明日の彼方に   作:紺南

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4話

とある日の放課後。

その日一日の授業を乗り切り、部屋でだべっていた俺だが、突然降って湧いたような感覚が体を貫いた。

 

『このまま部屋に居てはよくないことが起こるぞ』

 

今まで何度も救われた直感。疑う事もせずにその予感に導かれるまま、俺は着の身着のまま部屋を飛び出し、宛てもなくフラフラと彷徨い歩く。

 

広いIS学園はいくら歩いても歩ききれないほどに広いが、さすがに半年以上も通っている学園だ。

いい加減見慣れてしまっていて、地理も頭にすっかり入ってしまっている。今更目新しいものもない。

自然を楽しもうにもメカメカしい学園の外見がちらちらと眼に入り、楽しむこともままならない。

すぐに飽き、手持無沙汰になる。さて、この後一体どうしようか。

 

迷った末に俺はISの整備室へと向かうことにした。

 

 

 

 

ほんの少しだけ歩いて辿り着いた整備室。でかいISの整備をする部屋と言うだけあって、部屋のサイズも中々のものになっている。

何だかよくわからない機械設備も充実しており、整備室と言うよりは体育館級の研究室と言った方がこの部屋の状況をより正確にとらえている。

 

さて、既に夕刻5時も過ぎ、誰もいないだろうと思っていた整備室だが、実際にはその想像を裏切り、誰かがいるようだった。

明かりと一緒に漏れる声から察するに女の子。それも複数いるのか中々に姦しい声音で喋っている。

その姦しい声の中に時おり混ざる低い声。男の物だ。

 

この学園に男は三人しかいない。一人は俺。もう一人はクラスメイトの一夏。最後に清掃員のおじさんである。

聞こえる声にはあの初老の男性の暖かな渋みがない。

ということは、扉の向こうでは一夏が女子生徒数人と楽しく話していることになる。

 

喘ぎ声が聞こえてこないだけまだましなのか。

そう思ってしまうのは、一夏のハーレム体質を常日頃から目にし、時には巻き添えを食らいながら暮らしているからだ。

 

実際の所、一夏は乱交はおろか一対一の性行為にすら及べないほどのヘタレであり、かつ鈍感キャラである。

その鈍感さとヘタレさは、かつて男装女子と一か月ほど同棲し、一緒の風呂に入っても特にこれと言って何もなかったという事実から察することが出来る。

恐るべしは長年好意を向けてくれた相手の告白紛いな行動をスルーし、自分に向けられる複数の好意に気づかない鈍感さか。

 

しかし、さすがに最近では裸で布団に紛れ込んでくる傑物が登場したせいか、鋼の理性と言われる一夏の理性もがしがしと削られているようだ。

さらに裸エプロンで迎えてくれる、ちょいエロお姉さん系生徒会長まで登場したので本気でやばいらしい。

そのやばさを語る一夏の顔は真顔で、青白かった。

 

そんな一夏に、俺としても死ねの言葉を送る他に対処の術がなく、そのまま放置していたのだが、最近になってようやく痴女にふさわしい二人の奇行に慣れてきたのか、笑みを浮かべて「近頃ようやく安眠できるようなったんだ」とのたまっていた。

そうして形成されていくハーレムを間近でまじまじと見る羽目になる男子――――主に俺――――にとっては血涙物の羨ましさでしかない。

 

そんな男子の敵、ハーレム王一夏がこんな時間に整備室でなにをやっているのか。答えは一つしかない。

 

「よう」

 

「お、嘉神」

 

「……こんにちわ」

 

「やっほ~。かがみ~ん」

 

ただの談笑。これ以外になにか、大人の階段を昇るようなことしていたらその時は、一夏を見直すと同時に最大の距離を取る。そう心に誓っている。

 

「何してんだ、こんな時間に」

 

「いや、白式のメンテナンスをちょっとな」

 

「この間倉持技研に持って帰って診たばかりじゃなかったか」

 

「そうなんだけどさ。何か定期メンテナンスは重要だって簪が――――」

 

しゅばっと神速で口を塞ぐ更識妹。塞がれた一夏は何するんだよと辛うじて聞き取れるもごもご声を出すが、更識の睨みに押し黙る。

口を塞がれた一夏に代わって更識が俺の問いに答える。

 

「な、なんでもないよ……」

 

「かんちゃんはねえ。おりむーとお話したかったんだってー」

 

「本音!?」

 

幼少のころからの親友に裏切られ、あえなく撃沈。

「え、そうなの?」と一夏に問われ、更識の顔は耳まで真っ赤になり俯いてしまった。初心な反応が可愛い限りである。

 

「へえ。でもそれじゃあ、俺お邪魔だな。ちょっと失敬するわ」

 

「何言ってんだよ。折角来たんだ。少し話していこうぜ」

 

「お前にだけは言ってないんだよなぁ」

 

上げて落とされる。

しかも落としたのが意中の相手である残酷さ。期待に顔を上げて、すぐに沈む所作が不憫で仕方がない。

 

「かがみん。それは私もいるからあんまり意味ないよぉ?」

 

「あんたは案外空気読むからな。良い空気なったら退散するかぶち壊すかどっちかするんだろう」

 

「てへ」

 

てへぺろ顔で誤魔化すのほほんさん。

のほほんさんは一夏を気に入ってはいるが、好いている様子ではない。

多分その時が来たら面白がって空気をぶちこわすか、親友のためにその場を去るかすると思う。

ほぼ9割方前者で、去ったにしても影からこっそり見て噂を広めにかかるだろうけど。

 

「じゃあな」

 

「あ、おい!」

 

強引に止めようと立ち上がった一夏をのほほんさんが阻む。

 

「おりむーはかがみんが大好きだねえ。もしかしてほの字?」

 

「何でだよ。友達と話すぐらい別に誰だってするだろ!」

 

「うーん。それにして必死すぎるような?」

 

くだらない話題で注意を逸らし、自分の体で俺を見えなくし通せんぼすると言う念の入れよう。

いつものふんわりした雰囲気で忘れがちだが、更識家の護衛家系というのもまんざら嘘ではないようだ。

そして更識妹のことを考えるあまり、俺と一夏を仲良くさせよと言う生徒会長の命令を忘れているようだ。

 

去り際に更識さんに手を振って、その場を後にする。

何故か全力で首を縦に振っている様子が忠犬のようでおかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二組との合同IS授業中。

ただいま一夏が篠ノ之さんとペアを組んで、デュノア・オルコットペアと模擬戦をしているのを観戦している最中である。

 

一組と二組、単純に女子の数が倍になったことでさらに疎外感が増した俺は、その大群から距離を取って模擬戦を見ていた。

 

一夏対デュノア、篠ノ之さん対オルコットさんの模様で進行していく模擬戦。

あまり普段から専用機同士の戦いを見ていない女子たちは、特に一夏の一挙一動に大はしゃぎしているが、無人機ISや亡国企業などの乱入騒ぎで何だか見飽きてしまっている俺は、あまり面白い見世物とも思えなくなっていて、欠伸をしながらただ座っていた。

そこで同じく暇をしていたのか隣に座る凰さん。

 

「隣座るわよ」

 

「どうぞ」

 

隣に座ったからと言ってなにかするでもなく、しばらくお互いに何も喋らず観戦を続ける。

 

一夏が地面に叩きつけられ、デュノアがそこに追い打ち。篠ノ之さんが一瞬一夏を心配して出来た隙をオルコットさんが見逃さず、BT兵器によるビームの雨嵐。

偏向制御射撃が織り交ぜられた攻撃を数発被弾しながら、それでもすぐに反撃に移る篠ノ之さんはなにか怖かった。

剣道に限らず、全国大会優勝者とはああも勇猛果敢なのだろうか。

少なくとも一対二の状況になろうと決して諦めないぐらいには不屈なのか。男らしい。

 

篠ノ之さんの男気に震えていると、それを見て取った凰さんが声をかけてくる。

 

「あんたさ」

 

「なにか」

 

「……いや、やっぱいいや」

 

「気になるねえ」

 

「嘘吐くんじゃないわよ。大して興味もないくせに。どうせ何言ってもはぐらかすか嘘で答えるんでしょ」

 

「世間話なら応じないでもない」

 

「あんたと世間話してもつまらなそうね」

 

「それはお互い様でね」

 

言ってる間に模擬線はデュノア・オルコットペアが勝利した。

ぼっこぼこにされた一夏の代わりに篠ノ之さんが奮闘していたのだが、残念。

幼馴染コンビは代表候補生コンビにはまだ敵わなかった。

 

4人が整備ハンガーに引っ込むのを見て、凰さんが立ち上がる。

 

「ほれ。行くわよ。ぼこぼこにしてあげる」

 

「最近の若者は手加減って言葉も知らんのか」

 

「それぐらいあんたのこと認めてるってことよ。光栄に思いなさい」

 

「認めなくていいから手抜けよ」

 

「プライドの欠片もないわね……」

 

はあと溜息一つ。

 

「だからあんたのこと嫌いなのよ」

 

「俺は結構凰さんのこと好きだよ。特に一夏が関わると見てて面白い」

 

「今すぐ忘れなさい」

 

「もう忘れた」

 

忘れた。

 

「やっぱあんたぼこるわ」

 

「そうか」

 

じゃあぼこられないように必死に逃げよう。

凰さんの後ろに続き、アリーナに向かいながら今日の戦闘スタイルを決めた。

 

 

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