(この圧倒的な威圧感…これが…)
「これが幻神獣の一角を占めるオシリスの天空竜だ」
「これが…神か…(Cの世界の集合無意識ではないな…)」
俺はかつていた世界の神を思い出していた。あれは人の意識の根源のようなもの。それに対してこれは天意に等しい絶対の力だ。
「オシリスの攻撃力はオレの手札かける1000ポイントとなる。今のところオレの手札は二枚。よってオシリスの攻撃力は2000というところだ」
今のところオシリスの攻撃力はガウェインに及ばない。だが…
「オレは手札から魔法カード『強欲な壺』を発動! デッキからカードを二枚ドローする。これでオシリスの攻撃力は3000となる」
「ガウェインの攻撃力を超えたか…だが遊戯…」
「なんだ? ルルーシュ」
「その神…貰い受ける! 伏せカード発動! 魔法カード『ギアス ―王の力―』!!」
「何?」
最初のターンから伏せていたカード。絶対遵守の力でもってオシリスを…神を従える。
「500ポイントライフを支払い、効果の一つを発動する。発動する効果は相手モンスター一体のコントロールを奪い取る!」
ルルーシュ LP 3400
「馬鹿な…神に対してそんな効果は…」
「どうかな?『我が配下へと下れ! オシリスの天空竜よ!』」
コンタクトをつけたはずの俺の両眼には赤き鳥の紋章が浮かび上がる。
その輝きは天空に座すオシリスの瞳へと飛び込み、その瞳は…赤く縁取られた。
「なにっ!?」
わずかなタイムラグの後にオシリスの天空竜はその長大な身を翻し、遊戯へとその牙を向けた。
「俺の
かつての世界において神を屈服させた王の力。この世界の神にも通用するかは賭けだったが、うまくいってよかった。
「くくく…ハハハハハ…」
「遊戯?」
「久しぶりだ! 神を喚ぶ事もそうだが、それを覆されるとは!」
楽しそうに本当に楽しそうに遊戯は笑う。
「だが…勝つのはオレだ。手札より魔法カード発動!『所有者の刻印』!」
六芒星を描いた魔法陣が出現し、オシリスのカードに刻まれる。
「舞い戻れオシリスよ。正当なる所有者の下へ!」
遊戯のその声に応じて、オシリスは再び遊戯のフィールドに舞い降りる。
「くっ! だが、それによって遊戯、お前の手札は再び二枚。それではガウェインは倒せない!」
ガウェインが倒されなければ、ライフへの影響はない。次の俺のターンでオシリスを葬り去るまでだ。
「それはどうかな? たしかにオレの手札は二枚。だが…魔法カード『天よりの宝札』! お互いのプレイヤーは手札が六枚になるようにドローする」
「なっ?!」
俺は四枚、遊戯は五枚のカードをドローする。
これで遊戯の手札は六枚、それによってオシリスの攻撃力は6000ポイントとなる。
「これで最後だルルーシュ。オシリスの天空竜の攻撃! 超伝導波 サンダーフォース!」
青き稲妻の奔流がガウェインを飲み込む。ガウェインの機体は爆発する前に膨大な熱量によって跡形も無く蒸発した。
ルルーシュLP 0
「…」
「いいデュエルだったぜ。ルルーシュ」
あの状況を覆されて呆然とする俺に遊戯は手を差し出してきた。
「ああ…まさかあそこから負けるとはな…」
俺は思わず恨み事を呟いたが、遊戯は笑って流してくれた。
「だが、いい経験になった」
前世では初戦で負けることはなかった。だが、敗北から始まった今回は、より柔軟に対応できるような気がする。
俺は差し出された手を握り返した。
††††
「………」
デュエルを終えた俺たちは外から室内へ戻ってきていた。室内に戻った途端、遊戯の雰囲気がおとなしいものになったのは気のせいだろうか?
そして今ちょうど遊戯に俺の素性を説明し終えたところだ。重苦しい沈黙が台所を支配した。
「まぁ、信じられない話だろうが…」
ここじゃない異世界から来たなんて突拍子もない話を信じてくれるとは最初から期待してはいない。
証拠となるのは遊戯が今まで見たことが無いという俺が持つカードデッキのみ。
これだけでは証明としては弱すぎる。ギアスも証明になるかもしれないが、無暗に人に知られるのは避けるべきだ。
「信じるよ」
「は?」
今『信じる』と言ったか?
「信じるよキミの言うこと。異世界から来たってこともね」
「正気か?」
自分で言うのもなんだが、ただのあやしい外国人にしか見えない俺の言うことを信じるとは…
話を聞くにこの世界にはKMFは存在しないし、ブリタニア帝国も存在していない。
そのことも考慮すれば、俺の話は単なる夢物語だ。信じる方がどうかしている。
「うん。もう一人のボクのこともあるし。今更多少不思議な事があっても驚かないよ」
「もう一人の…ボク?」
俺は引っかかったそこだけを聞き返した。
「うん。この千年パズルに宿っている、古代エジプトの王の魂」
「魂だと…そんな非科学的な…(だが先程の豹変ぶり…ギアスの回避も二重人格なら…)」
口では否定的なことを言っているが、俺はその言葉を真実だと感じていた。
「実際に見ただろう?」
そう言った遊戯は先程のデュエル中と同じ空気を纏っていた。
今までの遊戯が、全てを受け入れ抱擁するような空気を纏っていたのに対し、今の遊戯は全てを従え、孤高の位置に座す、まさに王者の威圧感を持っていた。
「なるほど…確かにそうかもしれないな(俺もギアスと言う名の異能の力を持っているんだ。それを考えればたいしたことじゃないのかもしれない)」
そう考えていると、台所のドアが開いて、遊戯によく似た老人が入ってきた。
「遊戯、彼の具合は…おお、気がついたのか。よかった」
「あ、じーちゃん」
遊戯が振り返って立ち上がった。どうやら遊戯の祖父らしい。
「ルルーシュ君、これはボクのじーちゃん。キミが倒れているのを運んでくれたんだよ」
そう言って遊戯は俺に紹介してきた。
「運んだと言っても、店の前に倒れておったから中に運び込んだだけじゃがのう。どうじゃ具合は?」
「助けていただいてありがとうございます。おかげさまで別状はないようです」
「そうか、それはよかった」
心底安堵したように遊戯のじーちゃんは息を吐いた。
「じーちゃん、彼をここに置いちゃダメかな?」
「ちょっ、遊戯?」
唐突な遊戯の言葉に俺は動揺した。確かにこの先住まう家も無ければ、この世界の生活する術もない。
「ルルーシュくん身寄りがないらしくて…」
まあいちいち説明するのも大変だし、信じてもらえるかもあやしい話をするよりも楽だ。
今後はこれでいこう。この世界には身内がいないのも事実であるのだし。
「いや、しかしその、ただお世話になるのは忍びないのですが…」
「うーむ。かまわんぞい。なんなら家の店の手伝いをしてくれればいい。いくつじゃ、ルルーシュ君?」
「18です」
「高校生かの? 学校は? 見たことのない制服じゃが」
「最近までは高校に行っていましたけど…」
まさか皇帝になったから辞めましたなんて言えるわけもないので適当にごまかすか…
「事情があるんじゃな。詳しいことは聞かんよ。言えるようになったら言ってくれればいい」
黙り込んだ俺にじーちゃんは察してくれたのだろう。深く追求して来なかった。
「ありがとうございます。ええっと…」
「ああ、ワシは双六じゃ。武藤双六、よろしくのルルーシュ君」
「はい、よろしくお願いします」
こうして俺は、亀のゲーム屋の住み込みとして遊戯の家に厄介になることになったのである。
ちなみに、俺が、遊戯が初代バトルシティ王者で、現在における最強の決闘者であることを知ったのは翌日、遊戯を訊ねてきた城之内が遊戯とのデュエルのことを聞いてきた時である。