とある暗部の否定存在   作:T・A・P

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とある暗部の否定存在【アンノウン】 Ⅲ

 八幡は自身の腕にひっついている食蜂を引き連れて路地裏から表通りに戻ると、とりあえず本日の晩飯の買い出しをするために、いつものひいきにしているスーパーへと足を向けた。

「それでぇ、比企谷さんは何を作ってくれるのかしら」

「そうだな、二人分だしパスタにでもするか」

 おそらく冷蔵庫の中身を思いだして思案する表情を見せている八幡は、脳内会議の結果本日のメニューを決定した。その八幡の言葉に、食蜂は嬉しそうに笑顔を浮かべ見るからに心が躍っているのが分かる。

「比企谷さんのパスタはおいしいから楽しみだわぁ」

「そりゃ、光栄だな」

 それからしばらく話すことなく歩いていると、周りにいる通行人の目が二人に向けられていた。まぁ、それは当たり前と言わざるを得ないだろう。

食蜂は十人中、九人が振り返るほどの美人である。中身は見た目では分からないが故に、多くの人目を引くのは当然の帰結だ。ちなみに、振り返らなかった十人中の一人はどこぞの某一方通行さんだとか。

 さて、視線は二人に向けられている。つまり、食蜂だけではなく八幡の方にもということだ。まぁ、分かっているとは思うが、今八幡は食蜂と腕を組んでいる腕に抱きつかれている。だとすれば、向けられている視線の種類は分かるだろう。

 そんな視線が露骨に突き刺さっていることに気が付かない二人でないのだが、いちいち相手をしていては切りが無いので実害が起こらない限りこの程度は完全スルーをしているのだ。

 そうこうしている間にスーパーにたどり着き、中に入ろうとすると、

「ん、八幡か?」

「なんだ、上条。奇遇だな」

「いやいや、奇遇もなにも一番近くて一番安いスーパーがここでせうよ」

「んで、お前も買い出しか?」

「ああ、そう言う八幡も……なんだ、食蜂も一緒だったのか」

 八幡の体の陰に隠れて見えなかった食蜂が体を動かし、笑顔で上条に向かって手を振って自分の存在をアピールしていた。食蜂が一緒にいることが分かった上条は八幡に同情するような表情を向け、ポンと八幡の肩に手を置いた。

「またトラブルに巻き込まれたんだな」

「お前ほどじゃねぇよ」

 渋い表情を上条に向けもっと文句を言いたそうだったが、実際トラブル遭遇率は上条に劣るとはいえ一般人より多い事を自身で自覚している。

「あ、そうだ。上条さんも一緒に夕飯どうですか?」

「え、いいのでせうか!」

 上条はその言葉に期待した目を食蜂から八幡へと向けた。この様子を見るかぎり、いつものように、いつもらしく、いつだって不幸である上条なのだろう。

「ちょうど金欠で食べるものがなくなっていたんだよ」

 金欠と言ってはいるが上条のことだ、財布を落としたか、預金から金を引き出そうと試みるもなぜかカードが使用できなくなってしまった、と言う事だろう。それで、なけなしの手持ちで安い食材を買いきたようだ。

「はぁ、そういう時は一言くらい連絡を入れろよ」

「本当にちょうどだったし、この通り携帯も死んじまって。ここで八幡に遭遇できていなかったら、今日の夕飯はもやしだったんでせう」

 上条は八幡に遭遇できたことが本当に嬉しかったのか、頭を垂れ袖で流れ出る涙をぬぐっていた。

「いや、近いんだから食いに来いよ」

 呆れながら八幡は上条が見せてきた携帯を受け取って具合を見ると、完全に故障している事が分かった。まるで、一気に電流を流して強制的にショートさせたような故障の仕方によく似ている。

「……お前、今日何があったんだよ」

 質問、と言うよりは答え合わせのような口調だった。

十中八九何があった、いや誰と会ったかなんざこの故障した携帯で想像はついている。八幡だけではなく、食蜂もちょっと呆れた表情を浮かべていることから、だいたい想像はついていると見える。

『―――――――どこに行ったのよーーーーー!!――――――――』

 上条がその答えを言おうと口を開く前に、どこかから女子中学生っぽい大声が聞こえてきた。声の大きさからみて、三人の場所からそう遠くないところにいるようだ。

「こういうことで」

「まぁ、知ってた」

「うん、知ってたわ」

 呆れたように言葉を吐きだし、八幡は思案するように頭を掻くと、

「とりあえず、見つかる前に店の中に入ろうぜ」

 そう、二人を促がした。

 

 

 

 声の主、正体は言わなくても分かっていると思うがそれでも言っておこう。声の主である御坂美琴と上条当麻が出逢ったのは、最終下校も過ぎた夜の街中である。

裏の仕事を終えた八幡と上条が帰る途中、八幡がコンビニに寄ってマッ缶を購入している最中のことだった。特に買う物もなく、金もない上条は外で待っているとちょうど目の前で御坂美琴がスキルアウトに絡まれている光景が目に入った。

 正義感、なんて物は上条にはすでにない。いや、人の心の奥の奥まで完全に読める人間なぞそうそういるはずもなく、正義感があるかないか断言できるものではないが、この時の上条は正義感で動いたわけではない。

 そのスキルアウト達の顔ぶれが、優先順位が低いものの上条たちへ依頼された壊滅リストに名前があった組織のメンバーであった。

上条は素早く八幡にメールを打つと、見るからに絡まれていた御坂を助けるフリをし御坂本人に正体をばらされてスキルアウトと一緒に路地裏に消える、と言う簡素な流れを頭の中で組み立てて足を踏み出した。

当然、学園で八人しかいない超能力者の情報は把握している。能力は当然とし、使用者の性格から身体能力までありとあらゆる個人情報を頭に叩き込み、御坂美琴の性格情報もしっかりと理解した上の計画だ。故に、途中まで、そう途中まで計画は淀みなく進んでいた。

不幸、と言うよりも上条の失言によって御坂は怒りにまかせ、周囲に電撃の雨を降らせた。スキルアウトは無能力者である、その電撃への対抗手段を持ち得ておらず少々黒焦げになって地面に伏した。

しかし、ご存じの通り上条は異能の力であればなんであろうと打ち消す右手である、反射的に電撃を打ち消してしまいそこから長い長い鬼ごっこが始まってしまった。

ちなみにこの時の八幡は、偶然となりにいた真っ白な少年と競うようにマッ缶を買物籠の中に放り投げていた。

 

 

 さて、無事買物を終えた三人はこれまた無事に御坂と遭遇することなく、八幡の家で鍋の準備を行っていた。メインで八幡が調理を担当し、上条は慣れたように八幡の指示に従っててきぱきと動いている。

そんな二人の後ろ姿を食蜂は楽しそうに眺め、鍋が出来上がるのを待っていた。

ここでなぜパスタから鍋に変わったのかと言えば、おもに育ち盛りの上条が大量に食い溜めできる料理がいいからだ。

「悪いな、食蜂。パスタはまた次の機会って事で許してくれ」

 そう八幡が机の上に置かれているカセットコンロに湯気が立ち上る鍋を置きながら食蜂に声をかける。

「そうね、その時を楽しみにしているわ」

 いたずらっ子のように笑みを返す食蜂に、やれやれとため息をつきながらも嫌そうじゃない目をしていた。

「うっし、これで準備は終わったな」

 それぞれの箸と食器を上条は机の上に並べ、今か今かと目を輝かせて待っている。

「んじゃ、食うとするか」

「久しぶりの肉だ!」

「いただきま~す」

 それぞれ箸を手に取り、鍋の中から具材を取り皿に入れようとしたが、

 

ヴーヴーヴーヴー

 

 八幡の携帯が震え、着信を知らせてきた。

「……出なくていいよな」

「よし、無視しよう」

 八幡と上条はメデューサの目を見たかのように体が固まり、目を合わせ何もなったかのように食事に戻ろうとしていた。しかし、着信は止まることを忘れたのかと言わんばかりに震え続けている。こんな状況では気持ちよく食事ができるわけもなく、八幡は渋い顔で通話に出る事となった。

 その後、哀愁が漂う家を出る二人の背中に向かって食蜂は一人で鍋をつつきながら笑顔で手を振っていた。

 

 

 

 二人の姿はうらぶれた廃ビルの中、気絶している大量の人間で作られたピラミッドの上にあった。八幡は片膝を立てて座り、上条は従者のように斜め後ろに立ち、二人の視線は意識を保って二人を見上げる一人の男に注がれていた。

 その男、『砂上 砂欠(さじょう すなかけ)』は両肩の関節を外され、骨折が無いとはいえ散々足を傷めつけられすでに立ち上がることができない状況である。だが、そんな状態でも意識を保っている砂上がそこまでの実力があるかと言えば、別にそうではない。

 少なくとも、足元にいるスキルアウト達を束ねていた実力と人望は持ち合わせているのだが、その程度で二人に敵うべくもない。意識を保っているのではなく、二人はわざと砂上だけの意識を残させていた。

 砂上も少なからず裏で動いてきた人間である。

これから自分の身に何が起こるかなぞ、すでに理解している。当たり前だ、自分たちもその道を歩いてきているのだ。そしてこんな状況になっている原因も少なからず、いや、盛大に心当たりがある。

「はぁ、さっさと吐いてくれりゃ俺もお前もさっさと帰る事ができるんだがな」

「こっちはお前らの所為で晩飯を食い損ねてんだよ」

 ただ淡々と口を動かす八幡と、もう腹が減って仕方がないのか若干機嫌の悪い上条が子供のように言葉をかけた。

「……仲間をこんなにされて口を割る奴は、俺らにはいねぇ」

「そうか」

 八幡たちがその答えを聴くのは何度目だろうか。もちろん、簡単に仲間を売る連中も存在したがそれでもスキルアウト達の結束は強い。

「ま、別にお前らが能力者相手に何をしようが俺は興味が無いし、自衛手段を取り上げる気もさらさらない」

「なら、なんでこんな事をしたんだ!!」

 激昂、自分の今の状況を正しく理解はしている。しかし、それでも立ち上がらなければならない時がある。それは、さながら主人公のように。

 震える足を無理やり動かし立ち上がると、強い光りを瞳に宿した砂上は八幡を睨みつける。

 無能力者狩り、能力者とスキルアウトとの間で起きた口論に端を発する。能力者が正当な報復とし、無能力者に害をなし始めた。この対象はスキルアウトだけではなく、無関係である普通の無能力者相手にも被害が出ている。

 そのことに心を痛め、無関係な無能力者を守るため発端である責任を取るべく第七区のリーダーである駒場利徳が各地のスキルアウトと共に連携して準備を進めていた。そして砂上の組織もその中の一つだった。

「そんなもん、やつあたりだ」

 飯を食い損ねたな。と、続けて口にする。

 砂上は自分の耳を疑った。そんな事でここまでやるのかと。

「おいおい、飯は大事だぜ。それこそ、食べ物の恨みは恐ろしい、という言葉があるくらいだからな」

 表情から考えを読み取ったのか、八幡は言葉を付け足す。

 歯を強く噛みしめ、動かない腕を引きずりながら一歩踏み出す。そして、もう一歩、続けてさらに一歩。腕が動かなくても噛み殺す、歯が無くなれば睨み殺す、目が潰されれば呪い殺す、そう全身で語っている。

「ま、それだけじゃないんだが」

 よっこらせ、と腰を上げて立ち上がりその場から降り、砂上の目の前に立つ。砂上は八幡の咽元の肉に深く深く歯を突きたてようと口を開けると同じく、八幡は腕を振り抜いた。

 よく漫画やアニメで見る事があるだろう。顎を殴られると殴られた相手が気絶する描写があるが、これは実際に起こりうる。まぁ、かなり危険な行為であるから素人はしない方が良いのだが、八幡は呼吸をするように覚られることなく顎に一撃を入れた。

 脳を揺らされた砂上は糸の切れた傀儡のように、床に倒れ伏す。

「はぁ、相変わらず捻くれているな」

「うるせぇよ」

「まったく、強制的に入院させて戦線離脱させるなんて」

 八幡はため息をつきながら携帯を取り出し、どこかに連絡を取り始めた。

今、スキルアウト達が置かれている状況と言うのはかなりまずい状況にある。学園側としては、無能力者より能力者の方に価値があると判断している。そんな二者がぶつかればどうなるのか、考えるまでもなくスキルアウトの無残な姿しか残らないだろう。

 それでも、スキルアウト達は止まらない。

 ならば、どうすればいいのか。止まらないのであれば、止めればいい。八幡がやったのはそれだ。学園側からの妨害で受けた負傷、と言う名誉の傷で作戦から離脱させ、組織の立場を危うくさせずに助けた。

「んじゃ、帰って飯食おうぜ」

 連絡を終えた八幡は携帯をしまい、上条に声をかける。

「おう!」

 ようやく夕飯にありつける事にテンションが上がったのか、元気のいい返事を返した。

 

 

『デュエット』

それが、八幡と上条の暗部での名称である。命令系統としてはアレイスター直属となってはいるが、命令と言うよりは依頼としていくつかのリスト送られ、その中から八幡たちが選んで仕事を行うような暗部としては珍しい存在である。

アレイスター曰く、「他人にやらせられるより、自分から率先させた方が良い結果を導き出す」だそうだ。

 

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