神域に憧れて   作:典型的凡夫

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 当作の舞台はGXになりますが、マスタールール2を用いています。これはシンクロやエクシーズが登場するからではなく、召喚・特殊召喚成功時に起動効果を発動できないルールを通したいがためです。ライフポイントはアニメに従って4000になっています。
 なお《》の括りはカードの正式名を、【】はデッキの呼称を表しています。


入寮
001 入試


 海馬ランド。それは海馬コーポレーションの現社長、海馬瀬人が設立した巨大なテーマパークである。ある春の良き日、そこでデュエリストを養成する学園デュエル・アカデミアの実技試験が行われていた。

 デュエリストとは、その名の通り決闘を行う者を指す。とはいえ殴り合う訳ではない。デュエルモンスターズというカードゲームを用いた戦いが、一般にデュエルと呼ばれているのである。

 たかがカードゲームと侮ることなかれ。このデュエルモンスターズは現在、プロが存在するほどの一大事業となっている。言うなればこの学園はスポーツ特待生のみを対象とした専門校と同等、もしくはそれ以上。テーマパークで試験が行われているのも遊びではなく、単にオーナーが同じであるからに他ならない。

 そんな重大事であるが故に、優先度は高い。試験会場は丘の上にあるドーム1つ分と、高校受験に値するとは信じ難い程のスペースが用意されている。巨大なドームには現在4つのデュエルフィールドが用意されており、実技でありながら複数の試験が同時に進行していた。

 

 筆記試験の不出来な者からふるいにかけられ、試験も終盤に差し掛かった頃。理知的な相貌をした1人の少年が、やや緊張した面持ちで戦いの舞台へ上がる。彼は自身を落ち着かせるように一旦大きく息を吐いてから、試験官への挨拶を口にした。

 

「受験番号12番、柳川(じん)です。宜しくお願いします」

「君の試験を担当する北島だ。試験だからといって勝敗に拘らず、普段通りのデュエルを心がけるように。……それではこれより試験を開始する」

 

 挨拶もそこそこに北島は腕に装着したデュエルディスク――ソリッドヴィジョンと呼ばれる立体映像を映し出す装置――を構え、試験の準備へ入った。仁もそれに倣い、自身のディスクを起動させる。

 

「では、先攻後攻好きなほうを選びなさい」

 

 互いの準備が済んだところで、北島が受験者へ話しかける。通常は公平を期すため、デュエルディスクが自動的に先手の判定を行う。しかし北島は試験官として相手を見極めるため、先手を選ぶ権利を仁にゆだねた。

 

「それでは先攻をとらせてもらいます」

 

 デュエルモンスターズは基本的に先攻有利のカードゲームである。先攻の場合は極稀な例外を除き、確実にカードの効果を使うことができる。更に即座に発動できない罠カードでさえ、次のターンだけはカウンター罠で邪魔されることもない。後攻は、言わば予め築かれた城に攻め入ることを強要されるのである。

 一方で後攻が有利なデッキも存在すると考える者も居る。しかしそれは後攻1ターンキルの印象があまりに鮮烈に残ることから生まれた考えであり、偶然の産物に過ぎない。それが仁の持論であり、彼に先攻有利と言わしめる要因であった。

 

「ドロー。メインフェイズに入ってモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 仁の動きは先攻として堅実な手。モンスターのセットは自らの手の内を晒さず、相手への牽制になる。そして魔法・罠のセットによりそれは強まり、相手の行動抑制に繋がる。加えてその数を2枚にすることで、全ての魔法・罠カードを破壊する《大嵐》を受けた際の損失も抑えていた。

 つまり仁の動きは、如何様にも対応できる無難な手。無論カードの内容にもよるが、北島もその行動には及第点を付けた。

 

「では私のターン。メインフェイズに入り、《マハー・ヴァイロ》を召喚。更に《デーモンの斧》を装備する」

 

 北島のフィールドに青いローブを着た男が現れ、巨大な斧を手にする。

 《デーモンの斧》による攻撃力の上昇は1000であるが、今回はそれだけに止まらない。《マハー・ヴァイロ》には、装備されたカード1枚につき、攻撃力を500上昇させる効果が備わっている。元々の攻撃力1550と合わせ、その数値3050。最上級モンスターの代名詞《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の攻撃力を、僅かながら上回る程となる。

 

「更に手札から《悪魔のくちづけ》を捨て、《THE トリッキー》を特殊召喚!」

 

 《マハー・ヴァイロ》に続き、その隣に顔と胸にクエッションマークの付いたピエロのようなモンスターが現れた。

 トリッキーは手札からの特殊召喚が可能な上級モンスターである。攻撃力は2000と低めであるが、下級モンスターを倒すにはそれで十分。この状況で《マハー・ヴァイロ》の攻撃を仁へ通すには、最適なモンスターと言えよう。

 

「バトルフェイズに入る。トリッキーでセットモンスターに攻撃!」

 

 トリッキーが突風を巻き起こし、伏せられたカードへ攻撃の矛を向ける。竜巻はそのまま、露になった巨大なトンボを吹き飛ばした。

 

「セットモンスターは《ドラゴンフライ》です。デッキから《忍者義賊ゴエゴエ》を特殊召喚します」

 

 守備表示のため、仁にダメージはない。そして《ドラゴンフライ》に代わり、巨大なキセルを持った赤い服装の男が現れる。

 

「成程、リクルーターだったか……」

 

 北島の口から言葉が漏れる。リクルーターとは、デッキからモンスターを特殊召喚する能力を持つものの総称である。《ドラゴンフライ》の場合、戦闘破壊され墓地へ送られた時、攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できる。戦闘破壊されてもボードアドバンテージを失わず、状況に応じて好みのモンスターを呼び出す。今ではなく先を見据えて活躍するモンスター、それがリクルーターである。

 しかし北島にはまだ《マハー・ヴァイロ》での攻撃が残っている。モンスターを残すために、この状況下では再びリクルーターを出すのが定石。それを破ったからには、仁に何らかの意図があると考えるのが自然であろう。つまりは攻撃を防ぐ手段が存在する可能性が高い。よって北島には攻撃をしないという手もある。とはいえ、このデュエルは試験。北島には最善のプレイングではなく、受験者を見極めるためのプレイングが求められていた。

 

「続いて《マハー・ヴァイロ》で《忍者義賊ゴエゴエ》に攻撃する!」

「罠カード《鎖付きブーメラン》発動! 《マハー・ヴァイロ》を守備表示にし、《鎖付きブーメラン》をゴエゴエに装備します」

 

 《マハー・ヴァイロ》が斧を振りかぶってゴエゴエに襲い掛かるも、その斧には鎖が巻きつき、攻撃を止められる。続けざま赤の男はその鎖鎌を引き戻し、自身の手に持ち構え直した。

 これでゴエゴエの攻撃力は2000となり、《マハー・ヴァイロ》は1400という低い守備力を晒す。明らかに北島の優勢であった先程までとは打って変わり、状況はほぼ同等となった。

 

「メイン2に入り、カードを1枚セットしてターンを終了する」

 

 北島のデッキは《マハー・ヴァイロ》や《デーモンの斧》の存在からもわかるように、【装備ビート】の一種である。【装備ビート】とは通常召喚可能な下級モンスターを、装備カードによって強化するビートダウンデッキを指す。このデッキは攻撃力を爆発的に高められる点で優れているが、強化したモンスターを失った時の損失が大きいという欠点を持っている。

 《マハー・ヴァイロ》の攻撃力は高いが、現状では自身と装備カードどちらの効果も守備力を上昇させていない。守備表示となったことで戦闘破壊が容易になり、それは北島に多大な損失を与えることに繋がる。安易に1体目の攻撃を防がなかったことを、北島は評価した。

 

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》を召喚!」

 

 仁のフィールドに背中に羽の生えた――所謂鳥人と呼ばれるような――白髪の男性が現れる。その攻撃力は下級モンスターにして2000と高い。

 攻撃力1900を超える下級は往々にしてデメリットを持ち、《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》も例に漏れずその範疇に入る。とはいえ、このカードの場合は大したものではない。攻撃宣言のために自分フィールド上のカードを手札に戻す必要がある、ただそれだけ。モンスターの場合は厳しくなるが、戻すカードを魔法・罠カードとすれば何の問題もない。

 

「バトル。《鎖付きブーメラン》を手札に戻し、ファルコンでトリッキーに攻撃!」

 

 ファルコンが手にした剣でトリッキーを斬りつける。その直後トリッキーの生み出した竜巻がファルコンを吹き飛ばし、相打ちとなった。

 

「更に、ゴエゴエで《マハー・ヴァイロ》に攻撃する!」

「順番を間違えたな。リバースカードオープン《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》! ゴエゴエは破壊させてもらう!」

 

 仁が《マハー・ヴァイロ》を先に狙っていれば戦闘破壊のチャンスは2度になり、北島にはこれを守る術がなかった。しかし攻撃が1度だけならば話は別である。攻撃モンスターを破壊することで、攻撃力3000を越えるモンスターを残すことができる。

 しかし仁とて考えなしの行動ではない。

 

「ならばチェーンして永続罠《忍法 変化の術》! ゴエゴエをリリースして効果発動! デッキから《セイバー・ビートル》を特殊召喚する!」

 

 対象となったカードをコストにすることで、相手の用いた効果を不発に終わらせる。自ら余分なカードを使用することなく相手のカードを消耗させるそれは、リリースエスケープと呼ばれる。これはカードアドバンテージを重視する際の基本であり、デュエルモンスターズにおいて重要な位置を占めてもいる。

 そして《忍法 変化の術》はリリースしたカードのレベル+3以下の獣族・鳥獣族・昆虫族モンスター1体を特殊召喚できる。ゴエゴエが煙に包まれそれが晴れると同時、中から巨大なヘラクレスオオカブトが姿を現した。

 

「《セイバー・ビートル》で《マハー・ヴァイロ》に攻撃!」

 

 相手の罠をかわした上での強襲。仁は今回、目一杯のレベル7ではなく、レベル6の昆虫《セイバー・ビートル》を選択した。その1番の理由はこのモンスターが持つ貫通効果にある。

 攻撃を受けたモンスターが守備表示でありながら、北島はこのデュエル初のダメージを受ける。両者の差は1000と、初期ライフの4000から見ればそれなりの大きさ。彼はそのライフを3000へと減らした。

 

「メイン2に入り、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 このターン、仁は北島のモンスターを全て倒し、ダメージを与えることにも成功した。攻撃力3000と2000のモンスターを相手にしたと考えれば、十分な結果と言えよう。

 しかし観戦者の中からは、仁のプレイングを疑問視する声も挙がっている。《忍者義賊ゴエゴエ》から攻撃したほうが良かったというものである。ゴエゴエが先に攻撃したならば、罠がなかった場合は《セイバー・ビートル》でトリッキーを倒しファルコンで直接攻撃ができる。たとえ罠があってもビートルでトリッキーを、ファルコンで《マハー・ヴァイロ》を倒せる。つまりどちらの場合も相手のモンスターを一掃した上で、ビートルとファルコンの両方を残すことができる。

 故に仁のプレイングは最善とは言い難い。そんな意見が広がっていた。

 それは北島も変わらない。あのタイミングで《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》を使用したのも、《忍法 変化の術》があるなら態々相打ちにはしないと思ったことが大きい。

 今回は偶々北島の裏をかくことになり大きなダメージを与えているが、基本的にデュエルモンスターズではライフ・アドバンテージよりもボード・アドバンテージのほうに重きを置く。そう考えると仁の戦略ミスであると感じるかもしれない。

 しかし事はそう単純ではない。今回は仁がモンスターを残すことに捕らわれず、相手のデッキに対応した策を採っただけである。

 

「私のターン、ドロー。モンスターをセットしてターンエンド」

 

 ターン開始時の北島の手札は、ドローを含めて僅か2枚。加えてフィールドには何もなかった。そんな状況を一息に覆せなくとも、ある程度は仕方がない。後は自分のターンが回ってくることを祈るばかりである。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 仁にしてみれば、ここは畳み掛ける絶好の機会。相手の場に伏せカードのない今は全滅の危険性もなく、安心して展開することができる。

 しかし新たに加わったカードを踏まえても、仁の手札に下級アタッカーは存在しなかった。故にここで仕掛けることは叶わない。

 

「このままバトルフェイズに入ります。《セイバー・ビートル》でセットモンスターに攻撃!」

 

 カブトの巨大な角が鉄を鍛えている男を貫き、その勢いのまま北島に襲い掛かった。どうにか下級モンスターを伏せただけの彼にこれは痛い。北島に与えられたのは1900のダメージ。そのライフは1100へと減らされた。

 しかし彼もただでは終わらない。大ダメージを承知でセットしたモンスターの効果を発動させる。

 

「《名工 虎鉄》のリバース効果発動! デッキから装備魔法《魔導師の力》を手札に加える!」

 

 虎鉄の効果により、北島は装備カードをその手中に収める。《魔導師の力》は自分の魔法・罠1枚につき、攻守を500上昇させるというもの。装備カードを多用する彼のデッキでなくとも採用されうる、爆発的にステータスを高めることも可能な代物である。

 手札を増やしたとはいえ、これで北島のフィールドはがら空き。3ターン目で周囲の者が考えたようにファルコンを残す戦術を採っていれば、仁の勝利で既に決着は付いていた。手痛いミス。仁の考えも間違いとは言い切れないが、結果的に勝利を逃したことは絶対不変の事実であった。

 

「リバースカードを1枚セットしてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 

 新たにドローしたカードを目にした瞬間、北島の口元が僅かに緩む。

 装備カードを加えたものの、先程まで北島の手にモンスターはなかった。北島が凌いだとはいえ未だ仁の優勢であったが、それもこのドローで変わる。

 

「《漆黒の戦士 ワーウルフ》を召喚する」

 

 人の型をとった漆黒の狼がフィールドに現れる。攻撃力は1600と若干低めであるが、装備カードによって攻撃力を高める北島のデッキにおいて、それは然程気にならない。そしてこのカードの真価は効果にこそあった。

 

「更に《漆黒の戦士 ワーウルフ》に《魔導師の力》と《団結の力》を装備!」

 

 ローブを纏った老人が数人現れ、《漆黒の戦士 ワーウルフ》を崇めるようにして祈りだす。すると忽ちワーウルフの筋肉が膨れ上がり、その体を一回り大きくさせた。

 自分のモンスター1体につき攻守を800上昇させる《団結の力》と合わせ、ワーウルフの攻撃力は3400にも達している。その攻撃力はビートルを優に上回っている。

 しかし問題は攻撃力よりもモンスターの永続効果にある。ワーウルフの効果により、仁はバトルフェイズに罠カードを発動できない。彼の伏せカードが意味を成さなくなってしまったのである。

 

「バトル! ワーウルフで《セイバー・ビートル》に攻撃!」

 

 強化された狼男が巨大なカブトムシに襲い掛かる。《セイバー・ビートル》はワーウルフを迎え撃とうとするが、攻撃力の差は歴然。相手にその角を叩き折られ、打ち倒された。

 今度は仁が初のダメージを受け、そのライフを3000へと減らす。未だにライフは仁が上回っているものの、有利なのは明らかに北島。フィールドにモンスターがいるのは彼だけであり、一方の仁はカードのほとんどが腐っている。

 もっとも、手札のない北島に今できることはない。そのまま彼はターン終了を宣言した。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 仁が優勢だった前のターン開始時に対して、一転今の状況はかなり苦しい。手札に現状を打破するカードもなく、今の彼はただ耐えるしかない。

 

「……モンスターとリバースカードを1枚ずつセットしてターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 

 現在の状況は北島優勢と言えるとはいえ、この程度の有利不利は容易に引っくり返る。

 そしてここで、先程仁が伏せたカードが問題となる。バトルフェイズに罠カードを発動する事ができない今の状況で、彼が態々カードを伏せたとなれば速攻魔法の可能性がある。その中でも北島が恐れているカードは、モンスターを裏側守備表示にする《月の書》である。それを使われては北島の場に守備力600のセットモンスターしか残らない。

 しかしそれは逆に言えば、仁のセットモンスターが攻撃力600以下でない限りワーウルフを撃破できたということ。自然《月の書》の可能性は低くなる。

 

「ドローした《メテオ・ストライク》を発動! 《漆黒の戦士 ワーウルフ》に装備させる!」

 

 装備魔法の増加により、北島のモンスターは攻撃力を更に上昇させる。《メテオ・ストライク》は貫通効果を付与するのみで攻撃力を上昇させるものではない。しかし今回は《魔導師の力》により、攻守が500の増加を示す。

 《月の書》などフリーチェーンのカードのことを考えるなら、北島がここで装備魔法を使用するのは悪手である。しかし《メテオ・ストライク》では攻撃力を上げることができず、温存しても単体では役に立ちにくい。それならばと北島は仁の伏せカードが《月の書》でない可能性に賭けることにした。

 

「ワーウルフでセットモンスターに攻撃!」

 

 強化された狼男が緑装束の忍者を殴り飛ばす。その余波は仁にまで及び、彼にダメージを与える。倒された《忍者マスター SASUKE》の守備力は1000。仁のライフは辛うじて100を残すのみとなった。

 

「もう壁を出して凌ぐこともできないぞ? ターンエンドだ」

 

 仁の場にモンスターはなく、対する北島の場には貫通効果を持った攻撃力3900のモンスターがいる。その上、仁はバトルフェイズに罠カードを発動する事まで封じられていた。正しく絶体絶命のピンチである。

 しかし仁のデッキにはこの状況を打破するカードが眠っており、そのための布石も彼は既に打っている。人事を尽くして天命を待つとはこのような状況なのかと考えつつ、何れにせよ最後になるであろうドローを仁は宣言した。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 おもむろに引き入れたカードを見た彼は、その顔に笑みを浮かべる。

 

「魔法カード《増援》を発動! デッキから《女忍者ヤエ》を手札に加える!」

 

 数ある戦士族の中から仁が選んだのは《女忍者ヤエ》。通常ならくノ一と呼ばれるところであるが、忍者と名付けられたが故に【忍者】シリーズの恩恵を受けることができる。

 

「ヤエを召喚。そして手札から風属性の《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》を捨てて効果発動! 相手フィールド上の魔法・罠カードを全て手札に戻す!」

 

 忍術によるものなのか、《女忍者ヤエ》の巻き起こした風がワーウルフを元の状態へと戻した。

 しかしヤエの攻撃力は僅か1100。これだけではまだ届かない。

 

「更に! 2枚目の《忍法 変化の術》を発動! ヤエをリリースし、《ヴァリュアブル・アーマー》を特殊召喚!」

 

 今度はヤエが煙に包まれ、黄金のカマキリが姿を現す。

 《漆黒の戦士 ワーウルフ》が罠の発動を阻害するのはバトルフェイズ中のみ。故にこのタイミングであれば使用可能となる。そして《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃力は2350と、現在のワーウルフを上回っている。

 いつの間にやら形勢は逆転。しかし問題はまだ残されていた。

 

「確かに悪くない手だ。しかしそれでは私のライフが残る……。次はどうする積もりだ?」

 

 確かにヤエの効果によりワーウルフは大幅に弱体化している。しかし双方の攻撃力の差は750。残りライフ1100の北島を倒すには至らない。

 フィールドから装備カードがなくなったとはいえ、それらは手札に戻しただけに過ぎない。つまり次に北島がモンスターを引いてくるだけで、再び同じ状況に陥ってしまう。そうなれば仁の敗北は必死であろう。

 勝どきを上げるにはまだ早い。そんな生徒を戒めるような北島の発言に、仁は余裕を持って返すのであった。

 

「お忘れですか? 《霞の谷(ミスト・バレー)で手札に戻したカードを……」

 

 それは仁が1体のモンスターを失ってまで手元に残したカードである。3ターン目でファルコンから攻撃したのもこのカードを重んじてのこと。

 そもそも攻撃力3000オーバーが容易に出てくる【装備ビート】相手に、ただ下級モンスターを残したところでそれほど大きな意味はない。それよりもそんな高攻撃力のモンスターに対応できるカードを確実に残すほうが有効になると仁は考えた。

 彼にとって不幸なことに、これまでは《漆黒の戦士 ワーウルフ》の攻撃力と効果によりそのカードは意味を成さないものとなっていた。しかし、今ならそれが勝利への決め手となる。

 

「…………っ、《鎖付きブーメラン》か!」

「その通りです! 罠カード《鎖付きブーメラン》発動! 俺は2つ目の効果を選択します!」

 

 《ヴァリュアブル・アーマー》の鎌と《鎖付きブーメラン》が融合し、その刃を一層鋭くする。これで攻撃力は2850。ワーウルフの攻撃力1600と、北島のライフ1100の合計を超えた。

 

「バトル! 《ヴァリュアブル・アーマー》でワーウルフに攻撃!」

 

 黄金のカマキリが漆黒の狼男に襲い掛かる。元に戻ったワーウルフには最早《ヴァリュアブル・アーマー》の攻撃を止める力はない。

 カマキリの鋭利な鎌がワーウルフの体を真っ二つに切り裂く。同時に北島のデュエルディスクから敗北の音が鳴り響き、デュエルの終了を告げた。




今日の最強カード

《鎖付きブーメラン》
通常罠
次の効果から1つ、または両方を選択して発動する事ができる。
●相手モンスターが攻撃をした時に発動する事ができる。その攻撃モンスター1体を守備表示にする。
●このカードは攻撃力500ポイントアップの装備カードとなり、自分フィールド上に存在するモンスター1体に装備する。

「今日の最強カードは《鎖付きブーメラン》だ。2つの効果から1つ選ぶカードは幾つかあるが、このカードはその両方を使えるという非常に珍しい特徴を持っている。攻撃力の差が500未満ならダメージステップに使って迎撃、戦闘破壊できないなら守備表示にする、そして自ら攻撃する時も発動可能……といった具合に1枚で様々な状況に対応できる。俺がやったように装備されたこのカードを手札に戻せば、使い回すことも可能だ。
 もっとも使い回す場合は相手に存在がばれているから、基本的には攻撃抑制にしかならない。《忍者マスター SASUKE》とのコンボをしにくいのが残念だ」
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