つないだ手   作:Gasshow

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次でやっとプロローグの終わりと言ったぐらいですかね。


日々徒然の変化点

少し前にも話したか分からないが、俺はよく動物を拾う。拾うと言うよりは放っておけないと言った方がいいだろう。だから俺の家には猫やら犬やらが沢山いるのだが、拾ってみると案外愛着が湧くもので、家に帰って誰もいなかった時に比べると、何やら少しだけ家に帰るのが楽しくなったりしたものだった。しかし理子と言う娘のようなものができた今では、そういったことは無くなったのだが、それでもペットと言う存在は少なからず俺の人生に影響を与えていた。例えば今、目の前で起こっている事態についてもそうだ。

 

「………………お前はこう何で俺が遅く帰ってくる(たび)に犬やらが猫やらをくっ付けてるんだ?」

 

「だってフワフワして気持ちいいんだもん」

 

俺はAランク武偵ということもあり、日を跨ぐような面倒な仕事をよく回されたりするのだが、理子と共に暮らし始めた最近ではそれらが回らないように工夫してきた。しかしそれでも帰りが遅くなったり、そもそも帰ることができなくなってしまうことは少なからずある。そんな日には決まって理子が別の生き物になったかのように、身体中に動物を張り付けている奇妙な格好で出迎えてくるのだ。いつも不思議に思い、俺は一度だけ理子に尋ねてみた事があるのだが、理子は誤魔化すようなことしか言わなかった。

 

「お腹減ったろ?」

 

「うん!」

 

今は八時半。いつもよりかなり遅い時間の帰宅だ。夕飯は作り置きなど全くしていないので、理子は昼から何も食べていないことになる。本当はお菓子など、間食になる物を常備した方がいいのだが、ついつい買うのを忘れてしまい、今はまだ何も置いていないのが現状だった。

 

「これから夕飯作るから待ってろ」

 

「分かった!理子は何する?」

 

「風呂をいれてくれ。今日は走りっぱなしだったからもうベトベトだ」

 

衛生科(メディカ)通信科(コネクト)と違って、強襲科(アサルト)の俺は他の科より体を使う。だから風呂は俺にとって欠かせない一つの癒しなのだ。そんな俺の意図を組んだのかは知らないが、バタバタと急いで風呂場に駆けていった理子を尻目に、俺はネクタイ緩め、そのまま調理場に向かった。手を洗い、冷蔵庫から食材を取り出し一息つく。

 

「…………よし、始めるか」

 

そう呟いて、俺は包丁を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メニューはハンバーグ。手で肉塊の形を整えて、後は焼くだけの状態だ。俺自身、こう言った料理を作るのはまだ慣れていないため、いい出来とは言えないが、それでも作れるだけましだと思いたい。

 

「理子!お前、先に風呂に入れ。その間に俺が夕飯の支度を全部終わらせとくから」

 

俺はまだ料理ができていないのにも関わらず、後ろで皿を並べている気が早い理子にそう言った。

 

「え~!あきらと入りたい!」

 

俺と理子が一緒に風呂に入るのは珍しくない。と言うよりかなりの頻度でそうしている。どうやら理子は一人で風呂に入るのが好きではないらしいのだ。まぁ、この年の子供ならそうなるのは当然かもしれない。

 

「ん~まぁいいか。なら風呂と晩飯どっちが先だ?」

 

「ご飯!」

 

理子は手を高々と挙げて、宣言するようにそう言った。恐らく腹が減って待ちきれなかったのだろう。正直に言うと、俺も早く何か口に入れたかったので、この理子の申し出はありがたかった。

 

「じゃそうするか」

 

理子の喜ぶ声を聞きながら、俺はハンバーグを焼き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもより少しだけ遅めの夕食をとり、それから俺たちは予定通りに二人で風呂に入っていた。

 

「キャハハハハ!くすぐった~い!」

 

「おいおい、大人しくしろ」

 

両手で頭を洗ってやっていると言うのに、理子のやつときたら暴れてるようにしてはしゃぐ始末。洗いにくいったらありゃしない。しかし子供とは言え、自分が女性の髪を洗う日が来るとは思ってもみなかった。手を流れるように滑る金色の長い髪が、俺のごわごわとした黒髪との違いを嫌でも主張してくる。

 

「じゃあ流すからな。目、つぶっとけよ」

 

「んー」

 

理子が目にぎゅっと力を入れたのを確認したので、俺は彼女の頭の天辺(てっぺん)からシャワーで湯水をかけた。

 

「わ~!あはははは!」

 

「そんなことしてると、口にお湯が入るぞ」

 

何やら楽しそううに、はしゃいでいる理子に注意をしながらも、俺は理子の髪に付いた泡を洗い流す。

 

「よし、もういいぞ」

 

俺はシャワーのヘッドを壁に掛けて、流れ出る湯水を止めた。

 

「ばぁ~!」

 

手で顔を拭い、目を大きく開けた理子は謎の擬音を言って、にこにことその表情を明らめた。

 

「何がそんなに楽しいんだ?」

 

「ん~理子にもわかんない」

 

まぁ子供の頃は俺も全く意味も無くテンションが上がったものだ。今の理子もそう言った状態なのだろう。そんな事を思いながら、理子の体を洗い終えた俺は自分の体を洗い、彼女と共に浴槽に入った。

 

「はぁ~。いいお湯だ」

 

「いいお湯だ~!」

 

俺の体に入り込み、まるで椅子のように扱う理子も、同じ感想を言った。気持ち良さそうに目を細めたまま、ピクリとも動かない。先程とはえらい違いだ。だからだろう。反響する雫の落ちる音が、妙に大きく聞こえた。その音が俺の体を芯から回復させている気がする。

 

それにしても今日は疲れた。朝から晩まで調査と張り込みを繰り返し、尻尾を掴んだところでやっと行動できる。もう武器の密輸入なんてそう簡単にしないでほしいものだ。お陰で遅くまで家に帰れなかった。その間、理子のことが心配だったが、今日帰ってきて安心した。何だかんだでしっかりとしたやつなのだ。まぁ犬猫を張り付けていた時はびっくりしたが……。だがあれなら理子も少しは寂しさを紛らわせるかもしれない。そう思った時、俺は一つあることに気がづいた。

 

(…………まさか)

 

俺の帰りが遅い日や、家に帰らなかった翌日に決まって理子は動物を張り付けていた。それはもしかして、寂しかったからなのかもしれない。そんな考えが、風が(よぎ)るようにして浮かんだ。

 

「……なぁ理子」

 

「なに?」

 

「今度出掛けるとき、オモチャ買ってやる」

 

「えっ!?本当?」

 

「あぁ。今思えば、前に買い物しに行った時はそんな類いの物は一切買ってなかったからな」

 

「やった~!」

 

これで寂しさを紛らわせるのは厳しいかもしれないが、無いよりはましだろう。と言ってもこいつが欲しいオモチャなんて想像もできないが。

 

「それじゃ、そろそろ上がるか。のぼせたら駄目だからな」

 

「うん!ねぇあきら、あがったらアイスクリーム食べていい?」

 

「一つだけだそ」

 

「分かった!」

 

そう言って理子は離陸する戦闘機のように浴槽から飛び出したかと思うと、そのままの勢いで風呂場を飛び出していった。俺は呆れつつも、理子の後を追うようにして浴槽から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子は決まって九時頃、眠たそうに欠伸をして目を擦り始める。そんな理子にとって、今現在の午後十時半という時間帯はもうとっくに寝てしまってもおかしくないのだが、今日は俺の帰宅時間が遅かったこともあり、彼女がベッドに入る頃には、いつもより遅い時間となってしまっていた。

 

「ねぇあきら、ご本読んで」

 

隣で寝転ぶ理子が俺にそう言った。これはここ最近、理子を寝かしつける為に俺がしていたことだった。

 

「何の本がいい?」

 

「ん~前に読んだ怪物さんの話」

 

俺は理子の要望を聞くために、ベッドから離れて部屋の隅にある本棚から一つの平べったい本を取り出した。それは絵本にしては少しだけ分厚く、そして少しだけ小さかった。俺はその本を持って、理子の横に寝転がるようにして移動した。すると理子は俺の半身にすがるようにして身を寄せてきた。

 

「眠くなったらすぐに寝ろよ」

 

「うん」

 

その返事を聞いて、俺は毛むくじゃらの化け物が描かれた表紙の本を開けた。その絵本の内容はこうだ。

 

 

 

 

 

 

とある森に一匹の心優しい化け物がいた。そんな化け物は一人の小さな少女と出会う。孤独だった化け物は、その少女と出合い共に時を過ごす度に、人の優しさを知るようになった。しかしある日、国からその化け物の討伐命令が出た。少女は化け物を庇い、その命を落とす。それに怒り悲しんだ化け物は、国の兵士たちと戦い、そして最後にはその命を散らしてしまう。そんなお話だった。

 

 

 

 

子供向けの絵本にしては何とも暗い、この話を初めて読み聞かせた時、理子はこう言った。

 

「この女の子も怪物さんも、お互いの事を思って行動して死んじゃったんだよね。でもどっちも死んじゃったら意味無いよ」

 

少女は怪物に生きていてほしかったから庇って死んだのに。その怪物が自らを命を落とすような行動をした。その事が納得いかない様子だった。しかしそれを俺に言われても困ると言うもの。そう言う話だからと言うしかない。子供のふとした質問は大人を困らせると聞いたことがあるが、なるほどやっとその意味が分かった気がした瞬間だった。

 

 

 

 

 

そんな些細(ささい)なエピソードがあるこの本を読み聞かせていたが、もうかなり限界に来ていたのだろう。話し始めて数分で、理子は規則正しい寝息を漏らして眠っていた。

 

「…………気持ち良さそうにしやがって」

 

俺はそっとベッドから這い出て、本を棚へと戻した。それからゆっくりと部屋の扉に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

理子を寝かしつけた後、俺は愛喫(あいきつ)している赤マルが切れたことに気がつき、タバコを買う為に夜の町を歩いていた。静かな夜で、灯りの少ない裏路地を歩き、目的の店に向かっていたそんな時、ふと不自然な気配を感じた。背中を撫でるような、生暖かい気配が俺に触れられる。

 

尾行されている。

 

そんな考えが脳裏をかすめる。しかしそこで妙な違和感に気づいた。今、俺を尾行している人物は、気配は漏らしているのだが、それでも反撃させようとする隙がなかった。これは恐らく、わざと俺に気づかせている。

 

「…………何者だ。出て来い!」

 

俺は立ち止まり、独りでにそう叫んだ。すると後ろの建物の隙間から、一つの人影が現れる。

 

「始めまして。筒香明(つつごうあきら)君」

 

低い男の声だ。俺は隙を見せぬように体を(わず)かにかがめて構える。そんな俺を気にする素振りも見せず、男はこちらに歩み寄ってくる。街灯の(もと)、降り注ぐ光でその男の顔が浮かび上がった。その顔を見た俺は大きく目を見開いた。

 

「………………お、お前は」

 

驚きで思考が停止する。困惑が体に伝わり、動かすことができない。俺が見た顔、それは知っている顔だった。しかしその顔は近しい人のものでもなければ、知り合のものでもなかった。さらに言えば一度も会ったことはない。それでも俺は知っていた。その人物の顔を……。

 

「はじめまして。私の名前はシャーロック・ホームズ。君に話があってここに来た。少しお時間よろしいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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