神域に憧れて   作:典型的凡夫

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 前話の通り、今回はOCGに存在しない《幻魔の扉》が登場します。


018 原則

 夜にのみ姿を現す、湖に浮かぶ西洋の城。カミューラが住処を構えたそこへ、彼女を倒しに来た者たちは入り込んでいた。

 

 石造りの城内を押し進む彼らの表情は硬い。事が起きた昨日ならば、何も考えず怒りに身を任せることもできたであろう。しかし今となってはそう簡単には行かない。

 負ければ人形になる。時間を置くことで、知らぬ間にその現実が心の奥底に根付く。松明の灯火で照らされた薄暗い通路もそれを引き立てている。大勝負を前にした緊張、そこに怒りだけでなく恐怖までもが加わり、複雑に絡み合った感情が彼らの胸中で渦巻いていた。

 

 自らの感情に戸惑いつつも足を進め、彼らは長めの通路を抜けた先に開けたホールを目にする。かつてはパーティでも開かれていたのであろう、装飾には何処か華やかさがあった。しかしその面影も今となってはほとんど残っていない。一室は全体的に薄暗く、ギャラリーの手すりは一部が欠け、壁はひび割れている。

 

 そんな寂れた空気をかもし出す部屋に彼らが侵入すると同時、城主カミューラの声が響いた。

 

「ようこそ皆さん。今宵のお相手はどなたかしら?」

「俺がやる。が、その前に1つ聞きたい。クロノス先生はまだ生きているのか……?」

 

 集団から一歩前へ出た仁がカミューラに質問を返す。これは彼女に挑む上で当然の疑問。仮にクロノスが既に死んでいるとなれば、流石に打つ手はない。その時は仇討ちとでも称して打ち倒すしかないであろう。

 

 もっとも、この懸念は杞憂に過ぎない。人形はあくまで魂を封じただけ、元に戻すことも不可能ではないとカミューラは告げる。クロノスの存命、そして元に戻せる可能性を知り、皆は一先ず胸を撫で下ろした。

 

「それにしても……何故鍵を持たない貴方が? 態々人形になりに来たとでも言うのかしら」

「別に誰が相手でも構わないだろう? 俺が負ければ人形に、俺が勝てばクロノス先生を元に戻してもらう。それだけだ」

 

 誰が相手でもと言う仁であるが、通常そんな筈はない。これは七精門の鍵、即ち三幻魔の復活を賭けた戦いである。常識的に考えれば、部外者が立ち入れる代物ではない。

 

 しかし仁には勝算があった。人形となったクロノス。それをカミューラは態々持ち去っている。それも「好みじゃない」とまで言ったものをである。

 改めて考えてみると、これは不自然と言わざるを得ない。敗者を気にかける必要などカミューラにはない。つまり彼女が敗北者を人形にすることには単なる罰ゲーム以上の何かがある。そう考えたほうが自然であろう。

 

 無論、仁にはその理由などわからない。魂の込められた人形を彼女が必要としているのかもしれないし、単なる趣味による収集なのかもしれない。あるいは別の人物が関わっている可能性もある。

 しかしそんなことは瑣末。真に重要なことは、カミューラには鍵を得る以外の目的があること。そしてその条件さえ満たせば、鍵を持たない仁であろうと勝負の席につける可能性が存在することである。カミューラが仁を突っぱねず、参戦の理由を聞いたことが既にそれを証明していた。

 

「まあ良いわ。その勇気を讃えて可愛い人形にしてあげましょう。上がってきなさい」

 

 読み通り対戦を受け入れられ、仁はカミューラの居る2階ギャラリーへ移動する。その間に彼女はデッキへ数枚のカードを投入し、最終調整を終えた。

 これから行われるのは闇のデュエル。とはいえ、基本は普通のものと変わらない。先攻後攻を示すのは当然デュエルディスク。そしてその通り、仁の先攻でデュエルが始まった。

 

「ドロー。魔法カード《成金ゴブリン》を発動する」

 

 1枚のドローを得る代償として、相手に1000のライフを与える。《成金ゴブリン》はそんな効果を持つ、ドローカードの代表である。

 元々デュエルモンスターズにおけるカードアドバンテージは、基本的にライフアドバンテージよりも重い。故にキーを引き入れるという意味において《成金ゴブリン》は十分な意味を持つ。加えてカード損失なしに即座にデッキ圧縮を行う点を考慮すれば、使う状況によって何よりも勝る優秀なカードとなる。

 

「……カードを3枚セットしてターンエンド」

「私のターン、ドロー! 随分と伏せたみたいだけど……無駄な足掻きだったようね。魔法カード《大嵐》発動!」

 

 口の端を吊り上げ、カミューラは相手を嘲笑しつつカードの発動を宣言した。魔法・罠カードの一掃を目論んでの彼女の行動。通れば1:3交換できる以上、間違ってはいないかもしれない。

 しかし初手で3枚以上のセット。それが意味することとは限られる。真に他の手段がない場合、全体除去を防ぐカードがある場合、そしてもう1つ。

 

「《大嵐》にチェーンして《強欲な瓶》2枚と《威嚇する咆哮》を発動する」

 

 嵐が吹き荒れるよりも早く、伏せられていた3枚のカードがその役目を果たす。《威嚇する咆哮》はこのターンのカミューラの攻撃宣言を封じ、《強欲な瓶》が1枚のドローに成り代わる。全てフリーチェーンのカードであれば、たとえフィールドを一掃されようと損失はない。

 強力な制限カード《大嵐》は事実上無意味に終わった。フィールドは空いたものの、攻撃を封じられてはカミューラも身動きが取れない。先程までとは打って変わって、彼女は苦々しい表情を浮かべながらプレイを続ける。

 

「モンスター、カードをセットしてターン終了よ!」

「俺のターン。ドロー、スタン、メイン。……カードを4枚セットしてターンエンド」

「また……! 私のターン、ドロー!」

 

 苛立ちを隠さないままに引き入れたカードを見やり、カミューラは次なる一手を考える。既に《大嵐》を使用した以上、彼女のデッキに全体除去はない。となれば機を待つ意味は薄いと言える。加えて仁が大量にカードを伏せていても、それが全てフリーチェーンであれば大量展開に影響はない。そう彼女は考えた。

 

「《ヴァンパイア・ロード》をアドバンス召喚! そして墓地へ送られた《ゴブリンゾンビ》の効果発動! 《カース・オブ・ヴァンパイア》を手札に加えるわ」

 

 場に現れたのは如何にも、といった装いをした青髪の男性。擬似破壊耐性という地味に厄介な効果を持つとはいえ、攻撃力は2000と上級にしては低い。それ故にカミューラはこれで終わらせる気など毛頭ない。

 

「更に《ヴァンパイア・ロード》を除外し、《ヴァンパイアジェネシス》を特殊召喚! そして効果……」

「その前に。特殊召喚成功時に《激流葬》を発動する」

 

 吸血鬼の始祖、3000もの攻撃力を持つ紫色の鬼が真価を発揮するよりも早く、激流がフィールド全体を覆う。フィールド上の全モンスターを破壊する《激流葬》をたった1体に使用するのは勿体なくもあるが、ここはこれで構わない。

 

 ジェネシスの効果はモンスターの蘇生。手札コストを要求するため、全体除去を行うなら手札の浪費を狙って効果を使わせたほうが基本的には良い。それは確かである。しかしカミューラの墓地にあるのは《ゴブリンゾンビ》のみ。即ち彼女はこれを蘇生することになる。

 《ゴブリンゾンビ》はフィールド上から墓地へ送られた時、デッキから守備力1200以下のアンデット族を手札に加える効果を持っている。サーチされてもカードアドの上では変わらないが、相手にデッキ圧縮をさせず、上級を手札に残させる分こちらのほうが優れた手であろう。

 

 一方のカミューラは再び裏目を引くとは運が悪いなどと捉えていた。しかしそれは違う。仁が最初のターンを終えて以降、彼のドローした枚数はカード効果による2枚と通常ドロー1枚の計3枚。にもかかわらず彼は4枚のカードを伏せた。つまり少なくともこの中の1枚は、先のターンあえて伏せなかったカードということになる。

 対処可能か否かは別として、最低でも1枚がフリーチェーンでないことは十分に推察可能な領域。この場面で仁が《激流葬》を発動しても何の不思議もない。しかしカミューラはそこまで考えが及ばない。ただ嘆いている。それは彼女が生粋のデュエリストでないことの証明でもあった。

 

「……ターン終了よ」

「ドロー。メインまで。……《八汰烏の骸》発動。効果で1枚ドロー」

 

 苛立つカミューラとは対照的に、仁は淡々とプレイを進める。言うまでもなく、彼の胸中にもあくどい行為への怒りや闇のゲームに対する恐怖、勝負自体への緊張はある。あるが、仁はそれらを承知した上でこの勝負に臨んでいる。

 知ってさえいれば更なる動揺が生まれることは早々なく、プレイングが疎かになることもない。ともすれば暴れだしそうな感情を抑え、彼は常よりも機械的にゲームを進行していた。

 

「カードを2枚セットしてターン終了だ」

 

 再び仁の場に4枚のセットカードが並ぶ。しかしそれでも、カミューラのすることは変わらない。

 

「私のターン! 《ゾンビ・マスター》を召喚! 手札から《カース・オブ・ヴァンパイア》を墓地へ送り効果発動! 《ゴブリンゾンビ》を復活させるわ!」

「その効果にチェーン。ライフを1000払い《活路への希望》を、更に《魂の氷結》《積み上げる幸福》を発動する」

 

 カミューラの行動を利用し、仁はチェーン4以降に発動可能となる《積み上げる幸福》の発動条件を満たす。《魂の氷結》も自分のライフが相手より2000以上少ないという発動条件を持つため、《活路への希望》によって自らライフを減らせる状況も仁に上手く作用した。

 もっとも《成金ゴブリン》に始まり、今回仁は自らライフ差を生み出せるカードを採用している。予定通りと言えばそれまで。取り立てて運が良かった訳ではない。

 

「《魂の氷結》により、相手の次のバトルフェイズをスキップする。更に他2枚の効果で計3枚ドローだ」

「ふん、なら《ゴブリンゾンビ》は守備表示で蘇生するわ。カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 カミューラの場に2体のモンスターが並んだ。片方は守備表示とはいえ、その総攻撃力は2900。今ならほんの少しカミューラが何かを加えるだけで、仁は倒れうる。そんな状況に陥りながら、彼には一切焦りが見られない。カミューラはそれを物怖じしない人間と評し、可愛げのないと不快に感じていた。

 もっとも言うまでもなく、カミューラによるその評価は仁の本質とかけ離れている。仁はただでさえ臆病と言って差し支えない性質を持つ。そんな彼が命にまで危険の及ぶ闇のゲームで本当に窮地に陥ったのであれば、まるで動じない筈がない。

 実のところ、仁は未だ安全圏にいる。彼女にはそれが見えていない、本来はただそれだけのことであった。

 

「俺のターン。ドロー。メインフェイズへ入り、《成金ゴブリン》を発動し、ドロー。そしてライフを払い《活路への希望》を発動……」

 

 カミューラは6000へ、仁は2000へとライフが変動した。これにより、お互いのライフ差2000につき1枚ドローする《活路への希望》が真価を発揮する。つまりこの状況は彼が狙っての事。表面上敗北に近づいたとはいえ、決して不利になった訳ではない。

 しかしカード発動直後、仁は動きを止めていた。その様子を見たカミューラは表情を一変させ、1人ほくそ笑む。

 

「ライフを払っているだけとはいえ、どうやら闇のデュエルの影響が出てきたようね」

 

 ダメージを受けた訳ではない。しかしカミューラの言葉通り、仁は体から得体の知れない何かが抜けていくような印象を受けていた。現状動きに支障をきたすほどではないが、勝負が長引けばどうなるか予想できない。それでも仁には、予定を変更する積もりなど毛頭なかった。

 

「……ライフ差は4000、2枚ドローする。……カードを3枚セットしてターンエンド」

 

「また伏せるだけなんて……早くしないとあのカードが来ちゃうっすよ」

 

 観戦する翔の口から不安が零れる。が、それも仕方ない。一見すると仁は防戦一方。それどころか攻め込む意思を全く見せていない。そもそも勝つ気があるのかさえ疑わしくなってくる。

 そう思っているのは何も翔だけではない。ほぼ全員が似通った印象を受けている。しかしそんな疑問を解消する答えを、大地だけが持っていた。

 

「いや、それなら心配ない。対策は既にされているからな」

「何……? どういうことだ?」

 

 不可解な発言に、準は思わず口を挟む。彼の見立て、というよりも実際に、仁は何もしていない。この状況であからさまなイカサマカード、《幻魔の扉》の対策をしていると言われても寝耳に水。何が何やらわからない。

 

「見ていればわかるさ……おそらくは、な」

 

 そんな準の問いに、大地は意味あり気に返すのであった。

 

「私のターン、ドロー! 《ゴブリンゾンビ》をリリースして《ヴァンパイア・ロード》を召喚! 《ゴブリンゾンビ》の効果により《カース・オブ・ヴァンパイア》を手札へ。更に《闇の誘惑》を発動! 2枚ドローし……手札から《カース・オブ・ヴァンパイア》を除外するわ」

 

 モンスターと魔法を巧みに使い、カミューラは手札の入れ替えを行う。新たに引き入れたカードを見た彼女は、その相貌を愉悦の色に染めていた。

 

「魔法カード《幻魔の扉》発動!」

 

 自身のデュエルディスクにカードを叩き付け、カミューラがその発動を宣言する。相手モンスターを全て破壊し、更にデュエル中に使用されたモンスターを無条件で特殊召喚する、完全な反則カード。それが《幻魔の扉》である。

 もっとも、その強力無比な効果とて脅威の一因に過ぎない。カミューラと戦う上での最大の難点は、彼女がこのカードと自身の能力を存分に生かして人質を捕ることにある。相手にしてみれば発動されれば最後、それと同時に敗北を約束されるようなもの。人質の命を切り捨てでもしない限り勝機はなくなる。

 しかし。それはあくまで「発動できれば」の話である。

 

「な、何故何も起こらないの!?」

 

 カミューラがカードの発動を宣言してから数秒。彼女は混乱の極みにあった。決して強くはないデュエリスト、カミューラの頼みの綱となっている《幻魔の扉》。それが反応する様子を欠片も見せずにいる。彼女が取り乱すのも無理はない。

 そんな混乱の最中、亮が1つの結論に行き着いた。

 

「そうか! 空撃ちになるのか……!」

「その通りです。《幻魔の扉》は相手フィールド上のモンスターを破壊するカード。条件を無視した特殊召喚は言わばおまけに過ぎない。つまり相手の場にモンスターがいなければ空撃ちとなり、発動できなくなる!」

 

 答えたのはプレイしている仁ではなく、大地。昨夜この作戦を立案した者は彼である。

 

 彼らの言う空撃ちとは、効果を受けるものが存在しない状況でプレイヤーの意思によりカード・効果を発動することを指す。第1に相手モンスターを破壊する《幻魔の扉》。それを相手フィールド上にモンスターが居ない状況で発動するカミューラの行為は、正にこの空撃ちに該当する。

 闇のカードとてデュエルモンスターズのカードである以上、根本的なルールと自身のテキストに背きはしない。原則として禁止されている空撃ちなど不可能。故に待てど暮らせど《幻魔の扉》は反応しない。反応する筈がない。

 

 無論、この戦略にも欠点は存在する。カミューラ自ら相手の場にモンスターを特殊召喚させる。これはそれだけで無為に終わってしまう不完全な代物に過ぎない。

 しかし今度は神楽坂がそれをフォロー。今回に限って言えば、彼はそうならないと踏んでいた。

 

 通常のビートダウンであれば、モンスターは召喚されるものである。つまり《幻魔の扉》を使いたければ相手が召喚するのを待つだけで良い。相手のデッキにモンスターが存在せず、且つそれを知っている状況でもなければ、態々相手の場にモンスターを出すためにデッキのスペースを割く必要などない。

 第2にこの欠点を解消する構築が困難なことが挙げられる。相手の場にモンスターを特殊召喚させることは、自らディスアドバンテージを負うことに繋がってしまう。ただでさえカミューラは相手へのメタを張っており、その上で単体ではディスアドとなってしまうギミックを組み込むのは難しい。採用するにはそれ相応の、非常に高いデッキ構築力が求められる。

 そして。そもそも彼女はこの欠点に気付いていないと、神楽坂はそう考えていた。彼の見立てではカミューラに空撃ちを察するほどの知識はなく、またこの状況を体験するほどの経験もない。故に対処が難しい以前に、対処する積もりがない。神楽坂はそう当たりを付けた。

 その結果は見ての通り。カミューラが己の無知を晒すこととなっていた。

 

「……けれど貴方のライフは僅か2000。人質を捕るまでもないわ。バトル! 《ヴァンパイア・ロード》で攻撃!」

 

 相手へ止めを刺すため、カミューラは攻撃の宣言を下す。しかし彼女の意思に反して《ヴァンパイア・ロード》は動かない。それどころかデュエルディスクは既にエンドフェイズを示している。

 カミューラには理解の及ばない現象。連続するあまりの事態に、彼女は二の句が継げなかった。

 

「言った筈だ、《魂の氷結》がスキップするのは『相手の次の(・・)バトルフェイズ』だと。このカードを発動してから今まで、あんたはバトルフェイズを行おうとしていない。だから宣言したここでバトルフェイズがスキップされるんだ」

 

 バトルフェイズとは必ず行うものではない。プレイヤーが宣言しない限り存在しない代物である。それ故に宣言しなければこのような事態が引き起こされる。初心者同然のカミューラにとって、これは青天の霹靂。予想などできる筈もなかった。

 

「くっ……ターンエンドよ……」

 

 力なくカミューラはエンドの宣言をする。バトルフェイズに入れない以上、メインフェイズ2へ移行することもできない。今回は関係ないとはいえ、最早彼女にできることはなく。ターンは仁へと移った。

 

「ドロー。メインまで。……《無謀な欲張り》を2枚発動、4枚ドローする」

 

 《無謀な欲張り》は2枚のドローを行う代償として、2度のドローフェイズスキップを強要する。即効性のない罠にもかかわらず長い目で見れば使用カード分の損失が生じてしまう、割に合わないカードである。

 しかし今一時に限定すれば、完全に逆。ターン開始時の6枚と合わせ、仁の手札はこれで脅威の10枚となった。《無謀な欲張り》は言わばドローの前倒し。その使用は決めに行く合図とも言える。

 虎視眈々と機をうかがい続けてきた仁が、遂に牙を剥く。

 

「手札から《大嵐》を発動!」

「カウンター罠《大革命返し》! その発動を無効にする!」

「ならば《神の宣告》発動!」

 

 カウンター罠の打ち合いは仁に軍配が上がり、《大嵐》の効果が通る結果となる。これで残るカミューラの伏せカード《奈落の落とし穴》もフィールドから消え失せた。

 デュエルの状況は仁有利になったものの、《神の宣告》のコスト、現ライフの半分を支払ったことで、更なる倦怠感が彼を襲う。が、それに対して全力で無視を決め込み、仁は勝負を決めに出る。

 

「魔法カード《パワー・ボンド》発動! 手札の《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》と《古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)》2枚を墓地へ送り、《古代の機械(アンティーク・ギア・)究極巨人(アルティメット・ゴーレム)》を特殊召喚!」

 

 全てを粉砕する豪腕。下半身にはケンタウロスを思わせるように4足の脚部が装着され、かつてあった鈍重さまでもが解消されている。全身から迸る有り余るエネルギーが稲妻様の火花を散らす。

 《古代の機械巨人》が進化を遂げたその姿は、正に切り札と呼ぶに相応しい。そしてただでさえ高いステータスが《パワー・ボンド》により元々の攻撃力4400を上乗せされている。攻撃力8800。カミューラのライフを一撃の下に吹き飛ばしうるそれは、相対する者を畏怖させるに十分過ぎるほどの迫力を持っていた。

 

 デュエルに勝利するならこれで十分。しかし今回の仁の目的はそうではない。デュエル自体は二の次。クロノスを助け出してこそ意味がある。

 その基盤が《古代の機械究極巨人》。今回、仁が神楽坂から借り受けたカードである。そしてそれを下地にして、彼は次の手を行動へ移す。

 

「速攻魔法《リミッター解除》を発動する」

 

 究極巨人(アルティメット・ゴーレム)の攻撃力は更に倍へ。更なる変貌を遂げた巨人を前に、カミューラの背に冷たいものが走る。圧倒的なモンスターを前にした不安からか、彼女は自身のカードへ視線を彷徨わせる。ダメージを現実のものとする闇のデュエルにおいて、これから行われる攻撃の生み出す損害はどれほどのものか。生体として優れた吸血鬼である彼女をもってして不安を生むだけの力を、その巨人は持っていた。

 そして。ここからこの戦いの真価が問われる。

 

「さて……ここで1つ提案したい」

「……何かしら?」

「クロノス教諭を今すぐ元に戻して欲しい。そうすればサレンダーを受け付けよう」

 

 仁の提案。これこそが勝負の要、その目的。元々今回の彼は、デュエルに勝って終わるなどとは考えていなかった。

 

 賭けというものは双方が良識を伴っていなければ、もしくは同等の立場になければ成立し得ない。勝利すれば言い分を聞き入れられるなどという考えは、身勝手な幻想に過ぎないのである。

 過去、既に仁はそれを経験している。《幻魔の扉》の使用法からもわかるように、彼が今相対しているカミューラにはデュエリストの誇りなど皆無。そしてクロノスの命運を握っているのも彼女であり、立ち位置も彼女が上。仮に勝ったところで、反故にされると考える方が自然である。仁が自分より優秀なデュエリストたちに任せなかった理由もここにあった。

 

 そもそも2人の勝負が成立している以上、カミューラにとって七精門の鍵よりも人形のほうが重要であるのは間違いない。鍵を重要視していないのであれば、最悪彼女がそのまま逃亡することも考えうる。故に決着の前に、確実にクロノスを元に戻す必要が彼にはあった。

 そのために、仁は闇のデュエルを利用した。彼がこのような手段に出たのはカミューラの行動に起因する。昨夜、彼女はクロノスとの1戦を終えるとすぐに姿を消した。ありえないとまでは言えないが、クロノスに対してメタを張っていたと判明した今となっては、この行動には疑問が残るのである。

 

 他の相手では対策できないということはあり得ない。対戦者を選んだのは守護者の側。クロノスを狙って挑ませるなどという悪魔の如き所業を、カミューラが行えるとは仁には思えない。自ら挑んだクロノスへの対策を講じていた以上、全ての相手に対して準備は済んでいたと考えるのが自然である。

 それならば、連戦したほうが明らかにカミューラ有利であろう。この時点で下調べの済んでいない仁に関しては、鍵を持っていないことを理由に無視するだけで良い。相手ごとにカードを入れ替えて対戦するとなれば、彼女のデッキが把握されることもそうはない。一方的にデッキを知っているという情報アドバンテージを有効に使うなら、連戦するほうが利点は多い筈である。

 つまりカミューラは連戦を意図的に避けた。そしてその理由は闇のデュエルによる消耗。そう考えられる。表面上は平気な様子を見せていた彼女であったが、実際は無傷とはいかないのであろう。故に闇のデュエルを行えばダメージを与えられる。仁はそう捉えた。

 その結果がこの脅し。圧力を背景にした取引である。

 

「断るわ! ヴァンパイアの私が、この程度で折れるとは思わないことね!」

「俺の手札には魔法カードを回収する《魔法石の採掘》がある。究極巨人の攻撃力は更に倍になるが……?」

「……っ! それでもよ! 私は人間には屈しない!」

 

 僅かながらも怯えの色を見せていたカミューラ。その明らかな強がりに追い討ちがかかる。

 仁の暴露に息を呑むも、カミューラは気丈に振舞った。眼前のモンスターは恐ろしく、吸血鬼の身をもってしても決して油断はできない。しかしまだ耐えられる。そう信じてやまない彼女に下ったのは、無慈悲な宣告であった。

 

「……成程、なら《異次元の指名者》を発動しよう。《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》を宣言する!」

 

 《マインドクラッシュ》と類似の手札破壊カード。こちらは通常魔法のため相手の妨害はしにくいが、その分即効性で勝る。仁が宣言したのはこの状況を耐えうるもの。ダメージ計算時に手札から捨てることで、その戦闘ダメージを0にするカードである。

 

 実はカミューラは自らが操る蝙蝠を用い、予め対戦者のデッキを調べるという手段を取っていた。クロノスとのデュエルにおける不自然さはこれによるもの。今回はクロノス戦後の仁の態度と大地を含めた3人の会合により、仁もその範囲へと入れている。そして彼女が対策として採用したカードは、彼の宣言通りTEMPERANCE。言い当てられたこのカードを、彼女は除外するしかなかった。

 

 唐突な宣言ではあったが、これも丸っきりの当てずっぽうではない。元となるのはカミューラの言動。本当に何の影響もないのであれば、僅かでもうろたえる筈がない。それでいて強気に出られるということは、何らかの対抗手段があるということ。先程彼女が目をやっていた手札がその元であろう。

 そしてこの局面で敗北を回避できるとなれば、僅か2種類。彼の宣言した《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》と、それとほぼ同一の効果を持つ《クリボー》である。

 後者は闇属性という点でカミューラのデッキと関連性があるが、カミューラなら単純に上級モンスターとしても運用可能、且つ自分のターンにも使用可能という利点を持った前者を採用する。それが仮に相手がデッキを知ることができるなら、と事前に問われた神楽坂の答え。通常であれば2択にせざるを得ない宣言を、仁は神楽坂の考えに託していた。

 その予想は見事に的中する。そして残る彼女の手札は1枚。《異次元の指名者》により確認したそのカードは、使用できなかった《幻魔の扉》と定まっている。

 墓地誘発のカードもなく、最早仁が警戒するものはない。カミューラの手は、既に尽きた。

 

「《死者蘇生》と《古代の整備場(アンティーク・ギアガレージ)》を捨て、《魔法石の採掘》を発動。手札に加えるのは当然《リミッター解除》!」

「ま、待ちなさい! ……これで良いかしら?」

 

 仁が《リミッター解除》を手札に加えたところで、カミューラが待ったをかける。数瞬の後、彼女の取り出した人形が淡い光を帯び、クロノスは元の姿へと戻っていった。

 カミューラの目的はヴァンパイア一族を復活させること。人形を必要としていたのは、このために魂を必要としたからである。彼女にとってクロノスの人形はそのうちの1つ。取り立ててこだわる必要はない。故に自分自身とクロノスを天秤に乗せれば、それは容易に自分へと傾く。

 クロノスが元に戻ったことで、皆の間に安堵が広がる。これで決着は付いた。そう、誰もが思っていた。

 

「ふぅ……それじゃあサレンダーを……」

「……何を言ってる? まだだ、まだ終わってない」

「な、なんですって……?」

 

 カミューラが藁にも縋る思いでした提案は、実は最低最悪の悪手。自身を奈落の底へ突き落とす愚行である。

 そもそもクロノスを元に戻す、その方法・真偽は彼女にしかわからない。故にクロノスが元に戻るまでは、どんな方法であろうとカミューラに致命的な被害を与えることは絶対にできなかった。その枷を、彼女は自ら外してしまったのである。

 

「彼を元に戻せばサレンダーを受け入れると言ったのは嘘だったとでも!?」

「俺が要求したのはあくまで()()()だ。そんなのはとうに過ぎている。聞き入れる謂れはないな」

「なっ…………」

 

 カミューラにとって想定外の仁の返答。しかし正論ではある。あれでは仁の提案を拒否した後、カミューラが勝手にその内容を行ったに過ぎない。

 

 更に付け加えるなら、己の成すことは人形を取り戻すだけでは十全でないと仁は考えていた。

 デュエリストとしてのプライドなど元々存在しないカミューラ相手では、勝利したとしても関係ない。闇のアイテム・闇のカードを操れる限り、彼女は何度でも挑んでくる恐れがある。つまり鍵の守護者はいつまでも彼女を迎え撃たなければならない。どうしても、そうなることは避ける必要がある。

 故に、こうなるのもある意味必然であった。

 

「攻撃力17600、戦闘ダメージにして15800か。まあ、耐えられるよう精々祈るんだな……。バトル、究極巨人(アルティメット・ゴーレム)でゾンマスに攻撃!」

 

 4つの脚で疾走し、ゴーレムの巨体が《ゾンビ・マスター》、ひいてはカミューラへ襲い掛かる。

 モンスターを通しての超過ダメージになるとはいえ、その凄まじい攻撃力の前には壁などあってないようなもの。少なくともそう覚悟して受けなければならない。闇のデュエルにおいて1万を超えるダメージなどカミューラとて受けたことはない。しかし一族の復興のため、彼女はここで倒れる訳にはいかない。必ず人間への復讐を果たすと心に決め、迫り来る一撃に備える。

 しかしそんなカミューラの決意も、更なる追い討ちの前に脆く崩れ去る。

 

「《リミッター解除》発動! 機械族モンスターの攻撃力を2倍にする!」

 

 呆然とするカミューラをよそに、究極巨人の拳が炸裂する。眼前にいた死霊術師を紙のように吹き飛ばし、カミューラを巻き込んでなお、それは止まらない。

 光り輝くほどの稲妻を全身に纏い、現実に昇華された立体映像は彼女の背後にあった壁をも突き破る。残されたのは床の焦げ跡と大穴の開いた壁、ただそれだけ。

 33400。元となる4000のライフを8度葬りなお余る過剰なダメージは、さしもの吸血鬼とて耐えられるものではない。人間へ恨みの念を抱いたまま、吸血鬼唯一の生き残りカミューラは事切れた。




今日の最強カード

《魂の氷結》
通常罠
自分のライフポイントが相手のライフポイントより2000以上少ない時に発動する事ができる。
相手の次のバトルフェイズをスキップする。

「今日の最強カードは《魂の氷結》だ。一見すると《威嚇する咆哮》の下位互換だが、実際は微妙に異なる。こちらは発動するタイミングを問わず、相手のメイン2だろうと自分のターンだろうと確実に相手の次のバトルフェイズをスキップする。発動条件を満たしていればまず無駄にならない上、バトルをスキップする所為で相手はメイン2に入ることもできなくなる。メインフェイズ1をスキップするカードとのコンボが可能なことを考慮すれば、一応は相互互換と言えるだろう。
 だがこのカードの真の恐ろしさはそこじゃない。こいつは『相手が()()()()バトルフェイズ』をスキップするんだ。つまり相手がバトルフェイズに入る意思を見せない限り、効果が持ち越されることになる。知らない奴にとってはほとんど隠された効果。完全に盲点になるだろう。
 何故こうなるのかは、ルールを良く考えればまあ納得できると思う。1つはテキストが『次のターンのバトルフェイズ』ではなく、『次のバトルフェイズ』であること。1つはバトルフェイズは、ターンプレイヤーがそのフェイズへの移行を宣言しない限り行われないこと。この2つを統合すると、今回の話のようになる。元からないものをスキップすることはない……という訳だな。
 上手くいけば1枚で2回の攻撃を防ぎうる、それがこのカード最大の強みだ。難点はフリーでこれを強調すると友達が居なくなることだろう……。結局のところ、楽しくデュエルするのが一番。今回みたいなことは、できる限り遠慮したいところだ」

 当作における《幻魔の扉》対策はTF版のテキストを参考にしたものです。そちらを見て思い付いたので……。持っていない私には確認できないのですが、もしも不可能な場合は完全にミスです。その際は申し訳ありません。なおテキストは次のようになっています。

《幻魔の扉》(TFオリジナル)
通常魔法(禁止カード)
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
その後、相手の墓地からモンスターを1体選択し、召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。
発動ターンのエンドフェイズ時、自分のライフポイントは10分の1になる。

《幻魔の扉》(当作における仮想テキスト)
通常魔法
魂を幻魔に捧げて発動する。
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
その後、デュエル中に1度以上使用されたモンスター1体を選び、召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードを発動したプレイヤーがデュエルに敗北した場合、捧げた魂は幻魔のものとなる。

 一応はアニメからテキストを読み取ることも不可能ではないのですが、あちらでは「墓地のモンスター1体を特殊召喚」と書かれていながら融合デッキからサイバー・エンドを特殊召喚しています。コンマイ語さえ超越していて、いつものことながらアニメのテキスト自体は何の参考にもなりません。故に当作ではアニメ版の詳細を無視し、天啓を得たTF版を採用しました。

 感想にて疑問が寄せられたので、究極巨人に関して追記します。
 神楽坂は以前にデッキ構築の段階で再現し切れなかったとしているので、これを持っているのはおかしいと思われるかもしれません。しかし当作では既に《歯車街》が存在しています。加えて人々の認識・価値観が――あくまでアニメに比してですが――リアルよりです。そのような環境から巨竜のほうが高価な状況になっていて、神楽坂は巨竜を持っていません。またクロノスデッキに3積みされている機械巨人も所持数は1枚だけです。それ故に再現し切れなかったということになります。
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