室内に案内された俺たちはなぜに男装女が呼び戻されたのか、ついでになぜ俺が巻き込まれたのか。
その全ての元凶であるところのデュノア父から話を聞いた。そこで明かされる第三世代機完成のニュース。
「ふむ……フランスの第三世代機が完成したのか……」
ボーデヴィッヒが興味深げにつぶやいた。「ようやく」と付けないところに成長を感じる。
会長も更識妹も意外そうな顔をしている。風の噂では第三世代機の開発に難航していたデュノア社。株価も右肩下がりでやべえやべえと言う噂しか聞いていなかったが、内部の人間はそれなりに頑張っていたらしい。
今回デュノアを呼び戻したのも第三世代機が完成したからそのデータを取るためであって、それに乗ってIS学園に戻れと言う話だ。
IS学園でのデータ収集自体はオルコットさんや凰さんがやっていることでもある。他国の第三世代機との模擬戦のデータも取れるから、開発側にとってはこれ以上ない環境らしい。
要件と言うのはそれだけで、至極真っ当と言うか、一夏なんかはあからさまに「それだけ?」と言う顔をしていた。
本当にそれだけであるならわざわざ俺たちが来る必要はなかったわけで、別にデュノアを呼び戻して留置場に入れるとか、死刑台に送ってやるとか、人道無視の実験台にするとか、ギロチンの下にセットするとかそういう話ではなかったらしい。
他にも何か隠された陰謀があるんじゃないかとしつこく尋ねる一夏に対し、デュノア父は「私は忙しい。これが済んだら次の要件がある。君たちも早く帰りたまえ」と露骨に邪険にする態度を見せる。
一夏は追及の手を緩め、デュノア本人の顔は暗くなった。
「繰り返すが、私は忙しい。無駄話に興じている暇などないし、君たちのお守りなど真っ平御免だ」
子供扱いされてむっとした顔の一夏。何かまた怒鳴りそうな気配を察知して会長と更識妹が左右を抑えた。前方にはボーデヴィッヒが佇んでおり、俺は後方で背後霊のごとく控え、いざと言う時は全力を尽くす所存。
「早速ISの乗り換えを行ってもらう。調整の後、IS学園に戻りデータの収集を行え」
「……」
「返事は?」
「……」
デュノアが無言を貫く。俯き、何かを考えている。
一夏が心配そうにデュノアを見ていて、視線に気づいたデュノアが苦笑を浮かべた。
「僕は……」
ぼそりと呟かれた声が耳朶を打つ。
この場の全員の視線を浴びつつ、デュノアは父の顔を見つめながらはっきりと言った。
「お断りします」
あれまと言う顔の会長。
何を言うのだという表情のボーデヴィッヒと更識妹。
一夏ですら面食らったようで言葉を失った。
「……何を言っている。お前に拒否権はない。これは命令だ」
デュノア父は渋面を作り、理解し難いことを言われたというように頭を振る。
それに対してデュノアはまたしてもきっぱりと続けた。
「分かっています。私は代表候補生です。相応の義務があるし、国に尽くさなければなりません。でも――――」
言葉を切り、デュノアは視線を巡らせた。
一夏を見、ボーデヴィッヒを見る。そのまま俺の方に視線が向いてきたので会長の背後に隠れた。会長が呆れた顔をしていたが無視する。巻き込まれるのはごめんである。
「僕はあなたの娘です」
「……シャルロット・デュノア。これは業務命令だ。今すぐにISの調整を行い――――」
「シャルロットと呼んでください。昔、そう呼んでくれたでしょう?」
デュノア父が言葉に詰まる。
視線が惑い、対応に苦慮しているようだ。
「僕はラファール・リヴァイブに愛着があるんです。突然乗り換えろと言われて、簡単に頷くことはできません」
「……お前は本当に何を言っている? どうしろと言うんだ? これは決定事項だ。駄々をこねたところで何も覆らない」
それはその通り。
そもそもからして、最新機のテストパイロットに選ばれたというのは光栄なことだろう。例えそれが身内のコネだったとしても。
「僕にその最新機がどういうものなのか見させてください」
「データならあとでいくらでも――――」
「そうではなく」
デュノアが真剣な顔で言う。
「模擬戦で性能をチェックさせてください。僕はこれまで通りラファールを使います。もし旧世代機に乗った僕に勝てない程度なら、そもそも乗り換える必要などないでしょう?」
その理屈は通るのだろうか。
いや、まあ、気に入らない機体になんか乗りたくねえってことなんだろうけど。
デュノア父の眉間のしわが凄いことになっている。
色々と言いたいことはあったと思うのだが、それら全て飲み込んで溜息を吐き、首を縦に振った。
「いいだろう。『コスモス』はラファールの発展機になる。全てのスペックで劣る旧世代機で勝てるというならやってみるがいい」
デュノア父は携帯を取り出し、指示を出し始めた。そのまま早足でどこかに行ってしまう。
その姿が見えなくなった途端、デュノアが大きく息を吐いた。かと思えばその場にしゃがみこんで「あ~」と頭を抱えている。後悔するぐらいならやるんじゃない。
「お、おい、どうしたんだよシャル」
「一夏ぁ……」
うるうると潤んだ瞳で一夏を見上げるデュノア。女の泣き顔に男は弱い。
一夏も例外ではなく、その顔にやられたようで「うっ」と呻いて頬を染めた。
見つめ合う二人。
突然の良いムードに俺が拳を握り締めたところで、むっとした顔の更識妹が二人の間に割って入る。
「……それで、どういうこと?」
一夏を押しのけ、デュノアの腕を掴んで無理やり立たせながら問い質している。
「うん……。僕も前に進もうと思って」
言いながら、その視線はボーデヴィッヒに向けられている。
突然の視線にボーデヴィッヒは疑問符を浮かべ、何のことだと首を傾げている。
「みんなにはちょっと迷惑かけちゃうね。帰るのが遅くなる」
「それは別にいいけどさ」
「よくねえぞ」
寛容な一夏はまるで気にしていないようだが、俺は気にしている。
フランスと日本の時差って何時間よ。日本に帰って即授業なんて拷問めいた仕打ちはやめろよ。あまつさえそれが織斑先生の授業だったらどうするんだ? 殺すぞ。
「見てて一夏。僕、今度はちゃんと自分の力で前に進むから」
真剣な表情でそんなことをのたまうデュノアに、一夏もまた真剣な表情で頷いている。
随分と迂遠な自己主張だ。一体全体何をどう考えたらこんなことをしようと思うのか。全くもって意味が分からないが、血筋のなせる技なのかもしれない。