神域に憧れて   作:典型的凡夫

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002 撹乱

 季節は巡り夏の終わる頃。新学期に備え、デュエル・アカデミアには狭き門を通り抜けた新入生達が続々と集まっていた。その中には彼、柳川仁の姿もある。

 その到着からおよそ1時間。仁は今、島の地理を確認するため自分の寮の周辺を散策しているところである。

 デュエル・アカデミアは太平洋の孤島に設置されており、施設とそれに連なる道以外は多くが自然のまま残されている。更に用意されている地図もそれほど詳細なものではなく、実際には存在する起伏なども記されていない。坂道があれば無論のこと、移動に必要とする時間も変わる。仁はそれらを自らの目で確かめていた。

 そんな折、彼は黄色の制服を着た少年と出会う。

 

「やあ、君は確か受験番号12番の……柳川だったかな?」

「ああ、柳川仁だ。宜しく。……確か君は三沢だよな?」

「三沢大地だ。こちらこそ宜しく」

 

 友好的な態度を示しつつ、仁に話しかけた少年の名は大地。彼は入試の実技試験の際に受験番号を1番とした男である。この番号は筆記試験の点数で決定されるため、筆記試験において彼が最も優秀であったということになる。中等部から進学した者も居るため一概にトップとは言い切れないが、大地が豊富な知識を持っていることに違いはない。

 また実技試験は番号の大きいものから順に行われる。つまり大地のデュエルが行われたのは仁の試験後。ある種の余裕を持ってその試験を見ることができたため、仁も大地のことを良く覚えていた。

 

「……しかし君もレッドか。十代同様、どうしてそうなったのか不思議だよ」

 

 適当な世間話の後、大地は訝しげな顔で自らの疑問を口にした。

 アカデミアに通う生徒の受ける待遇は成績によって異なる。中等部からの生え抜きが集う『オベリスク・ブルー』、高等部入学試験の成績優秀者が配属される『ラー・イエロー』、所謂落ちこぼれと呼ばれる『オシリス・レッド』。生徒はこの3つに分けられ、その色の制服及び寮で生活する。

 仁が着ている制服の色は赤。つまり彼の所属はオシリス・レッドになる。大地にとって、これは少々意外であった。

 

「十代、というと……確かクロノス教諭に勝利した奴か」

 

 2人の言う十代とは遊城(ゆうき)十代のこと。遅れて会場入りした彼のデュエルは、他の全てが終わってから行われたため、多くの者が目にしている。そして入学試験において、この少年はデュエル・アカデミア実技担当最高責任者であるクロノス・デ・メディチを打倒したのである。

 しかも単に試験官として倒した訳ではない。クロノスはこの際、彼自身のエース《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》を使用していた。何処まで本気を出していたのかまでは不明とはいえ、少なくとも彼らが戦ったような高等部入試用のデッキでなかったことは確かである。それに勝利を収めたとなれば、件の十代が話題になるのも当然と言えた。

 

「だが彼はともかく、俺がレッドなのはそこまでおかしいか……? 入学試験を見ただろう」

 

 結果的に勝利を収めたものの、試験デュエルの際に仁は一度勝機を逃している。彼自身、あの時あの状況で考えうる限り最善の選択をした積もりではあった。しかし真の強者というものは逆。終わってみればあの時の選択は正しかったという行動をするもの。そういった勝負勘、所謂センスというものが己には足りないと仁は思っていた。

 

「柳川は随分と自己評価が低いんだな。確かにあのデュエル、3ターン目にモンスターを残していればもっと早く決着を付けることができただろう……。だが、戦略そのものは素晴らしかったと俺は思うぞ」

 

 モンスターを犠牲にしながらも《鎖付きブーメラン》を手札に戻すことで、次の攻撃に備える。そんな先を見据えたプレイングを大地は買っていた。ピンチに陥ったのも結果論に過ぎない。それが彼の考えである。

 

「それに君の実技受験番号は12番……筆記試験の成績だって良かった筈だ」

「今更何を言っても仕方ないだろ? 俺はオシリス・レッドだという評価を受けた。それが全てさ」

「成程、確かにそうだな。……それに、君たちに実力があればいずれ昇格することになるか。その時を楽しみにしているよ」

 

 また会おう、そう言って大地はその場を後にした。

 彼も同様に散策していたのであろう。そう捉えた仁は、先程に続き周辺の探索をすることにした。

 

 鈴虫の音を聞きながら、仁が寝る準備をし始めた頃。彼は寮の外で覚えのある人物の話し声を耳にする。様子を見に外へ出ると、そこには彼の予想通りデュエルをこよなく愛する十代と、気の弱い丸藤翔が立っていた。

 彼らが知り合ったのは寮の歓迎会。そこでこの3人は同じ席に付くことになった。陽気で前向きな性格の十代が、同席した仁に話しかけるのは自然な流れである。その結果レッド寮内としては、彼らは多少なりとも親しい間柄になっていた。

 

「あ、仁君! アニキが万丈目(まんじょうめ)君とデュエルするって言って聞かないんすよ!」

「何言ってんだ、デュエルだぞ! 挑戦されたら受けるのが男だろ」

「態々こんな時間にデュエル? そもそも万丈目って誰なんだ?」

 

 口論を止めない2人に対し、事情を知らない仁が当然の疑問を口にする。そこで昼間ブルーの生徒と一悶着あったこと、そこに現れた万丈目準から先程メールが届き、デュエルを持ちかけられたことを翔は説明する。

 もっともそれだけなら難点は深夜に出歩く程度、大したことではない。問題はアンティルール、即ち賭け事を持ちかけられたことである。

 

「……成程。相手も強いだろうし……リスクが高いってことか。けど逆に強いからこそ、十代を止めるのは難しいんじゃないか?」

「う……確かにアニキにデュエルを止めさせるなんて無理っすよね……」

 

 十代の性質を思い起こし、翔が諦めの雰囲気を漂わせる。誰よりもデュエルを好む十代に、強者との戦いを止めさせることは難しい。2人とも彼に出会って間もないが、ことデュエルに対する姿勢に関して、その見解は一致していた。

 

「そんなに心配しなくても、十代なら勝てるさ。信じてやるのも弟分の務めじゃないのか?」

「そうっすね! よし、僕はアニキの勇姿を見に行くことにするよ!」

「……なら俺も行っていいか? 十代とブルートップのデュエルは是非見てみたい」

 

 了承を得た2人は、十代と共に彼が呼び出された場所へ向かうのであった。

 

 目的地に到着した十代たちは、準とその取り巻きがデュエルフィールドの中央で待っているのを目にする。彼らは当然のように、相手を見下す視線を飛ばしていた。

 

「よく来たな、110番! ……横にいるのは見学者か? 態々負ける姿を晒す相手を増やすとはな」

 

 110番とは当然の如く十代を指す。準が番号で呼んだのは、名前を呼ぶ価値もないと言いたいがためであろう。己の優位性を信じて疑わない傲慢な態度。それは確かな実力に裏打ちされたものでもある。

 

「へへっ、そいつはやってみなくちゃわからねえぜ」

「そうだな。仮にもクロノス教諭を破っていることだし、十代が勝つこともありえる」

 

 勝負に絶対はない。運の要素が絡むDMにおいては殊更それが顕著になる。それは厳然たる事実であり、仁としては特に意識せずに出た言葉であった。

 しかしその発言が気に障った者もいた。それは当人の準ではなく、彼の取り巻きの1人、取巻(とりまき)太陽である。

 

「貴様! 万丈目さんが負けるとでも言うのか!」

 

 彼にとって準はエリートの象徴。1学年においては間違いなく最強と信じている者である。その彼がレッドの十代に負けるなどと言われては、太陽が黙っていられる筈もない。

 

「別にそんな積もりはないが……注目の勝負というのは確かだろう?」

「ドロップアウトと万丈目さんの戦いがまともな勝負になる訳ないだろう! 貴様にはこの俺がレッドとブルーの違いを教えてやる!」

 

 デュエルだ、と意気込む太陽を前に思案し、仁はこの申し入れを受けることにする。十代のデュエルを見ることができなくなるとはいえ、仁にとってはブルーを相手にデュエルできるまたとない機会。受けるのも吝かではない。

 準と十代の戦いの邪魔とならないよう、2人は隣のフィールドへと場所を移すことにした。

 

「いいか、これはアンティルールだ! 終わったらお前のベストカードを貰うぜ」

「おいおい、ブルーの生徒が態々レッドのカードを手に入れてどうするんだ? それとも実力で勝てるか怪しいから圧力で押しつぶそうとでも……?」

 

 その台詞から、太陽は既に勝った気でいることがうかがえる。先程の通り、レッドに負けるとは微塵も考えていないのであろう。

 一方アンティを避けたい仁は太陽のプライドを刺激するように挑発する。仁がこのような行動をしたのは確実に勝てる自信がないということもあるが、それよりも勝った時の保証がないことを懸念してのことである。リスクのみを負うようなことを彼は避けたかった。

 

「減らず口を……。ならばアンティはなしにしてやろう! お前にはこの俺の純粋な実力を、格の違いってやつを教えてやるよ!」

 

 言いながら、お互いにデュエルディスクを構える。

 

「先攻は俺がもらう! ドロー! 《ゴブリンエリート部隊》を召喚!」

 

 太陽のフィールドに銀白色の鎧を着用したゴブリン部隊が出現する。その手には鎧と同色の剣が握られている。

 攻撃力2200と下級にしては破格の数値であるが、攻撃後は守備表示になってしまう。一般にデメリットモンスターと言われる1枚である。

 

「リバースカードを2枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ。《忍者マスター SASUKE》を召喚」

 

 仁のフィールドには手足を包帯で覆った忍が現れた。緑の装束を着ているものの、モデルとなった者の面影などない。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズに《砂塵の大竜巻》発動! 俺から見て右の伏せカードを破壊する!」

 

 相手の魔法・罠カード1枚を破壊する《砂塵の大竜巻》。太陽が対象に選択したカードは、仁が先に伏せたほうである。

 プレイヤーが複数のカードをセットする場合、重要なものを先に伏せる傾向が僅かながら見られる。これは戦術として必要なことを優先するためであろう。ブラフであれば後回しにされることが多い。

 無論それを逆手にとって後から本命を伏せる戦術も存在する。しかしオシリス・レッドそのものを見下している太陽は、それを微塵も考慮しない。

 結果、発生した竜巻は《忍法 変化の術》を破壊した。表側の「忍者」を必要とするこのカードは正しく本命と言えよう。攻撃力1800に過ぎないSASUKEを召喚したのも理解できるというものである。

 

「……改めてターン終了だ」

「俺のターン、ドロー! 《ゴブリン突撃部隊》を召喚!」

 

 太陽の場に新たなゴブリンが現れる。軽装なため守備力は0と非常に低いが、代わりにエリート部隊よりも攻撃力が100高い。

 

「バトル! 《ゴブリン突撃部隊》でSASUKEに攻撃!」

 

 先程《忍法 変化の術》を破壊した太陽は、仁の思惑を完全に外したと思い込んでいる。しかし彼のその考えは甘いと言わざるを得ない。仁の伏せカードはもう1枚存在する。それが的を外すためのブラフとは限らない。

 

「攻撃宣言時に罠カード《鎖付きブーメラン》発動! 《ゴブリン突撃部隊》を守備表示にし、このカードをSASUKEに装備させる」

 

 先頭をきっていたゴブリンの足に鎖が絡みつき、集団で向かっていた彼らは転倒を余儀なくされる。一仕事を終えた鎖は忍者の手に舞い戻っていた。

 これでSASUKEの攻撃力は突撃部隊と同じ2300へ。その突撃部隊も守備表示となり、既に脅威ではなくなっている。形勢は互角に近くなっていた。

 

「ちっ……カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

「俺のターン。ドロー、スタンバイ、メイン。《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》を召喚」

「フン、所詮はドロップアウトが使うカードか。デメリットを持ちながら攻撃力2000とは」

 

 仁の場に現れた白髪の鳥人を一瞥し、太陽は馬鹿にしたような台詞を口にする。

 確かにこのカードも一応はデメリットモンスターに分類される。攻撃を宣言するために、自分のカードを手札に戻すという条件を必要とするのはデメリットと言えよう。

 しかし実のところ、それはデメリット足りえない。基本的には自ターンで使わない罠カードをコストとすれば何の問題もなく、それによって攻撃しにくくなることなどほとんどない。そしてそれ以上に、この効果は使い方次第でメリットとなる。それこそがファルコンの本領である。

 

「バトルフェイズ。SASUKEで《ゴブリンエリート部隊》に攻撃!」

 

 《鎖付きブーメラン》を手にした《忍者マスター SASUKE》が甲冑を纏ったゴブリンたちを次々に倒していく。この戦闘で仁が与えたダメージは僅か100に過ぎないが、モンスターを排除したという事実は大きい。

 

「そして《鎖付きブーメラン》を手札に戻し、ファルコンで《ゴブリン突撃部隊》に攻撃!」

「甘いんだよ! 永続罠《最終突撃命令》発動!」

 

 ゴブリンたちに突如王命が下った。直後今まで身をかがめていたゴブリン部隊が一斉に立ち上がり、鳥人に向かって突撃する。今度は逆に仁がダメージを受けてしまう。意表を突かれ、ファルコンは成す術なく倒されることとなった。

 表側表示モンスターを強制的に攻撃表示とする《最終突撃命令》。仁のデッキは相手の表示形式を変更して戦闘破壊するところがあるため、相性は良くない。事実《鎖付きブーメラン》を使用しただけでは、太陽のモンスターを一方的に倒すことができなくなっている。

 そんな状況を受け、仁は動きを止めていた。

 

「……どうした? 諦めたならとっととサレンダーしろ!」

 

 メインフェイズ1以外での長考という、あまり見られない光景。ファルコンを迎撃した太陽は、得意顔で仁に降伏を勧める。しかし彼はそれを意に介することなく、暫く考え込んだ。

 

「メイン2に入る。リバースカードを2枚セットし、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー! 通常魔法《闇の誘惑》発動! 2枚ドローし、手札から《ジャイアント・オーク》を除外する!」

 

 損失なしの手札交換。《闇の誘惑》の効果は2枚ドローした後に闇属性モンスター1体を除外するというもの。これだけ見れば非常に強力であるが、闇属性モンスターがない場合は手札を全て墓地へ送るという弊害がある。このリスクはかなり大きい。それでもなお制限カードに指定されていることは、このカードの緩い条件が如何に有用なのかを如実に語っている。

 そんなカードを用い、太陽は目的のものを引き入れることに成功していた。

 

「よし、速攻魔法《サイクロン》発動! 今度は左のカードを破壊だ!」

 

 太陽のデュエルディスクから空気の渦が伸びていく。反応を起こすことなく、仁のセットカード《忍法 変化の術》は破壊された。

 

「これで決まったな! 更に《撲滅の使徒》発動! もう1枚の伏せカードを破壊する!」

 

 残る伏せカードは先程手札に戻した《鎖付きブーメラン》と太陽は推測する。とはいえ、このカードも一応はフリーチェーン。《撲滅の使徒》はセットカードしか破壊できないため、SASUKEに装備されてしまえば不発になってしまう。

 しかしそれで一向に構わない。メインフェイズで仁に《鎖付きブーメラン》を使用させてしまえば、《ゴブリン突撃部隊》で相打ちに持ち込める。残った太陽の手札はモンスターカード。加えて彼はモンスターを蘇生する《リビングデットの呼び声》を残している。相打ちにしてもその直後に総攻撃をかけることができ、このターンで太陽の勝利が決定する。

 その考えは決して間違ってはいない。問題は太陽が仁を見下し、他の可能性を全く考慮しなかったことであろう。その傲慢さによって、彼はみすみす勝利を逃すことになってしまった。

 

「チェーンしてリバースカードオープン《忍法 変化の術》!」

「なっ! 《鎖付きブーメラン》じゃないだとっ!?」

 

 己の推測が外れ、太陽は驚愕する。翻ったそれは最後の伏せカード。手札に戻した罠カードを伏せずにいるとは、彼も予想だにしなかった。

 

「SASUKEをリリースしてデッキからレベル7の《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》を特殊召喚する!」

 

 忍者を包んだ煙が晴れると、そこには巨大な黄金の鳥が佇んでいた。その攻撃力は2700と仁のデッキにおいて最高の攻撃力を持つ。この場においても最も攻撃力の高いモンスターとなっていた。

 今の太陽に《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》を打倒する術はない。敗色濃厚。かと言って、彼はオシリス・レッドの仁を相手にして負けを認める訳にもいかなかった。

 まだ太陽の敗北が確定した訳ではないが、彼にとって相当に厳しいのは確か。次のターンで仮に太陽が巨神鳥を除去するカードを引いても、それだけでは届かない。仁は《鎖付きブーメラン》を残しているため、下級モンスターを相手にしても相打ちが精一杯といったところ。攻撃力を上げようとしても巨神鳥に無効化効果があるため、同じことになる。既に追い込まれているにもかかわらず、次の1枚で現状を打破することが太陽にはできそうにない。

 今すぐ負けることはなくとも、結局は対抗手段のない絶望的な状況。しかしここで、太陽に救いの手が差し伸べられた。

 

「ガードマンが来るわ! アンティルールは校則で禁止されているし、時間外に施設を使っているし、校則違反で退学かもよ!?」

「……今夜はここまでだ。俺の勝ちは預けておいてやる」

 

 途中から観戦していた女生徒、明日香の警告により、この場を仕切っていた準がデュエルの終了を宣言したのである。

 

 数分後、利用していた建物から漸く十代たちが出て来る。そこへ準らの行動には注意を払うようにと十代に勧告した少女、先程勝負を中止する要因となった明日香が声をかけた。

 

「どう? オベリスク・ブルーの洗礼を受けた感想は……」

「まあまあかな。もう少しやるかと思ったけどね」

 

 その自信に満ちた台詞に、明日香は訝しげに十代を見る。

 終了間際彼のフィールドにカードはなく、唯一その手札にあったのも《ハネクリボー》のみ。十代は劣勢に立たされていた筈である。

 

「そうかしら……? 邪魔が入っていなかったら、今頃アンティルールで大事なカードを失うところじゃなかったの?」

「いや……今のデュエル、俺の勝ちだぜ!」

 

 そう言いながら、十代は手にしていた《ミラクル・フュージョン》を見せる。墓地から素材を除外することで融合召喚を行うそのカードは、逆転の一手と呼ぶに相応しい。

 この時、十代の墓地にはフェザーマン、バーストレディ、クレイマン、スパークマン、フレイム・ウィングマンがあった。つまり彼は《E・HERO(エレメンタルヒーロー) サンダー・ジャイアント》等を融合召喚できたことになる。準の場には伏せカードもなく、耐える手段はなかった。どの融合モンスターを出したとしても、先程の勝負が続いていれば十代の勝利に終わっていたであろう。

 

「ガードマンが来なければ十代の勝ち、か……貴方はどうだったの?」

 

 明日香が今度は仁に問いかける。しかしその仁は、彼女とは初対面。当然のようにこの場にいる明日香に、彼は少々困惑していた。

 

「その前に貴女は……? 会ったことはないと思うが」

「そういえばそうだったね」

 

 2人とも昼間少し話した程度なのだけれど、と明日香は続ける。

 高い実力や端整な顔立ち、気高さと優しさを兼ねた気質などにより人気の高い彼女はアカデミア内において一方的に知られていることが多い。彼女が自身を知っているものとして話してしまうのも、仕方ないのかもしれない。

 

「俺は柳川仁。見ての通り、十代同様レッド所属だ」

「私は天上院明日香よ。……それで、どうだったの?」

 

 準に比べれば実力が劣るとはいえ、太陽もオベリスク・ブルーの生徒。その能力は決して低くはない。明日香としては、その彼と互角に戦っていた仁の感想も気になっていた。

 

「そうだな……流石オベリスク・ブルーなだけはあると思ったかな」

「それは皮肉かしら? さっきのデュエルは随分優勢なように見えたけど」

 

 仁の発言を受け、明日香は僅かにその表情を険しくする。彼女にはそれがブルーを侮辱したものと聞こえたのである。

 もっとも、仁にそんな気は一切ない。額面通り賞賛の意図をもって先程の言葉を発していた。

 

「いや、今回は相手の驕りに救われただけだからな。本来ならセットカードしか破壊できない《撲滅の使徒》を先に使ったんじゃないか? そうなったら俺の負けだろう」

 

 太陽が《撲滅の使徒》を先に使った場合、発動の期を問わずその《忍法 変化の術》を《サイクロン》で破壊できた。そうなれば仁の場はがら空き。相打ちにする必要もなく太陽の勝利が決定していた。

 勝つ運命にあったという点に絞れば、太陽は間違いなく強者の部類に入る。そして運というものは鍛えようがない。知識や経験など、後で如何様にでもなる。そういった資質としての視点において、仁は流石エリートと称したのである。

 

「……そういえば、何故《鎖付きブーメラン》を伏せなかったのかしら?」

 

 《鎖付きブーメラン》を伏せていれば負けるとは限らない。そう思った明日香は元々抱いていた疑問について訊ねた。

 仮に《大嵐》を警戒するとしても、カードアドバンテージの考え方から相手の魔法・罠カードの枚数+1枚まではセットが許される。そうすればカードアド上は一方的に損をしないのである。そしてあの時点における太陽の魔法・罠は2枚。セオリーから言っても伏せない理由はない。

 

「あー……あれは言うなら誘導かな。1枚を破壊して残った1枚を《鎖付きブーメラン》と認識してくれれば、それが攻撃抑制になる。更に次のターン攻撃すれば、その忍者に対して何らかの罠を使ってくれるかもしれない。そうなればリリースエスケープで不発にできる。

 プライドが高そうだったし、予想を外せばかなり動揺してくれると思ったんだが……手札交換して2枚の除去を持ってくるとは思わなかった」

 

 仁は太陽のデッキを、魔法・罠を除去しつつ高攻撃力の下級モンスターを出し続けるものと捉えていた。故に罠を除去されるのは織り込み済み。しかし前のターン太陽が《鎖付きブーメラン》に対して何もしなかったことで、仁は除去されるとしても1枚と認識してしまった。その読みが甘かったということである。

 つまりはプレミスと仁は自嘲する。しかし周りの者は仁のミスよりも、彼があえて心理戦を用いたことに驚いていた。意図的に相手の行動を制御しようとする者などそうは居ない。

 そして当然の如く、十代はそんな珍しい存在に食いついた。

 

「へえ、そんなことまで考えてるのか……。なあ仁、次は俺とデュエルしようぜ!」

「また明日以降な。デュエルするのは構わないがもう遅いし、今日は寝ることにするよ」

 

 元々十代の呼び出された時間自体が午前0時と遅い。普段であれば、既に皆も床に就いている頃。仁の言葉と共にその場は解散となり、彼らは自分の部屋へと戻っていった。




今日の最強カード

《忍法 変化の術》
永続罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「忍者」という名のついたモンスター1体をリリースして発動する。リリースしたカードのレベル+3以下の獣族・鳥獣族・昆虫族のいずれかのモンスター1体を手札またはデッキから自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードが自分フィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

「今日の最強カードは《忍法 変化の術》だ。この類のカードにしては珍しくモンスターが破壊されてもこのカードは破壊されない。よってフィールドに残ることが多く、《マジック・プランター》でのドロー変換、手札に戻せしての再利用も戦略に組み込みやすい。
 またテキストからはわかりにくいが、参照するレベルはフィールド上のものだ。つまりレベルを変化させれば更に高レベルのモンスターでも特殊召喚できる。とはいえ、そこまでして出したいカードを俺は持っていないが……」

 皆さんご存知と思いますが、十代側には「融合を封じられて、もう打つ手なしだな!」という台詞があります。万丈目が《ヘル・ポリマー》でフレイム・ウィングマンを奪った時ですね。
 一見しただけでは「これで融合を封じたとか……頭大丈夫か?」と言いたくなるような台詞です。しかし良く考えてみると、そうとも言い切れません。《ヘル・ポリマー》を1枚見せられたことで、万丈目の場に伏せカードとモンスターがある時に融合するのは危険を伴う……と相手を弱気に走らせる効果があります。安易には攻勢に出られません。ある意味で融合を封じていると言えます。
 しかし相手は十代なので、実際は全く意味がないでしょう。この程度で彼が二の足を踏むとは思えません。そういった意味では滑稽な台詞に違いありませんね。

 なお十代のラストドローを差し替えているのは、この作品には十代の強みを強調する必要があるためです。彼には「俺のドローは奇跡を呼ぶぜ!」を実現してもらわなければなりません。OCGでも即勝利できるよう《ミラクル・フュージョン》を引いたことにしています。
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