払いに譲り合いの精神などあるはずもなく、自分が自分がと主張する者同士、ついには喧嘩が始まってしまう。

 

もはや秩序も何もあったものじゃない。場が温まりすぎている。

さすがにこれ以上はまずいと思ったか、デュノアと更識妹がこちらに逃げてきた。

意識を失った一夏をデュノアが背負い、見事三人切りを遂げたボーデヴィッヒの手を更識妹が引いている。

 

「逃げますよ楯無さん!」

 

「待って。まだジャーマンポテトを食べてないの。あれが一番楽しみだったのよ」

 

「そんなこと言ってる場合ですか!」

 

騒ぎは大きくなっている。

華奢な見た目に似合わず、屈強なドイツ人を三人も酔い潰したボーデヴィッヒだ。まだまだ余力があるように見え、勝ち逃げは許さんと酔っ払いどもが追いかけてきていた。

 

「こうなっては仕方ありません。私が抑えます。皆さんは先に車にお戻りください」

 

「ありがとう。頼りになるわね、ドイツ軍人さん」

 

「クラリッサ・ハルフォーフと言います。どうぞ気安くクラリッサとお呼びください」

 

言うや否や、変態は酔っ払いの一人に跳び蹴りをくわえた。後ろに倒れた酔っ払いを踏みつけ、次の酔っ払いを殴り倒している。

たかだか酔っ払いに対してどう見てもやりすぎの暴力行為だが、変態は軍人と言う立場を笠に着て容赦なく叩きのめしている。

 

「さあみんな、逃げるわよ!」

 

号令一下、出口に疾走する。

去り際、ウインナーを数本確保しておいた。あとで一夏に食わせてやろうと思う。

 

店の前に止めてあった車に飛び乗る。

外にいた軍人が運転手に向けて何かの合図を出していた。

車は急発進し、勢い余って赤信号を直進する。

 

「おいおい、これいいのか?」

 

「緊急事態ですので問題ありません」

 

外で鳴り響いたクラクションとブレーキの音。思わず問い質したが、運転手からは極めて冷静な返答があった。

本当かぁ? と半信半疑で後ろを確認する。幸いなことに事故が起きた気配はない。

 

「このままホテルまでお送りします。その後の外出は許可できません」

 

「理由は?」

 

「SNSで皆さん――正確には織斑一夏さんがドイツ国内にいることが広まってしまいました。ニュースにもなっているようです。大騒ぎです」

 

それを聞き、更識妹が眼鏡型ディスプレイのフレームに触れた。

途端にレンズが光り、何かの映像が映し出される。

 

「……うん。騒ぎになってる」

 

「さすがは見世物パンダ。ちょろっと顔を見せるだけで大人気だな」

 

「……ネットには私たちの写真もアップされている。……反響が凄い」

 

私たちと言うのは更識妹とデュノアのことで、幸いなことに俺と会長の存在は広まっていない。しかしそれも時間の問題だろう。どこかで写真の一枚は撮られたに決まってる。

 

「皆さんの出発は明朝を予定しています。不自由をおかけしますが、それまでホテル内に留まってください」

 

「早めることは出来ないの? こうなってしまったんだし」

 

「申し訳ありませんがそれは出来ません」

 

案の定の答えに肩をすくめる会長。

アイコンタクトと言うか目が合ったが、それで何かを伝え合うことはなかった。

 

今更ながら、酔い潰れているとは言え一夏を抱きしめていることに気づき頬を染めるデュノアと、嫉妬心全開で一夏の腕を引っ張る更識妹。

その二人のやり取りを見ながら、ボーデヴィッヒは静かにしていた。妙な静かさだった。馬鹿七人衆に相応しくない。奇妙な態度だった。

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