高校生活最後の試合。
俺は投手としてマウンドに立っていた。
鋭い日差し。
何度拭っても落ちてくる汗。
バックの守備の奴からの"踏ん張れ!!"の声。
キャッチャーからのサイン。
"ストレートをど真ん中に!"
俺の大好きな球種。
俺の一番の球を投げるべく、俺は大きく振りかぶった。
ランナーがいることなんて気にしない。
9回の裏、3対0なんだ。
そんなことよりも、俺は今俺に投げられる最高の球を投げる。
それが俺にできるバッターへの最大の礼儀だ。
スタンドからの"あと1人!!"のコールに背を押され、俺が投げた球は見事にキャッチャーのミットの中におさまった。
バッターはフルスイングだった。
キャッチャーが、内野や外野の奴がマウンドへと走り寄ってくる。
俺たちは勝ったんだ。
俺はただただ嬉しくて、仲間と共にその勝利を噛みしめた。
俺はその時の感覚が忘れられなくて、大学でも野球を続けるつもりだった。
だけど―――――
"知ってる?うちの野球部が勝てたのって、敵チームにお金を渡していたからなんだって!!"
監督の不正によるものだと分かった瞬間、あの勝利がとんでもなく汚く、そして、その勝利を喜んだ自分さえも汚く見えるようになってしまった。
それ以来、俺は野球という競技を見れなくなった。
プレイできなくなった。
俺にとって野球がすべてだったのに、俺にとっての野球はこの世で一番汚く、醜いものとなってしまった。
仲間から幾度となく大学のスカウトを受けることを進められた。
だけど、やはり穢れてしまったときの感情のほうが遥かに強く、とてももう一度野球を続けられる状態ではなかった。
多くの仲間は監督を恨んだ。
俺もはじめのうちは恨んでいた。
でも、今は違う。
むしろ、感謝をしているくらいだ。
俺に野球以外の道を見れるチャンスをくれたのだから。
それでも、今でもふとした拍子に思う。
"嗚呼、また野球がしたいな。たとえ、俺が汚くて、醜い奴だったとしても"、と…。
汚い俺が望んではいけないこと。
誰かにとって綺麗で大切な野球を他の誰でもない、汚してしまったのは俺自身だ。
そんなことが二度と起こらないように、俺は野球から離れていたほうがいいんだ。
もう誰にもこんな思いをしてほしくない。
俺がチームにいれば、"不正をした高校の奴がいる"というレッテルが貼られるだろう。
過去だけではなく、現在でも未来でも、誰かに迷惑をかけてプレイすることになる。
それだけは、避けなくては。
俺の思いはただそれだけで。
でも、後から考えたらこれはただの俺の言い訳だったんだな、って思う。
俺自身が周りの連中からそういう風に見られたくなかっただけなんだなって。
これは俺がもう一度野球を初めて、もう一度野球へと挑む物語。
改稿しました。 2015/8/31