十代たちが退学を言い渡された翌日。授業を終えた十代が部屋に戻ると、再び予想だにしない出来事が起きていた。翔が島を出ると書置きを残し、居なくなってしまったのである。
翔が逃げたと思った十代はそのことに憤り、彼を探そうと考える。島を出ようとしている以上、翔は海沿いにいる可能性が高い。十代は仁、同室の隼人と共に島の外縁の捜索を始めた。
翔を見つけるためと、仁は海岸を歩き回る。しかしたとえ翔を発見したとしても、それだけでは意味がないと彼は思っている。問題は翔の心構えにあった。
翔は優勢な時は調子に乗り、劣勢になると意気消沈する傾向にある。しかし慢心は敗北に繋がり、臆病風に吹かれては勝利を呼び込むことができない。
負けると思っていてはダメ。しかし勝てると思ってもダメ。時には勝ちたいと思うことさえ毒となる。理想は無欲。勝負に向かう時はただ勝とうとするのが望ましい。
翔をデュエルの場に着かせるだけなら不可能ではない。しかし結局のところ彼の心持を変えなければ、十代とタッグを組ませても敗北は必死である。
仁がそのことを伝えた時も翔は気落ちしたまま反応はなく、改善されたとは思えない。そんな翔の意識を変える手段が仁にはわからなかった。
一方、海辺に居る翔も悩んでいた。十代のタッグパートナーとしてやっていく自信が翔にはなく、その重圧に耐え切れずに彼は逃げ出したのであった。
十代は強い。彼は学園での成績こそ良いとは言えないものの、戦略には光るものがあり、何よりも運命力において他の者とは一線を画す。所謂選ばれた者と言っても良い人物である。
対して翔はどうであろうか。彼はデュエル・アカデミアに入学できたものの、成績は落第寸前。デュエルそのものにおいても、同じレッド寮の生徒にさえ負ける有様であった。
無論勝負は水物であり、負けがあるのは当然と言える。しかし十代は入学以降未だ無敗。そんな彼のパートナーに自分が相応しいとは、翔には思えなかったのである。
そうして翔が悩んでいるうちに、十代がその姿を発見する。十代が翔にパートナーとして必要としていることを訴えるが、自分に自信のない彼は頑なにそれを受け入れない。
そんな停滞した状況は、第3者の介入によって変化を見せた。
「不甲斐ないな、翔」
十代と翔が言い合っている最中、別の方向から声がかかった。声の主は丸藤亮。翔の実の兄である。
「お……お兄さん!」
「逃げ出すのか? ……それも良いだろう」
冷たいだけにしか見えない態度を亮は取る。翔がここから去ることを十代が強調しても、それは変わらない。
言葉だけでは何も伝わらないと感じた十代は、亮にある提案を持ちかけることにした。
「だったら、せめて餞別でもあげてやらねえか? 俺とカイザー、あんたのデュエルで!」
「君とデュエルを……? 良いだろう、上がって来たまえ。遊城十代!」
十代の意図を察し、亮はその提案を快く受け入れた。
事の成り行きを聞いた仁が、暫くの後、灯台に到着する。その頃には既に辺りは闇に包まれていた。
そして十代と亮が、互いに翔へと何かを伝えるためのデュエルを開始する。
「俺の先攻、ドロー! 《
「俺のターン、ドロー」
十代は攻撃力1000のバニラ、フェザーマンの召喚――表側表示での通常召喚――を行った。言うまでもなく、伏せカードの存在故に十代はこのような行動を取っている。
常人ならばとりあえず警戒を要するとでも考えるかもしれない。しかし十代が今相手にしているのはカイザーと呼ばれる男、丸藤亮。彼ならそこから伏せカードの正体を看破することができる。
低攻撃力のHEROを召喚したとなると、注意すべき伏せカードは《異次元トンネル-ミラーゲート-》と《ヒーローバリア》。どちらも発動に表側表示の「E・HERO」を必要とするカードである。更にそのモンスターがフェザーマンということを考慮すれば、もう1枚。フェザーマン専用のカード、魔法・罠の発動を無効にする《フェザー・ウィンド》もありうる。
無論他の可能性もあるが、その場合リスクを冒してフェザーマンを攻撃表示にする必要はない。故にこの推測で大方正しいと亮は考えた。
「メインフェイズ、手札から《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚」
地面を砕き、地中から機械製のドラゴンが現れた。その全体像はドラゴンと言うよりも蛇に近い。
半上級モンスターと呼ばれる《サイバー・ドラゴン》は、相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる。それでいて攻撃力は2100と、下級の基準を上回る程度に高い。召喚権を消費することもないため、【ハイビート】にも採用できるほどに汎用性の高いカードである。
「《サイバー・ドラゴン》でフェザーマンに攻撃」
一見すれば攻めるのは無謀と思える十代の布陣。しかし亮はあえて攻撃を選択した。それは何故か。十代にミラーゲートと《ヒーローバリア》のどちらを使われても、亮は一向に構わないからである。
ミラーゲートの効果はモンスターのコントロールを入れ替えてダメージ計算を行うというもの。こちらの場合は1100ものダメージを受けることになるが、代わりに十代の場からフェザーマンが居なくなる。そうなれば《フェザー・ウィンド》の心配がなくなり、亮は動きやすくなる。
一方、攻撃を無効にする《ヒーローバリア》だとしても、それほど問題はない。
「罠カード《ヒーローバリア》発動!」
《サイバー・ドラゴン》の攻撃がバリアに阻まれ、フェザーマンに届かず終わった。攻撃が通らなかったにもかかわらず、亮の表情に変化はない。
2100とそれなりの攻撃力を持つ《サイバー・ドラゴン》。しかし亮のデッキにおいて、これは攻めの最低ラインに過ぎない。ここで十代に《ヒーローバリア》を使われたところで、亮は痛くないのである。むしろ彼が後に強力な攻撃を通すためには、十代がここで《ヒーローバリア》を使ってくれたほうが都合が良かった。
もっとも、決定打とならないこの場面で十代が《ヒーローバリア》を使ったことから、もう1枚の伏せカードは《フェザー・ウィンド》の可能性が高まった。この状況では亮の十八番、《融合》が使いにくい。彼にとってはダメージを受けるミラーゲートのほうが良かったのかもしれない。
「バトルフェイズを終了し、魔法カード《タイムカプセル》発動。デッキからカードを1枚選択し、裏側表示で除外する。カードを1枚伏せ、ターンエンド」
《タイムカプセル》により、除外したカードは発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に亮の手札へ加わる。
攻撃こそ通らなかったものの、防御・攻撃・布石全ての戦術を揃えてきた亮。そんな相手とデュエルできることに、十代は今までにないほどの高揚を感じていた。
「俺のターン、ドロー! 魔法カード《融合》を発動! 手札のスパークマンとクレイマンを墓地に送り、《
異様に上半身の膨らんだHEROが十代の場に現れる。
「サンダー・ジャイアントの効果発動! 手札からネクロダークマンを捨て、《サイバー・ドラゴン》を破壊する!」
サンダー・ジャイアントは攻撃力が下回るモンスターを破壊する効果を持つが、その発動には手札コストを要する。故に基本的には戦闘破壊できないモンスターや、戦闘破壊されたことで効果を発動する相手に対して用いることが多い。
そのどちらでもない《サイバー・ドラゴン》を、手札を消費してまで破壊する必要は通常ない。しかしネクロダークマンは墓地に居てこそ真価を発揮するカード。今回、十代はそのことを優先していた。
サンダー・ジャイアントの両手から雷が迸り、《サイバー・ドラゴン》を破壊せんと向かっていく。そこへ2つの声が割って入った。
「対象となった《サイバー・ドラゴン》をリリースし、罠カード《アタック・リフレクター・ユニット》発動! デッキから《サイバー・バリア・ドラゴン》を特殊召喚する」
「させるか! 《フェザー・ウィンド》発動! 《アタック・リフレクター・ユニット》の発動を無効にする!」
目まぐるしい攻防。形式上は2:2交換になるが、相手の場をがら空きにし、ネクロダークマンをコストとした十代のほうが損失は小さい。
その一方で、亮から見れば十代に《フェザー・ウィンド》を使わせたことが大きい。これで彼は後顧の憂いを消したことになる。
「行くぜ! がら空きの本陣突破だ! フェザーマン、サンダー・ジャイアントでダイレクトアタック!」
1000と2400の攻撃を決め、亮のライフを一気に600まで減じる。そんな十代の猛攻を受けながらも、亮は眉1つ動かさない。
しかしその実、亮の心はたぎっている。その内に秘められた闘志を、相対する十代はひしひしと感じていた。
「俺のターン。《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚、更に《融合》を発動する。手札の《サイバー・ドラゴン》とサイバー・ドラゴン扱いのプロト・サイバーを墓地に送り、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を特殊召喚」
虚空から双頭の竜が出現する。攻撃力2800を誇る機械のドラゴンは、見た目の通り2回の攻撃を可能としている。
亮が使った《融合》は前のターンから持っていたもの。ここで使う理由は《フェザー・ウィンド》の脅威がなくなったからに他ならない。それに気付いた仁はカイザーと呼ばれる男の戦略に感嘆する。亮は十代の伏せカードを見抜き、《フェザー・ウィンド》を使わせたのである。
「《サイバー・ツイン・ドラゴン》でフェザーマン、サンダー・ジャイアントを攻撃!」
竜の口から光が迸る。伏せカードのない十代に、その攻撃を防ぐ術はない。
「カードを1枚セットして、ターンエンドだ」
残った1枚のカードを場に伏せ、亮はターンを終えた。互いに手札を使い切り、ここからはドローが勝敗を分けると言っても過言ではない。
形勢逆転。窮地に立たされた十代の状況は、並の人間であれば意気消沈するところかもしれない。しかし十代の反応は完全に逆であった。
「面白え! 面白えよカイザー、このデュエル!」
「あぁ、俺もだ」
我慢できないといった様子で口にした十代に、亮が同意する。
互いに楽しんでいる彼らの様子に、翔は目を丸くしている。今の彼には、何故そうしていられるのか到底理解できなかった。
「俺のターン、ドロー! 《
2枚のドローを行えるとはいえ、バブルマンの効果発動条件はフィールド上と手札に他のカードが無い場合と非常に厳しい。しかし神に選ばれたとでも言うのか、十代はここぞという場面でそれを引き、役立ててしまう。
「魔法カード《
フェザーマンを手にしていた以上、十代としては直接攻撃可能なセイラーマンを使いたいところ。しかしこのカードが直接攻撃を行うには、自分の魔法・罠カードゾーンにカードがセットされている必要がある。今の十代にその条件を満たすことはできない。
故に次善の策。十代はテンペスターによる防御を選択した。攻守共に2800を誇るこのカードであれば、サイバー・ツインの攻撃に耐えることができる。
更に、次のターンになればこのカードの効果が生きる。テンペスターは自分フィールド上のカード1枚を墓地に送ることで、任意のモンスターに戦闘破壊耐性を付与する効果を持つ。次のターン引いたカードをコストに効果を発動すれば、同じ攻撃力を持つ《サイバー・ツイン・ドラゴン》を一方的に倒せるのである。
「俺のターン。スタンバイフェイズ、《タイムカプセル》で除外していたカードを手札に加える。……十代、いよいよ大詰めかな」
「ああ! どうなるかわくわくするぜ!」
「そうだろう。君は君の持てる力を存分に出し切っている。そんな君に対して俺も全力を出すことができた。……君のデュエルに敬意を表する」
亮は十代のデュエルを認めている。その事実に翔は驚き、そして先程のように十代がピンチを楽しむことができる理由に漸く思い至った。亮や十代と、翔との違い。それは対戦相手を重んじているかどうかである。
勝敗よりも互いに全力を出し尽くすことを心がける亮。誰よりもデュエルを楽しむ十代。どちらも相手を慮るが故にできる行動と言える。
翔は今まで優勢な時に対戦相手を見下すふしがあった。別の言い方をすれば、彼は相手を無視した独りよがりのプレイングをしていたのである。敵を知らずして勝利を掴める筈もない。翔を敗北せしめる最大の要因はそこにあった。
相手をリスペクトすること。幼い頃に亮が伝えたかったそれを、ここに来て漸く翔は理解することができたのである。
「行くぞ十代! リバースカードオープン、《リビングデッドの呼び声》! 墓地より《プロト・サイバー・ドラゴン》を蘇生する!」
自分の墓地のモンスター1体を特殊召喚する《リビングデッドの呼び声》。蘇生対象を選ばないこのカードなら、通常は攻撃力の高い《サイバー・ドラゴン》を選択することになる。
しかしここで亮は《プロト・サイバー・ドラゴン》を選んだ。手札のカードを使う、ひいてはあるモンスターを呼び出すために。
「更に特殊召喚成功時、《地獄の暴走召喚》を発動する」
暴走召喚は攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時にのみ発動できる。この条件があるからこそ、亮は《プロト・サイバー・ドラゴン》を蘇生したのである。
その効果は特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚するというもの。通常なら特殊召喚されるのはプロト・サイバーになるが、このカードはフィールドに出た瞬間から《サイバー・ドラゴン》として扱われる。それ即ち。
「デッキ・墓地より集え、3体の《サイバー・ドラゴン》!」
現れるのは機械の竜が3体。元から居合わせた2体とともに、《サイバー・ドラゴン》が亮のフィールドを埋め尽くした。
暴走召喚の効果は相手の十代にも及ぶが、彼の場に居るのは融合モンスターであるテンペスターのみ。デッキからの特殊召喚は不可能な上、そもそもこのモンスターは融合召喚以外の方法で特殊召喚することができない。それ故に、亮へデメリットが発生することもない。
「そして手札から魔法カード《パワー・ボンド》発動!」
機械族専用の融合魔法《パワー・ボンド》。元々の攻撃力分だけ攻撃力を上昇させるメリットと、その元々の攻撃力分のダメージを受けるデメリットを併せ持つこのカードの扱いは難しい。効果ダメージがエンドフェイズであることを利用して、多くの場合は止めを刺す際専用のカードとして扱われている。
しかし今恐れるべきは亮の先見性。手札を消費しきった彼はこのターン《地獄の暴走召喚》をドローし、更に《タイムカプセル》の効果で《パワー・ボンド》を手札に加えた。そして《リビングデッドの呼び声》を伏せたのが4ターン目であることから、亮の初手は《サイバー・ドラゴン》2枚、《プロト・サイバー・ドラゴン》、《融合》、《アタック・リフレクター・ユニット》、最後に《タイムカプセル》となる。
常人であれば《融合》を持っているその状況から、《パワー・ボンド》を手札に加えようとは露ほども思わないだろう。《融合》を使った後に《パワー・ボンド》を手札に加えたところで、融合素材の《サイバー・ドラゴン》は全て墓地にある。何の役にも立たない。
その程度のことをカイザーと呼ばれる亮がわかっていない訳がない。それでもなお《パワー・ボンド》を手札に加えようとしたのなら、導き出される答えは1つ。彼はこのデュエルのおよその展開、そしてこの場面で《地獄の暴走召喚》を引いてくることを察していた。そう考えるしかない。
無論それも自身の信念を、リスペクトデュエルを貫くという姿勢あってのこと。ただ勝利するだけなら他のカードでも可能ではあった。しかし相手ともに更なる高みへ登るために、亮はあえて己の最高のカードを使うことを選んだのである。
「場の3体の《サイバー・ドラゴン》を墓地に送り、《サイバー・エンド・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚! 《パワー・ボンド》の効果により攻撃力は2倍になる……」
《サイバー・ドラゴン》の究極形、《サイバー・エンド・ドラゴン》が亮の場に現れた。その首は3つに増え、更には翼まで生えている。
ただでさえ高い4000という攻撃力は、《パワー・ボンド》により8000にまで上昇している。相手ライフを根こそぎ刈り取る攻撃力に加え、貫通効果をも有するサイバー・エンドは、主が命令を下す時を今か今かと待ち構えていた。
「《サイバー・エンド・ドラゴン》でテンペスターを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》の3つの口から閃光が走る。その光はテンペスターだけでなく、十代までも容易く飲み込んだ。
ソリッドビジョンの迫力に当てられたのか、十代が膝をつく。負けたとはいえ、彼の表情に陰りは見えない。
「楽しいデュエルだったぜ」
十代の言葉に答えず、亮はただ微笑む。悩みが吹っ切れた様子の翔を見て、亮は安心して寮へと足を進めた。
今日の最強カード
《サイバー・エンド・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻4000/守2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
「今日の最強カードは《サイバー・エンド・ドラゴン》だ。強さは本編の通り。神に等しい攻撃力に加え、貫通効果を持っている。
もっともツインのほうが総ダメージ量は多く、《パワー・ボンド》を使うならカード消費の少ないツインのほうが強いと一般には言われている。……が、それはあくまで常人の話。開幕ボンドエンドが普通のカイザーなら《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力の高さと効果が活きる。貫通はフェーダーやかかしじゃ止められないからな」
《パワー・ボンド》の効果は厳密には「元々の攻撃力分アップ」ですが、当作では視聴当時かなりの衝撃を受けた台詞をそのまま引用しました。