明日の彼方に   作:紺南

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3話

ISの授業中、山田先生が豊満な胸を揺らしつつ教科書の内容を分かりやすく解説してくれている。

4000だか40000だかの倍率に合格した女子たちは真剣にその解説を聞き、べつに然したる苦労をせずに入学した俺と一夏、男子組は電子黒板ではなくその胸をガン見していた。

 

これは先生が何言っているのかほとんど分からず、半分開き直ったことで行っている行為である。

変態と言われても仕方がない。

むしろ罵ってほしい。その方が滾るから。

 

「はい。ここまでで何か質問のある方はいますか?」

 

クラス内を見渡す山田先生。手を挙げる者もなく、順調に授業が進んでいる。

にっこり笑った山田先生の目が、とある一点に視線が固定されて微動だにしない一夏を捉えた。

 

「織斑君、わかりましたか?」

 

「はい」

 

返事だけには定評のある一夏。淀みなく戸惑いなく自信ありげに返った言葉に山田先生は安堵する。

そして授業を再開。

 

これ以降、俺と一夏に先生が確認してくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、嘉神」

 

「ん」

 

「授業の事なんだけどさ」

 

「うん」

 

「理解……、出来てるか?」

 

「出来てるわけないだろ」

 

「だよなあ!」

 

「な!」

 

『あっはっはっはっはっは!!』

 

二人で笑い合う。仲間がいてよかった。一人じゃなくて良かった。

例え今歩んでいるのが地獄へ通じる道だろうと、こいつと一緒なら怖くはない。どこまでも歩いて行ける。

そう思った。

 

「あっはっはっはっは、じゃありませんわ!」

 

しかし一夏がそんな茨の道を歩くことを許さない人間はいくらでもいる。

バン! と天板を叩きながらその筆頭5人衆の一人オルコットさん登場。

 

「嘉神さんはともかく、一夏さんはわたくしたち5人で頻繁に勉強を見ています! なのになぜ授業について行けていませんの!?」

 

多分一夏が授業中どこを見ているのか気づいてしまったんだろう。軽く半狂乱で顔が赤かった。

そんな彼女を後から来たデュノアが宥める。

 

「まあまあ。セシリアはちょっと落ち着いて」

 

「しかし――――!?」

 

「ちょっとね。落ち着こうか。ね?」

 

「は、はい」

 

黒いデュノアさんの迫力にオルコットさん沈黙。

好いた男が他人の胸を見ているのが気に食わないと言う乙女らしい黒さだった。

 

「で、一夏。どういうことなのかな?」

 

「どうって言われても……」

 

分からないことは分からない。

半年前までごく普通の男子中学生だった一夏がたった半年余りでIS学園の授業についていけていたら凄いと思う。

それごく一般で普通の考えだが、一般に属さない代表候補性ともなるとそんな甘えは通じないようだ。

 

「うん。やっぱり一夏は努力が足りないと思うな」

 

「努力?」

 

心外そうに、一夏はおうむ返しで言い返す。

 

「努力ならしてるさ。シャルロットも知ってるだろ?」

 

「そうだね。ISを動かすことについては凄く頑張ってると思う。でもね一夏?」

 

ずずいっと一夏とデュノアの距離が近づく。ほとんどキスしてるんじゃないのかと思うところまでデュノアが顔を近づけた。

オルコットが「しゃ、シャルロットさん?」と戸惑いの声を上げる。

 

「分からないからって授業中に山田先生の胸をじっと見てることは努力とは言わないんじゃないかな?」

 

「…………」

 

その迫力に二の句を告げない一夏。だらだらと脂汗を流し、横目で助けを求めてきた。

俺はその求めに応じる。

 

「はーい。デュノア先生」

 

「なにかな、嘉神君?」

 

「一夏が見てるのは山田先生の胸だけじゃなく織斑先生や他の巨乳講師の胸もです」

 

「へえ~?」

 

「か、嘉神!! 何てこというんだよ!!」

 

俺の一言でオルコットさんまでも暗黒化してしまい、身の危険の感じた一夏はたまらずに声を荒げる。

だが俺への抗議をしようにも黒々とした気を纏う二人に邪魔される。

 

「ち、違うんだ二人とも! 俺は別に胸を見てるわけじゃない!」

 

「じゃあどこを見てるの?」

 

「どうしていつも同じところにばかり目線が集中しているんですの?」

 

「いや、あの、その……」

 

二人の詰問に即行でしどろもどろになる一夏。こいつは嘘を吐くのが下手だなあ。

 

「嘉神ぃ!?」

 

一夏は、先ほど裏切られた人間に再度助けを求める愚行を犯してしまうほどに追い詰められてしまっていて、その目は涙目だ。

先ほど一夏となら地獄へ続く道へも歩んでいけるとか考えたが、例外として修羅の道だけは勘弁である。だって俺その修羅道に関係ないし。

関係のない修羅道とかちょっと……。ねえ?

 

だから俺は一夏の求めを無視して教科書を引っ張り出した。

予習復習はやらねばならん。今、目の前で説教されている男の二の舞にならないためには。

 

「い・ち・か?」

 

「い・ち・か・さ・ん?」

 

「うっ、あ、くっ」

 

孤立無援の一夏は次第に壁際へと追い詰められていく。精神的には既にチェックがかけられているが、物理的にもチェックをかけることで、チェックメイトにするつもりらしい。

 

その考えは悪いものではないが、恋愛経験皆無の女の子には少々厳しいのではないだろうか。

なにせ弱った獲物ほど何をしでかすかわからないから。

 

「誰か助けてくれぇ!!」

 

案の定、二人の隙を突き包囲網から逃げ出した一夏。その悲鳴は本気で怖がっているように聞こえた。

それを追いかけデュノアとオルコットさんが走る。

 

「逃がさないよ! セシリア!」

 

「はい!」

 

慌ただしく去って行く三人の背中をクラスメイトたちが見送る。

一夏を限られた人間が独占している光景に不満はあれど、どこか諦観が入ってきている女子たちは笑いと共に各々次の授業の支度にとりかかった。

 

俺としても、あいつらのどんちゃん騒ぎについてはISさえ使用しなければ好きにやってもらって構わないと思っている。

いや、むしろどんどんやれ。人の恋路を邪魔する気はないが、観客席から眺める気は満々なんだ。野次馬根性丸出しでな。

 

遠くに響く誰かの断末魔を聞きながら、織斑先生が出席簿を片手に教室に入ってきたのを確認。

この後に起こる、肉体に聞く説教を予想して、参考書と予習用のノートを机の中にしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、誰かがしつこくドアをノックしたことで目を覚ます。

ドアを開けるとちんまくて妖精のようだと噂の銀髪眼帯がいた。

 

「話を聞いてくれ」

 

「は?」

 

人の部屋に無断で上がり込んで早々、ラウラ・ボーデヴィッヒは言う。

 

「なに急に」

 

「いや、さっきまで嫁の部屋にいたのだが……」

 

ボーデヴィッヒは語る。

本日は日々の日課になりつつある一夏のベッドに潜り込む作業を敢行しようとした。

しかし一夏の部屋には既にあの生徒会長が居座っており、部屋に入った瞬間気配に感づかれ、あえなくお縄になってしまったらしい。

 

「で?」

 

「うむ。そこであの女は『今夜は私と添い寝するか部屋に戻るか二つに一つよ』と言ったのだ」

 

「で?」

 

「あの女と添い寝などとんでもないことだ! また何をされるか……!!」

 

トラウマを思い出し、自分で自分を抱きながら震えだすボーデヴィッヒ。

震えとか無駄なことしなくていいから早く続き言えよ。

 

「仕方がないから今日の所は退散した」

 

「ほーう」

 

「しかし、廊下を歩きながら考えたのだ。夫婦の生活とはこんなものなのだろうかと」

 

「違うな」

 

「うむ。私も同意見だ。夫婦とはいついかなる時も離れず、お互いの身を案じ、一生を添い遂げるものだと教わった」

 

「へえ」

 

「だが今はどうだ。嫁と同衾することすらできず、会って間もない女に怯え、挙句の果てには邪魔をされる始末。こんなことでは真の夫婦になることは到底出来ん!」

 

「一夏的には大喜びだろうけどな」

 

「私は何としても嫁と一晩を明かしたいのだ。このままではそれは叶わぬ夢だ。何かいい方法はないだろうか」

 

「もう少し時間を置いた方が良いと思う」

 

「なぜだ」

 

「一夏の理性を修理する時間」

 

「理性?」

 

「理性」

 

一夏もそろそろ限界だって言ってたしな。

外からこっそり持ち込んだエロ本じゃ発散しきれてなかったようだし、そろそろ大人のパーティーグッズに手を出す頃合いかと思ってたんだよ。

 

その点では大助かりだ。財布的にも男の矜持的にも。

 

「ま、添い寝したいなら簡単かつ唯一の方法があるぞ」

 

「あるのか!? 教えてくれ!」

 

「生徒会長に勝ってこい」

 

「え」

 

早く早くと小躍りしていた体が固まる。

そして数秒、考え込むように全てが硬直して――――。

 

「――――」

 

――――目尻に涙が浮かんだ。

 

「どんだけ怖いんだよ」

 

「こ、怖くなどない! ……ただ、ちょっと。……あの時のことを考えると体が拒否反応を示すだけだ!!」

 

「完璧にトラウマになってるよ。精神科に行ってこい」

 

ボーデヴィッヒは人の有難い忠告をほとんど無視して、ぶつぶつと呟く。

 

「あの女に……。どうやって……。奇襲……、地雷……。多対一……?」

 

トラウマにも負けずに勝つ方法を模索するのは良い事だが、内容が少しばかり物騒だ。

 

「言っておくがIS学園にお前の隊の友人呼ぶなよ。月のない夜なんか特にだぞ」

 

「わ、わかっている。心配せずとも、そこは別に……」

 

本当かなあ?

 

「しかし簡単と言うからもっと易しい物を想像したんだが」

 

「簡単だろ。あの生徒会長何でも有りだったら案外簡単に沈んでくれそうだぞ」

 

「……想像できない」

 

「俺みたいに妄想力豊かじゃないからな、お前」

 

そこでふあぁ、と欠伸を一つ。そろそろ寝たい。

 

「もう、どうしても添い寝したいなら昼寝でも一緒にしておけ。あの人、昼は大して干渉してこないだろ」

 

「昼休みにか? しかしそれではあまり時間が――――」

 

「時間は勝ち取れ。もっともっと強くなって、捕らわれの姫を助けに行く王子みたいに勝ち取ってから思う存分堪能しろ」

 

例えるなら生徒会長がクッパで一夏がピーチだ。そしてボーデヴィッヒがマリオと。

似合わんなぁ。

 

「…………そうだな。欲しい物は自分の手で掴み取ることにしよう」

 

「そうせいそうせい」

 

もう一回大きな欠伸。いい加減限界に達している。

 

「分かったなら帰って寝ろ」

 

「ああ。遅い時間に済まなかったな」

 

帰るボーデヴィッヒ。扉が閉まり、部屋には静寂が訪れる。

時計を見ると、短針は3を指していた。辛うじて空はまだ暗い。

 

明日の授業休みたい。その想いは強く、けど絶対に休めない現実に絶望した。

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