唐突に始まった準と仁とのデュエル。ディスクに先攻を示されたのは準のほうであった。
「俺の先攻、ドロー! モンスターをセットしてターンエンド!」
「俺のターン、ドロー。……《カラクリ忍者
短刀を構えて登場したのは、仁のデッキにおけるメインアタッカー。素の攻撃力は1700と少々物足りないものの、相手モンスターを戦闘破壊することによりカラクリを蘇生する効果を持つ。
もっとも現状この効果に意味はなく、仁の意図も当然の如く別にあった。
先に行われた十代とのデュエルから、準のデッキの概要は【アームド・ドラゴン】と判明している。その基盤となる《アームド・ドラゴン LV3》は2種類のリクルーターに対応しており、フルに投入すれば40枚中6枚からの特殊召喚が可能。その初手存在率は64.96%にも上る。
また準がカードを1枚も伏せなかったことから、攻撃を誘っている様子がうかがえる。ここまで来れば、セットモンスターは間違いなくリクルーター。迂闊な攻撃はレベルアップを許すことに繋がる可能性が高い。
しかし仁はそれを承知であえて攻める。
「バトル! 九壱九でセットモンスターに攻撃!」
リバースして姿を晒したのは、顔を仮面で覆い隠した赤色の竜。もっともその体躯は小さく、守備力も1100に過ぎない。最強種と名高い竜と言えど、機械人形の持つ小刀によって容易く切り裂かれた。
しかしこのモンスターは攻撃力1500以下のドラゴン族に対応するリクルーター。戦闘破壊されてこそ、その真価を発揮する。
「《
呼び出された橙色のドラゴンは赤の竜より更に小さく、攻撃力も1200と見た目通りに可愛らしい。人間と同じ程度、そんな存在ではあるが、その内に秘めた潜在能力が高いことを2人は知っていた。
「カードを2枚セットしてターンエンド」
ここまでは互いに想定通りの動き。しかし仁が相手の思惑に気付いているのに対し、準は未だそれに気付いていない。この違いが戦局に影響を及ぼすことがあれば、仁の勝利も夢ではなくなる。
もっとも、その程度では揺るがないが故の強者。思い通りに事を運んだとしてもなお、仁が勝てるとは限らない。2人の間にはそれだけの格差があった。
「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに《アームド・ドラゴン LV3》を墓地に送り、効果発動! デッキから……」
「待った! チェーンして《機甲忍法ラスト・ミスト》を発動する!」
条件を満たすことで、カードを用いることなく強化される。それがレベルアップモンスターの長所である。しかしアームド・ドラゴンが光に包まれた直後、仁はカードの発動を宣言した。
ラスト・ミストは特殊召喚に成功した相手モンスターの攻撃力を半分にする永続罠。仁が
条件はあるものの、特殊召喚を主とする現在のDMにおいてラスト・ミストは絶大な効果を発揮する。その効果を確認した準の顔は驚愕に染まるが、それもつかの間。彼は迅速に次の行動へ移った。
「ならば《アームド・ドラゴン LV5》は守備表示で特殊召喚だ」
アームド・ドラゴンを覆っていた光が収まり、変貌を遂げた姿が露になる。レベルアップしたことで2倍の大きさにまで成長し、肌の色も紅と黒の2色に変化している。迸る威圧感は先程までとは比べ物にならない。
しかしそれも現れた瞬間のみ。その身にまとわりつく霧がアームド・ドラゴンの力を半減させ、結局はLV3と同じ攻撃力になってしまった。
先程仁が仕掛けたのもこのカードがあってこそ。アームド・ドラゴンはその性質上、場に出す時は自然と特殊召喚することになる。LV5であればアドバンス召喚も可能とはいえ、アームド・ドラゴンの利点である出しやすさを殺している時点で一定の効果は上がる。無策に攻撃してきたかに見えた仁を所詮はレッドと蔑視した準にしてみれば、完全にしてやられた形になった。
しかし。意表を突かれてもなお、準はその上を行く。
「この程度で俺を止められると思うな! 《アームド・ドラゴン LV5》をリリースし、《ストロング・ウィンド・ドラゴン》を召喚する!」
アームド・ドラゴンに代わって現れたのは筋骨隆々とした群青の竜。アドバンス召喚した際、リリースしたドラゴン族の攻撃力の半分を攻撃力に加えるモンスターである。
ただし数値を参照するのはフィールドの外。つまり加わるのはLV5の元々の攻撃力の半分となる1200となり、攻撃力は3600にまで高まる。ラスト・ミストをそのままに、ここまで攻撃力を引き上げた準には称賛の言葉を送るより他ない。
また準が《アームド・ドラゴン LV5》の効果を使用しなかったことにも理由がある。1つは仁にとって、このカードの出現が予想通りであったこと。となれば、もう1枚の伏せカードで効果に対応できる可能性も視野に入れるべきであろう。避けられるならまだマシなほう、最悪発動を無効にされて破壊されることもありうる。そうなっては目も当てられない。
つまりここで取るべき手段は、効果を用いずに戦闘によって破壊すること。そう準は考えた。
それは準が仁の評価を修正したということでもある。先程まで僅かながら心中にあった驕りは微塵もない。既に彼は倒すべき相手として、仁を見つめ直していた。
「行くぞ! 《ストロング・ウィンド・ドラゴン》でカラクリ忍者を攻撃!」
青の竜が身の丈よりも更に大きく翼を広げ、敵の元へ飛び立つ。ドラゴンは九壱九を一撃の下に粉砕するだけでは飽き足らず、飛行の際に巻き起こされた暴風でプレイヤーの仁をも攻撃した。
これが準に効果の使用を止めさせた理由のもう1つ。《ストロング・ウィンド・ドラゴン》に備わっている貫通効果である。
カラクリは総じて攻撃を受けた際に守備表示になるため、通常よりもダメージを与えにくい。九壱九の場合は表示形式の変更になるが、今回は元が攻撃表示なので結果は同じ。故に戦闘ダメージを与えることに主眼を置くならば、効果で破壊することもありえた。
しかしこの《ストロング・ウィンド・ドラゴン》であれば、それも不要。現に九壱九の守備力1500を突き破り、仁に2100ものダメージを与えることに成功している。初期ライフの半分ともなれば、十分な成果を上げたと言えよう。
「カードを1枚セットしてターン終了だ」
「俺のターン、ドロー」
「その瞬間に《リビングデッドの呼び声》を発動! 《アームド・ドラゴン LV5》を蘇生する!」
忍者の居ない今、準のモンスターにラスト・ミストの効果は及ばない。彼はここぞとばかりにアームド・ドラゴンを呼び戻した。
これで準の場には万全の上級モンスターが2体。ラスト・ミストで攻撃力を半減し、一気に攻め込もうとしていた仁の思惑は空振りに終わってしまった。
もっとも基本的に準のほうが強いと考えている仁にしてみれば、気落ちするには値しない。ただ新たな行動を取るだけである。
「……《
忍者と呼ぶには華やか過ぎる男が合図を送る。すると何処からともなく黒子が現れ、仁の場にカードをセットした。以前仁が言っていたように、やはり彼自身は忍者ではないのかもしれない。
「更に《成金忍者》をリリースして《忍法 変化の術》を発動! デッキより《森の聖獣 アルパカリブ》を特殊召喚する」
リリースした忍者のレベル+3以下のモンスターを呼び出す《忍法 変化の術》。対象は獣族・鳥獣族・昆虫族に限定されているものの、最上級モンスターをもデッキから特殊召喚することができる。
その特性から用途は多岐にわたり、自然【忍者】の軸を成すものとなる。デッキ内容を一新してからも、仁が重きを置いていることに変わりはない。
変化の術によって煙に包まれた忍者と入れ替わり、アルパカとトナカイを掛け合わせたかのような生物が出現する。背には野鳥が住まうほどの大木がそびえているが、種族は獣。巨大な体躯に相応しく、レベル7にして2700の攻撃力を備えている。
打点の高いモンスターを呼び出した一方で、仁のフィールドから忍者の姿が消え失せたことになる。再びラスト・ミストの効果が及ばなくなってしまったが、伏せカードのない今は攻める絶好の機会。それを逃すのは惜しい。相手の主軸となっているアームド・ドラゴンの撃破を狙い、仁は攻撃の宣言を下す。
「バトル! アルパカリブでアームド・ドラゴンに攻撃!」
5mを超える巨体がドラゴンを押し潰す。与えたダメージこそ300と小さいが、エースを退場させた事実は決して小さくない。
安堵したようにため息をつき、仁はターンの終了を宣言した。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
「俺のターン! 一気にバトルに入るぞ。《ストロング・ウィンド・ドラゴン》でセットモンスターに攻撃!」
ドローするや否や。準はモンスターに攻撃の指令を下した。
それも当然。セットされた
しかしそんな状況で準にターンを受け渡している以上、仁に手立てがない訳がない。
「攻撃宣言時に《重力解除》を発動する」
フィールド上で姿を見せているモンスター全てが無重力に捕らわれ、表示形式が変わる。モンスターごと仁を吹き飛ばそうとしていた《ストロング・ウィンド・ドラゴン》も、攻撃の中止を余儀なくされた。
「まあ当然といったところか。モンスター、カードを1枚ずつセットしターンエンドだ」
「ドロー。メインに入り、《カラクリ忍者
姿を見せるまでに罠を作っておいたのか、参参九が顔を見せると共に青の竜は地に飲まれる。これで準の場にはセットモンスターを1体残すのみとなった。
参参九の効果はリバース効果ではないものの、リバースした際に発動する効果である。故にセットでの特殊召喚を可能とする《
対象が表側表示限定、且つ強制効果という点が玉に瑕ではあるが、リバースしたターンは直接攻撃まで可能になる。そもそも破壊を介さずに墓地へ送る効果自体が純粋に強く、攻守ともに1200とステータスこそ低いものの単体でも優秀と呼べるモンスターである。
「更に《カラクリ無双
三又の槍を持った修行僧、八壱八が身を隠したモンスターへ襲い掛かる。
翻り姿を晒したのは巨大なトンボ。しかし2100の攻撃力には耐え切れず、《ドラゴンフライ》はその身を貫かれた。
「《ドラゴンフライ》の効果発動! 2枚目の《ドラゴンフライ》を特殊召喚する!」
《
しかし今、仁の場にはラスト・ミストに加えて忍者の名を冠する参参九が存在している。加えて《ドラゴンフライ》による特殊召喚は基本通り攻撃表示限定。羽を濡らし飛ぶこともままならない昆虫は、半減して僅か700となった攻撃力をそのまま晒さなければならない。
「続けて《森の聖獣 アルパカリブ》で《ドラゴンフライ》に攻撃!」
態々《ドラゴンフライ》を出した以上、準に防ぐ手段がある筈もない。2000にも及ぶ攻撃力の差。彼のライフは一気に1700まで減じる。
「再び効果発動! 3枚目を特殊召喚だ!」
「だろうな。参参九は効果によりダイレクトアタックさせる!」
小型の望遠鏡で狙いを定め、参参九は一足飛びに準へ切りかかる。これでは直接アームド・ドラゴンへ繋げることはできないが、ここで《アームド・ドラゴン LV3》を特殊召喚しても直接攻撃を放棄して倒されるだけである。こればかりは仕方がない。
そうして更なるダメージを受け、準のライフは僅か500。風前の灯となった。この状況に陥りながら伏せカードを使用しないとなると、彼の伏せカードは防御用ではなく攻撃用なのであろう。
未だ手札も潤沢な準の次のターンは注意が必要かもしれない。そう考えはしても、仁の手札は僅か1枚。そのカードで対応できるかどうかは運次第となる。
「バトルフェイズ終了時、攻撃した八壱八は守備表示になる。カードを1枚セットしてターン終了だ」
「俺のターン、ドロー!」
相手の3体のモンスターに対し、準の場に居るのは攻撃力の半減した《ドラゴンフライ》のみ。ただでさえ形勢が不利な上、ラスト・ミストの所為で特殊召喚を用いて攻めることも難しい。
しかし準にとっては『この程度』で済むこと。越えられない壁になど決してなりはしない。
「《ドラゴンフライ》をリリースして《アームド・ドラゴン LV5》をアドバンス召喚。そして攻撃力2800の《闇より出でし絶望》を墓地へ送り効果発動! 《森の聖獣 アルパカリブ》を破壊する!」
準の宣言と共にアームド・ドラゴンの肩から棘が打ち出され、アルパカリブを葬り去る。
手札のモンスターを墓地へ送ることで、その攻撃力以下の相手モンスター1体を破壊する。それが《アームド・ドラゴン LV5》の効果である。限定されたコストを必要とするものの、この効果に回数制限はない。出しやすさという確かな利点もあり、紛れもなく準のエースとなっている。
「そしてアームド・ドラゴンで
準のデッキの隠し味の1つ、ドラゴン族に貫通効果を付与する《竜の逆鱗》。アームド・ドラゴンで除去できないセットモンスターへ対処するためのカードである。
通常であれば《竜の逆鱗》の扱いはただそれだけに過ぎない。しかしカラクリは攻撃を受ける際、総じて守備表示になる。
準の指示を受け、アームド・ドラゴンがカラクリ人形へ噛み付く。赤の竜はその勢いのままに仁へ体当たりし、プレイヤーへもダメージを与えた。
1200のダメージにより、仁のライフは700へ。これで互いのライフもほぼ並び、彼も崖っぷちに立つこととなった。とはいえ準の場に貫通を付与する《竜の逆鱗》がある以上、壁で凌ぐこともできない仁のほうが旗色は悪い。互いの表情もそれを物語っていた。
「カードを1枚セット。……そしてエンドフェイズ。《アームド・ドラゴン LV5》を墓地へ送り効果発動! デッキから《アームド・ドラゴン LV7》を特殊召喚する!」
「《リビングデッドの呼び声》をチェーン! 《カラクリ忍者 九壱九》を蘇生する!」
「くっ……またか! ならばLV7は守備表示だ!」
刃を備えた白銀の装甲を身に纏い、アームド・ドラゴンが再び進化を遂げる。かもし出す存在感はLV5をも凌駕しているが、それでもフィールドを覆う霧から逃れることはできない。衰弱の霧雨を受けては、2800の力とて見る影もなくなった。
これで再び形勢が逆転した。エンドフェイズにこうなるとは準も予想だにしない。先程とは僅かな変化を見せ、準は緊張した面持ちで仁のドローを見守る。
「俺のターン、ドロー」
エンドフェイズに入る前の準の僅かな逡巡。それを見るに、彼はアームド・ドラゴンの効果を使用するか考えていたように思える。
おそらく準は
そこで問題となるのが、手札0の仁が引いたカード。地属性の攻撃力を500上昇させるフィールド魔法《ガイアパワー》である。
通常であれば即座に使うところ。しかし《ガイアパワー》適用下では守備力が400下がってしまう上、今は準の場に《竜の逆鱗》がある。ここで仁が勝利できない可能性を考えると、八壱八の守備力700とするのはあまりに危険。そうなってしまった場合、準の勝利条件が攻撃力1800以上のドラゴン族による攻撃から攻撃力1400以上にまで緩和される。
つまり《ガイアパワー》を使用しながらアームド・ドラゴンが場に残った場合、それだけで仁の敗北が確定してしまう。加えて準のデッキに攻撃力1400の《
一方、使用しない場合は準が必要とするのは攻撃力1800以上。いずれにせよ危険なことに変わりはないが、準がこのターンを凌いだ場合を考えると《ガイアパワー》は使用しにくい。
それに加え、準が現状を耐えうるカードなら幾らでも存在することも考慮しなければならない。防御カードの《和睦の使者》や全体除去の《聖なるバリア-ミラーフォース-》、直接攻撃を受けないという意味ではそれこそ単体除去でも良い。
準が未だに諦めた様子を見せなくとも不思議はなく、またその様相からここで終わるとも考えにくい。故に《ガイアパワー》を使用しないほうが仁の生き延びる確率は上がると言える。
そもそも準の残りライフは僅か500に過ぎず、現状のままアームド・ドラゴンを倒せる以上は攻撃力を上げる必要などない。やはり《ガイアパワー》を発動しないほうが良いと、思考の末に仁は結論付けた。
「…………よし。八壱八を攻撃表示に変更し、バトルだ!
LV7の守備力は僅か1000と、LV5よりも低い。忍者の攻撃を遮るものは何もなく、アームド・ドラゴンは露出した部位を切り裂かれた。
更に戦闘破壊を行ったことで、カラクリ忍者の効果が発動する。
「九壱九の効果で
戦闘行為に続き、九壱九が墓地よりカラクリを引き上げようとする。が、その前に準が動きを見せた。
「フ、この勝負……俺の勝ちだ! その効果にチェーンしてリバースカードオープン! 《復活の墓穴》!」
「復活の? だが蘇生しても攻撃力はっ……!?」
相手ターンでふてぶてしくも勝利宣言をした準に対して反論しかけるも、その言葉を仁は途中で止める。否、止めざるを得なかった。己の絶望的な状況に、彼は気付いたのである。
仁の言いかけたように、彼の場に《機甲忍法ラスト・ミスト》と忍者と名の付いたモンスターが居る限り、特殊召喚したモンスターを用いて戦闘で勝利するのは不可能と言っても良い。八壱八の攻撃力は2100。攻撃力の半減を考慮すると、元々が3200を上回って漸くこのターンを凌ぎきれる程度である。
ましてこのターンで勝利するとなれば、その数値は5600以上でなければならない。伏せカード1枚でそんなことができる筈もない。
そうして仁がラスト・ミストに依存して知らず知らずのうちに頭から消していた可能性、モンスターの特殊召喚。
実際、特殊召喚を行う効果の大半はモンスターを攻撃表示で場に出すことを強要される。表示形式を問わないものも一部あるがその数は少なく、特殊召喚する対象や条件が限定されている。故にこの局面で考慮するような代物ではない。
しかし、準が使ったのはそのどちらにも属さないカード。
「俺が選ぶのは《闇より出でし絶望》だ!」
「ぐ……俺は《森の聖獣 アルパカリブ》を選択。更に参参九を蘇生。その後ラスト・ミストの効果で《闇より出でし絶望》の攻撃力が半減する、が……」
「互いに表示形式は守備表示。攻撃力を下げようと無駄だ」
地より這い出てきたのは3000の守備力を持つ、悪魔の様相をした影。その名が関する通り、仁にとっては正に絶望そのものとなっている。
通常であれば、幾ら守備力の高いモンスターが出てきたとしてもそれ程のことではない。除去できるまで耐える、ただそれだけで良い。
故に守備表示のまま表示形式の変更もできず、相手にまでモンスターの蘇生を許してしまう《復活の墓穴》などデメリットの固まりでしかない。
しかし今仁の目前にいるのはそんな単純なセオリーを越えた境地に居る男、万丈目準。彼はその使い道の限られたカードを勝利への一手としてしまう。
もっとも、それは準のデッキに予め組み込まれたコンボではない。ここでポイントとなるのは仁のモンスターが持つ特性。攻撃可能な場合、カラクリモンスターは攻撃をしなければならない。つまり今この局面で仁は自滅すると知りつつも、《闇より出でし絶望》を攻撃するしかないのである。
そのことは準も理解している。加えてアームド・ドラゴンの存在により攻撃が優先されるこの状況で仁が熟考していた以上、残る手札はメインフェイズでしか使えないカードであろうことは自明の理。それを見越しての勝利宣言であった。
仁とて注意は払っていた。カラクリはバトルフェイズ中の特殊召喚を特に苦手とする。そんなことはわかっていた。しかしそれでもその特殊召喚によって敗れる。仁の目の前の光景、それが現実である。
仁の脳裏に去来するのは自責の念。己がカードを活かしきれなかったことを悔い、断腸の思いで仁は攻撃を宣言した。
「《カラクリ無双 八壱八》で《闇より出でし絶望》に攻撃する……!」
恐れを知らぬ機械人形の無謀な突撃により、勝負の幕が下ろされる。勝者は準。非ターンプレイヤーの勝利というビートダウン同士の戦いとしては珍しい結果に終わった。
これで賭けは準の勝ち。つまり仁が部屋を出て行くことになると思われたが、どうやらそうはならないようである。
「……まあ良いだろう。貴様がそこらの連中と違うことはわかった。……とりあえず俺の部屋に住まわせてやらんでもない」
伏せていた顔を上げ、仁は準のほうを見やる。勝者である準からの譲歩。予想外の彼の対応に仁は驚く。
そもそも準がオシリス・レッドを気に入らなかったのは元来のエリート気質故。その点において今の彼はさほど気にしてはいない。問題としていたのは諦観の念。一度底辺から這い上がった準からすれば、現状を受け入れているかのようなレッドの態度は納得のいくものではなかった。
しかし仁とのデュエルで準の受けた印象はそれとは対照的。最終的に報われなかったとはいえ、仁は只管に勝利する方法を模索していた。準自身にも重なり得る、諦めとは程遠いその姿には彼も好感が持てる。
それはつまり、準が仁を認めたということ。この学園でも指折りの実力を持ち、確かな実績を積み重ねた準に認められたとなれば、仁とて嬉しく思わない筈がない。……しかし。
「…………」
「何だ、気に入らないのか?」
準の折衷案に対し、仁は沈黙で返す。
準が認めたと言っても、それは仁が特別という訳ではない。己と並ぶ者ならば、おそらく準は決して馴れ合おうとはしないであろう。仮に十代と同室になるようなことがあれば、準が受け入れることもなかった。つまり準にとって己はライバル足りえないということでもあると仁は思う。
そういった意味では仁としても素直に受け取る訳にも行かない。とはいえあのような敗北を喫した今、仁では準に届かないと証明されたのも事実。彼はそれを殊更に厳然たる現実として受け入れるしかない。
「いや……結局負けたのは俺だからな。宜しく頼む、サンダー」
「フン、貴様らと馴れ合う気はない。……精々精進することだな」
言葉は悪いが、何も準は拒絶している訳ではない。付け加えたような仁を鼓舞する言葉からもそれがうかがえる。
孤島には既に緑が芽吹きだしている今日、2人は友好を交わすのであった。
今日の最強カード
《闇より出でし絶望》
効果モンスター
星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守3000
このカードが相手のカードの効果によって手札またはデッキから墓地に送られた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する。
「今日の最強カードは《闇より出でし絶望》だ。攻撃力2800、守備力3000とステータスは高い。かつてはアンデット族の打点補強や《死のデッキ破壊ウイルス》対策のために投入されることもあったが……出しやすい《
福本先生の作品では良くあることですが、理を追い過ぎると失敗します。今回で言えば考えれば考えるほど《ガイアパワー》を使いたくなくなりますが、勝利するには時にその理を振り払わなければなりません。
もっとも、普通は「百戦して百勝する」ことなど不可能です。常人の枠を超えた者でもない限り、考えがぶれないことのほうが優先されるでしょう。
補足。
リバース効果とはテキストに「リバース:」と表記された効果を指します。一方、参参九は「このカードがリバースした時、~」というテキストです。これはリバース効果ではありません。とはいえ両者の効果処理に大差はなく、普段は気にする必要のないものです。
しかしリバース効果に関連するカードが存在するので、明確に区別する必要があります。例えば万丈目が稀に使う《
またリバース効果の場合は効果の適用が任意であっても、発動は強制です。このような違いから、上のように表記しています。