神域に憧れて   作:典型的凡夫

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007 臆病

 仁たちが制裁デュエルを言い渡されてから早1週間。運命の日が訪れる。会場の観客席にはタッグデュエルの見物をしようと生徒が集まっていた。

 皆が見守る中、既に十代と翔のタッグは無事勝利を収めている。対戦相手が同じであるが故に観戦を許されなかった仁と明日香の2人は、その一報を聞き胸を撫で下ろした。明日香は純粋に十代たちが退学を取り消された喜びから。仁はそれに加え、決して勝てない相手ではないと知ることができたために。

 しかし次は仁らの番。いつまでも安堵してはいられない。再び気を引き締め、2人は会場へと向かった。

 

 フィールド中央に歩み寄った仁と明日香は、ここに来て漸く対戦相手を知る。それはクロノスが呼び寄せた、中華風の装いをした双子。迷宮兄弟と呼ばれる2人は過去、デュエルキング武藤遊戯を苦しめたと言われている。彼らの呼称が示す通り、額にはそれぞれ「迷」と「宮」の文字が刻まれていた。

 

「両者、準備は宜しいですーノ?」

 

 今回ジャッジを務めるはクロノス。もっとも試験の際とは違い、成すべき仕事は特にない。審判とは名ばかりの指示係である。

 クロノスの問いに生徒は肯定し、双子は無言で頷く。それら全てを肯定と受け取り、彼は開始宣言を下した。

 

「では、デュエル開始!」

「先攻は私のようだな、ドロー!」

 

 先攻は迷宮兄弟、迷の文字を持つ兄からとなった。

 

「モンスターをセット。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー。……メインに入り《忍者マスター SASUKE》を召喚」

 

 迷宮兄に続くは仁。数少ない単体で攻勢に出られる忍者の出現は、後の彼の行動を示唆している。

 

「バトルフェイズに入る。SASUKEでセットモンスターに攻撃!」

 

 SASUKEが効果により破壊できるのは、あくまで表側守備表示のモンスターのみ。通常であれば、仁がここで攻撃を行うことはない。基本的に彼はリリースエスケープで相手の罠を不発にする戦術を念頭に置くためである。

 しかし今回はタッグデュエル。次は明日香のターンとなる。彼女のデッキには《忍法 変化の術》から特殊召喚できるモンスターは投入されておらず、待った場合は4ターン後になり遅れをとる。そうまでして攻撃を控える必要はない。

 加えてパートナーのデッキもその理由に挙がる。明日香が主力として用いるのはカード消費の激しい融合モンスター。仮に仁が罠の効果を受けることになったとしても、彼女に使われた場合より損失は小さくなる。ここで迷宮兄に罠を使わせることは、大きくアドバンテージを失う可能性を下げることにも繋がるのである。

 

「攻撃宣言時にリバースカードオープン、《ドレインシールド》! 攻撃を無効にし、その攻撃力分ライフポイントを回復する」

 

 躍りかかる忍の前に銀色の盾が出現し、その攻撃を受け止める。SASUKEの攻撃力1800はそのまま迷宮兄弟のライフへと変換された。

 仁からすれば攻撃を防がれることは織り込み済み、動揺はない。それよりも彼はセットモンスターの正体を気にかける。罠で守ってまで残す必要のあるものなのか、それとも単なるリリース要因なのか。それによって対応を変える必要があるかもしれない。

 

「リバースカードを2枚セットしてターンエンド」

「私のターン。ドロー! セットされていた《ウェポンサモナー》を反転召喚。そしてリバース効果が発動する。私が手札に加えるのは《ゲート・ガーディアン》!」

 

 《ウェポンサモナー》の効果により、コントローラーは『ガーディアン』と名のついたカードをデッキから1枚手札に加える。迷宮弟が選択したのは《ゲート・ガーディアン》。DMにおいて召喚の難しさでは3指に入るであろう、攻撃力3750のモンスターである。

 

「更にフィールド魔法《死皇帝の陵墓》を発動し、効果発動! ライフを2000払い、《雷魔神-サンガ》を召喚!」

 

 地面から石柱が生え、フィールドは生贄の祭壇となる。《死皇帝の陵墓》の効果は、アドバンス召喚のリリースをその数×1000のライフで肩代わりするというもの。フィールド魔法の常としてお互いに使用できるものの、対する仁らはアドバンス召喚を積極的に行う訳ではない。偶然とはいえ、迷宮兄弟がほぼ一方的に利点を享受することになる。

 迷宮兄弟のライフが減少すると、雷の文字が刻まれた上半身だけのモンスター《雷魔神-サンガ》が祭壇から姿を現した。それは《ゲート・ガーディアン》の特殊召喚に必要な、三魔神の1柱。攻撃力2600と単体でも使用可能な最上級モンスターである。

 

「バトル! サンガで《忍者マスター SASUKE》に攻撃!」

「永続罠《デモンズ・チェーン》発動! 対象は勿論《雷魔神-サンガ》!」

 

 サンガは両手から雷を放とうとするも全身を鎖に絡め取られ、身動きが取れなくなってしまった。

 《デモンズ・チェーン》は攻撃を封じるだけでなく、そのモンスターの効果をも無効にする。これでサンガの厄介な点、攻撃を仕掛けたモンスターの攻撃力を0にする効果を抑えることができる。正に一石二鳥の采配。

 そして《ウェポンサモナー》の攻撃力は1600。一方の迷宮弟は、SASUKEを倒すことができなくなってしまった。これを覆す手は今の彼にはない。

 

「……カードを1枚伏せ、ターンエンド」

「私のターンね、ドロー! 魔法カード《融合》を発動! 手札から《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を墓地に送り、《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚! 更に《エトワール・サイバー》を召喚するわ!」

 

 明日香のエース、非常にトリッキーな効果を持つ《サイバー・ブレイダー》が姿を現す。その装いはフィギュアスケートの選手に近く、彼女は地面に氷が張っているかのようにフィールドの上を滑る。

 迷宮兄弟の場には伏せカードもあるが、今はサンガを戦闘破壊する絶好の機会。明日香は臆さず攻撃を選ぶ。

 

「バトル! 《サイバー・ブレイダー》でサンガに攻撃!」

 

 迷宮兄弟のモンスターは2体。つまり《サイバー・ブレイダー》は自身の攻撃力を倍にしている。4200という膨大な力をもって、女性スケーターは敵へと迫る。

 相手の攻撃力を0にする《雷魔神-サンガ》であろうと、効果が無効となっていては意味がない。《サイバー・ブレイダー》の回し蹴りを受け、この場はなす術なく倒された。

 もっとも、迷宮兄弟はやられたまま黙っているようなデュエリストではない。

 

「ダメージを受けた瞬間、手札を1枚捨て、罠カード《ダメージ・コンデンサー》発動! 我らが受けたダメージは1600。その数値以下、攻撃力1400の《グリズリーマザー》を特殊召喚する!」

 

 迷宮弟が捨てたのは《カイザー・シーホース》。このカードは光属性の最上級をアドバンス召喚する際、1体で2体分のリリースとできる。しかし既にサンガが墓地にある以上、必要ないということであろう。

 そして特殊召喚されたのは水属性のリクルーター、《グリズリーマザー》。新たなモンスターの出現により、明日香は路線変更を余儀なくされる。素の状態では1200と攻撃力の及ばない《エトワール・サイバー》は既に無意味となっていた。

 

「……仕方ないわね。《忍者マスター SASUKE》で《ウェポンサモナー》に攻撃!」

 

 気持ちを切り替え、明日香は攻撃を続けた。よりダメージを与えられる《グリズリーマザー》ではなく《ウェポンサモナー》を彼女が狙ったのは、リクルートされることを嫌ったためである。与えるダメージこそ僅かに少なくなるが、相手に更なる展開をされることなく確実に相手モンスターを減らすことができる。後のことを考慮すれば、当然の選択と言える。

 更に200のダメージを受け、迷宮兄弟のライフは6000にまで減少した。一方彼らのモンスターが1体になったことで、明日香の場にも変化が生じている。《サイバー・ブレイダー》は攻撃力を元の2100に戻し、現在は戦闘破壊耐性を得ていた。

 

「リバースカードを1枚セットしてターンエンドよ」

「私のターン、ドロー! 《創世の預言者》を召喚」

 

 現れたのは顔を布で隠した高僧。1800と高めの攻撃力を持ちながら、手札1枚をコストに墓地の最上級を回収できる効果を持つ。とはいえ、現状を打破できるカードではない。

 

「バトル。まずは《創世の預言者》で《エトワール・サイバー》に攻撃!」

 

 預言者が手にした錫杖に念を込めると、目に見えない法力で《エトワール・サイバー》が吹き飛ばされた。

 

「速攻魔法《ディメンション・マジック》発動! 《創世の預言者》をリリースし、手札から《風魔神-ヒューガ》を特殊召喚! 更に《サイバー・ブレイダー》を破壊する!」

 

 上級モンスターを投入した【魔法使い族】には必須とされる《ディメンション・マジック》。場のモンスター、発動するカード、特殊召喚するモンスターと3枚のカードを必要とする、カードの面で見ればアドバンテージを損なうカードではある。とはいえ、その枚数は最上級のアドバンス召喚と変わらない。即座に最上級モンスターを場に出すことができ、更にモンスター破壊効果を兼ね備えているとなれば、それだけでも十分に強力なカードと言える。

 このカードの存在から、迷宮兄のデッキは《風魔神-ヒューガ》の種族に着目した【魔法使い族】と思われる。とはいえ、これはタッグ専用のデッキ。ヒューガを場に出しやすくする以上の意図はないと仁は予想する。

 そして厄介な《サイバー・ブレイダー》の除去に成功した迷宮兄が意気揚々と追撃をかける。

 

「ヒューガでSASUKEに攻撃! 更に《グリズリーマザー》でダイレクトアタック!」

 

 相手モンスターを全滅させ、直接攻撃をも決める。仁らのライフを5400にまで減らし、迷宮兄弟はすっかり気を良くしている。

 

「メイン2に入り、リバースカードを2枚セット。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、魔法カード《ブラックホール》を発動する!」

 

 フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する《ブラックホール》。互いに影響を及ぼすとはいえ、今モンスターが居るのは迷宮兄弟のみ。つまり彼らが一方的に被害を被ることになる。

 

「速攻魔法《我が身を盾に》! 《ブラックホール》の発動を無効にする!」

 

 しかし1500のライフポイントと引き換えに、仁の制限カードは防がれた。

 迷宮兄が2枚の伏せカードを気にせず攻撃したのも《我が身を盾に》があるからこそか、と仁は今更ながら思い至る。ここでヒューガが残るとなると、次のターン迷宮弟は《ゲート・ガーディアン》を出してくる可能性がある。

 それそのものを避けることは難しい。しかし仁に打つ手がないという訳でもなかった。

 

「《忍者義賊ゴエゴエ》を召喚し、バトル。ゴエゴエで《グリズリーマザー》に攻撃!」

 

 攻撃力1500の忍者、ゴエゴエ。彼は手にしたキセルで《グリズリーマザー》を殴りつけ、打ち倒す。加えて迷宮兄弟は僅かばかり、100のダメージも受けた。しかし元々倒されてからがこのモンスターの真骨頂。彼らがそれを気にすることはない。

 

「《グリズリーマザー》の効果発動! デッキから《ヒゲアンコウ》を特殊召喚する」

 

 迷宮兄がリクルーターから呼び出したのは《カイザー・シーホース》と同じダブルコストモンスター。そしてこちらは水属性。つまり迷宮弟の手札には既に《水魔神-スーガ》があるということであろう。

 相手の行動を受け、今度は仁がリバースカードを露にする。

 

「永続罠《忍法 変化の術》を発動! ゴエゴエをリリースし、デッキから《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》を特殊召喚する!」

 

 追撃するための最上級モンスター、《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》。2700の攻撃力に加え、「ミスト・バレー」と名のついたカード1枚を手札に戻すことで、効果の発動を無効にし破壊する効果を持っている。

 ここで仁が《ヒゲアンコウ》を倒しても、迷宮兄弟の場には《死皇帝の陵墓》がある。彼らが《水魔神-スーガ》を召喚できることに変わりはない。

 しかしそうなれば迷宮兄弟はライフを大幅に減らす。おそらく彼らはそれを嫌って《ヒゲアンコウ》を特殊召喚したのであろう。少なくとも仁はそのように考えた。故に彼はここで《ヒゲアンコウ》を倒し、更にダメージを与えようとする。

 

「巨神鳥で《ヒゲアンコウ》に攻撃!」

 

 巨神鳥の攻撃が決まり、迷宮兄弟のライフは3200まで減る。こうなると状況によっては、2000のライフを払うのも少々戸惑われるかもしれない。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだ」

「私のターン! ドロー! 魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地からサンガを蘇生する! 更に《死皇帝の陵墓》の効果発動! ライフを2000払い、《水魔神-スーガ》を召喚!」

 

 ライフの減少も厭わず、迷宮弟は三魔神を並べる。最上級を3体、それも種族・属性共に異なるものをいとも容易く揃えた彼らの実力は、それだけでも相当なものと言えよう。

 

「無論これで終わりではない……。三魔神全てをリリースし、《ゲート・ガーディアン》を特殊召喚!」

 

 召喚の難しさでは3本の指に入るモンスターが迷宮兄弟のフィールドに召喚された。攻撃力3750を誇るその姿は相対する者に畏怖を覚えさせる。

 無論、仁はその特殊召喚を防ぐことならできた。しかし《死者蘇生》や《死皇帝の陵墓》の効果を無効にするには巨神鳥を手札に戻すしかない。仁の場はがら空きになり、それでいて厄介な効果を持つ三魔神のうち2体が場に残ってしまう。一方《ゲート・ガーディアン》はステータスこそ高いが、ただそれだけである。攻略は後者のほうが容易であると考えた仁は、あえて何もしないことを選んでいた。

 

「バトル! 《ゲート・ガーディアン》で巨神鳥に攻撃!」

 

 神と祭られた巨大な鳥を雷・風・水の三位一体の攻撃が襲う。最上級モンスター同士の戦闘でありながら、その差は1050と大きい。仁らのライフは元の半分近く、4350まで減らされた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 場の状態は迷宮兄弟の優勢へ傾いた。とはいえ共に手札を使い切った迷宮兄弟に対し、仁と明日香は1枚ずつ手札を残している。加えて残りライフも未だ仁らが上。フィールドのモンスターは所詮《ゲート・ガーディアン》1体に過ぎないこの状況では、どちらかが勝っているとは言い切れない。

 故に諦めるには早過ぎる。仁の伏せたカードを確認し、明日香は自身のデッキへと手を伸ばした。

 

「私のターン、ドロー! 伏せてあった《貪欲な壺》を発動! 墓地の《エトワール・サイバー》2枚、《ブレード・スケーター》、《忍者マスター SASUKE》、《忍者義賊ゴエゴエ》をデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 中盤以降の手札補強として優秀な《貪欲な壺》。相方が用意した故に、明日香はほぼ無条件で手札を2枚増やしたことになる。

 これで彼女の手札は4枚。内容も良く、《ゲート・ガーディアン》の打倒も不可能ではないものとなった。

 

「魔法カード《死者蘇生》! 墓地から《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚! このカードに《ロケット・パイルダー》を装備させるわ!」

 

 墓地には更に攻撃力の高いモンスターが居るにもかかわらず、明日香は自身のエース《サイバー・ブレイダー》を蘇生する。今すぐ有効となる訳ではないが、彼女にはこのカードでなければならない理由があった。

 

「更に《聖騎士ジャンヌ》を召喚!」

 

 現れたのは光に煌く鎧を身に纏った騎士。下級にして1900の攻撃力を持つが、ジャンヌは攻撃する際に攻撃力が減少するデメリットを持つ。破壊された際に墓地のカードを回収可能なことから、ステータスに反して守勢向きのカードと言える。

 明日香には罠を張るだけで終えるという選択肢もあったが、彼女の性格がそれを拒否した。攻めることが可能ならば強気で攻めるのが彼女である。もっとも攻撃しなければ、罠を張っていることがあからさま過ぎる。こうなるのも仕方がない。

 

「《サイバー・ブレイダー》で《ゲート・ガーディアン》に攻撃! ダメージステップに《スキル・サクセサー》発動するわ! 《サイバー・ブレイダー》の攻撃力を400ポイントアップ!」

 

 《サイバー・ブレイダー》は戦闘破壊されないものの、明日香が受けたダメージは1250。決して小さくはない。

 しかし同時に《ロケット・パイルダー》の効果により、《ゲート・ガーディアン》の攻撃力が装備モンスターの攻撃力分下がる。その数値は《スキル・サクセサー》の上昇分を含めて2500。これで《聖騎士ジャンヌ》が《ゲート・ガーディアン》を上回った。

 

「更に《聖騎士ジャンヌ》で《ゲート・ガーディアン》に攻撃!」

「フ、《ゲート・ガーディアン》は倒させん。リバースカードオープン《和睦の使者》!」

 

 《聖騎士ジャンヌ》と《ゲート・ガーディアン》が衝突する。ジャンヌのほうが攻撃力は高いが、《和睦の使者》の効果によりモンスターも迷宮兄弟も無傷。有効打とはならない。

 

「くっ……リバースカードを1枚セットしてターンを終了するわ」

 

 《ロケット・パイルダー》の効果はエンドフェイズまで。次のターン、《ゲート・ガーディアン》の攻撃力は元に戻ってしまう。結局明日香にとっては、自らダメージを受けただけという最悪の結果に終わってしまった。

 

「私のターン、ドロー! 罠カード《強欲な瓶》を発動! カードを1枚ドローする!」

 

 純粋な1:1交換カード《強欲な瓶》。ドローしたカードを目にし、迷宮兄は再度フィールドを見渡した。

 《強欲な瓶》は迷宮兄が伏せたカードである。迷宮弟もこのカードを使うことができたが、彼は既に《ゲート・ガーディアン》を特殊召喚するためのカードをその手に揃えていた。それ故、迷宮弟は兄に《強欲な瓶》を託していた。

 

「……《ゲート・ガーディアン》で《聖騎士ジャンヌ》に攻撃!」

 

 前のターンとは違い、攻撃力の差は歴然。《聖騎士ジャンヌ》は《ゲート・ガーディアン》に容易く粉砕されてしまい、明日香のライフは一気に1250まで落ち込んでしまう。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

 モンスターの数こそ同じものの、《ゲート・ガーディアン》の攻撃力は《サイバー・ブレイダー》を大きく上回っている。余裕の笑みを浮かべつつ、迷宮兄はターンの終了を宣言した。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 敗色濃厚な状況を受け、思わず仁の声に力が入る。引き入れたカードを確認し、彼は再度フィールドを見渡す。

 明日香の用意したカードにより、仁は《ゲート・ガーディアン》を打ち倒す方法を2通り得ている。1つはモンスターを増やし《ロケット・パイルダー》の効果を使用する方法。もう1つは《サイバー・ブレイダー》で《ゲート・ガーディアン》の攻撃力を上回る方法である。

 しかしそのどちらも迷宮兄弟の伏せカードを無視したもの。現時点では幻想に過ぎない。ここで仁は、迷宮兄弟の伏せカードについて改めて思考を巡らせた。

 

 迷宮兄弟の伏せカードは2枚。まず注意するべきは攻撃反応型罠とフリーチェーンカードであろう。《ロケット・パイルダー》の効果を利用するにせよ、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力を上げるにせよ、そもそも攻撃が通らなければ話にならない。

 今までの傾向と《ゲート・ガーディアン》に対する自信から、除去の採用率は低めと仁は予想する。しかし素材を守ると考えれば罠の除去が採用されていても不思議はなく、防御カードの投入は既に確認されている。ブレイダーの攻撃が通らないことも十分考えられた。

 よって相手ターンのカウンターに賭ける手法も考えられる。しかしそうなると迷宮兄弟が攻撃力を増減させた場合、仁は耐えられない。

 迷宮兄が瓶でドローした後に一旦フィールドに目をやったことから、少なくとも伏せの片方は即座に発動が可能な魔法カード。それも見直す必要があったということはコンバットトリック――ダメージステップにおける発動が可能な、攻撃力を変動させるカード――の可能性が高い。相手の余裕のある表情も考慮すれば、まず間違いない。仁はそう考える。

 そうなればもう、仁には攻め以外の選択肢はない。しかしどの方法にせよ、攻撃が通らなければ彼の敗北が決まる。八方塞の状況であった。

 

 最大の問題は、罠とコンバットトリックが共に伏せられているであろうこと。そう考えた時、仁の脳裏に鮮烈な閃きが走る。

 

「カードを1枚セットする。……そして《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》を召喚」

 

 仁のデッキを縁の下から支える翼人、セルフバウンスを行うモンスターが召喚される。下級にして2000の攻撃力を持っているものの、この状況では頼りない。

 

「バトルに入る。《サイバー・ブレイダー》で《ゲート・ガーディアン》に攻撃するが……攻撃宣言時に何かあるか?」

「……いや、何もない」

 

 若干の間を置き、迷宮兄は否定の言葉を返した。

 仁の推察通り、迷宮兄弟の場には攻撃力を変動させる速攻魔法、そして攻撃を防ぐための罠が伏せられている。

 今回、迷宮兄は仁が《ロケット・パイルダー》で攻撃力を下げようと攻撃してきたところで《突進》を使って迎撃しようとしていた。仮にライフを削りきれず仁に追撃を行われたとしても、もう1枚の伏せカードで《ゲート・ガーディアン》を守るという考えである。

 《サイバー・ブレイダー》と《ゲート・ガーディアン》の攻撃力差は1650。このままでは、仁の攻撃は自滅以外の何物でもない。彼が態々確認を取ったことから、後にコンバットトリックを使う積もりであろうと迷宮兄弟は察している。

 場合によっては迷宮兄もこの攻撃を止めていたであろう。しかし今回に限れば、その必要はない。墓地に存在する《スキル・サクセサー》。仁はこのカードを除外して攻撃力を800上昇させる。迷宮兄弟はそう考える。

 そこで迷宮兄が《突進》を使用すれば攻撃力の差は1550となり、発生するダメージが仁らのライフを再び超えることになる。この差を覆すことのできるカードとしては《収縮》が思い浮かぶが、現在仁が使えるカードは明日香の伏せたカードのみ。もし《収縮》であれば、彼女が《サイバー・ブレイダー》で攻撃する際に使っていなければおかしい。

 つまりどう転んでも、《ゲート・ガーディアン》が倒されることはない。そう考えられる。それよりも迷宮兄が気にしたのは最初に仁が伏せたカード。万が一《ゲート・ガーディアン》に対処可能な罠であれば、不利になるどころか一気に敗北することもありえる。それだけは避けなければならない。故に迷宮兄は発動するカードはないと返答し、ここでの決着を望んだ。

 

 しかし。迷宮兄に迎撃させること。それこそが仁の狙いであった。

 

「バトルステップ終了前(・・・)に《ギブ&テイク》発動! 墓地から《聖騎士ジャンヌ》を相手の場に特殊召喚し、《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》のレベルを上げる」

「な、何だと!?」

 

 迷宮兄弟の顔が驚愕に染まる。

 相手フィールド上にモンスターを特殊召喚するという、単体で見れば完全なアド損カード《ギブ&テイク》。しかしこの局面では確かな意味がある。迷宮兄弟のモンスターが2体に増えたことで、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は2倍へと変化する。それは彼らの予想を超えた、想定外の奇襲となっていた。

 

「巻き戻しが発生するが、攻撃対象は変更しない! このまま《ゲート・ガーディアン》に攻撃する!」

 

 そしてここからが仁にとっての賭けになる。

 博打の1つは迷宮兄弟が防御に用いるカード。それが《和睦の使者》のようなフリーチェーンであれば、仁は敗北する。

 しかし仁はその可能性は低いと踏んだ。迷宮兄弟のデッキはお互いをサポートしつつ《ゲート・ガーディアン》の特殊召喚を狙うもの。迷宮弟の使用した《和睦の使者》が兄のデッキにも入っているとは考えにくい。

 その推察は当たっていた。伏せられているカードは2枚目の《ドレインシールド》。攻撃反応型罠であり、既に発動するタイミングを逸している。迷宮兄弟は《サイバー・ブレイダー》の攻撃を受けるしかない。

 

「くっ……速攻魔法《突進》を発動! 《ゲート・ガーディアン》の攻撃力を700アップする」

 

 速攻魔法の力を受け、《ゲート・ガーディアン》の攻撃力が3750から4450にまで上昇する。

 無論この行動に意味がないことを迷宮兄もわかっている。しかし今の彼は《ドレインシールド》を発動しなかったことを悔やみ、ある種の錯乱状態に陥っている。敗北の2文字に侵されてしまった迷宮兄は、せめて華々しく散ろうと考えてしまった。

 しかしこれは悪手。してはならない愚行であった。結果的にこの行為こそが迷宮兄弟に敗北をもたらすことになる。

 

「……ならば墓地の《スキル・サクセサー》の効果発動! このカードを除外することで《サイバー・ブレイダー》の攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 

 攻撃力2倍は永続効果であり、上乗せされた800も同じく2倍となる。つまり《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は5800にまで上昇し、再び《ゲート・ガーディアン》を上回る。その差1350。ライフ1200の迷宮兄弟には受けきれない。

 白熱した接戦は、仁と明日香の側に軍配が上がった。

 

「我らが2度も負けるとは……」

 

 迷宮弟の口から声が漏れる。相応の強さを持つ迷宮兄弟の2連敗。これには彼らを呼び寄せたクロノスだけでなく、観客たちも驚いていた。

 

「だが何故だ!? 何故態々モンスターを召喚した! 私の考えを読んでいたとでもいうのか!」

 

 先程の仁のプレイングに対して迷宮兄が問い質す。仁の行為は《サイバー・ブレイダー》の攻撃が通らなかった時のリスクを悪戯に増やしただけに過ぎない。彼にはそうとしか感じられなかった。

 

「……1番の目的は誘導ですよ。俺が《ロケット・パイルダー》で攻撃力を下げて別のモンスターで《ゲート・ガーディアン》を倒そうとしている、そう思わせるためです」

 

 仁が行ったのは相手心理の誘導。とはいえ、単にモンスターを召喚するだけでは意味がない。それだけなら迷宮兄弟は何も考えずに《サイバー・ブレイダー》の攻撃を防いでしまえば良い。次のターン、彼らは低攻撃力を晒している《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》を攻撃すれば勝てる。態々攻撃を受けるというリスクを冒す必要はない。

 そこで仁は予めリバースカードをセットすることで罠の存在をほのめかし、迷宮兄が迎撃を選択するよう誘った。

 しかしここで実際に仁が伏せたのは、罠ではなく《サイクロン》。勿論使用すれば伏せカードを破壊することもできたが、罠を破壊できる可能性は2分の1、それでは確実性がない。故に仁はこの時点ではブラフとして使用することにした。

 無論こちらも確実に成功する策ではない。もし迷宮兄弟の伏せカードがフリーチェーンであれば、《霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン》の召喚は裏目。次のターンこちらを攻撃されては仁になす術はない。とはいえ、それは彼も承知の上である。そもそも《サイバー・ブレイダー》の攻撃を通さないことには勝ち目がなく、それはリスク足りえないと考えていた。

 

「それじゃあ相手の伏せカードが攻撃力を下げるカードだったらどうする積もりだったの?」

 

 今度は明日香が仁へ問いかける。《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は永続効果により2倍となっていた。よって攻撃力減少効果を受けた際の影響も同じく2倍。当然止めを刺すには至らない。

 

「いや、それは逆だよ。コンバットトリックがあると考えたからこそ、攻撃するしかなかったんだ」

 

 墓地にある《スキル・サクセサー》の効果を発動できるのは自分のターンのみ。仁が相手の攻撃に合わせて《ギブ&テイク》を使った場合、攻撃力を500以上変動させるカードを迷宮兄弟が持っていれば《サイバー・ブレイダー》は撃破されてしまう。

 そこから立て直すのは難しく、それ以前にそのターンで押し切られる可能性もある。迷宮兄の伏せたカードの1つはコンバットトリック。そう考える仁には攻める以外の道が残されていなかった。

 確かに戦闘破壊されない《サイバー・ブレイダー》を守備表示にするという手もあるにはある。しかしこの効果は相手モンスターの数で変化する不安定なもの。迷宮弟がモンスターを引かないことを祈るというのは弱気な上に運任せに過ぎる。どうせモンスターを引かないことを祈るなら、《サイバー・ブレイダー》に単身攻撃させたほうが遥かにマシである。

 しかし攻撃しようにも、仁の前には2つの壁が存在していた。それが迷宮兄弟の伏せカード。仮に攻撃反応型罠が伏せてあるとしても、それほど心配は要らない。こちらは先のブラフで封じることができる。

 このブラフは迷宮兄がコンバットトリックを伏せていなければ成立しないが、その点に関しては仁にも自信があった。問題はない。しかしそのコンバットトリックが何なのか、肝心の正体が彼には掴めなかった。

 

「だからあのターンは《ゲート・ガーディアン》の撃破ができれば十分、それができなければ負けるだろう、と。それに……何も起こらなければ《スキル・サクセサー》を発動する気はなかったからな」

「何……!?」

 

 仁の発言に迷宮兄弟が目を丸くする。彼らから見れば、あの時の仁は完全に勝てる状況にあった。そこで勝機を逃す行動を取る思惑がわからない。

 しかし、それは迷宮兄弟から見た視点。別の者、特に仁から見れば勝敗は未だ揺蕩っていたのである。

 

「もし伏せが《収縮》や《禁じられた聖槍》なら、下手に自分から発動すれば負ける。けど《スキル・サクセサー》を後にすれば、まだ希望はある。それを思うと自分からは使えなかったんだ……」

 

 仁の言葉通り、迷宮兄の伏せカードが勝敗の行方を揺らしていた。モンスターの攻撃力を元々の半分にする《収縮》や、魔法・罠カードの効果を受けなくさせる《禁じられた聖槍》が伏せられていた場合、下手な動きは敗北に繋がったのである。

 《収縮》の場合は《スキル・サクセサー》の効果解決後に新たなチェーンブロックを作って発動することで、既に適用されている効果を打ち消すことができる。そうなれば《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は結局2100。1650ものダメージを受けることになり、その場で仁の敗北が決定してしまう。

 《禁じられた聖槍》の場合はチェーンすることで《スキル・サクセサー》を無力化できる。加えて攻撃力を800下げる効果も有しているため、下手を打てば1150のダメージを仁は受けてしまう。しかし逆に聖槍に《スキル・サクセサー》をチェーンすればその分は無効にならず、攻撃力4200を維持できる。決着は付けられずとも、《ゲート・ガーディアン》を倒せるのである。

 迷宮兄弟の《ゲート・ガーディアン》への自負を見れば、相手の攻撃力を下げるカードが採用されている可能性は低い。しかしそれは仁が受けた印象に過ぎない。根拠も何もない、単なる憶測である。それに加え、《禁じられた聖槍》は《ゲート・ガーディアン》を守る役目も果たせるカード。採用されていても不思議はないと言える。

 

 1度恐怖が生じてしまえば、それを簡単に拭うことはできない。失敗が即座に敗北に繋がる以上、仁は覚悟を決めることができなかった。

 しかし直後、彼は呪縛から解き放たれる。それを行ったのは対戦相手、他ならぬ迷宮兄である。

 伏せカードの一方が《突進》であれば、もう一方が《収縮》や《禁じられた聖槍》の可能性はなくなる。合計で1250以上の攻撃変動を起こせたならば、前のターンに迷宮兄弟は勝利できたことになってしまう。通常魔法や罠カードならいざ知らず、ダメージステップに発動できる速攻魔法を温存する必要はない。

 《突進》の公開が仁の不安を解消させ、彼に《スキル・サクセサー》を発動させる理由を生み出したのである。

 

 己が敗北の要因となったことに気付き、迷宮兄は自責の念に駆られる。しかしあの場面で不敵な笑みを浮かべ、何もせずにいられる人間がどれだけ居ることか。それを理解しているからこそ、迷宮弟には兄を責める気はまるでない。

 

 アカデミア生徒の連勝に観客席は沸いている。暫くの間、歓声と拍手が止まなかった。




今日の最強カード

「今回紹介するのは特定のカードじゃない。今日の最強カードは伏せカードだ。本当に良いのかこれで……とは思うが、この機会に説明しよう。
 遊戯王では伏せカードがあるという事実だけでも相当な抑止力になる。特にミラフォ・激流が見えていない時に伏せカードがあれば、安易に展開することはできない。かといって、あまりにも恐れ過ぎると俺のように勝機を逃しかける、又は実際に逃す可能性もあるがな。
 ちなみにブラフが最大限に効果を発揮するのは自分が不利……というより、相手が有利な時だ。プレイングとしては常に最悪を想定するのが基本だから、一応は常にそこそこの効果を発揮する。とはいえ、そもそも圧倒的に形勢不利な人間は行くしかない。次に場に出ているモンスターの直接攻撃を受けるだけで敗北するのに、相手の伏せを恐れて止まる人間はまず居ない。10人中10人が開き直る。そんな状況でブラフだけを伏せるのは無意味だ……。
 対して優勢な人間は逆。もし伏せがミラフォ・激流だったら、アドバンス召喚したモンスターが警告を喰らったら……などと不安に思うとそれが止まらない。それに今は手札誘発もあるからな……。実は確実に勝てるという状況がほとんどない。結局、相手に反撃の可能性を与えるよりは今の優位を守ろうということになる。ブラフが真価を発揮するのはこんな時だ。
 存在することはわかっているが内容はわからない、それが伏せカードだ。言わば闇の領域。だからこそ恐れられる。これこそ『見えるけど見えないもの』だろう」

※2013年より《収縮》の裁定が変更になり、上昇分が打ち消されることはなくなりました。現在は仁が懸念しているような事態は起こりません。
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