明日の彼方に   作:紺南

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過去編です。
オリ主にイラつくかもしれませんがご容赦ください。


5話 過去話1

IS学園に入学して三か月。校外実習で海の家に行くことになった。

 

正直、この間の無人機IS襲撃事件で死にかけて以降、より一層他者への疑念だとか自己愛だとかが増幅してしまい、この臨海学校を楽しめる気がしない。

 

またなにか良からぬことがあるのではと身の危険を感じている。

しかも常に頭の中で警鐘がなっているので前回同様、特上の危険らしい。

本当なら出席したくなかったのだが、担任の織斑先生が出席簿片手に無言の圧力を掛けてきたので成すすべなく出席になってしまった。

 

あのブラコン本当になんとかならねえかな。

 

後ろの席で馬鹿騒ぎしている一夏とその他女子たちのおかげで波立つ心は余計に荒立ち、無性にイライラする。

外の景色を見て気を和ませるか、それとも音楽でも聞きながら寝てしまおうかと苛立ちを治める策を模索する。

その最中、つい先日まで三人目の男だったシャルロット・デュノアが話しかけてきた。

 

「大丈夫? 何だか仏頂面だけど」

 

「あ?」

 

その言葉は脈絡なくいきなりの物だったので、苛立ちやら素やらが返す言葉にそのまま乗っかる。

思ったよりも低く怒気が乗った声にデュノアは怯んだ。

 

「あ、ごめん……。もしかして機嫌悪い……?」

 

それにどう返したものかと視線を外に向け少し考えて、鏡に映った自分の人相の悪さに内心で驚く。

そして女の子に当たってしまいそうな自分の精神状況を加味して冷静に言葉を発した。

 

「……いや、乗り物酔いで具合悪いだけだ」

 

「大丈夫? 誰かに酔い止めの薬を――――」

 

「薬なら飲んだ。頼むからこれ以上喋らせないでくれ。吐く」

 

「でも……」

 

「いざとなったらビニール袋にでも吐くから大丈夫だ」

 

しっしっと手を振って追い払う。

最後まで心配する素振りを見せたデュノアだったが、最終的に目を瞑って寝たふりをしたら元いた場所へ帰って行った。

それでもちょこちょこ視線を感じたので、到着まで寝て過ごした。不幸中の幸いと言うか、寝たおかげで旅館に着くころには大分苛立ちも治まっていた。

 

海が見えたときに、一夏が無理矢理俺を起こして日の光を直視させたことを除けば快適な旅路だったと言える。

 

 

 

 

 

 

昔ながらのフロントに集まった生徒たちは各自、自分に宛がわれた部屋へと向かった。

俺も織斑先生に自分の部屋を聞いた後に向かった。

 

一夏と二人部屋で織斑先生のすぐ隣部屋。

一夏狙いの女子たちは残念だろうなと思いながら部屋へと入る。

 

部屋は旅館らしく畳が敷いてあり、中央で一夏が水着姿で立っていなければ最高の第一印象だったと思う。

そして部屋の印象を最高から普通にまで下げた一夏は俺のカバンの中から水着を取り出して言い放つ。

 

「さっそく海に行くか!」

 

「行かねえよ」

 

ハイテンションの一夏の誘いを断る。

一夏は信じられないものを見る眼で、水着を放り出して詰め寄った。

 

「何でだよ」

 

「焼けるだろうが」

 

「焼けたっていいだろ、海だぞ海!」

 

「焼けた後の風呂の苦しみを知らんらしいな」

 

「いや、知ってるけどさ」

 

「なら俺の言いたいことも分かるな」

 

「そんなの日焼け止め塗れば済む話だろ!」

 

「塗るか塗らないかは俺が決める。あんな白濁液塗って堪るか。パパラッチの餌食になるわ」

 

絶対なにか書かれる。既に十分すぎるほど書かれてきたのだから、もう書かれたくない。

そう思うのは自然の摂理だ。

 

「お前には幼馴染とか夫とか友人とかいるんだからそいつらと行ってこいよ。俺とか態々誘わなくていいから」

 

知らず知らずのうちに若干の自虐が込められていた俺の言葉に、一瞬傷ついたような顔をした一夏は、けれどすぐに顔を伏せ、そして言った。

 

「だって、折角なんだからさ……」

 

皆で楽しみたいだろ……。

 

そう続いた一夏の眼には悲しみが宿っていた。かなり本気で楽しみにしていたらしい。

そのあまりに純粋な瞳に、無碍に断ってしまった罪悪感が襲い来る。

 

このままでは良心の呵責に耐えきれなくなってしまいそうだと、せめてもの妥協案を提示する。

 

「車酔いで気分悪いんだよ。少しぐらい休ませてくれ」

 

「あ、そうなのか。……大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。ちょっとしたら俺も行くから先行ってろよ」

 

「ああ。いや、無理はしなくていいぞ。具合が悪いなら別に……」

 

「その内良くなるよ。それより誰か待たせてるんじゃないのか。早く行った方が良いぞ」

 

「あ、ああ」

 

後ろ髪引かれながら出ていく一夏。

俺の体調を気にして迷い迷いな歩きであっても、一貫して上半身裸なところに男らしさがあった。道中で女子と会ったのか黄色い声が響く。

しかしそのすぐ後で轟いた織斑先生の怒号が全てを覆い隠してしまい、黄色い声は聞こえなくなった。

 

それから10分程して、一夏が戻ってくる。

 

「早いな。楽しめたか?」

 

「ああ……。姉弟の仲を深めてきたぜ」

 

虚勢もここまで来ると格好いいものだとその爽やかな笑顔を見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

一夏がちゃんと上着を着て出て行ってから一時間。持ってきていた読みかけの小説を読み終わり、手持無沙汰になった。

売店で買ったコーヒー牛乳を飲みながら、海に行くかそれとも散策をするか、もしくは他の小説でも読むか悩む。

 

とりあえず、選択肢を潰すためにロビーから日光の具合を確認していると織斑先生と山田先生に出くわした。

 

「嘉神君じゃないですか。こんな所で何をしているんですか?」

 

「日光浴ですよ。山田先生は……海ですか」

 

聞かずとも、自分はこれから海に行くんですよとその手に持った荷物が主張していた。

先生方も海で遊べるのか。IS学園での教師職は本当に楽らしい。緊急の時も何もしないし義務も責任もないんじゃなかろうか。

 

「お前は海へは行かんのか。他の生徒は皆一目散に出て行ったぞ」

 

「沈没間近の船に乗ったネズミじゃないんですから、みんながみんな同じ行動を取るとは思わないでください」

 

「それもそうだな」

 

織斑先生のふっと笑うその姿はクールな美女と言った感じで大変様になっている。

毎年毎年女子に猿のごとくきゃーきゃー騒がれるだけはあるな。

 

「だが、折角の学園行事に引き籠りっぱなしと言うのも健康に悪い。どのような目的にしろ一度は外に出ておけ」

 

「そうですよ。せっかく海に来たんですから楽しまなきゃ損ですよ」

 

そんそん♪とリズムをとりながらステップを踏んで上機嫌に去る山田先生。

それを追いかける織斑先生もいつもの仏頂面ではなく、普段よりかは機嫌が良いようだ。

 

「海ね……」

 

元々それほどアウトドア派と言うわけでもなく、海に行ってあいつらと騒ぐ気分ではない。

どうせなら一人で海の幸を食べている方が気持ちも落ち着くだろう。

 

織斑先生も一度は外に出ておけと言っただけでどこに行けとは行っていなかった。その目的も指定していない。

一夏に後で行くとか言った気もするが、そんな約束紛いの物はどうだっていい。

旅館に残るのが駄目なら、やはり新鮮な魚介類でも食べに行こうか。海鮮丼とか良いね。

 

そうと決めれば、出かける前に変装だと、帽子を取りに一旦部屋へ戻る。

こう見えて色々と有名人なので、少しは顔を隠す努力は必要だ。

 

本当なら帽子のほかにサングラスもほしかったのだが、試しにかけてみると顔が幼く背伸びした子供にしか見えなかったので諦めた。

その点で言えばまだ年齢的に帽子は許容範囲だった。

適当な野球チームのマークが入った帽子をかける姿はそこら辺に居る少年に相違ない。

これならテレビ越しで一目見たぐらいの人たちには気づかれないだろうし、まさかこんな場所で一人ご飯を食べているなんて思いはしない。

 

大丈夫だ。大丈夫。

 

そう自分へ言い聞かせて港町へ向かう。

ちょっとした林を越えた先、道なりに下った先にある港町。

 

そこは絶えず潮風が吹き、夏だと言うのになかなか涼しかった。

町並みもテレビでよく見る港町と言った風貌で期待を裏切らない。

まさしくイメージの中の港町そのものだった。

 

ただ、唯一気になった所は人気がほとんどないという点だけだ。

 

「…………」

 

潮風に吹かれ、道端に落ちているゴミが宙を舞う。

 

どこか遠くに飛ばされて行くゴミを見て、何だか不安になった。

こうまで人気が無いのは何かの前触れじゃないか。そう思えた。

 

実際は平日の昼過ぎで、田舎町なのだから都市部に比べて人気が無くて当たり前なのだと分かっていても、一度嫌な方向に流れ出した思考は止まらない。その流れを変えるために無理やりポディティブに考える。

 

――――一夏だって水着を買いに町に行っても無事に帰ってこれていた。

 

――――それなら俺だって大丈夫なはずだ。

 

――――代表候補生が同行しているかどうかなんて大した違いにはならない。

 

――――俺だってISを所持している。いざとなればどうとでも出来る。

 

――――そもそもこの町に危険があるのなら俺を一人で自由にするはずがない。それでなくても何らかの警告があるはずだ。

 

――――だから脅威については予め排除済みだろうし、さすがのIS学園も俺に見張りの一人や二人つけているだろう。

 

そうじゃなきゃ困る。

そうであってほしいと願う。

 

自分の身は自分で守れなどというベリーハードモードのはずがないじゃないか。

IS学園はどこの国も手出しできないからここいれとけば大丈夫。労力の無駄だから護衛も何もつけないでおこう、なんて政府が考えているはずないじゃないか。

 

大丈夫だよね? 信じていいよね?

 

乾いた笑みが零れ、降り注ぐ日光で汗をかく。

今、自分がどういう保護を受けているのか。それとも実は保護なんて受けていないのかがこれで分かる。分かってしまう。

 

仮に、保護がなかったらその時はどうすればいいだろうか。

もしそうだったとしたら誰も信用できない。

知り合いの専用機持ちはおろか教師陣ですら碌に信用できない。

 

疑心暗鬼に陥ってしまっている。死にかけたのが尾を引いている。

 

今、信用できるのは自分だけだ。

時間が経つごとに段々と大きくなっている予感に、無意識の内に胸を抑えた。

 

何時までも甘えるなってことなんだろうか。

いい加減自覚しろと言っているのだろうか。

 

世界で二人だけの男性IS操縦者。

守ってもらえるなんて考えるな。自分の身は自分で守れ。

結局は最後に頼りになるのは自分の力だ。分かったのなら力を磨け。爪を砥げ。

 

誰かに言われた気がした。

 

攫われるかもしれない。殺されるかもしれない。

騙されるかもしれない。裏切られるかもしれない。

 

分かっていたはずなのに、教えられたはずなのに。

 

死に対面して、死を実感して、恐怖して泣いた。

死に直面して、死を垣間見て、初めて自覚した。

 

自分がどうしようもないほど愚かで、どうしようもないほど情けないと言う事に。

 

 

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