009 追憶
準がアカデミアから姿を消してから月日が経ち、学園は冬休みに入った。
結局その後、大地は昇格を断りラー・イエローにとどまっている。彼はオベリスク・ブルーに入るなら学園でNo.1になった時と心に決めていたらしい。未だ十代に勝利するデッキを生み出せていない彼は、今もなお研究を続けている。
一方仁も、冬休みという時間のあるうちにデッキの改造に着手しようと考えていた。
この学園に来てから、仁は多数のデュエルを見てきた。主立った強者とデッキを比べた際に受けた印象は打点の違い、即ち彼のデッキが特に攻撃力が低いということであろう。
攻撃力が全てではないということは仁も理解しており、それ故のデッキ構成ではあるが、それにも限度はある。
他の者との最大の違いは切り札の存在になるか。はっきり言ってしまえば、仁のデッキにはそれがない。《忍法 変化の術》の存在もあるが、これはむしろ戦術の基盤と言える。ここから出せる最大の攻撃力は2700と最上級の及第点ぎりぎり、且つその効果は受身で切り札と呼ぶには少々力不足である。攻撃的なモンスターに至っては2400と、どれも切り札足り得ない。
レッド寮最強とされている十代も、モンスターの攻撃力を見れば仁と似たようなもの。しかし彼にはフィールド魔法《摩天楼 -スカイスクレイパー-》がある。自分のターンに限られるとはいえ、攻撃力の上昇値は1000と破格。入学試験で攻撃力3000の《
ならば仁も十代に習い、恒久的に全体の底上げを可能とするフィールド魔法や永続魔法を使用したいところである。
しかし今の彼のデッキは《忍法 変化の術》、ひいては忍者の使用を第1に考えて作ったため、属性・種族ともに定まっていない。故にこの構成を保ったまま前述の強化することは難しく、デッキ内容の大幅な変更が求められるのである。
改めて見ると仁が今使っているデッキは明らかに理に適っていないところがある。これは彼自身のイメージとは若干外れており、双方を知った者は不思議に思うかもしれない。とはいえ、そうなってしまったことには理由がある。それはある種の憧れ。忍者をテーマとしたいがために、仁は現在のデッキを扱っている。
デッキの作成が思うように進まない仁は今のデッキを作るに至った原点に立ち返ろうと、その出来事に思いを馳せるのであった。
発端となったのは今から3年ほど前。仁の周囲でデュエリスト狩りなるものが起きた秋口のことである。
下校中の生徒が突然デュエルを挑まれ、負けるとレアカードを奪われる。狩りの名ほどに危険な代物ではないが、厄介には違いない。そんな話が広まってきた頃、仁もその被害に遭う。もっともその人物はそこまでの強さではなく、辛くも仁が勝利を収めることとなった。
これで終われば大した問題とはならなかったであろう。しかし仁が相手に奪ったカードの返却を求めたことで、話がこじれる。相手だけにカードを賭けさせレアカードを手に入れようというのは確かに虫の良い話であるが、こういった手合いに理のみで接するのは無理がある。案の定暴力に訴えられ、仁は連れ去られてしまう。
次に仁の意識が覚醒したのは、仄暗い倉庫らしき場所であった。次第に頭が回り始め、彼はデュエリスト狩りに遭ったことを思い出す。自身を攫った男らしき人物が何者かに話しかけているが、どうも様子がおかしいと仁は感じていた。
「そんなのは後にしろ! ……横槍が入って悪かったな。それで、結局この勝負受けるのか?」
「ああ。あんたも同じものを付けるって言うなら、俺は構わない」
今しがた目が覚めたばかりの仁には何が何やらわからない。彼に理解できたのは、己を攫った人物より格上の確実に危険な人物と、向かい側の男が勝負を行うということだけである。
仁の近くにいる青年は名を金城、向かいにいる白髪の男は赤木という。どちらも、所謂裏社会の人間である。
2人の勝負は金城の組織の存亡を賭けたもの。裏の存在とはいえ、彼の組織は越えてはいけない一線を越え、今や周囲から非難の嵐を受けていた。僅かながら既に表社会にも悪影響が出ており、仁が被害に遭ったのもその一環である。
しかし金城に手を出そうにも、簡単には行かない。問題となるのはデュエリストとしての強さ。勝てば官軍とでも言おうか。打ち負かすことの難しさ故に、その傍若無人な振る舞いを止めることが中々できなかった。
対する赤木がこの場に居るのは、金城を倒すことを依頼されてのこと。基本的に彼は気分屋であるが、強者との勝負は好んで行う。裏でも有数の実力を持つ猛者、金城との戦いを意外にすんなりと赤木は引き受けた。
頼られた形ではあるものの、元々赤木はデュエルを本業としている訳ではない。しかし勝負師としては一流という言葉では足りない、真に百年に一人の天才と言われる男。言わずもがな、デュエリストとしても名を馳せていた。
「無論、俺も付ける。装着するのはこのリングだ。デュエルを行い、ライフが0になると……」
男の言葉と共に指し示したリングから電流が走り、眩い光と炸裂音を起こす。直接見ることは叶わないまでも、床の焦げ跡がその威力を雄弁に語っている。
「見ての通り、負ければ死ぬ。ただしこいつは致死量を超えた電流しか流せなくてな。その辺の衝撃増幅装置のようにデュエル中に影響が出ることはない」
「ほぅ、そいつは助かるな。勝負中まで電撃を喰らうのは年寄りにゃ辛いからな」
年寄りとは言うものの、赤木の年齢は40に差し掛かるところ。その言葉は相対的なものに過ぎない。
そんな赤木の陽気な台詞とは対照的に、これから行われるのは要は殺し合い。どちらかが死ぬデスマッチである。目と鼻の先でそれが行われることに気付き、仁は恐怖で身を竦めた。
仁が恐怖におののいている間に、当事者2人は準備を終えていた。死が目前に控えているにもかかわらず、互いにそんな素振りは見られない。金城のほうはどこか愉悦に浸っているように感じられる。対する赤木はただ静かであった。
「先攻は頂く! ドロー! 手札から《グリーン・ガジェット》を召喚し、効果発動! 《レッド・ガジェット》を手札に加える」
その名の通り緑色の機械仕掛け、ロボットがフィールドに出現した。体の中央が巨大な歯車で構成されており、そこから足が生えている。
ガジェットは召喚・特殊召喚に成功した時、緑は赤を、赤は黄を、黄は緑を手札に加えることができる。このカードを使用する【ガジェット】というデッキの歴史は古く、登場以来常に主流の1つとして使用されてきた。全てが攻撃力1400以下とステータスこそ低いものの、召喚しただけでハンドアドバンテージを得られる。モンスターを切らさないこのデッキは非常に高い安定性を誇るのである。
「リバースカードを2枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー。《ダーク・グレファー》を通常召喚。……何もないのなら手札から《ダーク・シムルグ》を捨て、《ダーク・グレファー》の効果を発動させてもらおう。《異次元の偵察機》を墓地に送る」
全身を黒く染めた筋骨隆々の男が姿を見せる。
手札とデッキのカードを墓地に送る、闇属性専用の墓地肥やし。このカードは同じく墓地を肥やす《終末の騎士》とは相互関係にあり、速度を重視する際に用いられやすい。
「バトルだ、《ダーク・グレファー》で《グリーン・ガジェット》に攻撃」
「《次元幽閉》発動! 《ダーク・グレファー》を除外する!」
《グリーン・ガジェット》へ剣で切りかかろうとした男性の前に、謎の歪みが発生する。勢いを止めることはできず、《ダーク・グレファー》は次元の狭間に飲まれてしまった。
【ガジェット】の基本である除去をまともに受けたことになるが、赤木はそれを気にする素振りを見せない。これは《ダーク・グレファー》の仕事である墓地肥やしが既に済んでいるということもあるが、今の金城のプレイングによりそれ以上の収穫を赤木が得たためである。
「メインフェイズ2に移る。手札の《異次元の偵察機》と《
大地を砕き、黒色の巨大な怪鳥が墓地より蘇った。このカードは2700の攻撃力に加え、相手のセットを封じる効果を持っている。罠の採用率が高い【ガジェット】には正しく天敵と言えよう。
《ダーク・シムルグ》を墓地から特殊召喚するには、手札から風と闇のモンスターを除外する必要がある。多少の無理をすることになるが、赤木にはそれを補って今出す意味があった。
金城は《ダーク・グレファー》に対して《次元幽閉》を使った。これにより、赤木は残った伏せカードが効果無効や召喚反応型の罠ではないと捉えている。
もし《奈落の落とし穴》などがあれば、《ダーク・グレファー》の召喚時に使っていなければおかしい。同じ除去を使うなら、墓地肥やしを食い止められるそちらを使用したほうが良いに決まっている。召喚時に何もなかったことで赤木はこのターン中に《ダーク・シムルグ》を出すことを念頭に置き、手札からこちらを捨てていた。
そして金城が《次元幽閉》を使ったことから、彼の手に除去魔法がないこともほぼ確実となる。300のダメージを惜しみ、役目を半分以上終えたカードに《次元幽閉》を使うのも考えにくい。僅かなダメージで済むなら次の自分のターンに除去し、後に大ダメージを防いだほうが圧倒的に良い。同じ理由で《ダーク・グレファー》を戦闘破壊できる高い攻撃力を持つモンスターを手にしている可能性も低くなる。
つまり金城がセットする必要のない除去を引かない限り、【ガジェット】において最も投入率の高い除去罠を腐らせることができると考えられる。赤木の行動はそれを狙ったものである。
無論フリーチェーンの《サンダー・ブレイク》などが伏せられている可能性も0ではなく、賭けの要素があったのも確か。しかし金城の苦虫を噛み潰したような表情から、今やその線も消えていた。
「リバースカードを1枚セット。エンドフェイズに《異次元の偵察機》が帰還する。……俺はこれでターンエンドだ」
除外ゾーンから偵察機が舞い戻る。このカードは攻撃力が800と低く、特殊召喚した際には攻撃表示になってしまう。
しかし何処からどのように除外されたとしても効果を発動できる長所はその欠点を補って余りある。相手取る金城としても、繰り返し使用できるコスト要因の存在は厄介なことこの上ない。
「俺のターン、ドロー! 《レッド・ガジェット》を召喚! 《イエロー・ガジェット》を手札に加える!」
緑と赤のロボットが並ぶ。《グリーン・ガジェット》とは違い、こちらは丸みを帯びたボディに歯車を背負った形状である。
赤木の推察通り、今の金城に《ダーク・シムルグ》を処理できるカードはない。故にここはデッキ圧縮に努め、耐え忍ぶしかなかった。
「《レッド・ガジェット》で偵察機に攻撃!」
攻撃力1300に過ぎないガジェットとはいえ、相手の攻撃力は800と更に低い。偵察機は何の抵抗もなく破壊され、コントローラーの赤木は500ばかりのダメージを受けた。
「《グリーン・ガジェット》を守備表示に変更してターンエンド」
攻撃に参加しなかった《グリーン・ガジェット》が守りの体勢を取った。
100とはいえ攻撃力の勝る緑で金城が攻撃しなかったのは、このターンに召喚した赤のほうは表示形式の変更ができないため。赤木がモンスターを追加した場合は必然的に2度の攻撃を受けることになるが、片方が守備表示ならダメージを受けるのは1度で済む。それ故の自然な行動である。
「ドロー、このままバトルだ。《ダーク・シムルグ》で《レッド・ガジェット》に攻撃」
「ダメージ計算時に《ガード・ブロック》発動する! 戦闘ダメージを0にして1枚ドロー!」
黒の翼で羽ばたき、《ダーク・シムルグ》がガジェットへと突進する。巨体の体当たりを受けた《レッド・ガジェット》は崩壊し、ガラクタに成り果てた。
そのままなら1400のダメージ。しかし金城は《ガード・ブロック》を用い、その戦闘ダメージを回避する。このカードはダメージを無効にしながらもドローでき、カード消費がない。使用状況が限定される上に除去をなせる訳でもないが、上手くはまれば効果的なのは確かであろう。
「カードを1枚セットしてターンを終了する」
「俺のターン!」
これで金城の手札は7枚となる。新たなカードを引き入れると同時、彼の顔に笑みが浮かんだ。
「《マシンナーズ・ギアフレーム》を召喚し、効果発動! デッキから《マシンナーズ・フォートレス》を手札に加える!」
姿を現したのは山吹色のロボット。こちらはアームのような手を除けば、人と同様の形を成している。
1800の攻撃力を持つ《マシンナーズ・ギアフレーム》も、ガジェットと同じくハンドアドバンテージを稼ぐことができる。こちらは召喚でしか効果を発動できないが、それは些細なこと。ガジェットとは違い、ギアフレームは強力なカードを手中にできるのである。
「手札から《イエロー・ガジェット》と《マシンナーズ・フォートレス》を捨て、捨てた《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚!」
人型ロボットに続いて、青色の戦車が登場する。戦車と言っても通常のものとは明らかに異なり、上部に頭がある上、キャタピラの横には腕らしきものまで付いている。
フォートレスを特殊召喚するには、レベルの合計が8以上になるように手札から機械族を捨てる必要がある。逆に言えば手札に機械族さえあれば何度でも蘇るということであり、手札を稼ぐガジェットとの相性は良い。この組み合わせは【マシンガジェ】と呼ばれており、今やガジェットの主流となっている。
今回金城はフォートレス自体を捨てているが、この行為に問題はない。召喚ルール効果によって墓地から特殊召喚できるモンスターは自身を手札コストとすることができるのである。それはこのフォートレスも多分に洩れない。
加えてフォートレスのレベルは7。つまりどのようなものであれ機械族モンスターが手札にあれば、自身と共に捨てることで特殊召喚ができる。それが機械族のエースの1柱、フォートレスというモンスターである。
「《グリーン・ガジェット》を攻撃表示に変更してバトルだ! フォートレスで《ダーク・シムルグ》に攻撃!」
《ダーク・シムルグ》がフィールド上にいる限り金城の不利は否めない。赤木の場には2枚の伏せカードがあるが、金城は構わず攻勢に移った。
攻撃を仕掛けたものの、《ダーク・シムルグ》の攻撃力2700に対してフォートレスは2500。ステータスが示す通り、返り討ちに遭う。しかし倒されることこそが金城の狙いであった。
「戦闘破壊されたことによりフォートレスの効果発動! 《ダーク・シムルグ》を破壊する!」
壊れかけのフォートレスが最後の反撃に出る。先程よりも強力な砲撃に《ダーク・シムルグ》も呆気なく地に落ちた。これがフォートレスの真骨頂。戦闘破壊された時、相手のカード1枚を破壊する効果である。
更にフォートレスは効果モンスターの効果の対象になった時、相手の手札を確認して1枚捨てる効果をも持っている。戦闘破壊すればカードを破壊され、モンスター効果を用いれば手札破壊を受ける。相手にしてみれば堪ったものではない。
これで赤木の場はがら空き。対する金城の場には未だ攻撃可能なモンスターが残っている。
「更に《グリーン・ガジェット》とギアフレームでダイレクトアタックだ!」
2体の直接攻撃も決まり、瞬く間に形勢が逆転した。赤木のライフは300と、最早風前の灯。更にはフィールド・ハンド共にアドバンテージで劣っている。赤木に唯一の希望があるとすれば、この攻防で全く使用されなかった2枚の伏せカードであろう。
一方の金城は不利な状況から一気に優勢となり、満足げな様子を見せている。それもその筈。後もう1押し、ほんの僅か押し込むだけで彼は勝利できる。そしてその僅かはフォートレスを蘇生させるだけで決まる可能性が高い。勝利は既に金城のすぐ傍まで来ているのである。
「最後にカードを2枚セットしてターンエンド!」
「ドロー。《速攻の
《速攻の
そんな闇の忍者こそが赤木のデッキを支えるベースとなる。満を持しての登場ではあるが、所詮は下級モンスター。その攻撃力は1700に過ぎず、単体でこの局面を打開できるものではない。
「バトルフェイズに入り、《グリーン・ガジェット》に攻撃する」
金城は僅かなダメージを受け、そのライフを3500とした。時に1ターンで4000以上を削るDMでは潤沢とは言えないが、赤木の状況に比べれば遥かに余裕。現状にはそれだけの差があった。
それでもなお、赤木には慌てる様子が微塵も見られない。一喜一憂する周囲の状況とは対照的である。
「ターン終了だ」
「俺のターン、ドロー! 《レッド・ガジェット》を召喚! 《イエロー・ガジェット》を手札に加える。更に手札から《イエロー・ガジェット》と《グリーン・ガジェット》を捨て、フォートレスを蘇生する!」
大地を割りフォートレスが蘇る。蘇生に必要となるコストも【ガジェット】であればさほど問題とはならない。
「更にギアフレームの効果発動! このカードをフォートレスに装備!」
ギアフレームが変形し、自身をフォートレスへ装着する。ユニオンと呼ばれる効果により、フォートレスに1度限りの破壊耐性が付与された。
これで赤木が《聖なるバリア-ミラーフォース-》を伏せていようとも、攻撃は通ることになる。ギアフレームには攻撃力上昇などの付随効果はないが、赤木のライフは僅か300。破壊耐性だけで十分である。
「バトル! フォートレス、奴に引導を渡してやれ!」
「墓地から偵察機を2枚除外し、黒い忍者の効果発動。このカードを除外する」
黒装束の姿が突如霞み、フィールドからその姿を消してしまった。
元々攻撃が通ればライフがなくなってしまうとはいえ、自分のフィールドをがら空きにするという行動には誰もが困惑する。
しかしそれも一瞬のこと。謎は即座に氷解した。
「この瞬間、罠カード《ゼロ・フォース》発動……! 全てのモンスターの攻撃力を0にする。もっとも、俺のフィールドには何も居ないから関係ないがな……」
自分のモンスターが除外された時と中々に発動条件は厳しいが、《ゼロ・フォース》の効果は絶大。毒々しい紫色をした0の文字がフィールドを飛び交い、あらゆるモンスターを弱らせる。金城は全てのモンスターを攻撃力0にされてしまった。
破壊以外の効果ではギアフレームを装備しても意味がない。むしろモンスターが存在している状態で直接攻撃と同等のダメージを3回受けることになると考えれば、ギアフレーム装備は裏目とも言える。
「…………ターンエンドだ」
時間を置いたものの、金城はそのままターンを終了する。何もしなかったとはいえ、彼が動きを止めていたのは意気消沈していたためではない。頭にあるのは、如何にしてこの苦境を凌ぐかのみ。その瞳には未だ戦意の炎が灯っていた。
「エンドフェイズに除外された偵察機2体を特殊召喚。その後黒い忍者を帰還させる」
一次的に避難していた忍者が、偵察機を引き連れてフィールドに舞い戻った。《ゼロ・フォース》を発動したこの状況ではその偵察機さえ戦力となる。攻撃を止める手段がなければ、金城に先はない。
「そして俺のターン、ドロー。バトルだ。黒い忍者でフォートレスに攻撃」
「ライフを500払い、永続罠《血の代償》を発動する! 《レッド・ガジェット》とフォートレスをリリースし、手札から《マシンナーズ・フォートレス》を召喚!」
通常であればまず利用しない、フォートレスのアドバンス召喚が行われる。これが金城が考え出した生き残りの策。特殊召喚可能なモンスターと言っても、《マシンナーズ・フォートレス》は召喚制限のある特殊召喚モンスターではない。故にこのような使い方も可能である。
もっとも気付いたこと自体は大したことではない。金城の手にフォートレスがあったことこそが、特筆すべき点であろう。それは純粋に指運。彼がガジェットではなく、フォートレスを手札に残したことに何か意図があった訳ではない。
しかし。この偶然を引き起こす運を持っていること。それそのものが強者の証と言える。
「ククク、そうこなくちゃな……。バトルを中止してメインフェイズに移る。偵察機を守備表示に変更、リバースカードを2枚セットしてターンエンドだ」
金城が危機を脱し、再び高攻撃力のモンスターが彼の場に再来した。次の一手によってはすぐにでも決着が付くかもしれない。
もっとも本気でそう思っている人間はこの場には居ない。今のところ金城、赤木の両者共に伏せカードを残しており、互いに余裕が見られる。この2人の決着は、まだ遠い。
今日の最強カード
《ダーク・シムルグ》
効果モンスター
星7/闇属性/鳥獣族/攻2700/守1000
このカードの属性は「風」としても扱う。
自分の墓地の闇属性モンスター1体と風属性モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを手札から特殊召喚する。
手札の闇属性モンスター1体と風属性モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを自分の墓地から特殊召喚する。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、相手はフィールド上にカードをセットする事ができない。
「今日の最強カードは《ダーク・シムルグ》だ。特殊召喚の方法はカオスモンスターと似ているが、このカードの場合は光と闇ではなく闇と風を除外する。《ダーク・シムルグ》をメインに据えるなら、どんな風属性モンスターを使用するかが肝になるだろう。
なお非常にわかりにくいが、この特殊召喚は起動効果に分類される。何故そうなるのかはわからない。確かにテキストは微妙に違うんだが……。
ともかくチェーンブロックを作るため《神の宣告》や《ライオウ》では無効にされない。一方で《マインドクラッシュ》や《D.D.クロウ》をチェーンされる恐れがある。一長一短だが、どちらかと言えば欠点になるだろうな。
肝心の効果は相手によるものの、非常に強力だ。『セットすることができない』というのは魔法・罠カードだけではなく、モンスターのセットも不可能。リバースモンスターが事実上使えなくなる上、《月の書》に代表するセット効果を持つカードも一切使用できなくなる。居座られると相当に煩わしいな」
私の予想に過ぎませんが、ダムルグの特殊召喚が起動効果なのは「~する事で、……する」というテキストのためと思われます。書き方を見れば、確かにチェーンブロックを作る効果と同じです。とはいえ理解しにくいことに変わりはありません。