TURN 2 回想 ~目覚めと初陣~
「ぅ、うう…俺は…生きているのか?」
目を開いて最初に入ってきたのは見たことのない部屋の天井だった。
「あっ、気がついたみたいだね」
枕元に中学…高校生くらいだろうか? おとなしそうな顔をした少年がいた。
「あ、言葉わかるかな?」
「大、丈夫…だ」
喉が乾燥しているのか声が出しにくい。
「あ、無理しないで。まずは水を飲んだ方がいいよ」
そう言いながらその少年は水の入ったグラスを差し出してきた。
「…」
俺は無言で受け取り、喉を潤す。
「家の前に君が倒れていたときは驚いたよ。名前聞いてもいいかな?」
「ルルーシュ。ルルーシュ…ランペルージだ…」
俺は咄嗟に偽名を、昔の名前を使った。ここがどこだかわからない以上、死んだはずのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを名乗るわけにはいかない。
とにかく状況の確認をしなければ…
「ルルーシュ君だね。僕は遊戯、武藤遊戯っていうんだ。よろしくね」
そう言って少年は屈託なく笑った。
「武藤か…ここは、日本か? ブリタニアはどうなった?」
まず確かめねばならないのはそのことだ…
「うん? ここは確かに日本だけど…ブリタニアって?」
遊戯は全く何の事だかわからないといった顔をしている。
その様子に嘘があるようには見えない…だが!
両目に入れたコンタクトを外す。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる…真実を話せ!」
両目に人智を超えた力が宿る…絶対遵守の力が…発動した。
光輝く赤い鳥の紋様が遊戯の眼に飛び込む。
「わかったよ、ルルーシュ君。何が訊きたいの?」
そう答える遊戯の瞳は赤く縁取られていた。
「ブリタニアを知っているか?」
俺は再び問うた。心の中ですまないと謝罪しながら…
「その質問はさっきも聞いたな? そんなに重要なことなのか?」
「なに?」
遊戯が質問に質問で返してきた事に俺は驚愕を隠せない。
ギアスの絶対遵守の力の下ではありえないことだったからだ。
「ルルーシュと言ったか?」
気がつけば遊戯の雰囲気ががらりと変わっていた。瞳には赤い縁取りはない…ギアスにかかっていないということだ。
(ジェレミアじゃあるまいに…ギアスを打ち消したとでも言うのか?)
「千年アイテムの力ではないな。だが、その力は、ファラオの、王の力だ。それをどこで手にいれた?」
遊戯の首にかかっているウジャト眼の描かれた四角錐が光を放ち、額にもウジャト眼が浮かび上がっている。
「何者だ?」
「さっき自己紹介をしたろ? 遊戯だよ」
そう言って遊戯はサイドボードに置いてあるケースを手に取る。
「見たことのないカードのデッキを持っているし、さっきの力といい…お前の方こそ何者だ?」
そう問い返す遊戯の視線には敵意は見受けられない。
(俺の名を…ブリタニアを知らないのか?)
遊戯が先程俺が思わず口にした本名に対して何の反応も示さないことに俺は困惑した。ここは日本であるのは確かだろう。話している言葉から言っても間違いない。
だが、それならば苦汁を舐めさせられたブリタニアに対してまったくの無反応というのは納得のいくものではない。
「そうだ、デッキと言っていたが何だそれは?」
「何だってお前のデッキだろう? これだ」
遊戯はそう言って手にしたカードケースを渡してくる。
「これは…」
カードに描かれたモンスター。そのほとんどが人型のロボットであった。
「紅蓮…ガウェイン、ランスロット…」
今まで共に闘ってきたナイトメア達。戸惑うと同時にそのカードの使い方が頭の中に流れ込んで来る。
「どうした?」
黙々とデッキをチェックしていた俺に遊戯は問いかけてきた。
「いや、なんでもない…一つお願いがある。世界地図を見せてくれないか?」
「ん? 構わないぜ。そこの本棚の右上にある」
「助かる」
俺はそう言って世界地図を広げた。
「アメ○カ…中●人民共和国だと?…
あまりにも自分が知っている世界地図と違いすぎる。
「(考えられる可能性は…)すまない遊戯。今は皇歴何年だ?」
「皇歴? 今は西暦なら20xx年だが?」
「…そうか…(西暦か…皇歴ではない、か。この状況、それにこの世界地図…。俺のいた世界ではないのか?…馬鹿馬鹿しいがそれくらいしかあり得ないのか)」
考え込む俺をよそに遊戯は席を立った。
「なあ、ルルーシュ。デュエルしてみないか?」
遊戯の手には二つのデュエルディスクがある。
「は?」
「デッキを持っている以上お前も決闘者だ。闘ってみるのがお互いを理解するのに最も効率がいい」
そう言う遊戯の目はどこか嬉しそうだった。久しぶりに未知なる相手と戦える。そんな目だ。
俺は外したままだったコンタクトをつけ、その眼を見返した。
「いいだろう。挑まれた以上受けて立つ」
俺は遊戯からデュエルディスクを受け取るとそれを左腕に装着する。
改めて自分の体を見下ろしてみると、血に濡れた皇帝服ではなく、慣れ親しんだアッシュフォード学園の制服だった。
「いくぞルルーシュ!」「ああ、来い遊戯!!」
「「決闘!」」
お互いに最初の手札を五枚ドローする。
「先攻はどうする?」
そう遊戯が訊いてきた。このゲームではチェスほど先攻後攻でのアドバンテージは無い。
それに今までの俺の戦い方を変えるつもりはなかった。
「俺が後攻をとらせてもらう」
「いいのか?」
「構わない」
俺はそう言って手札を確認する。これなら…
「オレのターン。ドロー、『クイーンズ・ナイト』を守備表示で召喚。さらに伏せカードを一枚出してターン終了」
遊戯のフィールドにトランプのクイーンのような騎士とカードが一枚現れた。
「俺のターンだ。ドロー!俺は『第四世代 グラスゴー』(光属性 機械族 攻 1600)を召喚!」
俺のフィールドに灰色をベースにした不格好な人型のロボットが現れる。
「グラスゴーでクイーンズ・ナイトを攻撃!」
グラスゴーがクイーンズ・ナイトへとアサルトライフルを放った。
「クイーンズ・ナイトの守備力とグラスゴーの攻撃力は互角、破壊されないぜ」
「わかっているさ。グラスゴーの効果発動!このカードと戦闘を行った戦士族モンスターはダメージ計算終了後破壊される!」
「な!?」
放たれた弾丸がクイーンズ・ナイトの盾を突き破り、その身を穿った。
「っく!(まずいな、こいつを使うべきだったか…)」
遊戯は足元の伏せカードにちらりと目を向ける。
「俺は伏せカードを二枚出し、ターン終了」
俺はさらに二枚のカードを伏せる。
「オレのターン、ドロー!『磁石の戦士β』(攻撃力 1700)を召喚!」
頭と手にU字の磁石を備えた人形のようなモンスターが召喚される。
「こいつは岩石族。グラスゴーの効果では破壊されないぜ! 磁石の戦士βでグラスゴーを攻撃!」
ドガァッ!
磁石の拳がグラスゴーの頭部を捉え、粉々に打ち砕く。
「っく…」
ルルーシュ LP 3900
「しかし、グラスゴーが墓地に送られたことによって俺は伏せカードを発動する。罠カード 『迎撃部隊』。相手モンスターと同レベルのモンスターを手札から特殊召喚する。俺は『第五世代 サザーランド』(攻撃力1800)を攻撃表示で特殊召喚!」
俺のフィールドに今度は青い機械騎士が召喚される。
「フィールドからモンスターが途絶えないか…オレはさらに伏せカードを出し、ターンを終了する」
遊戯の場には磁石の戦士βと伏せカードが二枚。
「俺のターン。ドロー、俺はサザーランドを生け贄に捧げ、『第六世代 ガウェイン』(攻撃力 2600)を召喚する!」
サザーランドは撤退するように墓地へ眠り、代わりに漆黒の機体が天を舞う。
「! こいつは…」
先程までの機体と比べ、一回り大きいその姿に遊戯は息を呑んだ。
「このカードは闇属性としても扱う。そしてフィールド上に存在する限り俺のフィールド上のモンスターゾーンは一つ使用不能にする」
ガウェインは二人乗りの機体だ。だからだろうか。だが、そんなものはデメリットにならないほどの攻撃力を持ち、さらなる効果を秘めている。
「ガウェインで磁石の戦士βを攻撃。『ハドロン砲…発射!』」
ガウェインの両肩に装備されたハドロン砲がその口を開く。
そこから放たれる紅黒い波動が磁石の戦士βへと迫った。
「伏せカード『攻撃の無力化』!磁石の戦士βへの攻撃は通らないぜ!」
磁石の戦士βの前に時空の渦が発生し、ガウェインのハドロン砲を吸収した。
「攻撃無効化のカードか…俺はこのままターンを終了する」
お互いにフィールド上にはモンスターが一体と伏せカードが一枚。だが、こちらには上級モンスターがいる以上、ボードアドバンテージは得たと思っていいだろう。
「オレのターン、ドロー。手札から『磁石の戦士γ』を守備表示で召喚。βを守備表示に変更し、伏せカードを一枚セット。ターンを終了する」
遊戯は一旦守りを固めに入ったようだ。
「俺のターン、ドロー。俺は手札から『第七世代 ガレス』(攻 2400)を召喚!」
「攻撃力2400!?」
レベル4としては最上級の攻撃力に遊戯は驚愕の声をあげる。
「ただし、自分フィールド上に『第~世代』と付いたモンスターが存在しなければ攻撃できず、攻撃後は守備表示(守 200)になるデメリットを持つがな…」
ガウェインの量産機であるガレスは砲撃に特化したKMFだ。砲撃をかいくぐられ、接近戦に持ち込まれると不利だからだろう。
「なるほど…お前のデッキはパワーモンスターでフィールドを支配するタイプか」
俺のフィールドに並んだ二体のモンスターを見ながら遊戯が呟いた。
「違うな。間違っているぞ遊戯。これは一戦略にすぎない。相手や状況に応じて最善の策を講じることができる。それが俺の戦い方だ」
今回は強力なモンスターが手札に多かったから正面突破の策を講じたまでだ。
「もっとも戦場(フィールド)を支配下におき、把握しなければ戦略は活かせない。まあ実際の戦場とはまた違うが…」
「ふ…そうだな。ここでやっているのはゲームだ。少しは気楽に行くといい」
俺もそうだが遊戯も実際に戦場に出たことがあるのだろうか…。
その瞳に宿るのはまさに戦場を知る王者の風格だった。
「行くぞ遊戯! ガレスで磁石の戦士βをガウェインでγを攻撃!」
ハドロン砲とミサイルの嵐が二体の磁石の戦士に迫る。
「伏せカード発動!『魂の交換~ソウル・パーター~』! 磁石の戦士βと墓地のクイーンズ・ナイトの魂を交換する」
目標を失ってガレスのハドロン砲とミサイルが空を切る。
「っく!? だが、まだガウェインの攻撃が残っている!」
紅黒い閃光の奔流が磁石の戦士γを貫く。
「この瞬間さらに伏せカード発動! 『魂の綱』! ライフを1000ポイント支払い、デッキから『キングス・ナイト』を召喚する!」
遊戯 LP 3000
「さらにフィールド上にキングとクイーンが結集したことにより、デッキより『ジャックス・ナイト』を特殊召喚する!」
「JQK…絵札の三騎士か…」
トランプの絵札をモチーフにした三体の騎士達。その居住まいは俺に幼いころに見た宮廷での騎士たちを思い起こさせる。
「戦闘を行ったことでガレスは守備表示になる。俺はこのままターンを終了する」
「オレのターンだ、ドロー。ルルーシュいい機会だ。オレの従える最強の一体をみせてやろう…」
ゾクッ
(なんだこの
今までにない力の波動を感じる。畏怖さえ覚える圧力に俺は知らず知らず左手の手札を強く掴んでいた。
「絵札の三剣士を生け贄に捧げ…」
「三体の生け贄…?」
最上級のモンスターでも、二体の生け贄で召喚できるはず…それで三体生け贄となると…
三騎士の身体が輝き、新たなるモンスターへと受け継がれる。
「来い! オレが従える三幻神のうちのひとつ…『オシリスの天空竜』召喚!」
天空を暗雲が覆い、稲妻が駆け巡る。そのうちの一際太い稲妻が遊戯のフィールドに落ちるとともに赤き身体に碧い宝玉を宿した天空竜が降臨した。