だぁー.....と声をあげて、彼女は土に背中から倒れこむ。おかげでかぶっていた麦わら帽子が少しずれた。体力自慢であっても、慣れない畑仕事を炎天下の中で続けるには中々酷なものであったらしい。濃い青色のジャージが汗を吸ってさらに黒色のようになっている。
「もー僕疲れたよ、そろそろ休憩にしようよ?」
アブラゼミの騒がしい自己表現を聞き流しながら、もう一人の作業仲間に最上は声をかけた。
「
「えー....」
「|あくだれたって終わらんもんは終わらんわね《ふてくされたって終わらないものは終わらないよー》」
淡々と返していきながら、ポツポツと畑に生えた雑草を抜いていく。わずかにでも残しておけば一気に成長して、一気に土の栄養を持っていく。
夏の畑など、暫く放置しておけば雑草だらけになりかねない。
「ねぇ北上」
「何?」
「ぼくたちはいつまでこうしてるんだろうね.....」
「
「だよねー....」
戦うために生まれてきた彼女たちは、その存在理由を今現在、なくしつつあった。深海悽艦は艦娘たちの奮闘により、初期よりも数を大きく減らしていた。
だからこそ、こうやって鎮守府の裏の畑でのんびりと畑仕事に従事できる、というのもあるのだが、深海悽艦と戦うことを存在理由としてきた彼女らにとって、このまま深海悽艦が言葉通りの意味で全滅したときに自分達がどうなるのか、それからの生活をどうしたらいいのか、全く見当がつかなかった。
「最上は
「さあねぁ、僕はもうよく分からないよ。だからこそ、訊いてみたんだけど」
「
「でもさ、今よりももっと楽しくて、いろんな人と関わって、遊びに出掛けて。ダラダラして、働いて、友だちつくって....そんな普通の生活を送ってみたい」
時折現れる深海悽艦と戦い、怪我をして。知らない間に仲間が入れ替わり、居なくなりといった殺伐とした生活ではなく、一人間としての安息と生活を送りたい。ある意味彼女らしくもあり、平和を求める切実な思いの発露でもあった。
「
「|いんやだわね、そぎゃんことで変えたりなんかせんわね《そうじゃないよ、そんなことで方言を使わなくなったりはしないよ》」
「じゃあなんでかね?」
「
ちょこっとばかし照れくさそうに顔を逸らす最上には、なんとなく艷があった。ボーイッシュで女性らしさが欠けている、なんて感じさせる普段の彼女とは違う。女の子らしさがにじみ出ているとでも表現すればいいのか。
「.....へー、
「
「.......」
あははは、と苦い笑いを浮かべながらそう放つ彼女をみて、北上はふと自分について考える。
果たして自分は提督から標準語で話したらどうなるのか、などと言われたことはあっただろうか。
もし、深海悽艦の消滅後自分が生きていたとして、自分は一体どこで何をして居るのだろうか。
戦後のことを考えたことなどあまりなかった。もし、ここから出ていった時のために流石にこの方言は、標準語に直しておいたほうがいいのだろうか....。
「まあ、
なにか思うところがあったのか、最上も北上にあわせて方言で話し出す。
「.........
それにしても、と。自分の将来の身の振り方を
「
セミの騒がしい求愛活動の中に、憂い声は溶けていく。
『鎮守府』といっても、この鎮守府は海に面してはいない。海へは車で10分ぐらいといったところか。さらに鎮守府というよりも武家屋敷や日本家屋、と言われた方が納得がいく屋敷であった。庭の端にも小さな菜園があり、塀の外の畑はそこそこ広い。人をたいして雇っている訳でもないのでそこの畑仕事も彼女たち艦娘と、提督の仕事だ。
「アイスを出すのも
「ぼくもだよ....」
いざ中に入ると、疲れがどっとくる。
最上は言わずもがな、外では平気なように見せていた北上すらもテーブルに顎を乗せてだれていた。
「まったく...、二人ともお疲れ様」
アイス食べに戻ったんだろう?と眼鏡をかけた優しげな青年が声をかける。その手にはもちろんアイスが
「小豆バーは今は要らんに....(小豆バーは今はいらないよ)」
「ぼくも小豆バーよりガリガリ君とかバニラ系のアイスがいいなぁ」
「折角出したのに...」
そうはぼやきながらも素直に取り替えにいく辺り、優しいのか、単に気が弱いのかなんなのか。
よくも悪くも、彼のこう言った性格のお陰もあって、癖の強い者ばかりのこの鎮守府はなんとか機能している。
「ああ、そうだ。次の出撃は予定通り、8月10日になりそうだよ。任務も巡視だけみたいだ」
「ふーん....」
近頃は巡視の回数も減って、本当に自分達が戦うために生まれた存在であるということを忘れてしまいそうでもあった。そして、いざ敵と遭遇しても最盛期の頃のようには戦えないだろうという予感も彼女たちのなかにはあったわけである。
「身体、鈍ってるだろうからちゃんとトレーニングしとくこと。畑の方は俺が見とくから」
「トレーニングもたいぎなわぁ...」
「ぼくはスイカの様子
ふと、漏れる方言。
方言を使わないように意識していても、慣れ親しんだ言葉、そして癖はそう簡単には治ってくれやしない。
「見てなきゃいけない、じゃなくて見ていたいんだろ?」
大丈夫大丈夫、俺が様子見とくから、と提督が笑うのだが図星をさされたことと、矢張自分で様子を見ておきたいのとでむくー、と最上の頬が膨らんだ。
「ま、次も怪我しないで帰っておいで」
すでに
「わかっとるけん、でもまあ、
恥ずかしげに顔を逸らしながら彼女はそう言った