Dクラス戦のあと、携帯で呼び出され僕たちはアレイシアに来ていた。アレイシアとは政府が精霊使いの監視と管理を目的とした世間非公開の組織だ。主な仕事は元素精霊界(アストラル・ゼロ)と呼ばれる精霊たちが住まう世界から間違ってこの世界に紛れ込んだ精霊の保護と駆除だ。駆除といってもそんなことはほとんどなく、ほとんどは保護で終わるけどそれに越したことはない。
明「あ、こんばんわ」
警「明久くん。所長にでも呼ばれたの?」
明「はい。ですので通してください」
警「わかったわ」
門の前にいる警備員は門を開けてくれた。見た目はどこにでもある普通のビルだ。世間非公開といっても目立っちゃいけないからね。中に入り、署長室に向かう。その途中で何人かすれ違ったけどほとんどが女性だ。精霊との交信や神威を持つものはほとんどが女性だからね。だから僕みたいな男が精霊使いは少ない。
コンコン
明「失礼します」
グ「入りな」
返事が帰ってきたので僕たちは中へ入って行った。中にいたのは社長イスに座った女性1人。ゆるやかに波打つブロンドの髪、妖艶な大人の色気、小さな眼鏡の下に、髪の色と同じ灰色の眼が、こちらをじっと見ている。彼女こそこのアレイシアの所長、グレイワース・シェルマイス。彼女の実力は世界でも5本の指に入るほど。故に彼女に憧れる精霊使いは多い。けど、僕にとってはあまり会いたくないオバサンだ。彼女は僕を保護し、同時に鍛えてくれた恩人でもあるけど、そのせいで何回死にかけたことか・・。
グ「久しいね、坊や」
明「そうだね。グレイワース」
グ「学園は楽しいかい?」
明「まぁね。それよりそんなことを話すために呼んだんじゃないんでしょ」
グ「ああ、そうだった。・・これを見たまえ」
グレイワースは僕にクリップを止めた紙の束を投げてよこした。レスティアと見てみるとそこには魔精霊のことが書いてあった。
明「これは何?」
グ「今ドイツで暴れている魔精霊さ」
魔精霊とは、元素精霊界にいる精霊が人間の負の感情に反応して闇に落ちた精霊のこと。その力は普通の精霊よりも上。そして魔精霊は人間とは契約することができないとされる精霊だ。そして稀に魔精霊が何らかの原因で人間界に現れることがある。
レ「ふ~ん。ランクはAランク。なかなかのものね」
精霊にも強さがある。S、A、B、C、D、Eランクと分けられる。
明「それで、何でこんなものを渡すの?」
グ「坊やたちにはこれからドイツに飛んで貰いたい」
・・・は?
明「ごめん。ちょっと聞き漏らしたみたい。もう一度お願い」
グ「まったく、これからドイツに行って貰う。3度目はないぞ」
明「・・・あの~、明日も学校があるんですが・・」
グ「もちろん休んでもらう」
ですよね~。
明「そんなに手を焼いているものなの?」
グ「ああ、かれこれ2か月は暴れている」
グレイワースの答えに驚いた。ほとんどの精霊はこっちの世界に居られるのはだいたい10日~20日、長くても1か月。2か月もこっちの世界に存在しているということは。
明「じゃあ、他の人に被害が」
グ「・・もう、10人以上はやられてる」
僕は無意識に拳を強く握りしめた。
精霊がこの世界に存在できるのは人間が持つ神威という力のおかげだ。けど神威を持つ人間はそうはいない。だからこっちに来てしまった精霊は自信が持っている力を消費して存在し、力尽きたら勝手に元素精霊界に戻る。けど、たまに精霊が人を襲う。ほとんどの精霊は動物の姿なので普通に人はあまり警戒しないだろう。動物のほかにもレスティアのように人間や竜、ドラゴンといった姿や悪魔などといった禍々しい姿をしているのも居るけど。そして精霊は人間を襲い、人間から魂のエネルギーを吸い上げる。魂のエネルギーとは、気力みたいなものでそれを吸われると激しい脱力感に見廻れ、それが無くなると人は生命活動を辞める。つまり死んでしまう。それを避けるために僕たちがいるのだ。
明「・・・わかったよ。行くよ」
グ「ふふ、さすが坊やだ。何かお礼が欲しいか?」
そう言ってグレイワースはやたらめった大きい胸を寄せ、前かがみで見てきた。胸元がざっくりと開いた服装だから胸が強調されて目のやり場に困る。
明「べ、別にいいよ」
グ「ふふ、顔が赤いぞ。意識してるのか」
明「そ、そういうわけじゃ・・」
レ「ふ~ん。明久は大きい方が好みなのかしら」
横から冷え切った声で僕に語りかけてきたレスティア。ゆっくりと横を向くと笑顔のレスティアがいた。けど、オーラが半端ない。
明「ちょぉ!ご、誤解だレスティア!ぼ、僕は別に・・!」
レ「ふふふ。あとでお話しましょう明久」
肩をポンッと叩かれた。かなり力が入っていて痛い。これは後で説教だな。
グ「あははっ、やっぱり坊やは面白いな」
明「笑い事じゃないよ・・・。それで移動手段は?」
グ「すでに手配しているよ」
さすがグレイワース、手が早い。グレイワースは電話を取った。
グ「フレイヤ。署長室に来てくれ」
しばらくして1人の女性が入ってきた。彼女はフレイヤ・グランドル。見た目20代後半の黒い髪をし眼鏡を掛けた人。彼女はグレイワースの秘書だ。
グ「では、後は頼むよ」
フ「かしこまりました」
僕たちは彼女についていき署長室を後にした。
何時間飛行機に乗ったことか。ようやくドイツについた。機内ではレスティアに軽くお説教を貰った。そのあとレスティアは僕に寄りかかってきてそのままの態勢にいた。そのとき腕に微かに柔らかい感触があってちょっとドキドキしていたのは秘密だ。それと機内で考えていたけど、この話をしたら僕が行かないわけないと思って話したな。まったく、油断ならない人だ。思わずタメ息をついてしまった。
レ「明久、タメ息は幸せを逃がすわよ」
明「もうすでに幸せはここにはないと思うけど」
時刻は午前6時。すでに日付が変わってしまった。
フ「あとは現地のものに任せてあります。直に迎えが来るでしょう」
レ「わかったわ」
フ「では、私はこれで」
そう言い残してフレイヤさんは飛行機に乗って行ってしまった。しかし、自家用ジェットがあるとはアレイシアはいろいろ揃ってるな。
そして、黒い横長の車が数台来た。どうやら迎えにきたみたい。車から銀髪の少女が出てきた。
セ「久しぶりだな、明久」
明「うん。そうだねセフィ」
彼女はセフィ・レティクル。銀髪赤眼のちょっと小柄な少女。彼女も精霊使いでこの国の精霊使いの機関、〈ルギア〉に所属している。精霊使いの機関は世界中にあって、代表的なのが日本とドイツ、イギリス、ロシア、アメリカなどにある。
明「最後にあったのは2年前かな?」
セ「もうそんなになるか」
彼女はルギアの中でもトップクラスの精霊使いで昔一緒に仕事をしたことがある間柄だ。そしてレティクル家はこの国で名門の一族だ。精霊使いの才能は遺伝するので国からもいろいろと優遇されている。
明「また会えてうれしいよ」
セ「ああ、私もだ。・・・正直寂しかったし(ボソッ)」
明「うん?なんだって?」
セ「な、何でもない!」
顔を赤くして顔を左右にブンブンと振っている。なにをそんなに慌ててるの?
セ「そ、それより魔精霊の位置だが・・ドイツ郊外の森の中が次の出現ポイントだ」
明「森の中か。でもよくわかったね」
セ「ふふ、私の部下は優秀だからな」
まるで自分のことのように誇らしく胸を張っている。それが少しかわいかった。・・後ろの女性たちが手をワキワキさせていたのがすこし気になったが。僕は手をセフィの頭にのせ、軽く撫でた。
セ「な、何をしている!?」
明「ん?いや~、セフィがかわいくてね。嫌だった?」
セ「そ、そんなことはない・・・な、ならそのまま、続けろ・・・」
セフィは驚きながらも嫌な素振りは見せなかったので僕はそのまま撫でた。セフィは赤くなりながらも気持ちよさそうに目を細めた。・・やっぱり後ろの人たちの手が気になる(汗)。しばらく撫で続けていると後ろから不満そうな声が来た。
レ「ねぇ、そろそろ行かなくてもいいのかしら?」
明「あ、そうだね」
僕はレスティアに頷いて撫でるのを辞めた。セフィは少し不満そうに口を歪めたが仕方ないと言い、僕たちを車に乗せ目的地に向かった。目的地に着くまで車の中では左右から腕を絡められていたのは言うまでもない。
目的地に着くと、数人の人たちがいた。その人たちの近くには精霊がいたからきっとルギアの精霊使いの人たちだろう。僕たちはすぐに作戦会議を開いた。
セ「敵の魔精霊は鎧の顔の形をした精霊だ。空中に浮かび近づいてきたものを噛み砕いてしまう。大きさは15mほどだ」
セフィが簡潔に説明してくれた。15mといえばだいたいビルの4階くらいまでの高さだ。
明「結構大きいね。倒すのに少し手間取りそう」
レ「そうね。力も強そうだし」
僕とレスティアも魔精霊と戦闘を行った経験はある。けど、ここまで大きいのはあまりない。
ク「〈黒の騎士〉でも手こずりますか」
セ「まあ、そうだろうな」
〈黒の騎士〉いつ間にか付けられた僕らの2つ名。いつも黒衣をきて黒の剣をふることから付けられた名前。でも恥ずかしいからあまり呼ばれたくないけどね。
明「出現まであとどのくらい?」
ク「予想時刻まであと1時間半です」
レ「それまでに作戦を考えないとね」
セ「そうだな」
それから時間ギリギリまで作戦会議は続いた。
僕は戦闘服に着替えて魔精霊を待った。戦闘服といっても見た目は黒のロングコートを来ているだけ。ツヤなしのレザー製で、エポーレット、フラップポケット、ベルトがごてごて付いている。金具は全て燻銀(ふすべぎん)。まるで軍服みたいなもの。でもこのコートがなかなか良いもので、神威を込めればある程度の攻撃は防げる。拳銃で打たれても傷一つつかない優れものだ。でも神威を込めなければただのコートだけどね。
明「レスティア、お願い」
レ「わかったわ」
レスティアの姿が消え、一振りの刀が現れた。これがレスティアの精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)―〈真実を貫く剣〉(ヴォーパル・ソード)。これで僕たちは沢山の魔精霊たちを斬ってきた。
セ「さて、私も行くか」
セフィも自分の精霊を精霊魔装させた。見た目はライフルの先に剣を付けた銃剣だ。さらにセフィの精霊は雷精霊なので神威の銃弾を受けたものは痺れて動けなくなる。
明「それも久々にみた」
セ「ふふ、でも昔のままじゃないぞ。私たちも成長しているのだからな」
明「その割にあまり背は伸びてないみたいだけど」
セ「そ、それを言うか!」
セフィは腕をブンブンと振り、抗議のポーズを取った。変わらないな、セフィは。僕はなごんだ気持ちになっていると空気が重く、背筋が冷たくなるような感覚を受けた。
セ「!!・・来たか!」
セフィの声につられ空を見上げると突然、雷鳴のような音が響いた。そして空の裂け目から、それは現れた。
ヴォ・・・ルォォオオオオオン!!
魔精霊が耳をつんざくような咆哮を上げた。最初に見えたのは顎。そして徐々に全体が見えてきた。胴体も尻尾も存在しない。ただ、ズラリと歯の並んだ不気味な顔が現れ、歯をガチガチと音を鳴らしていた。
明「あれが・・・魔精霊」
予想よりも禍々しい気迫に僕は旋律を覚えた。そして魔精霊は地上に向かって落ちてきた。
明「!みんな、逃げろ!」
僕の声に反応して落下地点にいた人たちは退避した。そして虚空に浮かぶ顔は森の木を薙ぎ倒し、大地を大きく削った。土や石が頭上から激しく降り注ぐ。
セ「くっ!」
反撃にセフィは神威の銃弾を魔精霊に打ち込んだ。だが、あまり効いた様子はない。
明「こんのぉ!」
僕は魔精霊に突っ込んで一閃を叩きこんだ。しかし、傷一つつかない。
明「くっそ!みんな、集中攻撃だ!」
周りにいた部隊に叫んだ。僕たちはまず魔精霊の顎から壊すことにした。あの魔精霊の最大の武器は強力な顎と歯。それさえ破壊すれば後はなんとかなると。
隊「でえぇいやぁ!」
セフィの部隊の隊員が土属性の精霊を使い、ゴーレムを作り拳を叩きこんだ。魔精霊は少し怯んだが、すぐに態勢を立て直し、ゴーレムの腕に噛みついた。ゴーレムは腕を振り、引き離そうとしたが先に腕を噛みちぎられてしまった。
明「くっ!」
僕も負けじと踏み込んで剣を振るがあまり効果がない。
このような状態が10分ほど続いた。
周りを見るとみんな肩で息をするほど消耗してしまった。対する魔精霊は多少傷ついているだけ。
ク「セフィ様、このままでは全滅です!」
セ「わかっている!」
セフィも大分疲れていて、綺麗な銀色の髪が土や泥で薄汚れている。
セ「クラリッサ!お前たちは撤退しろ!私が時間を稼ぐ」
ク「いけません!それでしたら私が!」
セ「いいから行け!これは命令だ!」
ク「ぅ・・・・!」
クラリッサという人は悔しそうに顔を歪ませながらも命令に従い、隊員に撤退の命令を下した。
セ「明久、お前も行け」
明「嫌だよ」
セ「明久!」
明「僕は絶対に仲間を見捨てない。それだけは死んでも嫌だ!」
僕はレスティアに神威を流し込んで再び斬りこんだ。
明「こんのぉ!」
バキィ!という音が響いた。魔精霊の顎が見事に欠けたのだ。おそらく今までのダメージが溜まっていたのだろう。これにはセフィも退避間際だったクラリッサたちも驚いただろう。
明「みんな!欠けたところを集中して狙うんだ!」
僕の声に反応し、一斉に責める。魔精霊は苦しそうな咆哮を上げた。欠けたところから罅が入っていき、しばらくして顎全体に回った。
セ「これで、トドメだ!」
セフィの一撃で顎は砕けた。セフィはその一撃で神威を使いきったみたいで精霊魔装は消え、片膝を付いた。しかし、魔精霊もこのままじゃあ終わらず、セフィに頭から突っ込んできた。
明「させるかぁ!」
僕は再びレスティアに残りの神威を全て注ぎ込み、最後の一撃を放った。
明「列華螺旋剣舞・十六連!」
縦横無尽に奔る無数の斬閃が、魔精霊を粉々に打ち砕いた。
明「はぁ、はぁ・・・お、終わっ・・た」
セ「あ、明ひ・・・さ」
セフィの叫びを最後まで聞かずに僕は意識を手放した。
ふと眼を開けると、そこは知らない天井だった。部屋全体が白で統一されていた。ここなどこだろうか?
レ「明久、起きたのね」
声が聞こえたので横を向くとレスティアがホッとしたような顔で僕を見下げていた。
明「ここは?」
レ「病院よ。あなた、あのあと倒れたのよ。きっと疲労と神威の不足が原因ね」
明「そうか・・・セフィは!?」
僕はセフィのことを思い出し、起き上がろうとしたがレスティアに止められた。
レ「大丈夫よ。セフィは隣の部屋で寝てるわ」
明「そう・・なんだ」
僕はホッと息を吐いた。ふと気付いてレスティアに問いかけた。
明「そういえば、今何時?」
レ「もう、十六時よ」
明「そう十六時・・・十六時!?」
ヤバい!そろそろ帰らないと明日の試召戦争に間に合わない!
明「ヤバいよ!早く帰らないと!」
レ「そう思ってすでにこちらに向かってもらってるわ」
さすがレスティア。またホッと息を吐くとレスティアが手を握ってきた。
明「レスティア?」
レ「・・明久。・・本当に良かった。あなたが無事で」
レスティアの瞳は揺らいでいた。心配を掛けたみたいだね。
明「ごめんねレスティア」
僕はレスティアの頭に手を伸ばし、そっと撫でた。
レ「うん。・・・お願いだから無茶はしないでね」
明「出来るだけそうするよ」
レ「もう、あなたは」
頬を膨らませ、不満をそうに顔を歪めた姿に少し可笑しくなって笑っちゃった。
しばらくして飛行機が到着した。僕は車いすに乗って病院を出た。見送りに同じく車いすに乗ったセフィが来てくれた。
明「セフィ。無理しなくていいのに」
セ「いや、これくらいさせてほしい。一番の功労者なんだしな」
明「そうでもないよ。あれはセフィたちが居たからだよ」
セ「ふふ、そうしておこう」
セフィはおかしそうに笑った。そして手を伸ばしてきた。握手ってことだろう。
明「またね。セフィ」
セ「ああ。といってもまた近いうちに合うことになるがな」
明「?どういうこと?」
セ「ふふ、直にわかるさ」
今度はセフィは意地悪そうな顔で笑った。何を考えているのだろう?
フ「準備ができました。お乗りください」
明「あ、はい。じゃあ、またね」
セ「ああ、また会おう」
セフィと近くにいた隊員たちは手を振って見送ってくれた。さて、明日までに付くといいんだが。
そして夕食のとき。
レ「はい明久。あ~ん」
明「ちょ、レスティア!ひ、一人で食べられるって!」
レ「何言ってるの。明久は今日の戦いで疲れてるんだから私に任せなさい。ほら、あ~ん」
明「ぅぅ・・・あ、あ~ん」
レ「は~い。うふふ」
そのあともずっとあ~んをさせられたのは言うまでもない。