入学式より数日が過ぎ。その夜、何故か翔が居なくなってしまったために十代は暇を持て余していた。そこで彼はふと先日した約束を思い出し、仁に連絡を試みる。思い立てばデュエルをしたくなる。それがデュエリストの性分というものであろう。
連絡を受けた仁は、十代の提案を了承する。彼が先程までしていたのはいつものデッキ調整。つまりは彼も暇を持て余していたのである。
しかしとうに日が沈んでいるため、外で戦うのも戸惑われる。結果、この日は人の少ない十代の部屋にてデュエルを行うこととなった。
仁が指定された部屋まで来ると、待っていたとばかりに十代は彼を招き入れた。
レッド寮では、ただでさえ広くない1室を3人で共同利用している。勉強用の机も備え付けられているため、本来ここは室内で何かをするにはあまり向いていない。しかし現在翔はおらず、残る住人の隼人は既にベッドの中。1人増えたとしても、デュエルできるだけのスペースは十分にあった。
もっとも、ソリッドヴィジョンを用いるにしてはこの部屋は狭い。自然2人はテーブルデュエルを行うことになる。
「デュエルディスクなしってのも久しぶりだな」
「そうなのか? 効果処理の勉強にもなるし、俺は偶にやってるけど」
デュエルディスクの恩恵は何もソリッドヴィジョンだけではない。複雑な効果処理を自動で判定する機能も備わっている。詳細なルールの把握が困難なDMにおいては、むしろこちらのほうが重要と考える者も少なくない。十代もその1人であった。
「だからそれが面倒なんだよ」
「気持ちはわかるが……。お互いにどうなるのかわからない、なんてこともあるからな」
DMのルールは複雑怪奇。お互いの効果処理に齟齬が生じることも良くある。常ならば諍いはデュエルで解決とするところであるが、そのデュエルに問題が生じてはどうにもならない。
「だろ? やっぱり俺はディスクのほうが気楽で良いかな」
「まあ、それに関しては同意する。……っと、先攻決めはコインで良いか?」
「ああ、それでいいぜ」
互いのデッキシャッフルが終わったところで、仁が先攻後攻の選択方法を提案する。これを自動で判定してくれるのもデュエルディスクの利点の1つである。
じゃんけんやサイコロなど決め方は他にもあるが、やり直しが存在しないのがこの方法の利点であろう。ただし予め表を明確にしなければ、諍いを起こす可能性もある。その点は面倒か。
相手の了承を得た仁はコインを弾き、それを手の甲で受け止める。一方の十代は表を宣言。開かれた仁の手の上には、彼の宣言通り表となったコインが輝いていた。
選択権を得た十代は満足そうに頷く。対する仁は仕方のないことと割り切り、気持ちを切り替えた。
「それじゃあ俺の先攻でいくぜ。ドロー! モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド!」
「ドロー、スタン、メイン。……モンスターをセット、更にカードを2枚セットしてターンエンドだ」
十代の場には2枚の伏せカードがある。今の手札で態々攻め込む必要はないと考えた仁は、足場を固めるだけに徹した。
「攻めてこないのか。俺のターン、ドロー! 魔法カード《融合》を発動! 場のバーストレディと手札のフェザーマンを墓地に送り、《
十代が融合したのは、彼のお気に入りにしてエース。手札を3枚消費する割には、攻撃力2100と少々物足りない。しかしその代わりに強力な効果を持っている。それはモンスターを戦闘破壊した時、その攻撃力分のダメージを与えるというもの。つまり攻撃表示のモンスターを倒した場合、直接攻撃と同等のダメージを与えることになる。
「更に手札から《
十代が新たに召喚したのは、バニラと呼ばれる通常モンスター。攻撃力は1600と、単体ではお世辞にも強いとは言えない。しかしこのカードを融合素材とするものは多く、また専用のサポートカードも存在する。融合を多用する彼のデッキにおいては、このカードも欠かせない1枚となっている。
「バトルだ! フレイム・ウィングマンでセットモンスターに攻撃!」
仁の場には2枚の伏せカードがあるが、十代は臆することなく攻める。カード消費の激しさを考えれば無謀とも言えるが、この勇敢な姿勢こそ彼の持ち味である。
「攻撃は通すが、《
十代は対象となったカードをめくり、それが罠カード《ヒーロー・ブラスト》であることを知らせる。フリーチェーンとはいえ、このカードはダメージステップに発動することはできない。当然成す術なく破壊されてしまう。
「俺もフレイム・ウィングマンの効果を発動するぜ! ……つってもダメージは300だけどな」
期待したほどのダメージにはならなかったが、相手の場が開いたのであれば十代とて構いはしない。残るもう1体で直接攻撃を叩き込む。
「更にスパークマンでダイレクトアタック!」
「通しだ」
スパークマンの攻撃が決まり、仁のライフが2100まで減らされた。仁とてある程度覚悟していたことであるが、いきなりライフが半分になるというのも痛い。
対する十代も完全な最善手を打った訳ではなかった。フレイム・ウィングマンでセットモンスターを攻撃してしまったことは失策と言える。今回はフレイム・ウィングマンで直接攻撃を決めたほうがダメージは大きくなっていた。
しかしそれも所詮は結果論に過ぎない。与えるダメージが減るのは攻撃力500未満に限定される上、最悪の場合でもその差は僅か500。そもそもセットモンスターの守備力が1600以上ならスパークマンでは倒せず、フレイム・ウィングマンで攻撃するほうが期待値は高いと言える。十代がそうしたのも当然であり、気にするようなことではない。
「リバースカードを1枚セットしてターンエンド」
モンスターを並べることで相手のライフを初期値の半分ほどにし、伏せカードは2枚と守りも固めた。十代の場は十分に整っている。
しかし彼の手札は既に0。代わりに可能性を失ってもいた。
「俺のターン、ドロー。メインフェイズに入り、《手札抹殺》を発動する」
仁が手札を全て捨て、その枚数分カードを引く。本来このカードは互いに効果を及ぼすが、今の十代に手札はない。結果仁のみがその恩恵を受けることとなる。
「永続罠《リビングデッドの呼び声》発動! 墓地から《ヴァリュアブル・アーマー》を特殊召喚」
無論《ヴァリュアブル・アーマー》は先程捨てられたカード。他には《女忍者ヤエ》《
「更にこのカードを再度召喚する」
「……ん? 再度召喚ってなんだ?」
「あー、知らないのか。再度召喚っていうのは……」
耳慣れない単語を聞き疑問を抱いた十代が、仁の行動について尋ねる。ルール上の疑問を抱いたままにデュエルを進めるのは望ましくない。質問された仁は胸中で回答を考え、十代の疑問に関する説明を行う。
仁が行ったのはデュアルモンスターという一部のモンスターのみが可能とする行為である。このデュアルモンスターとは種族と共に「デュアル」と書いてあるものを言う。デュアルは分類的に効果モンスターでありながら、墓地・フィールド上では通常モンスターとして扱われる。それに加えて場に出ている状態から、デュアルはもう1度通常召喚の権利を消費する、即ち再度召喚することができる。デュアルが効果を得るための行動がこの召喚である。
「へえー! そんなカード初めて見たな!」
「……ついでに言うと再度召喚という言葉がある訳じゃないらしい。単純に、場に出ているモンスターをもう1度召喚するって意味だそうだ」
「えーと、このカードの場合は、『再度召喚する事で、以下の効果を得る。●このカードは相手フィールド上の全てのモンスターを1度ずつ攻撃をする事ができる』か。……って、やばいじゃないか!」
説明を受けながらテキストを確認した十代は、己が危機的状況に置かれていることに気付いた。彼のモンスターは2体共に《ヴァリュアブル・アーマー》より攻撃力が低い。攻撃を通せば、彼の場は壊滅状態に陥ってしまう。
「さて、続けるぞ。バトルフェイズに入って《ヴァリュアブル・アーマー》でスパークマンに攻撃!」
「そういうことなら罠カード《聖なるバリア-ミラーフォース-》発動! 全体攻撃だろうと破壊すれば関係ないぜ!」
このままではモンスターが全滅することを悟った十代は、モンスター1体に対して全体破壊の制限カードを惜し気もなく使用する。しかし2ターン目に仁が攻め込まなかったのは《
「いいや、それは通さない。ライフを1000払い《盗賊の七つ道具》発動。ミラーフォースの発動を無効にする!」
「うわ、マジかよ!?」
仁のもう1つの策。それがあらゆる罠カードの発動を無効にする七つ道具である。このカードを前にしては聖なるバリアでさえ無意味となる。
「続けてフレイム・ウィングマンに攻撃」
「今度は何もない。攻撃は通るぜ」
再度召喚された《ヴァリュアブル・アーマー》によって、十代のモンスターが一掃される。そのダメージは合計して1000となり、彼のライフは3000まで落ち込んだ。
「メイン2、と行きたいところだが……
「へへっ、その通り! 罠カード《ヒーロー・シグナル》発動、デッキから《
自分フィールド上のモンスターが戦闘破壊され墓地に送られた時、手札またはデッキから
「……この状況になるのは流石としか言いようがないな」
全てのカードを使い果たした直後、十代はその手札を一気に2枚へ増やす。誂えたかのような状況を目の当たりにし、仁の口から呆れの言葉が漏れた。
バブルマンが特殊召喚した時にはまだ《ヒーロー・シグナル》がフィールド上に存在しているため、一見するとバブルマンの効果を発動できないように思える。しかし特殊召喚成功時のタイミングとなるのは、《ヒーロー・シグナル》の処理が終わり墓地に送られた後。よってバブルマンの効果は問題なく発動することができる。
「だが、せめてバブルマンは倒させてもらうぞ。バブルマンにも攻撃だ」
後からモンスターが特殊召喚されたとしても、直接攻撃を行ったりバトルフェイズを終えていない限りは全体攻撃の範疇となる。仁がメインフェイズへ移行する意思を見せていても、今回は十代がダメージステップ終了時まで巻き戻している。この場合はエンドステップへ移行したことにはならない。故に攻撃が可能となる。
そしてバブルマンの守備力は1200と、容易に戦闘破壊可能な数値に過ぎない。所詮は下級モンスターと言ったところか。
これで十代のフィールドは完全に空になったが、彼は代わりに手札を得た。その意味するところは大きい。それが十代とあっては尚更であろう。次のターン3枚の手札を持つことになる十代へ、仁は警戒レベルを最大限に引き上げた。
「メイン2。カードを2枚セットしてターンエンド」
「俺のターン、ドロー! 《
名前通り《融合》と融合素材を回収する《
「そして《融合》を発動! フェザーマンと《
「召喚には何もない。……ほんと良く融合できるよな」
一旦手札を全て使い切ったにもかかわらず、十代は再び手札融合を行う。この脅威の運命力こそが、彼のデッキの根幹であろう。おそらくは他の誰にも扱うことはできない。
「ワイルド・ウィングマンの効果発動! 手札からネクロダークマンを捨ててリビデを破壊するぜ!」
手札1枚をコストに、ワイルド・ウィングマンが魔法・罠カード1枚を破壊する。十代の言い方では誤解を与える可能性があるが、今それを気にする者はここにはいない。
《リビングデッドの呼び声》が破壊されたことで、その対象となっていた《ヴァリュアブル・アーマー》も破壊された。一転して再び仁がピンチに陥る。
「バトル! ワイルド・ウィングマンでダイレクトアタック!」
「攻撃宣言時に《鎖付きブーメラン》発動! 1つ目の効果を使い、ワイルド・ウィングマンを守備表示にする!」
本来なら装備もさせたいところであるが、仁の場にモンスターはない。仕方なく彼は《鎖付きブーメラン》を墓地へ送った。
「へへっ、やっぱデュエルはこうでなくちゃな! 俺はこれでターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー。《忍者マスター SASUKE》召喚。バトルフェイズに入りワイルド・ウィングマンに攻撃!」
ワイルド・ウィングマンの守備力は2300と、SASUKEの攻撃力1800を確実に上回っている。しかしSASUKEには表側守備表示のモンスターを破壊する効果がある。結果ダメージ計算を行うことなく、その効果によりワイルド・ウィングマンが破壊された。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
これで十代は手札・場共にカードがなくなった。ライフは3000とまだ若干の余裕があるとはいえ、丸腰で耐えるには心許ない。ここまで来れば多少なりとも諦める者も見られる。
しかし十代にそんな様子は微塵も見られない。決して諦めることなく、こんな逆境からの逆転を可能とするからこそ、彼は強いのである。故に必ず何かが来ると、十代はそういった星の下に生まれた人間であると、仁はそう考えていた。
「俺のターン! ドロー! 魔法カード《ホープ・オブ・フィフス》発動! 墓地のバーストレディ、フレイム・ウィングマン、バブルマン、ワイルドマン、ワイルド・ウィングマンの5枚をデッキに戻す。フィールド上と手札に他のカードがないから3枚ドローするぜ!」
言わば
「墓地の《
手札0の状況から始まっておきながら、上級モンスターを一気に2体出す。そんな十代に、仁は呆れるしかない。とはいえ彼がこのまま攻撃を受ければ敗北することになる。呆けてばかりはいられない。
「召喚成功時に、罠カード《激流葬》発動する!」
「ここで《激流葬》か! しかも仁のモンスターも破壊されてダーク・ブライトマンの効果まで不発になるなんて……」
モンスターの召喚時にフィールド上に存在するモンスターを全て破壊する《激流葬》。場のカード消費が同じとはいえ、上級モンスターを2体失った十代のほうが損失は大きいか。
本来であれば仁は《激流葬》と同時にもう1枚の伏せカード《忍法 変化の術》を使う積もりでいた。チェーン1を《忍法 変化の術》、チェーン2を《激流葬》とすることで、破壊効果が適用された後に上級モンスターを特殊召喚できるのである。
しかしダーク・ブライトマンは自身が破壊された場合に相手モンスターを破壊する効果を持っている。つまりその行動をしたとしても、今となっては結局破壊されてしまうだけ。当然仁は変化の術を使わないことを選択した。
通常なら、いや、相手が十代以外であればこれで仕切り直しとなったであろう。既に彼は召喚権を消費しており、墓地に融合素材が揃っている訳でもない。
しかし十代にはまだ手札が残されていた。たった1枚であろうと、彼にとってはそれで十分。それこそが奇跡への道標となる。
「でも俺のターンはまだ終わりじゃないぜ! 魔法カード《E-エマージェンシーコール》発動! デッキからバブルマンを手札に加える! そしてバブルマンを攻撃表示で特殊召喚! 更にフィールドにも他のカードがないから2枚ドロー!」
相手の場が開いているが故の行動。如何にライフに余裕があるとはいえ、攻撃力800の攻撃表示は保険なしに容易くできることではない。これも彼であるからこそ成せる業。そしてその勇敢な姿勢が奇跡を成す。
「……来たぁ! 装備魔法《バブル・ショット》発動! これでバブルマンの攻撃力が800ポイントアップ!」
これを単なる強運と取るか、必然と取るかは人によるであろう。ひょっとすると、バブルマンを攻撃表示で特殊召喚する勇ましさが、その運を引き寄せるのかもしれない。
「行くぜ! バブルマンでダイレクトアタック!」
「発動するものはない。俺の負けか……」
仁のライフは残り1100。攻撃力1600となったバブルマンの直接攻撃により、勝負の幕が下ろされることとなった。
「うーむ……今のは十代の強運を考慮してメインフェイズの前に《
デュエルの後は納得のいくまで考察を続ける。実力のあるデュエリストとは総じてそういうものであろう。今回、仁は別の手を打つことができただけにその可能性を考えていた。
「ってことは残ったのは《忍法 変化の術》だったのか」
「ああ。《激流葬》を発動するタイミングで、先に《忍法 変化の術》を使う積もりでいたんだけどな。ダーク・ブライトマンが来た所為でできなかったんだ」
一応ではあるが、仁はエッジマン召喚時にこの行動を取ることもできた。そうしていれば巨神鳥が即座に倒されることもなく、そのターンを凌ぐことはできたであろう。とはいえ即死に至らないだけであり、十代の自爆特攻から今回と同じ行動を取られてしまう。結果十代はバブルマンと2枚の手札、仁は次に引いてくる1枚のみとなるため、あまり意味はない。
「……けど、いきなり《忍法 変化の術》を使ったら、俺のドローが《サイクロン》の場合無駄になっちまうぜ?」
仁の考えに十代が疑問を呈する。《サイクロン》は採用率の非常に高い汎用カードである。勿論十代のデッキにも入っており、その可能性を考えるのも当然と言えよう。
ドローフェイズでは、基本的にプレイヤーがドローするまでお互いにカードを発動することはできない。そのため仁が《忍法 変化の術》を発動するのは、必ず十代がドローした後となる。彼がドローした《サイクロン》をチェーンして発動すれば、仁はコストとしてモンスターをリリースするだけになってしまうのである。
「それもそうか。……いや待て、そもそも仕切り直しを考えていた訳で、俺のドローが先になるし《激流葬》が残るから今のよりは良いんじゃないか?」
互いの手を見せ合い、2人はその後も暫く議論に励んだ。
「……ん? この音は十代のものか?」
未だ熱の覚めない中、いつの間にか部屋の中に鳴り響いていた電子音に仁が気付いた。音源は十代のPDAのようである。
受信したメールを十代が開くと、乱れた映像と共に合成音声が流れた。
『丸藤翔を預かっている。返して欲しくば女子寮まで来られたし』
「なんだこれ……。まさか、翔が誘拐されたのか!?」
姿を見せない相手と、その不審な内容に慌てる十代。が、ここにはそれを押しとどめる者が居た。
「……落ち着け十代。これは誘拐とは限らない。……むしろ可能性としては低いと思う」
「え!? 何でだよ……?」
一見落ち着いているように見える仁だが、その内心は穏やかでない。おそらく彼1人だけであれば、十代同様冷静になることはできなかったであろう。しかし十代の慌て様が、逆に仁を落ち着かせていた。
「普通、誘拐と言えば身代金など何かしら要求するんじゃないか? これにはそれがない。それに会って数日、所詮はルームメイトに過ぎない十代を相手にするのもおかしい……」
仁が彼なりの考えを述べる。これには言葉にすることで新たな思考を展開するという意味合いも含まれている。
「ならば十代の身柄が目的かと言うと、それも考えにくい。この孤島に侵入し、翔を捕らえた上で女子寮に入り込むなんてことができるなら、最初から十代に手を出している筈だ。何より、やましいことがあるならそんな人目に付く場所に呼び出す筈がない。……つまりこれは元々女子寮にいる人間のところに翔が居て、その人が十代を呼んでいるということになる」
ただしその女子寮にいる人間が誘拐を行った可能性は0ではないが、と仁は続けた。
「良くわかんねーけど、要は翔が無事ってことだな! 早速女子寮に行こうぜ、仁!」
「いや、俺は行かないけど?」
「はあ!? どうしてだよ!」
予想外の返答に、十代が驚きの声を上げる。とはいえ、仁には仁なりの理があった。
「おいおい、本当に誘拐だったらどうする積もりなんだ……。何かあった時のために俺はここに残るよ」
「それもそうか……」
正論のように聞こえるが、仁の言葉は本心ではない。何かあった時の心配をするなら、それこそ他の誰かに伝えておけば良いからである。
では何故仁はこんなことを言ったのか。口にこそ出していないが、彼にとって夜に女子寮に行くこと自体が問題だったのである。メールの相手が用のある十代は問題ない。彼を呼んでいるのは女子寮にいる人物なのだから、何か言われるとは思えない。しかしそこに余計な人物、それも男性が付いていった場合はどうであろうか。それが相手の機嫌を損ねることになれば、最悪仁は警察に突き出されかねない。
ここで再び別の仮定が浮かび上がる。呼び出された者そのものを痴漢に仕立て上げようとしている場合である。しかしそれでは翔とメールの不審さに説明が付かない。それなら女生徒の告白にでも見せかけたほうが警戒心を煽らずに済む。考慮する必要はないとして、仁はあえて発言しなかった。
「危ない橋を渡る十代には悪いがな。本当に何もないことを確認できたら十代から連絡してくれ」
「じゃあ、何かあった場合は?」
「そうだな……。通報でもできれば1番だが、2時間連絡がなかったら俺が対応をしよう。今のところは何でもない可能性が高いからな」
「わかった。それじゃ行ってくるぜ! 無事でいろよ、翔!」
半ば仁の予想通り、女子寮にやって来た翔を山車にして、明日香がデュエルするために十代を呼び出したというのが事の真相であった。
しかし話はそれだけで終わらない。明日香とのデュエルに没頭していた十代は、仁へ連絡することをすっかり忘れていた。そうして仁が学園への連絡を考え始めた頃、十代は漸く寮へ帰ってきたのである。何もなかったとはいえ、十代が仁に怒られたのは言うまでもない。
今日の最強カード
《
効果モンスター
星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200
手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に自分のフィールド上と手札に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。
「今日の最強カードは《
だが効果を使えるのは手札0でフィールドがバブルマンだけの時。普通はドロー効果の発動自体ができない。更にステータスが低く、このカードだけの状態からドローしても逆転に繋がるかは完全に運頼みになる。十代だからこそ使いこなせるカードだろうな」
初期十代の最強カードはどう考えてもバブルマンです。強いですねバブルマン。カード消費なしで2枚ドローなんて半端じゃありません。しかし手札・場がこのカードだけという条件があまりにも厳しく、この効果が発動することはまずありません。
しかし過去、HEROにバブルマンを入れて且つ効果を発動した兵も居ました。彼は手札抹殺で1枚捨ててバブルマンをドロー、特殊召喚して2枚ドローするまではできたものの、結局負けることに……。現実は厳しいですね。
もっとも、それらは全て過去のことです。現在のバブルマンはエクシーズ素材として大活躍しています。特殊召喚に関しては、手札がバブルマンだけならOK。ブレード・ハートやエクスカリバーを出すのにこれほど適したカードもそうはないでしょう。デッキ構成は違い過ぎますが、十代のような逆転劇もリアルに見られるかもしれません。