シャーロック・ホームズの口調が分からない!
シャーロック・ホームズ。武偵なら、いや武偵でなくても誰もが一度は聞く名だ。史上最高の探偵であり、格闘技・西洋剣術・拳銃の達人でもあり、現在の武偵の原型にもなっている天才。俺も学生時代、東京武偵高校で何度もその名を聞き、目にして、顔写真を拝んできた。しかしそれは故人として、彼の存在を教えられてきたのだ。シャーロック・ホームズは既に死んでいる。それがこの世界の常識だ。
「…………お前がシャーロック・ホームズだと?そんなはずはない。彼は死んでいる」
俺はあり得ないとばかりに、目の前の男の言葉を一蹴した。
「ふむ、そう思うのも無理はない。世間一般では彼は死んだとされている。しかしそれは真実なのか、はたまた誰によって証明されているのか。そこを考えるのが武偵と言うものではないかな?」
目の前の男はしたり顔でそう言った。確かに俺はシャーロック・ホームズが死んだところをこの目で見たわけではないし、死んだとされる証拠を具体的に挙げることはできない。しかし、もしこの男がシャーロック・ホームズだと仮定すると、おかしな矛盾転が幾つか存在する。まずは俺が見た百年近く前に撮影されたシャーロックの顔写真が、今いる目の前の男と完全に一致すると言う点だ。なぜ歳をとっていない?いや、本来なら生きているかさえ怪しい年齢であるはずなのだが、それでも生きているとしても俺の目の前にいる男は二十代頃の英国紳士となんら変わらない容姿だ。それは明かにおかしかった。そんな疑問点を思考していた時、それを遮るかのようにシャーロック・ホームズと名乗る男は話を始めた。
「恐らく今、君はなぜ私が歳をとっていないのかと考えているのだろうが、それは色々と秘密があってね」
「……なんだそれ」
どんな秘密があったら不老になれるんだ。
「しかし
どういうことだ?と思ったのもつかの間、シャーロックと名乗る男は淡々と続けざまに言葉を口にした。
「さて、本題に入ろう。君は最近、峰理子と言う小さな女の子と出会った。そして今は共に暮らし始めている」
なぜお前が知っている?とは思わなかった。誰でもその程度なら、調べようと思えば調べられる。
「しかし君はこうも思っているはずだ。彼女は何者なのかと」
「…………あぁそうだ」
第三者から見たら俺がそう思うのは誰でも分かる。驚くほどの事でもなかった。
「それについて私は全てを知っている」
「ッ!」
これには流石に驚いた。俺がどこを探しても何一つ情報を得られなかったのにも関わらず、この男は理子について全てを知っていると言うのか。
「しかしこれを私が君に直接教えるのは好ましくない。私はそう推理している」
ホームズらしい一言で締めくくり、男は微笑んで俺にこう言った。
「日本に行くといい。いずれ、全て分かる日が来る」
「……旅行に行けとでも言うのか?」
「いや日本に住む、定住するとそう言う意味さ」
「はっ、自分をシャーロック・ホームズと名乗るいかにも怪しい男の言葉を信じて日本に住めと?そんなこと出来るわけないだろ!そもそも俺が勤めてる『
「そこは安心するといい。明日、君は転勤届けを上司から受けとる。場所は 『日本警視庁』」
「なっ!」
こいつは何を言っている?俺が明日、転勤届けを受けとるだと?そんな急に?あり得ない!そもそもなんでそう断言できる?もしかすると、この男が手を回したのか?
「それに付け加えて言うと、もし君が日本に行かなければ、ちょうど1週間後に死ぬことになる。いや、殺されることになると言った方がいいかもしれない」
追い討ちをかけるように、またもや男は意味の分からない事を言ってきた。日本に行かなければ殺される!?しかも1週間後に?それではまるで俺が追われているような言い方ではないか。
「君からしてみれば、私は突然現れて妄言を吐くシャーロック・ホームズの姿をした気味の悪い男とそう感じるだろうが、それでもこれは全て真実だ」
なぜだろうか?どれもこれもこの男が言ったことはこれ一つとして現実味がないのだが、それでもそれらが全て本当のことだと思えてならない。この男の言葉にはそれだけの力が感じられた。
「では失礼するよ」
男は言うだけ言って、俺から背を向けた。しかし途中で首だけをこちらへ向けて、一言だけ残すようにして口を開いた。
「安心するといい、私は君の味方だ」
「おい待て!」
それはどういう意味だと、俺が制止するように叫んだにも関わらず、男は煙のように姿を消して深い闇に溶けていった。俺はしばらく、先程まで男がいた街灯の下を呆然と眺めていたが、ふと思い出したかのようにポツリと呟いた。
「…………日本……か」
それから俺は再び歩き出し、タバコを買いに近くのコンビニへと向かう事にした。あの男の言葉を思い返しながら。
シャーロックと名乗る男と会った次の日、カールさんから俺の元に転勤届けが手渡された。しかもご丁寧なことに住む場所まで決まっており、出国するのは二日後ときた。俺たちは大忙しで準備をし何とか期日に間に合わせ、無事に俺と理子は共に日本へと到着することができた。しかしそれはただ単に昨日現れたあの男の根回しが良かっただけのことだ。そもそも身元もパスポートも持たない理子が二日で他国へとわたれるはずがない。いつの間にかポストへと入っていた理子のパスポートを見つけた時は、流石の俺も驚いた。本来なら存在するはずの事務処理も、なぜかやらなくていいと言われ、ここまでされれば、それらはあの男の仕業だと認めざるを得ない。
そんな経緯があり俺たちは今、日本の都内から外れた郊外にしては田舎と呼べる、小さな町を歩いていた。町並みは一昔前の日本風の家が立ち並んでおり、コンクリートブロックが俺たちの歩く道を挟むようにして並べられていた。
「ねぇあきら」
「ん?」
「これから理子たちが住む家ってどんななの?」
理子は新しい住居にわくわくしているのか、少し落ちつきのない様子で俺にそう尋ねた。
「ボロいアパートだ。しかも誰も住んでいない。そこが丸々全部、俺たちの家になる」
「へぇ~」
分かってるのか分かってないのか曖昧な返事をして、理子は背中に背負った明るい黄色のリュックを大きめに揺らした。
「さてもうすぐだ。頑張って歩けよ」
「うん!」
俺がそう言うと、理子は歩く速度を早め、繋いでいる俺の手を少しだけ前へと引っ張った。そんなやり取りをしてから十分後、俺たちは辺りが
「…………もう少しマシな場所を選べよ」
俺は自称シャーロック・ホームズの顔を思い浮かべそう呟いた。贅沢は言えないが、俺が前に住んでいたアパートよりも相当酷い。
「凄い!凄い!凄い!」
しかし理子はそんなお化け屋敷にも似た住居を気に入ったのか、満面の笑顔で興奮気味にそう叫んだ。そんな理子の姿を見ると、不思議とここでもいいかと思えてしまう。さて、写真で見たとは言え実物を見るとこんなにも違うものなのかと溜め息を吐いて、俺は理子の手を引きアパートの入り口へと歩き出した。
「荷物が届く前に少しだけ草刈りをしないとな。理子、手伝ってくれるか?」
「任せて!理子は草刈りのぷろふぇっしょなんとかだから!」
理子はそう言うと、俺を見上げニコッと白い歯を見せてそう言った。俺も同じようにして理子へと笑顔で返す。
俺の手に繋がれた小さな小さな彼女の手は、どこか暖かく、そして優しく感じられた。俺は、俺がつないだこの
そしてその手はつながれ続け、あれから二年の時が流れる。
プロローグ終わりました。本当はロンドンで大きな事件が起きてから、日本へと移住する予定だったのですが、この作品以外にも書かなくてはならない話があって、この小説のプロローグでいつまでも時間を割くわけにはいかなかったのです。申し訳ございません。
私としては、この話はスランプの脱出と言う名目で再開した話ですので、かなり自分の好き勝手に書きます。今まで少しだけ、楽しんで話を書くと言う事を忘れてしまっていたようなので、これは私のわがままを貫き通すと思います。面白くないなと感じられれば、低評価をポチっと押していただいてプラウザバックしてください。
さて、話は変わりましてこの二次小説についてですが、これからは大きな変化点があるまで、主人公と理子の淡々とした日常をしばらく書いていきます。短編風ですね。このシリーズはそんなに長くないので、暇があればまた読んでやってください。
それと、わがままを貫く!とか言いましたが。出来ればアドバイスを貰えると嬉しいです。ボロくそに言ってもらって構いません。自分でもその程度の文章にしか書けない事は分かっているので。ですが今回のこの話はあくまでも私が楽しく書くと言うのが第一優先順位なので、とにかく自由に書きます!
ここまで読んでくださりありがとうございました。