神域に憧れて   作:典型的凡夫

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004 失策

 学生の本分は勉学に勤しむことである。デュエル・アカデミアも教育機関である以上例外ではない。ここでも月に1度、試験が行われている。

 入学試験がそうであったように筆記試験もあるが、そこはデュエリスト養成校といったところ。重要なのは午後から行われる実技試験である。これは生徒同士、基本的に同じ寮の者がデュエルをし、その内容を評価されるというもの。評価によっては昇格や降格、オシリス・レッドの生徒に関して言えば留年が決定することもありうる。

 もっとも、入学したばかりの1年生にはそのどれもまず起こらない。1ヶ月で入れ替えを行うということは入学試験の評価が誤っていたと認めるのと同義であろう。成長しやすい年代であることを考慮しても、通常ならば考えられない。

 

 しかしその考えがたい状況に陥っていると思われる生徒が2名いた。1人はレッドとするには破格の強さを持つ十代。もう1人はデュエルに心理戦を用いようとする男、仁である。

 

「何故、俺の相手はオベリスク・ブルーなのでしょうか? 実技試験の相手は同じ寮の生徒だと記憶しているのですが……」

「それは俺が希望したからだ。以前のデュエル、中断した時点ではまぐれとはいえ貴様が優勢だった……。だが、続けていれば勝利したのは俺の筈だ! それを証明してやる!」

 

 仁が怪訝な様子で担当の試験官に尋ねるも、返答したのは彼と対峙している取巻太陽であった。

 以前2人が行ったデュエルは、太陽の言う通り仁が優勢な状況で中断された。これでは仁が太陽に勝ったと思われている可能性がある。もしそう考えられていたらと思うと、太陽は我慢ならなかった。そうして彼はこの試験で仁との対戦を望んだのである。

 無論、これは一生徒に過ぎない太陽1人によって生まれた計画ではない。そこには実技担当最高責任者の肩書きを持つクロノスの思惑が絡んでいる。彼は十代、ひいてはオシリス・レッドを叩きのめすため、その相手に準を当てようと考えていた。そこで準と共に居た太陽が仁とのデュエルを希望し、現在に至っている。

 

「そういうことらしい。クロノス教諭も了承し、この組み合わせは既に決定している。変更はない」

「……わかりました」

「今度こそ貴様を叩きのめしてやる!」

 

 2人は腕に装着している機械を起動させ、その応答を待つ。

 先攻のランプが点灯したのは太陽。それに答えるように、彼は勢いよくカードを引いた。

 

「俺のターン、ドロー! ……モンスターをセット、リバースカードを2枚セットしてターン終了だ」

「ドロー、スタン、メイン。《忍者マスター SASUKE》を召喚」

 

 下級アタッカーの及第点とするかどうか。一般には基準を下回るとされる1800の攻撃力を持つ忍者が仁の場に現れる。

 ハイビートを扱っていた太陽がモンスターを伏せたということは、第1に《最終突撃命令》による反撃を狙っていることが考えられる。とはいえ、単純に太陽のデッキが変わっている可能性もある。現時点で決め付けることはできない。

 もっとも《最終突撃命令》に対して仁は最低限の保険を手にしている。故に彼はそのまま攻撃することを選んだ。

 

「バトルフェイズ。SASUKEでセットモンスターに攻撃!」

 

 宣言が下されるや否や、SASUKEが手にしたクナイを投げつける。青の戦車を脚部とした赤い上半身のロボットが、クナイが刺さると同時に爆発した。

 倒されたモンスターの名は《カードガンナー》。その効果の1つは破壊され墓地へ送られた時に発動する。今回は戦闘破壊されることが前提のセットであり、太陽に損はない。

 

「《カードガンナー》の効果で1枚ドローだ」

 

 ステータスの低い《カードガンナー》を見て、仁は太陽がデッキを変更した可能性を強めた。その正体までは掴めないが、伏せられたままのカードが重要な役割を担うのではないか、と彼は予想する。

 

「メイン2に入る。カードを2枚セットしてターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《可変機獣 ガンナードラゴン》をリリースなしで召喚!」

 

 レベル7のモンスター、ガンナードラゴンがリリースなしに召喚される。妥協召喚と呼ばれるこの行為は、モンスター効果によるもの。このカードの場合はリリースをなくす代償として元々の攻撃力・守備力が半分になり、攻撃力は1400となる。

 妥協召喚が行われたことにより、仁は太陽のデッキテーマを把握する。妥協召喚した際に攻撃力がリクルーターレベルとなってしまうガンナードラゴンを用いるデッキは主に2種類しかない。そして太陽の性質を考慮すれば【機械族】ではなく、もう一方の可能性が高くなる。

 

「バトル。ガンナードラゴンでSASUKEに攻撃! ……攻撃宣言には何もないようだな。バトルステップ終了前、ライフを1000払い《スキルドレイン》を発動する!」

 

 《スキルドレイン》はフィールド上に表側表示で存在するモンスターの効果を無効にする永続罠。多くのデッキが効果モンスターを主軸に据えている今、その影響力はこのカード1枚で大半の者の動きを封じるほどである。

 無論これは、カードを使用する側も同じく効果が無効となってしまう。しかし妥協召喚をベースとする太陽の場合、効果無効はむしろメリットとなる。その上で相手の戦術を乱すことができ、二重の意味で相性が良い。

 もっとも《スキルドレイン》だけであれば、仁も対処はできる。彼は永続罠の制約、フィールド上になければ効果が適用されない弱点を突く。

 

「チェーンして《サイクロン》を発動! 《スキルドレイン》を破壊する」

 

 魔法・罠カードを破壊する《サイクロン》が、《スキルドレイン》を対象に発動する。このカードがなければ、太陽のデッキは本領を発揮できない。破壊された場合、開始早々形勢は仁に傾くであろう。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 

「かかったな! 更に《宮廷のしきたり》発動!」

 

 《スキルドレイン》目掛けて進んでいた竜巻が、王命により進行方向を変更させられる。風がやんだ後も、2枚のカードは無傷のままたたずんでいた。

 《宮廷のしきたり》がある限り、このカード以外の永続罠カードを破壊することはできなくなる。今はチェーン処理の最中ではあるものの、発動が済んでいれば永続罠であることに変わりはない。故に《スキルドレイン》は破壊されずフィールドに残る。

 そして攻撃力を取り戻したガンナードラゴンは太陽の命に従い、自身の持つ2門の砲身から弾丸を打ち出す。生じた爆炎が白の忍を瞬く間に飲み込んだ。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 戦闘によって発生したダメージは1000。フィールドの状況を有利なままにライフを並べた太陽は、朗々とターン終了を宣言した。

 《サイクロン》の無駄打ちに結びついたとはいえ、厳密に言えば太陽の行動は賢いプレイングとは言い難い。デッキの核となる《スキルドレイン》を発動するなら、相手のエンドフェイズにしたほうが良い。カウンター罠の存在を考慮すれば、そのほうがより確実である。

 しかし太陽は確実性よりも、前回仁とのデュエルで裏をかかれたことの意趣返しを優先した。自身のカードの存在を極力隠し、相手のカードの浪費を狙う。太陽に最良の選択をさせたそのプライドも、ある種の強さと言えるのかもしれない。

 

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、モンスターとカードをセット。ターンエンドだ……」

 

 厄介な《スキルドレイン》に加えて攻撃力2800のモンスターが居座っていては、そう簡単に攻め入ることはできない。今の仁にできることは、ただ後に望みを繋ぐだけであった。

 

「ドロー! 《不屈闘士レイレイ》を召喚する!」

 

 カードが置かれると同時、獣の下半身を持った筋骨隆々な男性が現れる。ガンナードラゴンとは違い、こちらは単なるデメリットモンスター。以前のデッキにも投入されていた、攻撃力2300の下級である。

 

「そして永続罠《血の代償》発動! ライフを500払うことで、《神獣王バルバロス》を召喚する! このカードも妥協召喚モンスター、しかも攻撃力は3000だ!」

 

 【スキルドレイン】における代表格。バルバロスの強さを、太陽はしたり顔で力説する。

 そして先程の獣人に続き、ライオンの首の部分が人間の上半身になった、神話に出てくるような生物が出現した。人としての右手には槍を、左手には盾を持っている。

「行くぞ、レイレイでセットモンスターに攻撃!」

 身を隠していたトンボ、《ドラゴンフライ》が容易く蹴散らされる。その様はあまりにあっけないが、このカードはリクルーター。戦闘破壊されてこそ真価を発揮する。

 

「《ドラゴンフライ》の効果発動! デッキから再び《ドラゴンフライ》を特殊召喚する」

「ならバルバロスで攻撃だ!」

 

 《ドラゴンフライ》が再び仁の盾となる。しかし先程とは違い、こちらは攻撃表示。モンスターを出したとしても仁がダメージを受けることに変わりはない。

 バルバロスが右手に持った槍で《ドラゴンフライ》を軽々と貫く。その超過分、1600のダメージは中々に重い。仁が何か手を打たなければ、次の一撃で決着が付いてしまうほどである。

 

「今度は《女忍者ヤエ》を特殊召喚する」

 

 仁のデッキにおける唯一の女性、くノ一のヤエが姿を現した。しかしその攻撃力は1100と低く、このまま次の攻撃が通れば仁は敗れてしまう。攻撃力1500のモンスターを出していれば100のライフを残せるが故に、この行為には何らかの狙いがあるのは明白。それでもここで引き下がる太陽ではない。

 

「ガンナードラゴンでヤエを攻撃!」

「罠カード《重力解除》発動! 全てのモンスターの表示形式を変更する」

 

 ガンナードラゴンがヤエに向かっていくも、重力が失われたことで見当違いの方向へ飛んでいってしまう。バランスを崩したモンスターたちは皆一様に守りの姿勢を取った。これでは高い攻撃力も意味を成さない。

 

「ちっ……まあいい。カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー。……スタン、メイン。手札から風属性の《忍者義賊ゴエゴエ》を捨て、ヤエの効果を発動する。チェーンはあるか?」

「ある訳ないだろう! 貴様が何かするにしても、それを止めれば済む!」

 

 仁のわざとらしい問いかけに、太陽が声を張り上げる。

 ヤエの効果は相手フィールド上の魔法・罠カードを手札に戻すというもの。既に《スキルドレイン》が適用されている今、発動する意義があるのはモンスターの効果の発動を無効にする《天罰》程度。もっともその発動には手札コストが必要であり、手札のない太陽が使用することはない。要は確認を取っても事実上意味を成さないのである。

 しかし太陽の伏せにはカードの発動を無効にする《神の宣告》がある。仁にどんな狙いがあろうとも、太陽はそれを妨害することができると考えていた。

 

「良し。ヤエの効果にチェーン、ヤエをリリースして《忍法 変化の術》発動!」

「何っ!? トラッ……いや、速攻魔法《神秘の中華なべ》を、バルバロスをリリースして発動! 攻撃力を選択し、ライフを3000回復する!」

 

 想定を超えた仁の行動。焦った太陽は一瞬《忍法 変化の術》を無効にしようとするが、考え直して《神秘の中華なべ》を使用した。

 仁が2枚の手札を残している今、その選択は正しい。ここで《神の宣告》を使えば彼のライフは半分の1250になってしまう。太陽の場には守備力0のレイレイがおり、万が一貫通ダメージを受けることになればひとたまりもない。

 それに加え、既に《スキルドレイン》が手札に戻ることは覆せない。残る仁の手札が強力な効果モンスターという可能性も0ではなく、ここで1000程度のライフとなっては心許ない。よって太陽はライフを削るよりも、倒される可能性の高いバルバロスを有効利用することを選んだのである。

 

「変化の術で《ヴァリュアブル・アーマー》を特殊召喚。更にヤエの効果で魔法・罠カードを手札に戻す!」

 

 《スキルドレイン》が効果を無効にできるのは、フィールド上のモンスターのみ。つまり既に墓地に存在している《女忍者ヤエ》は、その影響を受けない。

 そして太陽の魔法・罠カードが全て手札に戻されたことで、フィールド上のモンスターも効果が有効となる。

 

「更に《ヴァリュアブル・アーマー》を再度召喚する……」

 

 デュアルモンスターの再度召喚。これにより黄金に輝くカマキリ様のモンスター、《ヴァリュアブル・アーマー》は全体攻撃が可能となった。

 ここで再び仁に新たな選択が生じる。手札にある装備魔法、《ビッグバン・シュート》を使用するか否かである。このカードは400の攻撃力上昇に加えて貫通効果を付与させる。これを《ヴァリュアブル・アーマー》に装備させれば、太陽に3500ものダメージを与えることができる。

 先程までなら仁も迷わず装備させていた。しかし現在、太陽はライフを5500にまで回復している。これではダメージを与えても倒せないどころか、《スキルドレイン》のコストを支払って余るほどのライフが残ってしまう。

 更に上昇する攻撃力の程度も問題になる。《ヴァリュアブル・アーマー》に《ビッグバン・シュート》を装備させても、攻撃力は2750止まり。それでは太陽の主力となっているガンナードラゴンやバルバロスには及ばない。一方《不屈闘士レイレイ》ならば、素の攻撃力を僅か50とはいえ上回っている。

 つまり今《ビッグバン・シュート》を装備させてもダメージを与える以上の意味はない。残したほうが良いという結論に達した仁は、そのまま攻撃することに決めた。

 

「バトル! 《ヴァリュアブル・アーマー》でレイレイとガンナードラゴンに攻撃!」

 

 カマキリの鎌が太陽のモンスターを切り裂いていく。フィールドに残ったのは仁の《ヴァリュアブル・アーマー》だけであった。

「カードを1枚セットして、ターンエンド」

 

 今フィールドに存在しているのは、仁のカードのみ。一見すると太陽がかなりのピンチのように思えるが、実際はそうでもない。要となる《スキルドレイン》は手札に戻されただけに過ぎず、ライフにはかなりの余裕がある。《スキルドレイン》さえ使用できるなら、太陽のデッキは《ヴァリュアブル・アーマー》を容易く戦闘破壊することができるのである。

 今、太陽に必要とされるのは運。モンスターをドローできるよう祈りながら、彼はデッキに手を伸ばす。

 

「俺のターン! ドロー! ……貴様の善戦もここまでのようだな。墓地から獣戦士族と機械族、レイレイと《カードガンナー》を除外し、《獣神機王バルバロスUr(ウル)》を特殊召喚!」

 

 現れたのは獣神。機能美を追求し、無駄なく鍛え抜かれた漆黒の肉体は動物の王と呼ぶに相応しい。獣の神でありながら機械の王でもあるウルは、姿を現すと同時に緋色の鋭い眼光で相手を射抜いた。

 伸ばされた金の髪は光を反射し、宝冠のように煌めく。その姿はバルバロスに似ていながら、そちらにはない荘厳な雰囲気を漂わせていた。

 

「これが俺のデッキの切り札! 貴様のようなデュエリストは普段目にすることもないレアカードだ。これに太刀打ちできるモンスターは居まい……。バトルに入り、ウルで《ヴァリュアブル・アーマー》に攻撃!」

 

 攻撃力3800を誇るウルが、両手に持った武器を振るう。それは柄が握りこめるよう刃と垂直に付いている、一風変わった代物。形状自体は刺突を主とするジャマダハルという短剣に近い。しかしジャマダハルが隙間を縫う針とすれば、かの者が持つのは大木を切断する斧。対象の纏う鎧ごと打ち砕く、神の鉄槌である。

 それが当然であるかのように、《ヴァリュアブル・アーマー》は容易く粉砕される。しかし攻撃を受けた仁はまだ倒れていなかった。

 

「フン、《スキルドレイン》を手札に戻したおかげで命拾いしたな」

 

 ウルは高い攻撃力と特殊召喚の容易さの代償として、相手に戦闘ダメージを与えることができない。前のターン《スキルドレイン》を手札に戻したことで、仁は九死に一生を得ていた。

 

「手札4枚を全て伏せてターン終了だ」

「待て、エンドフェイズに永続罠《心鎮壷(シン・ツェン・フー)》を発動する。選択するのは両端の2枚だ」

 

 仁の場に出現した壷が太陽の伏せカードを引き寄せ、中に収める。これで太陽は4枚中2枚のカードを発動できなくなってしまった。

 

「ちっ、悪あがきを……! 発動できるカードはない、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー……」

 

 新たに引き入れたカードを見て、仁は思案する。このドローで、彼の手札は現在の状況を打破しうるものとなった。

 しかし、と仁は考える。太陽の布陣を破ることは不可能ではないものの、それが成功するかはわからない。成否を分けるのは《心鎮壷(シン・ツェン・フー)》が封じたカード。仁の得た手段は、太陽が《スキルドレイン》を発動するだけで無為に終わってしまう代物なのである。

 もっとも今の仁に他の手段はない。結局彼は、相手が《スキルドレイン》を使えないことを祈るしかなかった。

 

「メインフェイズに入る。《ビッグバン・シュート》をウルに装備。そして《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》を召喚する」

 

 《ビッグバン・シュート》の発動が妨害されないことを確認すると、仁は攻撃力2000の下級モンスター、ファルコンを召喚した。

 これが太陽の布陣を突き崩す、今の仁が持つ唯一の手段。《ビッグバン・シュート》のもう1つの効果、このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する性質を彼は利用する。

 

「バトルフェイズ。《ビッグバン・シュート》を手札に戻し、ファルコンで攻撃!」

「馬鹿が、《スキルドレイン》発動! これでお前はウルにっ……!?」

 

 あざけるような太陽の言葉は最後まで続かない。仁に自爆させようという太陽の考えとは異なり、デュエルディスクはウルを除外せよと指示していた。それはソリッドヴィジョンも同様。《スキルドレイン》の発動に成功しているにもかかわらず、ウルはフィールドから姿を消していたのである。

 

「な、何故俺のモンスターが居なくなっているんだ!?」

「……手札に戻すのは永続効果のコストだ。攻撃対象を選ぶ時点で、既に《ビッグバン・シュート》は手札に戻っている。それじゃあ間に合わない」

 

 内心ほっとしつつ、仁は太陽の悪い癖が出たのであろうと推測する。

 本来、太陽にはカウンターを狙う必要などなかった。既に仁は手札・伏せカード共に使い切っており、次のターンに太陽の攻撃を防ぐ術がないことなどわかりきっている。この除去を封じるだけで、自ずと太陽は勝利を掴めた筈である。

 しかし太陽は仁を格下として扱い、見下していた。故に彼は未だ立ち向かってくる相手の行動を逆手に取ることを狙ってしまったのである。

 

「ターンを終了する」

 

 これで太陽のライフは2500。ここに来て漸く、仁は太陽にダメージを与えることに成功した。

 しかしそれも些細なこと。太陽にとって、自身のミスで切り札のウルを失ったことのほうが重要。そちらのほうが遥かに精神的ダメージは大きい。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 期待を込めるも思うようなカードが引けず、太陽は絶望に包まれる。流石の彼もこの手札1枚ではできることがない。

 

「くっ……! モンスターをセットしてターンエンド……」

 

 悔しげな表情でモンスターをセットし、太陽は即座にエンドの宣言をした。

 

「俺のターン。ドロー、スタンバイ、メイン。ファルコンに《ビッグバン・シュート》を装備させる。バトル、ファルコンでセットモンスターに攻撃!」

 

 《スキルドレイン》を張った状態で太陽がモンスターをセットしたとなれば、それは《カードガンナー》の可能性が高い。《ビッグバン・シュート》を装備させれば、貫通によるダメージが期待できる。

 もっとも、それだけで止めを刺せる訳ではない。そして残念ながら仁が引き入れたカードはモンスターではなく、今すぐ勝利する手段が彼には存在しなかった。故に《ビッグバン・シュート》は、除去手段として残しておく手も一応はある。

 しかし仁が新たに引き入れたカードもまた除去カード。故にあえて残すよりも、彼はダメージを優先した。

 

「《カードガンナー》の効果でドロー!」

 

 翼人が赤いロボットを蹴散らす。仁の読み通り、セットモンスターは《カードガンナー》。2000という大きなダメージを与えはしたものの、太陽にドローを許すこととなった。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 残る太陽のライフは僅か500。たかが500、されど500。どれほど少なかろうと生きながらえたという事実に変わりはない。反撃の機会を得られたことを、太陽は感謝する。

 しかしここまで来れば、すぐにでも決着が付くこともまた事実。デッキへ手を伸ばす太陽の額に汗がにじむ。相対する2人の緊張は今、最高潮に達していた。

 

「俺のターン!」

 

 気迫を込めてカードを引く。そんなことでドローが変化する訳もないが、勝利への渇望が太陽に力を入れさせた。

 それに意味があったとは言わない。しかし現実に、太陽が手にしたのは考えうる限りで最高のカード。彼は2枚の手札から1枚を抜き取り、発動を宣言した。

 

「《死者蘇生》を発動! 墓地より《可変機獣 ガンナードラゴン》を特殊召喚する!」

 

 竜の首を持った戦車、ガンナードラゴンが地中より蘇る。その攻撃力は場のファルコンを上回る2800。対する仁としてはそう簡単に通す訳には行かない。

 

「リバースカードオープン、《奈落の落とし穴》!」

 

 相手が攻撃力1500以上のモンスターを場に出した時、それを破壊し除外する。それが強力な準制限カード《奈落の落とし穴》の持つ効果である。

 フィールドに現れるや否や、赤の戦車は奈落の底に沈んだ。太陽が手にした筈の希望、逆転の象徴《死者蘇生》は空振りに終わる。

 そんな状況にもかかわらず、太陽は笑っていた。それも諦めから来るものではない。勝ち誇りの笑みを、彼は浮かべていた。

 

「……不思議に思わなかったのか? 何故俺が蘇生対象にガンナードラゴンを選んだのか」

「何故ガンナードラゴンか、だと? …………ああっ!」

 

 己の犯した致命的ミスを、仁は気付かされる。

 太陽の言葉の真意。それはつまり、彼が何故、より攻撃力の高いバルバロスを蘇生しなかったのかである。その理由は1つしかない。故に落ち着いて考えれば自ずと判明する。

 しかし仁は恐怖に捕らわれ、それを見落としてしまった。自分のモンスターよりも攻撃力の高いガンナードラゴンの登場に、彼は耐え切れなかったのである。

 

「今更気付いたところで無意味だ! 獣戦士族のバルバ、機械族の《カードガンナー》を墓地から除外! 出でよ、《獣神機王バルバロスUr(ウル)》!」

 

 再び現れた神と王の両立者。自然な金髪と機械染みた緋の眼がかみ合ったその姿からは、神々しささえ感じる。

 それは仁にとって絶望をもたらす終焉の使者である。場・手札・墓地、それら全てのカードを既に彼は使いきっている。最早、仁に打つ手はなかった。

 

「行け、ウル! やつに引導を渡してやれ!」

 

 攻撃力3800のウルと、《ビッグバン・シュート》を装備したファルコン。両者の差は1400。あつらえたかのように仁のライフと等しい。

 指揮者の命を受け、ウルの大剣が翼人ごと仁を叩き潰す。直後デュエルディスクの電子音が仁の敗北を告げた。

 

「フン……まあ、少しはやるらしいな」

「……それはどうも」

 

 一言を伝えて、太陽はフィールドを後にする。

 2度のデュエルを経て、流石に太陽も仁の評価を改めていた。2度あることは3度ある。自身を追い詰めるほどには力があると、彼は目の前の相手を受け入れなければならなかった。

 そしてそんな人物が弱い筈がない。自らを世界の中心に据える、エリートの思考はそんなものである。

 

 一方、仁は猛省していた。《奈落の落とし穴》、その発動は完全に彼の失策。相手の意図を見抜くことさえできていれば、少なくともあの時点での敗北はなかった。

 無論そうしたところで仁が勝てるとは限らないが、そもそも負けること、それ自体は一向に構わない。次へ繋げれば良いだけの話である。

 問題は自身の目指す形に反すること。相手の不自然な行動を見逃すなど、仁の目指すプレイングには程遠い。違和感に気付き、且つ耐え忍ぶ。その程度のことは容易にこなさなければならない。この日改めて、彼は理想の高さを実感したのであった。

 

 そしてブルーと対戦したもう1人。準と対戦した十代は見事勝利を収めていた。現1年の頂点に勝利したことで、彼の評価は更に高まっている。もっとも昇格の話を蹴ってレッドに居つく十代の実態は、ただ底抜けにデュエルが好きなだけの少年でしかない。仁はそんな十代を称賛しつつ、同時に羨望の眼差しを向けるのであった。




今日の最強カード

《ビッグバン・シュート》
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する。

「今日の最強カードは《ビッグバン・シュート》だ。このカードは攻撃力上昇効果と貫通付与効果を併せ持っていて、守りに入った相手にも容易にダメージを与えることができる。
 まあ……はっきり言って、この点はおまけに過ぎない。最大の特徴は『このカードがフィールド上から離れた時、装備モンスターをゲームから除外する』こと。相手モンスターに装備させたこのカードを除去すれば、そのモンスターを除外できるんだ。有名なのは《エヴォルテクター シュバリエ》とのコンボで、1:2交換ができる。俺のデッキではセルフバウンスのコストにして0:1交換を可能にしている。
 ちなみにこのカードを相手モンスターに装備させた場合、貫通ダメージを受けるのは相手になる。これはテキストの『相手』が装備カードのコントローラーから見た『相手』だからだろう」

 現実的にありえそうで、且つプレミスと呼べそうな仁の行動。……そう見えるでしょうか。
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