日が沈み辺りが暗くなった頃、十代は港である男と対峙していた。その人物の名は丸藤亮。カイザーと呼ばれるアカデミア最強のデュエリストである。
そんな彼が、落ちこぼれと蔑まれるレッドの生徒からの挑戦を受ける。通常では考えがたい出来事ではあるが、ある経緯からこの2人は対戦する運びとなった。
話は一昨日の夜まで遡る。謎の人物により明日香がさらわれ、それを目撃した仁も同様に捕らわれてしまった。そんな事件が事の始まり。
時を同じくして、十代と翔は立ち入り禁止となっている廃寮の中に居た。廃寮で生徒が行方不明になっているという噂。レッド寮の寮長である大徳寺からその話を聞き、十代たちは肝試しと称して探索することにしたのである。
散策する最中、2人は明日香のものらしき悲鳴を聞く。奥へ進んだ彼らは、気を失っている明日香と仁を見つけることとなった。
その身を案じた十代が明日香らに駆け寄ろうとするのは当然のこと。しかしそこで足元から煙が立ち上り、仮面を付けた男タイタンが現れる。彼は自身を闇のデュエリストと称した。男は闇のゲームに勝てば明日香たちを返すと言い、十代はこれを受ける。
そしてタイタンとのデュエルで十代は無事勝利を収め、捕らわれた2人も解放されたのであった。
しかし問題はその後に訪れる。翌日、本来立ち入り禁止となっている筈の廃寮に入ったことで、十代・翔・仁の3名が学園から退学を言い渡されたのである。
これに明日香が反論。彼女が謎の人物に襲われるも十代たちによって救助されたとし、彼らの無実を主張した。そうは言っても、明日香を助けるために廃寮に入ったのか、それとも元から廃寮内にいたのかを判断することは難しい。明日香の主張を証拠とは言えず、それだけで無罪とするのは無理があった。
もっとも、現実に十代たちは自ら廃寮に入っている。故に事実が発覚して困るのは彼らのほう。証拠などある筈もない。結局、十代と翔、仁と明日香の組み合わせで制裁タッグデュエルを行い、勝利すれば退学取り消しということで落ち着いた。
「なんだか皆には悪いわね。……私だけ特別扱いみたいで」
他の3人とは違い、明日香はタッグデュエルに負けたとしても退学にはならない。彼女のみ、勝利すれば処罰がなくなる方針である。
「そんなの気にする必要ないって。そういや、なんで仁まで負けたら退学のままなんだろうな。捕まってたのは明日香と同じなのによ……」
「積み上げた実績の違いだろうな。むしろ入学してすぐに問題を起こした劣等生と、中等部の頃から優秀な成績を収めてきた者を同じ待遇にするほうがおかしいんじゃないか?」
仁の予想は当たらずとも遠からずといったところか。これは元々クロノスが十代を退学にしたいがために画策したこと。十代と同じレッドの翔や仁はともかく、ブルーの明日香を退学にする気など最初からクロノスにはない。
「皆なんでそんなに気楽なんすか……退学ほぼ決定だっていうのに」
「心配すんな! 勝ちゃいいんだろ?」
悲嘆にくれる翔とは対照的に、十代は楽観的である。もっとも、ここで正しいのは十代のほう。彼の言う通り勝てば良いのである。
「アニキはそんな簡単に言うけど、タッグデュエルなんてやったことあるの?」
「ない。ないから面白いんじゃねーか! ま、でも練習は必要だよな。試しにタッグデュエルってやつをやってみようぜ!」
未知の領域。通常なら不安要素にしかならないそれも、十代にとっては楽しむためのスパイスに過ぎない。自身の進退を賭けることなど、彼には関係ないのである。
そんな十代の姿勢には誰もが苦笑するしかないが、4人ともが練習を必要とするのは確か。その提案に異論を唱える者はいない。寮に戻り次第、彼らはタッグデュエルの訓練をすることとなった。
自身のデュエルディスクを手に、4人が再び集う。今回彼らが行うデュエルのルールは制裁タッグデュエルと同じ、タッグフォースルールと呼ばれるものである。
攻撃できないのは1ターン目のみ。フィールド・墓地・除外・ライフポイントはパートナーと共有され、相手ターン中は直前のプレイヤーが行動する。唯一の明らかな違いはライフポイントが普段の倍、8000であること。その他、基本的なことはいつもと変わらない。
「最初は俺から行かせてもらう。ドロー。《忍者マスター SASUKE》を召喚、カードを2枚伏せてターンエンド」
誘発効果や強い影響力を持ったものでない限り、1ターン目はモンスターをセットするのがセオリー。しかし今回、仁はあえてモンスターを攻撃表示で出した。攻撃力1800、守備力1000のSASUKEを出すなら当然の選択とも言えるが、実のところこの布陣は次のプレイヤーである翔を試す意味合いが強い。
「僕のターン、ドロー! 魔法カード《融合》を発動! 手札から《ジャイロイド》と《スチームロイド》を墓地に送って《スチームジャイロイド》を特殊召喚!」
足場となる車体から蒸気機関車が生えているというイメージの、コミカルなモンスターが出現する。
翔は意気込んで融合しているが、その実態は攻撃力が2200と低く、効果も持たないモンスター。3枚の手札消費は割に合わないと多くの者が感じる、《スチームジャイロイド》とはそんなカードである。
SASUKEの攻撃力をこそ上回っているものの、この時点で既に翔はミスを犯している。彼はそのことに気付いていなかった。
「《スチームジャイロイド》で《忍者マスター SASUKE》に攻撃!」
「……ダメージステップに《鎖付きブーメラン》発動。2つ目の効果のみ選択し、このカードをSASUKEに装備させる」
《スチームジャイロイド》が《忍者マスター SASUKE》に突進するも、相手に背後に回られ返り討ちにあってしまった。
翔のデッキは機械族。最も注意すべきは《リミッター解除》であり、ダメージステップで攻守増減をしても無駄になる可能性がついて回る。状況によっては、仁も《鎖付きブーメラン》の1つ目の効果を使うところである。しかしここで翔が《リミッター解除》を使えば後の憂いを断つことができ、むしろ仁の有利に働く。万が一ダメージを受けたとしても、必要経費と割り切っていたのである。
「はぁ……ターンエンド」
受けたダメージは僅か100と小さいが、モンスターを倒され落ち込む翔。しかもその影響で、彼はカードを伏せることもしなかった。そんな翔に、横から声がかかる。
「翔! ひょっとしてお前、モンスターの攻撃力しか見てないんじゃないか?」
パートナーの墓地は共有されており、そのカードを確認することができる。融合素材を見た十代が、翔のプレイングに疑問の声を上げた。
「待った! 十代……何を言いたいのか具体的にはわからないが、今回のタッグデュエルではパートナーへの助言は禁止だ。練習とはいえ一応な」
「そうね……。今回は私が言わせてもらうわ。翔君、《スチームロイド》は攻撃する時に攻撃力を500ポイントアップする効果を持っているの。融合しないほうが攻撃力は高いし、今だってダメージを受けずにモンスターを残せた筈よ」
十代に代わってその心情を明日香が伝える。
元々《スチームジャイロイド》は3枚のカードを使用して出すほどのものではなく、《スチームロイド》の短所――攻撃された場合、攻撃力が500ダウンする効果――を補うために存在する類のカードである。闇雲に融合して活躍できるようなものではない。
あえて特徴を挙げるとすれば、レベル6の融合モンスターであること。即ち《フュージョン・ウェポン》を装備できるものの中では高めの攻撃力を持っていることくらいであろう。
「やめてよ皆! 自分が強いからってお説教はなしだよ!」
無論その程度のこと、言われずとも翔とて理解している。しかしいざ本番となると、焦りや緊張からなのか適した行動を取ることができなくなってしまう。そんなどうにもならない悪癖を指摘され、思わず彼は大声で否定していた。
「どうしたんだ、翔? いつものお前らしくないな」
「……ごめん」
普段とは異なる様子を見せる翔が十代には不思議でならない。彼にはその理由がわからないが、それも仕方ない。翔が反発した要因は至らない自分に対する忌避感と、皆への劣等感。どんな相手とのデュエルも楽しんでしまう十代にそれがわかる筈もない。十代の言葉によって一応の落ち着きを見せているが、翔が内心で落ち込んでいることに変わりはなかった。
「次は私のターンだったわね……ドロー! 《エトワール・サイバー》召喚!」
気落ちしたままの翔を置き去りに、明日香は明るいブラウンの髪を伸ばした女性をフィールドに立たせる。
《エトワール・サイバー》には直接攻撃時に攻撃力を500上昇させる効果がある。しかし元々の攻撃力は1200に過ぎないため、ダメージを与える事に関しては他のカードを使ったほうが早いと言える。注目されるのはサポートの豊富な戦士族・地属性という点。明日香のデッキにおいては、融合素材としての意味合いが最も強い。
「《エトワール・サイバー》、《忍者マスター SASUKE》でダイレクトアタック!」
《エトワール・サイバー》が回し蹴りで、《忍者マスター SASUKE》が手にしたクナイで翔を攻め立てる。フィールドに何もない翔はなす術もなく、ただダメージを受けるしかない。
合計4000のダメージ。先程の100と合わせてライフを3900にまで減らしてしまった翔は、完全に意気消沈している。
「カードを1枚セットしてターンエンドよ」
「やっと俺のターンか! ドロー! 手札から《サイクロン》発動! 明日香が伏せたカードを破壊するぜ!」
十代が破壊対象に選んだのは、直前に伏せられたもの。仁は既に1度《鎖付きブーメラン》を使っている。そのため十代は仁の伏せたカードよりも明日香のものに危険を感じ、こちらを狙うことにした。
そして見事に彼の予感は当たる。伏せられていたのは《奈落の落とし穴》。場に出たモンスターを除外する、強力な罠カードであった。
「良し、魔法カード《融合》! フェザーマンとバーストレディを墓地に送って《
炎を纏った竜の頭部を右腕とし、左肩からは翼を生やした何処かアンバランスなHERO。攻撃力は2100と低めながら、十代が最も信頼を置く彼のフェイバリットカードである。
「続けて《
電気を伴ってスパークマンが出現した後、スカイスクレイパーにより周囲の様子が変化する。地面からはビルが生え、辺りは暗くなる。そして空には、いつの間にやら架空の月が浮かんでいた。
「スパークマンで《エトワール・サイバー》に、フレイム・ウィングマンでSASUKEに攻撃!」
スパークマンは両手から雷を放ち、フレイム・ウィングマンはその身に炎を纏って突進する。
素で攻撃力を上回っているスパークマンに対し、フレイム・ウィングマンは《鎖付きブーメラン》を装備したSASUKEを下回っている。しかしそこで真価を発揮するのがスカイスクレイパー。このカードは
相手モンスターを一掃し、更には1200のダメージまで与える。これだけでも大した成果であるが、十代のモンスターはこの後にこそ真価を発揮する。
「更にフレイム・ウィングマンの効果発動! SASUKEの攻撃力分のダメージを与える!」
忍者を下した直後、フレイム・ウィングマンは明日香へ右手を突き出す。そして彼女を炎に包み、そのライフを一気に5000へと減らした。逆境を吹き飛ばすその姿は、正しくヒーローと呼ぶに相応しい。
「へへっ、ターン終了だ」
「俺のターン、ドロー」
十代のターンで状況は逆転。ライフこそ未だ仁が上回っているものの、フィールドの状態においては完全に負けている。即座に切り返す術を持たない仁は、パートナーの明日香に勝敗の行方を委ねるしかなかった。
「モンスターをセット、カードを1枚セットしてターンエンド」
「僕のターン、ドロー! 《サブマリンロイド》召喚! まずはこのカードでダイレクトアタックするよ!」
所謂ダイレクトアタッカー。《サブマリンロイド》は相手モンスターが居ようと、プレイヤーに直接攻撃することができる。
セットモンスターの正体がわからない以上、先に直接攻撃を決めるのは自明の理。翔はまず《サブマリンロイド》の効果による直接攻撃に出た。
《サブマリンロイド》は潜水艦の姿をしているにもかかわらず、地中に潜って仁へと攻撃する。攻撃力は800と低いためダメージは小さい。しかし確実に、このモンスターは相手ライフを減らすという役割をこなしている。
「攻撃終了後、効果により《サブマリンロイド》を守備表示にする。そしてフレイム・ウィングマンでセットモンスターに攻撃!」
「罠カード《重力解除》を発動する!」
《重力解除》により全てのモンスターの表示形式が変更される。
無論、仁は《サブマリンロイド》の直接攻撃を防ぐこともできた。しかしフレイム・ウィングマンが攻撃宣言してからでなければ、メインフェイズ2で攻撃表示に戻されてしまう。攻撃後は守備表示になる《サブマリンロイド》を攻撃表示にできることもあり、仁はあえて直接攻撃を受けたのである。
「カードを2枚伏せてターン終了っす」
攻撃が通ったとはいえ、フレイム・ウィングマンは守備表示に、《サブマリンロイド》は攻撃表示になってしまった。翔にとって良い状況ではないにもかかわらず、彼の表情には余裕があった。その源となるのは今セットしたカードであろう。
しかし、翔のその余裕も一瞬で崩れ去る。
「エンドフェイズに《
対象としたカードを発動できなくする《
ここで1つの疑問が生じる。翔がカードを2枚伏せた今のターン、彼は通常のドローしかしていない。つまり少なくとも1枚は前のターンから持っていたということになる。もし彼が投げやりにならず2ターン目にカードをセットしていれば、また違った結末が待っていた可能性があった。
資質だけを見れば、翔はブルーやイエローの生徒に勝るとも劣らない。彼がそれを生かしきれていないことを、仁は惜しいと思っていた。
「私のターン、ドロー! 《死者蘇生》を発動! 《エトワール・サイバー》を蘇生するわ。そして魔法カード《融合》! フィールドの《エトワール・サイバー》と手札の《ブレード・スケーター》を墓地に送り、《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚!」
態々《死者蘇生》を使っての融合。明日香は勝負を決めに出たと見て間違いない。
「手札から《サイバー・チュチュ》を召喚! 更にセットされていた《
守備表示モンスター1体を破壊する。それが《
「相手のモンスターが2体になったことで、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は倍になる! 《サイバー・ブレイダー》で《サブマリンロイド》に攻撃!」
《サイバー・ブレイダー》がフィギュアスケートのスピンのように回転しながらも、相手に向かっていく。その回転は非常に速く、周囲には空気の渦が生まれるほど。繰り出される攻撃に抗うことはできず、《サブマリンロイド》は呆気なく破壊された。
倍となった《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は4200。3400という半端ではないダメージを、翔たちは受けることになった。しかしこれだけでは終わらない。
「これであなたたちの場は攻撃力1600のスパークマンだけ! 《サイバー・チュチュ》は全ての相手モンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、直接攻撃できるわ! 《サイバー・チュチュ》でダイレクトアタック!」
バレリーナの格好をした《サイバー・チュチュ》が、スパークマンを無視して翔へと向かう。チュチュはか弱い少女の様相をしているが、今の翔へ止めを刺すには十分な力を持っている。
高速回転からの回し蹴り。残りライフ500の翔では、攻撃力1000の一撃を耐えることはできなかった。
「負けちまったか、でも楽しかったぜ! にしても、仁は場のコントロールが上手いよなぁ。最後なんて、良い感じにかみ合ってたんじゃないか?」
「罠が主軸になるから遅いのが欠点だけどな。……それは良いとして、翔は変に投げやりになる癖を何とかしないとな。最初にミスがあったとはいえ、あそこで何か伏せていればだいぶ違っただろ」
「でも、仁君が最初から《
翔が伏せたのは、攻撃宣言時に攻撃表示モンスターを全て破壊するミラーフォースと、破壊する効果の発動を無効にする《我が身を盾に》。どちらも有用なカードではあるが、使えなければ意味がないと彼は主張する。
「そうとは限らないわ。その2枚が伏せてあれば、十代が《サイクロン》で《
「やってみないとわかんないけどな。そうしたと思うぜ」
「……後はやはり、パートナーへの繋ぎ方か。味方の意図を理解しなければならない場面も出てくるかもな。お互いのデッキをもっと知っておかないと……」
検討を続ける十代たちをよそに、翔は1人気落ちしていた。現時点の強さを比べると、他の3人に対して翔は著しく劣っている。そう感じた翔は、悩み続けるのであった。
今日の最強カード
《
永続罠
フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。このカードがフィールド上に存在する限り、選択された魔法・罠カードは発動できない。
「今日の最強カードは《
このカードの欠点は、相手の伏せカードが2枚なければ発動できないことだ。まず、伏せを多用しない相手だと完全に腐る。そして警戒されれば相手が2枚伏せなくなることもありえる。
だが、このカードを警戒させることにも意味がある。このカードがあることを知れば相手もそうは2枚伏せられない。伏せるなら1枚だけか3枚以上にしたくなるものだ。1枚なら対処が楽になるし、ガン伏せに対して2枚封じれば相手は煩わしく感じるだろう」
隼人の存在が消えていますが、この小説では出番を作れそうにないので基本的に登場させないことにしています。もっとも明日香も似たようなものですが……。それなら隼人とタッグを組めば良いと考える人は多いと思いますが、元々【忍者】は【獣族】との混合が可能です。彼と組んでも変わったことはできません。加えて――むしろこちらが本意になりますが――明日香のカードを使用した決着を思いついたので、彼女と組ませることにしています。