「カカカ…どうしたもう手詰まりかい?」
店内へ戻ると城之内がストア・ブレイカーのうちの一人とデュエルしていた。
「…ああ…オレの負けだ…」
そう言って城之内が敗北に肩を落とす。
(なんだこのフィールドは?)
俺は目の前の戦場に違和感を覚える。戦況は城之内にとって異常なまでに不利だ。この状況を作り上げるには前もってデッキの特徴を調べ、それに対しての対抗策を組みこまねば成立しえない。
しかし、基本的に決闘者が持つデッキは一つだ。これほどピンポイントに城之内を狙い撃ったとなると…
「オイ!もっと他に強い奴はいないのか!?」
城之内を倒したストア・ブレイカーが勝鬨を上げる。明らかに周囲の者を見下したその態度に、俺の我慢は限界を超えた。
「つけ上がるのもいい加減にしろ。この下郎が!!」
「ああ? 何だテメェは?」
弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだ。
おそらく最も格下であろうその男はこちらの存在に気づいて声を荒げる。
「キサマらがストア・ブレイカーだな!」
遊戯は男たちのうちリーダー格と思しき長髪の男に指を突き付けた。
「だったらどうするね…?」
「カードショップに寄生するストア・ブレイカーなんて害虫は退治するに決まってるぜ!!」
聞いていて気持ちのいいくらい鮮やかな啖呵だ。
「ルルーシュ…ストア・ブレイカーだって…?」
「ああ…店の上前をはねたり客のレアカードを奪う屑どもだ…」
「くっ…」
負けた相手の正体を知って城之内が歯がみする。
「落ちつけ…たぶんあいつの戦術は相手のデッキに対して最悪の相性となるように作られた“アンチデッキ”だ…」
でなければあそこまでの状態になるはずがない。
「後ろの奴らの入れ知恵か…いいだろう受けて立ってやる…」
そう言ってリーダー格の男はフードを脱ぐ。
「ただしあなたが負けたらこの店の売り上げとあの…神のカードを頂く!」
そう言って男は展示されている三幻神のカードを指差した。
(むちゃな要求を…例え神を得たとしてもお前では使えるはずがない…)
俺は一度対戦しただけだが、あのカードたちが持つ力をいやというほど感じた。
あの力はデュエリストの器を選ぶ。神を従えるに足る、王たる器を…
「あ~っ!!」
フードを脱いだ男の顔を見ていたじーちゃんが大声を上げた。
「こやつ!! 百のデッキを持つデュエリスト…百野真澄か!?」
じーちゃんがいう名前には心当たりがある。
リストの中でも最強クラスにランクされた最も危険な男。
「やはりアンチデッキ使いか…遊戯、俺にやらせてくれないか?」
「ルルーシュ?」
既にデュエルディスクをつけ、臨戦態勢に入ろうとした遊戯を呼び止める。
「相手はアンチデッキの使い手。最強として知られるお前のデッキのアンチデッキを用意している可能性がある。だが…こいつなら」
そう言って俺は自らのディスクを取り出した。
「…なるほど…確かにそいつなら…」
「この『ナイトメア』デッキなら、あいつがアンチデッキを持っているはずがない…やらせてくれ」
「…わかった。お前を信じよう…遠慮なくやってこい!」
「ありがとう遊戯…。お前が決着をつける相手はこの俺だ…百野真澄」
俺が進み出ると百野はそれを鼻で笑った。
「自らの店を賭けるのに臆したか決闘王?」
「違うな…間違っているぞ百野、お前ごときクズ野郎に遊戯がでる必要はない…」
「なに…?」
下賤な笑みを浮かべていた百野の顔からその笑みが消え失せる。
「それから賭けるのはこの店の売上でも神のカードでもない。おれのこのデッキだ…そしてお前はその百のデッキを賭けてもらう。これ以上悪さが出来ないようにな…」
「は? 百対一…釣り合うとでも思っているのか?」
百野はありえないとでも言いたげな顔をしているが俺は悠然と挑発する。
「ああ、当然。むしろ十分すぎるくらいだ」
「なんだと…?」
「それとも何か?見たことも無いデッキ相手ではお得意のアンチデッキが使えないから怯えているのか?」
「フン…いいだろう(悪夢<ナイトメア>デッキ…ねぇ…)ならばこいつで…」
百のアンチデッキを持つ男、百野真澄は自らの持つ、デッキの中から一つを選びだした。
「ここでやり合うには狭すぎる…外へ出ろ」
「いいだろう…行くぞ!」
『『決闘!』』
「先攻はくれてやる」
常に黒い駒を操ってきた俺は、後攻を選ぶ。こんな虫けら相手に自らの信念を曲げる必要などない。
「ふっ、いつまでその余裕がもつかな? ドロー!『小天使テルス』(攻・守500)を守備表示で召喚。伏せカードを出してターン終了」
小さな羽根を持つ丸い天使が召喚され、場に伏せカードが現れる。
「ドロー、『第四世代 無頼』を召喚する」
『第四世代 無頼』 闇属性 機械族 ATK 1600 DEF 1800
俺のフィールドに人型の不格好な機械の騎士が召喚される。
「このカードは召喚されたとき、デッキから『第~世代』とついたレベル4以下のモンスターを手札に加えることができる」
デッキから一枚モンスターを手札に加える。
「無頼の攻撃! スタントンファ!」
無頼の肘の部分からトンファが展開し、雷撃を帯びた一撃がテルスへと叩きこまれる。
バチィッ!
「小天使テルス撃破!」
トンファを収めた無頼が俺のフィールドに戻る。
「フ…テルスは倒されても羽根を残す…」
テルスを破壊された百野のフィールドには白い羽(攻・守0)が遺されていた。
「生贄素材か…伏せカードを出して、ターン終了」
フィールドに一枚リバースカードが現れる。
「ふふ、テルスの羽根を生贄に捧げ、『光の住人 クレパール』召喚!」
『クレパール』 ATK 2200
百野の背後に光を纏った白い天使が降臨した。
「クレパールの攻撃! シューティングレイ!」
クレパールの放った攻撃が無数の光の針となって無頼に降り注ぐ。
「伏せカード発動! 罠カード『イジェクションシート』! このターン、戦闘で破壊されたモンスターと同名のモンスターをデッキまたは手札から特殊召喚する!」
無頼の背中のコクピット部分が後ろへ射出され、本体が爆発、四散する。しかし、即座にその背後から新たな無頼が出撃してきた。
ルルーシュ LP3400
「無頼が特殊召喚されたことにより、再びデッキからカードを一枚手札に加える」
「ふ、雑魚を並べてどうする? ターン終了だ」
百野は薄笑いを浮かべてターンエンドを宣言する。
「ドロー。無頼を生贄に捧げて、レベル5の『第七世代 紅蓮弐式』(闇属性 機械族 攻2500守1800)を召喚!」
フィールドに現れるのは真紅の機体と銀に輝く異形の右腕を持つ紅い機械騎士、紅蓮弐式。
「…カレン、頼んだぞ…」
俺は小さく呟いた。すると微かにだが紅蓮が頷いたように見えた。
「行くぞ! 紅蓮の攻撃!」
『喰らいな! 輻射波動!』
紅蓮の異形の右腕が伸びる。銀色の爪がクレパールを捕らえ…
「フン! 伏せカード発動! 罠カード『偏光プリズム』! 相手モンスターの攻撃を無効にし、撥ね返す!」
クレパールに放たれた紅い光がプリズムで捻じ曲げられる。
「手札より速攻魔法発動!『攻防一体』! 紅蓮を守備表示に変更し、守備力を攻撃力と同じにする」
紅蓮は即座に右腕を引き戻し、再び輻射波動を起動して防御する。
「伏せカードを二枚出し、ターン終了だ」
これでお互いのフィールド上にはモンスターが一体ずつ。紅蓮を従えた俺の方に趨勢は移ったとみていいだろう。
「私のターン。ドロー」
百野は今ドローしたカードを見てニヤリと笑った。
「魔法カード『シールドクラッシュ』発動!! 守備表示のモンスター一体を破壊する!」
あらゆる盾を破壊する光が右手を構えた紅蓮へ迫る。
だが…
「そう簡単に倒させはしない!! 伏せカード発動!『双璧の絆』!」
紅蓮へ迫る光が爆ぜた。
閃光の爆裂が晴れたあと…そこにいたのは…紅蓮に似た異形の左腕を備えた…蒼いナイトメアだった。
「なにっ…?」
「『幻の機体 蒼き月下~蒼月~』を特殊召喚!!」
『幻の機体 蒼き月下~蒼月~』トークン 闇属性 機械族 レベル? ATK ? DEF ?
『カレンをやらせはしない!』
蒼月は紅蓮を守るように左腕の輻射波動腕を構える。
「蒼月が存在する限り、「紅蓮」と名のつくモンスターは攻撃力、守備力が300ポイントアップし、魔法、罠、モンスターの効果では破壊されない!!」
俺にこの機体の記憶は無い…だが、それでもこの機体のパイロットとカレンの間には確かな絆を感じた。
「そして蒼月は自分フィールド上に存在する「紅蓮」と名のつくモンスターと同値の攻撃力、守備力、及び効果を得る!!」
紅蓮・蒼月(攻撃力2800 守備力2800)
「…ライ…カレンを頼む」
知らず知らずのうちに口からその名前が零れた。
記憶にはない。だがそれが蒼月のパイロットの名であることを、俺は確信していた。