勇者は勇者に憧れる   作:もやし部

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きっかけ

優「友奈、また明日」

友奈「うん …またね」

 

いつもの快活な友奈らしくない歯切れの悪い応答。

さっきのことが気になるのだろう。様子がおかしい原因はわかっていても僕には何もできない。

友奈だけには教えるわけにはいかないのだから…

 

彼女が家に入っていくのを確認しそのまま神樹館へと足を運ぶ。

 

 

神樹館、僕たちの済む四国地方の生活を守ってくれている土着神である神樹様からとった小学校。格式高く通う生徒も神樹様を代々守護したりなんらかの役割を持ってきた名家ばかりの特殊な学校らしい。

 

休日ということもあり学内は閑散としている。そんな中警備員さんが巡回しているあたり普通の小学校らしさは感じられなかった。

 

巡回中の警備員さんの視線がこっちを見ていることに気づき、反射的に会釈をする。生徒だと思ったのか特に警戒する様子もなく警備員さんは巡回を再開する。呼び出した張本人である須美達を探してあたりをキョロキョロとしていると、

 

 

「ゆうゆう〜 こっちだよ〜。」

 

のんびりとした呼び声のした方向をむくとベンチに二人の女の子が腰を掛けて待っていた。

 

優「やあ早いね 園子、須美」

 

園子「ゆうゆう 今日も元気そうだね〜。」

 

のんびりとしたペースの乃木園子と、

 

須美「優も時間にはまだ余裕がありますよ。」

そう言って上品に笑う鷲尾須美。

 

優「用事がさっき終わったばかりだったから。」

 

すると須美は膝にのせていたポーチから

 

須美「…もしお腹が空いてするなら食べますか?」

 

おずおずとおにぎりを差し出す。

ちょうど小腹が空いてたこともあり願ってもない。

 

優「ありがとう。」

 

お礼を言っておにぎりを受け取ると

 

須美「いっ 言っておきますが、別に他意はありませんから

。」

 

園子「わっしーっ甲斐甲斐しいね〜」

楽しそうに園子が笑う。

 

須美「べっ別に…」

 

須美がそっぽを向く。

 

 

「ごめーん」

 

遠くから走ってくる女の子、三ノ輪銀に3人の視線が集まる。

 

須美「またですか…」

園子「みのさ〜ん」

優「銀は相変わらず忙しそうだね。」

 

銀はベンチの前に座り込み息を整える。

須美が取り出した水筒とおにぎりを銀に渡し、園子はにこにことその様子を見守る。

 

僕が、この3人と関わりを持ってずいぶんと経つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出雲優君には勇者の素質があります。」

 

 

はじまりは突然だった。ある日何にも知らない僕の前に、突然大社の遣いが現れた。

 

今の僕たちの生活には神樹様に守られており、日本の、ほとんどが未知のウイルスで死んだとされ四国だけはそのおかげで生活ができるということ。しかし一般の人々には知らされていないがバーテックスというウイルスが神樹様を狙って外からやってきていたらしい。神樹様に接触すると四国は滅んでしまうらしく、大社より選ばれた勇者が退けてきたらしい。

 

勇者とは大社を代々支えてきた家系から適正のある女の子が選出され、この3人、乃木家、鷲尾家、三ノ輪家は中でも有力者であるということ。一応出雲家も微力ながら支えてきた家系の一つにあたる。

 

しかし勇者の適正とは受け継がれるものではなく、代々支えてきた家系でも適正がない場合も多く年々人材の不足が深刻化してきた。そこで大社は選出の全体に広げるとともに子供達の適正を調べあげたところ、過去前例のない男でありながら適正値の高い僕が見つかった。

 

大社からしたら男でも勇者になることができる理由がわかれば人材不足の解消、かつバーテックス等のあまり知られたくない秘密を小さい範囲で留めることのできる可能性もあるという理由から勧誘にきたとのことだった。

 

とは言ってもいきなりそんな話をされてはいやりますとは言えるはずもなくまだまだ説明することも多いということから返事は保留にしてもらった。

 

それから数日後大社の遣いが再び説明にきた。以前はまだまだ説明することが多いといったわりに別段変わりのない説明をする。

 

何しにきたのだろう。そんな疑念を持ちながら説明を聞いていると大社の人が一枚の資料を机の上に置いた。

 

その紙切れ1枚に僕は頭を思いきりぶん殴られるような衝撃を受けた。

 

 

候補者リスト 備考

ーーーー ーーー

結城友奈 適正最高値記録 候補1

ーーーー ーーー

 

 

 

遣「失礼お見せする書類を間違えました。」

大社の遣いは何事もなかったかのように、書類をしまう。

 

優「今のは…?」

 

話の流れから今の書類がなんであるか検討はつく。

それでも尋ねずにはいられなかった。間違いであって欲しい。なんとか平静を装い問う。

 

遣「お察しの通りです。勇者をやっていただけませんか?」

 

書類を間違えたのがわざとなのかわからない。それでも遣いの行動、言動が酷く悪意的なものにしか感じられない。

 

それでも…

 

 

優「わかりました…。お役目受けさせていただきます。」

 

自分が辞退するつまり、友奈に役目がまわる。

友奈ならどれだけ危険でも快く引き受けるのだろう。

 

やるしかない…

こうして僕は勇者になった。

 


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