いつの間にか恐怖も忘れ去り、仁は勝負に見入っていた。単に2人が強いためではない。人を惹きつけてやまない何かが、そこにはあった。
発せられるは他を圧倒する膨大な才気。そこに善悪など関係ない。全ての者が固唾を呑んで勝負の行く末を見守っていた。
「俺のターン、ドロー!」
《マシンナーズ・フォートレス》のアドバンス召喚により危機を脱した金城。そんな彼の手にモンスターが加わる。
しかし赤木の伏せカードは3枚。それだけあれば全体除去の可能性は否でも応でも高まる。
それを考慮し、金城は引いたカードを手元に残すことを選んだ。金城が今必要としているのは赤木のライフを削りきることのできるモンスターのみ。それ以外を召喚してもメリットよりデメリットのほうが大きいのである。
「バトル! フォートレスで
「永続罠《強制終了》を発動。偵察機を墓地に送ることで、バトルフェイズを終了する」
赤木の身を守るようにしてフォートレスの眼前に壁が生まれる。一気にエンドステップまで移行されては流石にその砲撃も届かない。攻撃を阻むその様を、金城は親の仇を見るような目でにらみつけた。
《強制終了》の効果を発動するにはコストとして他のカードを墓地へ送らなければならず、基本は単なるその場凌ぎに過ぎない。
しかし今、赤木の場には《速攻の
つまり《強制終了》あるいは黒い忍者を除去しない限り、金城の攻撃が赤木に届くことはない。勝利まで後一息というところに来ている彼にとって、これ以上に煩わしい存在もなかった。
「……ターンエンドだ!」
「ドロー。メインに入り黒い忍者を守備表示に変更。更にカードを1枚伏せてターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
赤木は攻めに入らず、守りの姿勢を取った。伏せカードは増えたものの攻め手がないのであろう。対する金城としては、動きのない今のうちに赤木へ引導を渡したくなる。
「《グリーン・ガジェット》を召喚、《レッド・ガジェット》を手札に加える!」
最早何度目かわからないガジェットの召喚。次のカードがデッキに残っている限り、金城の手札が減ることはない。それこそが【ガジェット】最大の強みと言える。
「バトル! 《グリーン・ガジェット》で黒い忍者に攻撃!」
偵察機と同じく黒い忍者の守備力は1200。攻撃力の低いガジェットであっても、イエロー以外であれば倒すことができる。
「偵察機を墓地に送り《強制終了》の効果を発動する」
「2度もさせるか! 手札から《サイクロン》発動! 《強制終了》を破壊する!」
赤木の防御カードへ向かって空気の渦が伸びる。一般的な効果と違い、永続魔法や永続罠の効果を適用するにはそのカードがフィールド上に存在している必要がある。故に金城がしたようにチェーンして破壊すれば、コストを支払わせながら不発にすることが可能になる。
確かにそれは正当な戦略であろう。しかし正しいことが常に最善になるとは限らない。特にこの男、赤木しげるを相手にしては。
「それなら偵察機2体を除外して黒い忍者の効果を発動しよう。更に《積み上げる幸福》、《
赤木が発動した2枚のカード。それらは「チェーン4以降」「同一チェーン上に同名カードの効果が複数回発動されていない」という共通の発動条件を持つ。無論、そんな条件があれば効果も強力である。《積み上げる幸福》は2枚のドローを可能とし、《奇跡の蘇生》は速攻魔法でありながら《死者蘇生》と同様の効果となっている。
偵察機を墓地に送らせてから《強制終了》を破壊する。攻撃が決まれば勝敗が決する以上、金城の戦略は間違っていない。しかし現実にはこれが裏目となる。結果的に赤木のカードを発動する条件を満たしてしまった。
そして地面が光を放ち、《ダーク・シムルグ》が蘇る。更には赤木の手札までも増えることとなった。
《強制終了》の破壊には成功したものの、金城の眼前には《ダーク・シムルグ》が立ちはだかっている。フォートレスから攻撃していれば自爆特攻しての直接攻撃もありえたが、ガジェットが先に攻撃してしまってはそれもできない。
もし黒い忍者が攻撃表示のままであったなら、こうはならなかった。そう考えた金城の脳裏に1つの仮説が浮かび上がる。黒い忍者は結局自身の効果で除外されているため、態々守備表示にする必要はない。しかし今の状況は、明らかにその行動によって引き起こされている。となれば考えられるのは1つ。金城の行動を誘導するための行為、そうとしか思えない。
つまり赤木は《強制終了》が破壊されることを見越していたことになる。黒い忍者を守備表示にすることでガジェットによる戦闘破壊を可能とし、金城に攻撃させるよう誘導する。この状況では偵察機を墓地に送らせてから《強制終了》を破壊するのは必然。そして多くが、フォートレスの攻撃権を残すように行動するであろう。
更に黒い忍者を守備表示にすること自体に不自然さがなかったことも大きい。相手の場に攻撃力の勝るモンスターが居て且つ攻撃できない状況では、表示形式を守備にすることはむしろ自然。作為があることに気付けというほうが無理な話である。
金城はその策にものの見事にはまってしまった。勝機を逃し苦境に立たされることになったものの、彼にもまだ打つ手は残されている。
「ちっ……攻撃は中止だ! メイン2に入り魔法カード《地砕き》を発動する!」
最も守備力が高い相手モンスターを破壊する《地砕き》。金城の宣言とともに天空から巨大な拳が落下し、文字通り地を砕く一撃が炸裂する。
赤木の場にはモンスターが1体しか居ない。当然破壊されるのは《ダーク・シムルグ》。拳が消え去った後には、怪鳥は影も形もなくなっていた。
「これでターンエンドだ」
「エンドフェイズに偵察機2体を特殊召喚し、黒い忍者を帰還させる」
金城のターンが終わる間際、半永久機関を成す3体がフィールドに舞い戻る。準備に時間はかかるものの、揃えた後に受ける恩恵は大きい。これで赤木は再びコストとなるモンスターを確保したことになる。
「俺のターン。偵察機2体をリリースし《ライトニングパニッシャー》をアドバンス召喚」
雷鳴とともに現れたのは仮面を付けた男。人型とはいえ、雷を纏ったその姿には畏怖を感じさせられる。
攻撃力こそ2600と最上級としてはやや物足りないが、このカードはチェーンが3つ積まれた場合、相手フィールド上のカード1枚を破壊する効果を持つ。コストなしに何度でも発動できるため、上手く用いれば強力なことは間違いない。
「バトルだ。まずは黒い忍者でガジェットを攻撃する」
300のダメージにより金城のライフは2700へ。これで3000を切ったものの、未だに危険領域と言うほどではない。
「更にパニッシャーでフォートレスに攻撃」
「速攻魔法《月の書》発動! 《ライトニングパニッシャー》を裏側守備表示にする!」
攻撃のために雷を装填していた《ライトニングパニッシャー》がカードの姿へと戻される。
《月の書》の効果はモンスターを裏側守備表示にするという単純なもの。とはいえ用法は多岐にわたり、汎用性は高い。先程は《ダーク・シムルグ》の効果により使用できなかったものの、事実今は攻撃を防ぎ、後にパニッシャーの守備力の低さに付け入る攻防一体のカードとなっている。
「このままターン終了だ」
「俺のターン、ドロー! 《血の代償》を墓地に送り《マジック・プランター》を発動! 2枚ドローする!」
永続罠を墓地に送ることで、《マジック・プランター》により金城が2枚のドローを得る。
今の状況でガジェットを召喚し続けても意味はなく、《血の代償》も役に立ちはしない。未だ1度しか発動せず本領を発揮していないものの、金城は赤木を倒しうるカードを引く可能性に賭けた。
「……《マシンナーズ・ギアフレーム》召喚! 《マシンナーズ・カノン》を手札に加える」
ここで金城が最も欲したのは伏せ除去の可能なカード。しかし流石の彼も常に最良のカードを引ける訳ではなく、生憎とその願いは叶わない。とはいえ何もなかった訳でもない。
ギアフレームはマシンナーズと名のついたモンスターであれば、どのようなカードであっても手札に加えることができる。これは最善の代わり、次善の一手である。
「バトルだ! ギアフレームでセットモンスター、《ライトニングパニッシャー》に攻撃!」
守りの体勢を取っていたパニッシャーにギアフレームの拳が入る。攻撃側の1800に対し、守備は1600。防具のないパニッシャーはそれだけで倒されてしまった。
一見しただけでは、これは無意味な行為。フォートレスで黒い忍者に攻撃すれば赤木のライフ300を削りきることはでき、金城が他の攻撃を行う必要はない。
しかし黒い忍者が攻撃表示で残っている状況に、金城は作為を感じていた。
無論これはガジェットを攻撃した結果ではある。それでも金城の場に伏せカードがあった以上、フォートレスの残る現状はまるで想定することのできなかった事態という訳でもない。つまり赤木が攻撃してきたのは、この状況を耐えるだけの何かがあるためと金城は考える。
そして金城は赤木の表側表示モンスターが黒い忍者のみということから、何よりも《ゼロ・フォース》を警戒した。
ギアフレームから攻撃すれば、仮に《ゼロ・フォース》を発動されたとしても攻撃を取りやめてフォートレスを守備表示に、ギアフレームはユニオンさせることで凌ぐことができる。手数は減るが、フォートレスを蘇生しなかったのも同様の理由であった。
しかしここで何も起きなかったことで、《ゼロ・フォース》や《聖なるバリア-ミラーフォース-》の危険性はほぼなくなった。金城は安心して次の攻撃に移る。
「フォートレスで黒い忍者に攻撃!」
「墓地から偵察機を2枚除外し、黒い忍者の効果発動。このカードを除外する」
そんな金城の予想に反し、忍者は再び闇に溶けた。考えを読んだ上でパニッシャーを犠牲にしての《ゼロ・フォース》かと彼が疑うも、赤木にカードを発動する様子はない。あまりに不自然な状況に、金城は考えにふける。
既に攻撃宣言時のタイミングは終了しているため、《聖なるバリア-ミラーフォース-》などがあっても発動できない。この状況では《和睦の使者》によりダメージを防ぐ程度しか金城には思い浮かばないが、それでは先ほど《ライトニングパニッシャー》を守らなかった説明が付かない。
ありえるとすれば《レインボー・ライフ》等によるダメージのライフ変換か。仮にそうであるとすれば、赤木に相当な量の回復を許してしてしまう。この攻撃を中止するのも戦略の1つと言えよう。
「……攻撃は続行、ダイレクトアタックだ!」
しかし金城はあえて攻撃を選択した。ブラフの可能性もある以上、ここで攻撃を止めては赤木の思う壺になると考えてのことである。
仮にブラフではないとしても、除去などの致命的な痛手を被ることはまずない。故に攻撃の手を止めるのは好手とは言えない。その筈であった。
「ダメージ計算時に《体力増強剤スーパーZ》発動。2000以上のダメージを受ける場合、その前に4000回復する」
フォートレスの攻撃が決まる直前に、赤木が光に包まれる。直接攻撃を受けながら彼のライフは1800へとむしろ回復した。
しかしこれだけでは終わらない。
「更にダメージを受けたことで《冥府の使者ゴーズ》の効果を発動……! ゴーズを守備表示で特殊召喚、更にカイエントークンを守備表示で特殊召喚する」
黒の鎧を纏い仮面で顔を隠している男性と、白の鎧を身に着けた女性がフィールドに降り立つ。一見すると正反対の姿をしているが、腰に下げた大剣と赤いマントは似通っている。
ゴーズは自分の場にカードが存在しない場合、相手によってダメージを受けた時、手札から特殊召喚できる。攻撃力2700、守備力2500と自身のステータスも高く、戦闘ダメージを受けた場合はそのダメージと同じ数値の攻守を持つトークンをも特殊召喚する。時にそれ1枚で勝敗が決まることもある、強力な制限カードである。
しかし金城としては、ゴーズの登場よりも《体力増強剤スーパーZ》のほうが問題であろう。最初からフォートレスで攻撃していればギアフレームで直接攻撃することになり、与えるダメージは1800。赤木がどのように対処しようと、そのカードを発動することはできなかった。
結果的に勝機を逃した金城は、いつになく慎重になってしまった自身の行動を悔やむ。とはいえ、特に彼がプレイングミスをしたという訳ではない。傍目に見ても彼は理に適った行動を取っている。にもかかわらず、どういう訳かその全てが裏目になり、全て赤木に利する結果となってしまうのであった。
「……メイン2! ギアフレームをフォートレスに装備! 更に手札から《マシンナーズ・カノン》を捨て、墓地の《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚する! 最後にリバースカードを1枚セットしてターンエンドだ」
《マシンナーズ・カノン》のレベルは8。それ故に1枚でフォートレスの蘇生が可能になる。
加えてギアフレームでサーチできるため、フォートレスのサポートとしてこの上ないほどに優秀なカードとなっている。
「エンドフェイズに偵察機2体を特殊召喚。更に黒い忍者を戻す」
3体のモンスターが戻り、赤木のモンスターゾーンが全て埋まった。
しかし対するは2体の《マシンナーズ・フォートレス》。うち1体はユニオンによって破壊耐性を得ており、更にはリバースカードまで用意されている。
生半可な攻勢では崩すことのできない頑強な要塞に、どのように対処するのか。誰もが赤木の一挙手一投足から目を離せなくなる。
「ドロー。ゴーズとカイエントークンを攻撃表示に変更し、バトルフェイズに入る。ゴーズでギアフレームを装備していないフォートレスに攻撃」
金城の伏せカードをものともせず、赤木は果敢に攻勢へと移る。このターン中に決着、最低でもフォートレス2体を打倒する手段があるということか。
しかし逆に考えれば防御は薄いと思われる。誘いの可能性も0ではないが赤木の場に伏せカードはなく、2枚の手札が攻守を兼ね備えている可能性は低い。それ故に金城は、ここで罠を発動した。
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》発動! 貴様の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
あらゆる攻撃を跳ね返す白銀の壁が生まれる。金城の自信もこのカードがあればこそ。攻撃力が高いだけのゴーズならトークン共々ミラーフォースで破壊できる。
仮にミラーフォースを無効もしくは予め破壊されたとしても、その場合赤木はフォートレスを戦闘破壊するしかない。その時は赤木の場のカードを破壊することができる。正しく十重二十重の壁。
しかし、その安全を負う心が墓穴を掘った。
「ゴーズをリリースして《エネミーコントローラー》2つ目の効果を発動……! ギアフレームを装備したフォートレスを選択する」
「な、何……だと……?」
《エネミーコントローラー》により、エンドフェイズまでの間フォートレスは赤木のものとなる。ここでコントロールを得たとしても普通なら破壊されるだけになるが、こちらはユニオンにより1度だけ破壊を免れることができる。
「更にチェーンして黒い忍者の効果を発動。墓地のパニッシャーとゴーズを除外することで自身を除外だ」
黒装束が姿を消した直後、眩い光が赤木の場のモンスター全てを飲み込む。視界が晴れた後には、ギアフレームでその身を守ったフォートレスだけが赤木の場に存在していた。
「チェーン処理が終わったところでフォートレスの攻撃をさせてもらうとしよう。言うまでもないが攻撃対象はフォートレスだ……」
互いのフォートレスが砲撃を撃ち合う。互いの性能は全く同じ。当然共倒れに終わる。
「ぐっ……戦闘破壊されたことでフォートレスの効果が発動する、が……」
「ククク……今俺の場にカードはない。両方とも不発だな……」
難攻不落とまで思われた金城の牙城が一瞬で崩壊した。
両者共に壊滅的な被害を受けたようにも見えるが、赤木のほうはそうでもない。偵察機は黒い忍者の効果で再び呼び出すことができ、彼が消費したカードは実質ゴーズと《エネミーコントローラー》の2枚に過ぎない。2体のフォートレスとミラーフォースを相手取ったとは思えないほどに、赤木の被害は小さかった。
対する金城は4枚のカードを失っている。この差はあまりにも大きい。
一見すると軽率に見えた赤木の行動も、こうなるとむしろ必然と言えよう。確かに全体除去にも対処可能であれば心配は要らない。
金城のミス、それは場を固めすぎたことに尽きる。彼も普段であればここまで偏ったことはしなかった。このような行動に走った理由は、これまでの赤木との戦いによるところが大きい。
与えたダメージ量こそ金城が勝っているものの、ユニオンに対する《ゼロ・フォース》を始め、《サイクロン》に対する《積み上げる幸福》や《奇跡の蘇生》、瀕死状態からのゴーズなど、赤木は常に金城の想定を超え、機先を制してきた。それ故に、金城は知らぬ間に不安を抱いていた。限界まで守りを固めなければ安心できなかったのである。
しかしそれは間違っている。勝ちきる強さとは、本来適度に揺らいでいるもの。事実場を固め過ぎた代償として金城の手札は尽き、リカバリーが効かない。その手には唯一、以前サーチした《レッド・ガジェット》が存在するばかりである。
一転して彼は窮地に立たされていた。
「メイン2に入りカードを1枚伏せる。そしてエンドフェイズに《速攻の黒い忍者》が帰還する。これでターン終了だ……」
度重なる赤木の切り返しに、彼の勝利が濃厚かと誰もが思い始めていた。結果的には互角に近いとはいえ、戦いを制しているのは誰が見ても赤木。そう思うのも無理はない。
しかし金城の目は死んでいなかった。何よりも己を信じて、彼はデッキへと手を伸ばす。
「俺のターン! 魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動する!」
コイントスを行い、表が出れば自分が、裏が出た場合は相手がカードを2枚ドローする。それが《カップ・オブ・エース》の効果。
その発動が宣言されるや否や、金色のコインが回転しながら舞い上がり、運命のコイントスが始まった。
成功すれば2枚ドローできるとはいえ、《カップ・オブ・エース》によって生じるアドバンテージの期待値は-1である。単体で見れば決して良カードとは言えない。
しかし現状は違う。何もしなければ金城は敗北するしかなく、失敗した時に生じるアドバンテージの差を考慮する意味はない。単純に50%の確率で可能性を拾えるとなれば、優秀なカードと言えよう。使用者が強運であればなおのこと。勝利を引き寄せる無上のカードとなる。
ソリッドヴィジョンの映し出したコインは、当然のように表を示していた。
「表が出たことで2枚ドロー! 更に《貪欲な壷》発動! ガジェット3種、ギアフレーム、カノンをデッキに戻して2枚ドロー!」
墓地のモンスターを5枚戻し、金城が2枚のドローを再び行う。手札の尽きた終盤にこの手札増強。やはり彼は何者かの寵愛を受けている。
「《レッド・ガジェット》を召喚し、《イエロー・ガジェット》を手札に加える! 更に手札からイエローとフォートレスを捨て、《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚!」
手札さえあれば何度でも登場するフォートレス。これこそがガジェットとの組み合わせの真髄である。
「バトル! フォートレスで黒い忍者に攻撃!」
「偵察機2体を除外して黒い忍者の効果発動。自身を除外する」
「構わん! 行け、フォートレス!」
赤木が自らフィールドを空けるのも3度目になる。開き直った金城に迷いはなく、すぐさま攻撃を宣言した。
「ダメージ計算時に《ガード・ブロック》発動。戦闘ダメージを0にして1枚ドロー」
戦車より打ち出された砲弾が寸でのところで爆発する。戦闘自体を防ぐことのできないこのカードも、自らモンスターを退かすことのできる赤木のデッキとは相性が良い。
「やはり耐えるか。だがこれで伏せカードもなくなった! 《レッド・ガジェット》でダイレクトアタックする!」
1300のダメージを受け、赤木のライフは僅か500へ。ライフコストを必要とするカードの大半が使用できない状態にまで落ち込んだ。
「カードを2枚セットしてターンエンドだ」
金城のエンド宣言と共に、最早恒例となったエンドフェイズに入る。2体の偵察機が特殊召喚され、黒い忍者がフィールドに帰還した。
「俺のターン、ドロー。……全てのモンスターを守備表示に変更。カードを1枚セットしてターンエンド」
守りに入った様子の赤木を見て、金城の口元がつりあがる。
今までとは違い、赤木の墓地にある闇属性モンスターは《ダーク・シムルグ》1枚のみ。つまり今度ばかりは黒い忍者に逃げられることがなくなった。
「ついに力尽きたか! このままバトルに入り《レッド・ガジェット》で黒い忍者に、フォートレスで偵察機に攻撃する!」
フィールドと異次元とを行き来し、長い間活躍し続けた忍者がついに倒れた。赤木のデッキにおいて主軸となる黒い忍者の撃破に、周囲では歓声と叫声とが入り混じる。
「メイン2に入り、《レッド・ガジェット》に《団結の力》を装備! ターン終了だ」
自分の表側表示モンスター1体につき攻守を800上昇させる《団結の力》。《レッド・ガジェット》の攻撃力は2900にまで強化され、金城の場は一層隙がなくなった。先のターンにセットした2枚のカードと合わせ、彼は磐石の体勢を取っている。
一方の赤木は偵察機1体と伏せカード1枚、そして1枚の手札を残すのみ。枚数的には次のドローで大差なくなるが、フィールド・ライフともに彼が負けていることに変わりはない。絶望的な状況と言える。
敗北に近い。それは即ち、この勝負に限れば死に近いということ。常人なら迫り来る死に怯えるであろう。歴戦の猛者であれば奮い立つ場面かもしれない。
しかし赤木はそのどちらでもなかった。死の淵に立っていながら気負うことさえない。ただ楽しげに微笑んでいる。それが赤木にとっての自然である故に、彼はいつも通りの所作でデッキへと手を伸ばす。
「俺のターン。メインフェイズに入り《
白髪の翼人が現れ、その隣に銀の甲冑を纏った鳥人が降り立った。後者は燃え盛る紅の翼を背に生やしている。
2体のうちの片方、ファルコンは攻撃力2000の下級モンスター。もう一方のアレクトールは攻撃力2400の上級モンスターであり、相手の場に同じ属性のモンスターが居る場合に手札から特殊召喚できる。ガジェットとマシンナーズのシリーズは全て地属性・機械族。自然その条件を満たすことになる。
そして後者には、もう1つ別の効果があった。
「アレクトールの効果を発動、《団結の力》の効果を無効にする」
鳥の顔をしたアレクトールは翼から羽を打ち出し、フォートレスとガジェットを分断、《団結の力》の効力を封じた。表で存在するカードの効果をそのターンの間だけ無効にする、それこそがアレクトールの真価である。
これで《レッド・ガジェット》の攻撃力は元の1300へと戻った。下級モンスターでも容易に戦闘破壊できる状態。この隙を突かない手はない。
「偵察機を攻撃表示に変更してバトルだ。アレクトールで《レッド・ガジェット》に攻撃」
偵察機までも攻撃表示にし、赤木が一斉攻撃を仕掛ける。つまりはフォートレスをも倒す手段が存在するのであろう。
普通なら攻撃力の高いアレクトールでフォートレスに攻撃するべきであろうが、残るファルコンが攻撃するためには手札に戻すカードが必要となる。故にまずはアレクトールで攻撃しなければならず、また先にフォートレスを倒した場合は効果によってカードを破壊されてしまう。3体ともが攻撃することを前提とすれば、こうするより他ない。
真紅の翼で風を切り、アレクトールが敵へと向かう。空を翔る鳥人は棒立ちになっていたガジェットを手甲で殴り飛ばした。
金城には初の、1000を超えるダメージ。そのライフは1600にまで減らされる。
「続けてアレクトールを手札に戻し、ファルコンでフォートレスに攻撃する……!」
「罠カード《次元幽閉》発動! 攻撃モンスターを除外する!」
ファルコンはフォートレスよりも攻撃力が低い。それでも金城が除去カードを使ったのは無論考えあってのこと。
確かに攻撃力の差は僅か500と、自爆特攻しても赤木は大したダメージを受けない。しかしそもそも彼のライフは残り500、ダメージを受けた時点で死んでしまう。
この状況では自爆特攻をトリガーにして何らかのカードを発動することなどできる筈もない。故に金城は相手の伏せカードをコンバットトリックと予想、赤木がフォートレスの攻撃力を上回ってくると考えた。
無論ここでフォートレスが戦闘破壊されたとしても、金城の敗北が決まる訳ではない。
しかしその場合、先の展開が純粋な運否天賦となってしまう。仮に金城が次のターンでモンスターを引けず、その次に赤木が《大嵐》を引けば全てが無に帰す。彼にそれを耐える手段はない。
それ故に、金城はここで《次元幽閉》を使用した。これで次の自分のターンで決着を付けることができる。そう信じて。
結果アレクトール同様に翼人が敵へと飛び掛るも、突如出現した次元の狭間に捕らわれた。金城の目論見通り、赤木のフィールドには攻撃力僅か800の偵察機と1枚の伏せカードだけが残される。
ここに来て漸く、決着の時が見えることになった。
「勝った……! 次のターンに攻撃して俺の勝ちだ!」
気付けば金城の口から勝利の宣言が漏れていた。それほどまでに赤木との戦いが厳しかったということであろう。
しかし優勢と勝利は似て非なるもの。勝負はまだ、終わってなどいなかった。
「何を言っている……? まだ俺のターンは終わっちゃいない……!」
「何をバカな! 貴様の場にあるのは偵察機とコンバットトリック、手札は戻したアレクトールだろう。万が一フォートレスの攻撃力を上回るとしても、伏せカードはもう1枚ある。悪あがきはよせ!」
金城の言葉は至極もっとも。彼が《次元幽閉》を使用した要因の1つに、もう1枚の伏せカードの存在がある。再び攻撃してくることがあろうとも、その回避も十分に可能と金城は考えていた。
しかしそれは余人の考えが及ぶ範疇の話。死をも厭わない男、赤木しげる。その戦略は金城の想像の遥か上、遥か高みにあった。
「その通り、あんたの伏せカードはまだ残っている。だからこそ、その幻想を買いたかった……! リバースカードオープン!」
赤木が宣言するや否や空間が裂け、今までに除外されたモンスターが大挙襲来する。現れたのは《冥府の使者ゴーズ》、《ライトニングパニッシャー》、《霞の谷のファルコン》、《ダーク・グレファー》の4体。エンドフェイズまでの短い間とはいえ、赤木のモンスターゾーンは全て埋まったことになる。
ライフの半分をコストに、除外されている自分のモンスターを可能な限り特殊召喚する《異次元からの帰還》。翻ったカードの姿に、誰もが言葉を失っていた。
無論このカードそのものに原因がある訳ではない。赤木の行動にこそ、彼らの開いた口が塞がらない理由がある。
伏せカードが《異次元からの帰還》ということは即ち、先程までの行動がブラフであることを示す。偵察機を攻撃表示にしたことも、アレクトールで先に攻撃したことも、ファルコンで攻撃を仕掛けたことも、とどのつまり全てブラフ。金城に伏せカードをコンバットトリックだと思わせ、《次元幽閉》を使わせるための手段に過ぎなかった。
しかし真に重要なのはそこではない。もし金城が《次元幽閉》を発動しなければ、それ以前に伏せカードの中に攻撃を止めるものがなければ。赤木は負ける、即ち死んでいた。仮に伏せカードを見抜いたとしても、到底成せることではない。
その自分の読みに全てを託した身投げのような行為にこそ、一同は驚愕を露にしているのである。
「さあ、続けよう……。ゴーズでフォートレスに攻撃!」
1度目の攻撃を防がなかった以上、その総攻撃を凌ぎきれる筈もない。今度は金城の敗北が確定的となった。
最早彼には声を発する気力もないが、攻撃の宣言を受けて無意識にその体が動く。ゴーズに対して金城は残る《強制脱出装置》を発動し、対象を手札に戻した。
しかし今更攻撃可能なモンスターを1体減らしたところで焼け石に水、全く意味がない。
「《ライトニングパニッシャー》で同じくフォートレスに攻撃する」
雷神が戦車へ雷を落とし、その差100のダメージを金城に与えた。その直後、戦闘破壊されたことでフォートレスの効果が発動する。攻撃を残す中で最も攻撃力の高い《霞の谷のファルコン》が、爆発に巻き込まれ地に返る。
これで2体が攻撃せずに倒れたことになるが、まだ終わってはいない。闇に染まった男へ、赤木は最後の宣言を下した。
「これで最後だ……《ダーク・グレファー》でダイレクトアタック!」
金城のライフ1500に対し、《ダーク・グレファー》の攻撃力は1700。加えて場・手札共にカードのなくなった金城には防ぐ手段などない。
茫然自失の金城に、勝負を決する一撃が入る。直後眩い閃光とけたたましい炸裂音が生じ、デュエルの終わりを告げた。
その後どうなったのか、仁はあまり覚えていない。
言わばヤクザ同士の戦争ということで理解が及ばなかったこともあるが、それ以上にデュエルの印象が強烈なためであろう。彼が今改めて考えても、赤木のプレイングは常軌を逸していた。
確かにモンスターが途切れないというガジェット特有のメリットが得られない状況で金城が《レッド・ガジェット》を召喚した以上、あの伏せカードがブラフの可能性は低かった。突破口がなければ召喚できない《霞の谷のファルコン》の召喚や、その後の《神禽王アレクトール》に無反応なことを考慮すれば、召喚反応型罠とも思えない。伏せカードを攻撃反応型の《次元幽閉》やフリーチェーンの《強制脱出装置》と看破すること自体は不可能ではないかもしれない。
しかし。見抜いたからといってあの攻撃ができるかと問われれば、仁の答えは言うまでもなく否である。
まず、あの勝負には命が賭かっていたという前提があった。罠が仕掛けられていることを見通したとしても、その読みに全てを託すことは難しい。そもそも仮に推測が当たっていたとしても、相手が《次元幽閉》を使ってくれるとは限らない。そんな曖昧な策に命を預けられる人間などそうは居ない。
無論、他に打つ手がなければ特攻もありうる。しかしあの場面はそうではなかった。赤木がしたようにアレクトールで《団結の力》を無効にすれば、1100のダメージを与えた上でガジェットを戦闘破壊できる。
そしてこの攻撃を防がれた場合に限り《異次元からの帰還》を使えば良い。ここはそれで十分。ファルコンを出さなければ超過ダメージで敗北することもなく、偵察機も壁として残っている。次のターンを凌ぐに問題はなく、自爆する危険を冒してまで攻撃する必要はなかったと言える。
その一方、赤木の行動は場当たりな結果論という訳でもない。単なる命知らずであれば、伏せカードに臆さず前へ進むだけ。故にフォートレスを戦闘破壊できる可能性を放棄することなく、《異次元からの帰還》で2枚の伏せカードを使わせることになったであろう。
結果は賢明な判断をした時と大差ない。互いのドロー次第となるだけである。
つまりあの場面で勝利するには赤木の採った方法しかなく。また赤木以外の者では勝利できなかった。それほどまでに彼の行動は一線を画していたのである。
そしてそんな戦い方に仁は感銘を受けた。手の内を読み切るだけにとどまらず、相手の思考を縛り、更に誘導する。カードの枠を超えた赤木のデュエルを目にして、彼に憧れさえ抱いている。
もっとも如何に優れた分析力を身に付けようと、相手の手の内を100%確定することなどできはしない。それ故にプレッシャーのかかる場面で自分の読みと心中できるかどうかは全く別の問題となる。赤木のデュエルを目指す仁にとって、最大の問題はそこであった。
しかしこの食い違いが生じている最大の要因は技術や経験ではなく、別のところにある。彼がそれに気付くのはいつになるのか。案外そう遠い未来ではないのかもしれない。
今日の最強カード
《速攻の
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1700/守1200
自分の墓地の闇属性モンスター2体をゲームから除外する事で、このターンのエンドフェイズまでこのカードをゲームから除外する事ができる。
この効果は相手ターンにも使用する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
「今回は俺が解説させてもらおう。今日の最強カードは《速攻の
除外する最有力候補は本編の通り《異次元の偵察機》。上手く立ち回れば何度でも効果を使用し、フィールドに居続けることができる。《異次元の偵察機》を毎ターンリリース要因とするも良し、チェーン数を稼いで《積み上げる幸福》などのチェーンカードを使うも良しだ。
と、まあここまでは本編を見れば誰もが感じているだろう。だが、このカードにはまだ先がある……! レベル2モンスターを複数並べられるこの効果、何かに似ていると思わないか? そう……《創造の代行者 ヴィーナス》だ。《ゼロ・フォース》《強制終了》により強化されたが、エクシーズ召喚の登場によってこのデッキも飛躍的な進化を遂げた。
その最たる例が《ダイガスタ・フェニクス》。《ダーク・シムルグ》に2回攻撃を付与すれば合計攻撃力は1500+1700+2700×2=8600。《ゼロ・フォース》と絡めることができれば1ショットキルも可能になる。中盤以降のエンドフェイズに使える《創造の代行者 ヴィーナス》と思っても良い。即効性では劣っているが、何度でも使用できることを考慮すれば決して負けちゃいない……!
また今回は使用しなかったが、このデッキにも《忍法 変化の術》が入っている。忘れがちだが、このカードで出せるモンスターのレベルに下限はない。状況によってシンクロやエクシーズに利用することも可能だ……」
アカギではなく赤木と態々銘打っておきながら、作中では判別できそうにないという体たらく。勝負の最中は大差ないので、これが私の限界でした。
それはともかく。心理戦の極致と言っても過言ではない赤木しげる。『天』は主人公こそ別の2人が担っていますが、主役は誰かと聞かれれば私は迷わずこの人と答えます。本来は麻雀漫画の筈が、赤木の通夜を行うために長い前置きがあったと思ってしまうほどです。知らない方は是非原作をご覧になって下さい。