神域に憧れて   作:典型的凡夫

19 / 19
 今回、デュエルはラストシーンのみ、字数にして約6千と非常に短くなっています。


019 意地

 カミューラの撃退から1週間余り。仁たちの通うアカデミア本校は未曾有の危機に陥っていた。

 もっともそれは三幻魔のように壮大な代物ではなく、あくまで学園という枠組みの中での話。カードゲーム界への進出を目論む万丈目グループによる、学園の買収話が持ち上がったのである。

 

 学園としては大事であるものの、生徒たちにとっては基本的に権利者が変更されるだけのこと。買い手となる万丈目グループがカードゲーム界への進出を目的としている以上、学園の根幹、即ちデュエルモンスターズを学ぶことに変更がある筈もない。

 となれば最悪切られる可能性のある劣等生は別としても、それ以外は対岸の火事として捉える者が多数を占めるのが普通であろう。経営難に陥っての売り出しならまだしも、今回のようなケースであれば一般には大した騒ぎとならない。

 

 しかし現オーナーが武藤遊戯に勝るとも劣らないデュエリスト、海馬瀬人となれば話は変わる。

 生徒を含め、大衆の中には彼の経営する学園で学ぶ、ただそれだけで意味があると考える者も少なくない。極端な例を挙げれば、この学園で優秀な成績を収めた者にはそれだけでプロの推薦が考慮されるほど。直接関わってくることは皆無と言えど、彼の威光があるとなしでは天と地ほどの差がある。

 それだけではない。デュエルモンスターズの創始者であり、インダストリアル・イリュージョン社、通称I2社を経営するペガサス・J・クロフォード。個人としては決して仲が良いとは言えないものの、瀬人は彼と旧知の仲でもある。

 カードの制作を担うI2社と本校との繋がりもそれ故であり、瀬人がオーナーでなくなればこの関係は失われる可能性が高い。つまりカードデザイナーを目指す者にとって、この事件は死活問題になる。兎にも角にも、アカデミアにおける瀬人の影響は大きかった。

 

 一方、瀬人にとってのアカデミアは手がける事業の1つに過ぎない。元々アカデミアの設立目的は、若い世代のデュエリストレベルの全体的な引き上げ、ひいてはプロデュエリストリーグの振興である。この点は既に達成されたと言っても良い。経営に関しても現在は理事長に一任した状態であり、瀬人でなければならない理由は特にない。

 それに加え、利益を目的とするなら有能な者と契約すれば済む。これからの企業ならまだしも、デュエルモンスターズにおいて日本最大手の海馬コーポレーションであれば、そのほうが利点は大きい。

 またこれを機に、政界への影響力をも持つ万丈目グループとの繋がりを持つのも悪くないと言える。これがアカデミアの購入を持ちかけられたのであれば、ひょっとすると瀬人も前向きに検討していたかもしれない。

 

 しかし現実は異なる。今回の万丈目グループの申し入れは交渉ではなかった。彼らはアカデミアの生徒とデュエルを行うという、勝負を申し込んできたのである。勝てば我々が学園を手に入れる、と。

 瀬人ではなく生徒へ、更に相手自らハンデを要求したとはいえ、素人に勝負を挑まれて逃げることなど彼の頭にはなかった。何より、生徒と言えどデュエリスト。ならば「未来のロードは己が手で切り開くもの」。この程度の障害を乗り越えられないようではデュエリストを名乗る資格などない。瀬人はそう考えている。

 

 かくしてアカデミアの権利の行方は、万丈目グループ側の指定した生徒、準の手に託されることになる。

 

 そして宣戦布告から3日後の今日。以前十代に敗北を喫したホールで、準は自らの兄、長作の手によってまたしても窮地に陥っていた。

 

「セットモンスターを墓地へ送り《強制終了》の効果発動! バトルフェイズを終了する」

「そのカードには散々悩まされたが……それもここまでだ! 永続罠《王宮のお触れ》を発動する!」

 

 長作の発動した《王宮のお触れ》により、今後このカード以外のフィールド上の罠の効果は無効にされてしまう。つまり今まで準を守り続けてきた永続罠《強制終了》が効力を失うことになる。

 加えて準の場にモンスターの姿はない。このままでは敗北は必至。となれば、何もせず手をこまねいている訳にはいかない。

 

「ならばチェーンして《ピンポイント・ガード》発動! 墓地よりレベル4の《魂虎(ソウル・タイガー)》を特殊召喚する!」

「守備力2100……我がドラゴンの敵ではないな。攻撃を続行しろ、《ダーク・ホルス・ドラゴン》!」

 

 名前の通り青白い魂で構成された虎へ向け、漆黒の鎧をまとったドラゴンがブレスを吐く。

 本来なら容易に標的を飲み込む筈のそれはしかし、不可視のバリアによって遮られた。

 

「《ピンポイント・ガード》の効果で特殊召喚したモンスターはそのターン、戦闘及びカードの効果では破壊されない。後からお触れが適用されたとしても、それは同じだ」

「……しかしそれもこのターンのみ。所詮は寿命が伸びただけだ」

 

 予想に反して勝負を決めることはできなかったものの、長作は余裕を持ってターン終了と付け加える。そんな彼の言葉には、誰もがある程度は同意せざるを得なかった。

 

 長作の場は5体ものドラゴンで固められている。

 中央には2400の攻撃力を持ち、ドラゴン族を効果の対象にできない制限を相手にのみ課す《竜魔人 キングドラグーン》。その両翼には《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》と《ダーク・ホルス・ドラゴン》という攻撃力3000のドラゴン族2体が並ぶ。更にはバーンを回復に変換し、手札1枚をコストにモンスター破壊効果の発動を無効にする《マテリアルドラゴン》、攻撃力5400となった《モンタージュ・ドラゴン》までもが存在する。

 伏せカードこそ存在しないものの、生半可な手段では傷付けることさえ叶わない堅牢な城を長作は築いていた。

 対する準は攻撃力0の《魂虎(ソウル・タイガー)》を残すのみ。頼みの綱の《強制終了》はお触れにより無効になっている。

 加えて今回の勝負をするにあたって課せられたハンデ、それを準自ら重くしたことにより、彼のデッキに入っているモンスターは攻撃力0のものしかない。現状では反撃どころか、次のターンを耐えることすら怪しい。そう考える者が大半を占めている。

 

 しかし準は知っている。こんな状況からの逆転を常とする男が居ることを。どれほど不利であっても、決してそれは敗北とイコールではないことを。無限の可能性を秘めるドロー。それを含めた3枚の手札こそが勝敗を分かつ鍵となる。

 この程度の逆境などはねのけてみせると、準は勢い良くカードを引いた。

 

「俺のターン! 《強制終了》を墓地へ送り《マジックプランター》発動。効果により2枚ドローする!」

 

 コストに永続罠を要する等価交換。《強制終了》が無力となった今、それはカードが増えるに近い。

 

「通常魔法《ブラックホール》を発動。フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

「手札の《ホーリー・ナイト・ドラゴン》を墓地へ送り、《マテリアルドラゴン》の効果発動! 《ブラックホール》は無効だ!」

 

 全てを飲み込む大質量。重力場が無限大となるそれはしかし、発生する前に《マテリアルドラゴン》の光に打ち払われた。

 

 制限カード《ブラックホール》を無効にされ、アカデミア生徒の間に動揺が広がる。ただでさえ強力な5体のドラゴン相手に、攻撃力0のデッキで正面からぶつかり勝利するのは至難。加えて相手モンスターを対象に取れない今、1体ずつ破壊することもできない。この状況下で《ブラックホール》を失っては、巻き返す手段を浮かべられる者でさえほんの僅か。まして勝利を見出す者など皆無。絶望に濡れている者が大半であった。

 対照に、長作は得意げな様子を隠せずに居た。

 

「どうした準、《マテリアルドラゴン》の効果を忘れたか!」

「いや、わかっているさ。これで兄さんの手札は0。もう効果は使えないと」

 

 しかし。煽るような長作の発言、それに対して準は粛々と言葉を返す。その表情に相手を見下すなどという要素は欠片もなく、あるのはただただ己とデッキへの信頼のみ。他者の目に映る準の背は、絶対の自信に満ち溢れている。

 気付けば、彼らの心から不安は消えていた。代わりに湧き上がってきたのは勝利への期待。この絶望的な状況を逆転する準の姿が、思いもかけず脳裏に浮かび上がる。

 

「魔法カード《トライワイトゾーン》発動! 自分の墓地からレベル2以下の通常モンスター3体を特殊召喚する! 俺が選ぶのは《おジャマ・イエロー》《おジャマ・グリーン》《おジャマ・ブラック》だ!」

 

 一瞬にしてフィールドにおジャマ3兄弟が並ぶ。1枚のカードで3体を展開するとなれば、枚数の上では禁止カードの《強欲な壺》までも上回っている。そんな準の行為は賞賛に値すると言えよう。

 もっともその全てが効果を持たず、攻撃力も0。これだけでは意味を成さない。にもかかわらず、誰もがここから何かが起きると確信していた。準の醸し出す空気に加え、おジャマ3兄弟の表示形式もそれを物語っている。

 

「攻撃表示だと!? 数を揃えたところで、そんな雑魚どもに何ができる!」

「こいつらを馬鹿にすることは、俺が許さん!」

「何?」

 

 長作に限らず、準の言葉を訝しむものは多かった。攻撃力0の通常モンスター。それを雑魚と呼ぶことに何の問題があろうか。

 もっとも、論点はそこではない。おジャマの攻撃力の低さなど準は百も承知。更に見た目や性格も最悪と、精霊との会話も可能な彼は語る。それは疑いようもないと。

 ならばおジャマとは何なのか。耳を傾ける聴衆に届いたのはしかし、予想に反した台詞であった。

 

「……だが、俺はこいつらに教えてもらった! 下には下が居るということを!」

 

 堂々とした宣言。それは更に「こいつらに比べたら俺なんか全然マシだ!」と続いた。

 予想の斜め上を行く準の言葉に、多くの者が言葉を失っている。ここまで後ろ向きに聞こえる発言を耳にしては無理もない。事実、兄である長作も彼の言葉を額面通りに受け取っていた。

 

「黙れ準! 落ちこぼれは所詮落ちこぼれだ!」

「……ならば見せてやる。落ちこぼれの意地を!」

 

 しかし、準よりも下が居ることなど至極当然のこと。自身を落ちこぼれと称することはあるものの、彼は決して最下層ではない。上に立つ者としての風格を備え、普段から尊大な態度取る準は元よりそれを知っていた筈である。そんなことは改めて教えられるまでもない。

 そもそも単に自分よりも下が居るという意味で己を安堵させているだけならば、彼がここまで強くなれる筈もなかった。故にそこには深い意味が込められていて然るべき。

 

「魔法カード発動。行け、雑魚ども!」

 

 準がカードを発動するや否や、おジャマたちが輪を作り高速回転。長作のフィールドを飲み込むハリケーンとなる。砂埃が巻き上がったことで視界は遮られるものの、数瞬の後に轟いた爆音が全てを物語っている。

 

「バカな……俺のモンスターが……全滅!?」

 

 視界が晴れ、フィールドが再び長作の目に入った時には、既に彼のモンスターは影も形もなかった。弱小と見下してきたおジャマがその光景を生み出したことに、長作は驚くより他ない。

 

 発動されたカードは《おジャマ・デルタハリケーン!!》。このカードは自分フィールド上におジャマ3兄弟を揃えることを発動条件とし、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する効果を持つ。破壊を無効にする《マテリアルドラゴン》が居座っている間ずっと、準はこの機をうかがっていた。弱者が強者を打ち破る、この時を。

 一般に雑魚と蔑まれるようなモンスターであっても、そこには必ず価値が存在する。サーチや特殊召喚の容易さから、時にプレイヤーを守る壁となり、時に有用なコストとして活用される。攻撃力0であろうと効果がなかろうと関係はない。むしろ、それが利点となる場合も存在する。

 

 しかしそれだけではない。ひとたび集まれば、相手フィールドを殲滅する最強の矛になる。それがおジャマというモンスター群。最低・最悪と罵られる彼ら3兄弟には、全てを超越する瞬間が確かに存在していた。

 ならば、彼らよりも上の自分が頂点に立てない道理はない。準の言葉の真意、それがここにあった。

 

「更に通常魔法《右手に盾を左手に剣を》! 全てのモンスターの元々の攻撃力と守備力を、エンドフェイズまで入れ替える!」

 

 おジャマたちは攻撃力こそ0であっても、守備力なら1000の数値を持っている。決して高くないとはいえ、3体の合計値で見れば3000。かの《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》と同等になる。

 勿論、それだけでは終わらない。

 

「そして《魂虎(ソウル・タイガー)》を攻撃表示に変更」

 

 準を守るように立ちふさがっていた虎が、今度は長作へ牙を剥く。攻守の入れ替わった《魂虎》の攻撃力は並の下級モンスターを優に上回る2100。おジャマたちと合わせれば長作のライフ、初期値から変動していない4000を一挙に削り切ることができる。

 

「バトル! 全モンスターで一斉攻撃!」

 

 準の指示に応え、おジャマたちが総攻撃を仕掛ける。フィールドも手札も失った長作にそれを防ぐ手段などなく。デュエルの終わりを伝える電子音が準の勝利を告げた。

 

 攻撃力0というハンデを背負った準の勝利。そのデュエルにより衝撃を受けた者は多い。特に所謂ファンデッキやネタデッキと呼ばれるものを好む者たちはその傾向が強かった。

 どんなデッキであっても、どれほど強大な相手であろうと、勝利を掴むことは決して不可能ではない。今回の一件は、己がデッキへの自身を失いかけていた者たちへ希望をもたらしていた。

 

 方向性こそ違えど、それは長作も同様である。

 見る者に夢を与える、そんなデュエルを準が行えるならば、何も問題はない。後は確かな実力を身に付けさえすれば、必ずや彼はプロとして大成するであろう。大本の目的、万丈目家がカードゲーム界に君臨することの足がかりとして、それは十分に過ぎる。

 つまり長作からすれば、目的は達成されたようなもの。試合に負けて勝負に勝ったというところか。

 

 そうして先の展望を見出した者が居る一方で、壁を感じる者も居た。果たして自分はあの領域に至れるのか、と。

 仮にプロを目指すとなれば、今の準を超える、最低でも並び立つほどの強さを持たなければならない。何かしらのトップを目指す場合も同様。彼と同等以上のカリスマを必要とされることもあろう。

 仲間であると同時に、いやそれ以上に同世代の生徒を競争相手と捉えている者にとって、今回の件は現実という壁をまざまざと見せつけられる結果になった。敵わないと、そう感じてしまうのも、ある種必然であろう。

 

 しかしそれは、言うまでもなく現状に限っての話に過ぎない。未だ成長段階に居る彼らが、ここで自分に見切りをつけるのは早過ぎる。

 今はまだあがくべき時。現実を知り、それを受け入れつつなお抗う。何よりそれが無意味でないことを、既に準が証明している。最下層のレッドに敗北を喫し、寮入替デュエルでは大地に敗れ、果ては本校から退学。そんなどん底から彼は這い上がってきた。

 ならば自分も。そう思わせてしまうのは準の資質であろう。壁を見せつけると同時に、彼は確かな可能性を示してもいた。故に皆が抱いたのは、絶望ではなく野心。彼らは今までより更に上を向いて歩んでいく。

 

 そしてこの事件は、オシリス・レッドにも変化をもたらす。準が見せた「落ちこぼれの意地」。それが無気力で怠惰な生活を送る感のあった彼らに命を吹き込んだのである。

 

 この日よりアカデミアに通う者たちの心から諦観や慢心が薄れ、ランクを問わず切磋琢磨していくことになる。その状況を1人の男がデュエルから生み出したことは、存外知られていない。




今日の最強カード

《おジャマ・デルタハリケーン!!》
通常魔法
自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」「おジャマ・ブラック」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

「今日の最強カードは《おジャマ・デルタハリケーン!!》。効果そのものは2枚の禁止カードを合わせたに等しく、非常に強力だ。……とはいえ発動条件を満たす、ひいてはそのための構築を考えれば、多くの人はデメリットのほうが大きいと捉えるだろう。
 何しろこのカードの発動条件は、攻撃力0のおジャマ3兄弟をフィールドに揃えること。《トライワイトゾーン》により特殊召喚自体は容易になったものの、勝利するためにはこのカードに加えて更にカードが必要になる。《死の合唱(デスコーラス)》や《漏電(ショートサーキット)》との最大の違いはそこだ。しかもここから1枚で勝つ、なんて手段は《オベリスクの巨神兵》くらい。事実上、更に2枚のカードが必要になる。これなら《おジャマ・デルタハリケーン!!》を使わずに、バルバロスを召喚したほうが良いと考えてしまうだろう。そのほうが枚数も少なく済むからな。
 もっともおジャマは専用サポートに加え、前述のバニラサポートを使うことができる。デルタハリケーンは《おジャマ・ブルー》でのサーチも可能と、十分に差別化は可能な筈だ」

 万丈目の台詞「下には下が居るということを!」に考えを巡らせた結果こうなりました。アニメのこの場面、画面に映った範囲ではギャグ調なので、完全に独自解釈ですが……こんなことも考えられるという程度に思ってください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。