俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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番外1ー4 慰労会は俺にしては後味良く終わりを迎える。

 夜がふけていき、まん丸な月が一番高い所に上り切った時分、町の車等の喧騒からは離れた静かなキャンプ場の広場。街から遠く離れているからか、ここは夜空が良く見える。星の数が多く、こうして夜空を見上げるのもたまには悪くない。

 

 さて、俺たちのバーベキューというのもすっかり後半に入り、今はテントの横を開き、屋根だけの状態にしている。最低限の灯りと月灯りのみにして今は戸部が何故か持ってきた花火でそれぞれが騒ぎたてていた。いわく、夏に皆でやろうと思って買いまくっていた物の余りらしい。それぞれわかれ、好きに花火をたしなんでいた。

 

「ふははは! ジャッチメント・ヘル・ファイヤー!!!」

 

 

 材木座が二つの花火の先端を逆さまにくっ付けて両刃の剣のように振り回す。

 回した花火の残像で円を型どり綺麗なのは綺麗なのだが火花が飛び散らせながら近くを歩くので迷惑この上無い。そのまま人のいる方に向かってくるものだからもはやテロ行為だ。近くで花火を物色していた一色の短い袖から顕わになっている白くて細い腕に火花がはねた。

 

 

「ちょ、中2先輩熱いんですけど!」

 

 立ち上がり講義をする一色に気付くことなく材木座は花火を振り回した。

 多分本人はカッコよく火を腕から放出し敵を蹴散らす姿を妄想しているのだろうが、横からみたら単なる迷惑なだけのデブだ。

 

 

「うっわザイモクザキ君それ面白そうっ! 俺も俺も!」

 

 

 さらに戸部も参戦し、迷惑×2になる。誰も得をしない謎の戦いが勃発、二人で変なポーズを決めながら対峙していた。

 

 

 

 その一団から少し離れて固まる一団。由比ヶ浜と雪ノ下、戸塚がテントの近くでろうそくを囲み線香花火に興じている。

 

 

「すごーい! ゆきのんの奴、超長持ちじゃん!」

 

「凄いなぁ、ボクもう落ちちゃったよ!」

 

「これもコツよ。因みに喋ると息や振動で落ちる原因にもなるから、口を開かないも必要な要素なの。だから線香花火は無言で動かずやるのが鉄則ね」

 

「……それ寂しくない?」

 

 どんな事も勝負になるなら矜持よりも勝利を選ぶ雪ノ下。

 

 見目麗しい三人(一人男)が集まり、線香花火。なんていうか、線香花火が良く似合っている。着物でも着せたら夏のポスターにでも成りそう。今は冬だけど。戸塚が夏祭りに来たら着物着てきてくれないかな~。是非来年は誘って二人できたいものだ。男物の浴衣を着たとしても可愛いだろうし、なんなら普通の私服でも絶対かわいい。どうあがいても可愛い。戸塚は最高だな!

 

 まあ、この分なら戸部が持ってきた花火、この分なら余る事は無さそうだ。買い物袋一杯に入れて持ってきた時は最後になってなんとか消費させようと2、3本纏めて火を付けてノルマをこなす様な楽しみ方をする羽目になると思っていたから安心した。

 

 

 

 

 ……さて、俺は何をしているか。

 

 皆が華やかに、または朗らかにそれぞれ花火を堪能しているに対し、俺は無言でソレを見つめ、静かにしゃがみこんでいた。

 

 城山と男二人でテント裏でしゃがみ込み、無表情でうねうねと伸びるヘビ花火を眺めている。

 

 うねうねうねうね。

 なんていうか、戸部達のように楽しそうでは無いし、雪ノ下達のように風流がある訳でも無い、凄まじく寂しい絵面だった。

 

 

「……昔から思ってたが、この花火だけマジ異質だよな」

 

 

「そうだな。ていうか”花”では無いな」

 

 

 なんとか会話を試みるもなんとも盛り上がりにかける。結局二人してにょきにょき伸びる花火を見下ろすしかなかった。二人で微妙な顔を浮かべ、ヘビ花火が無くなるまで順番に点火していく。

 

 一袋に何個も入っているものだから中々無くならない。だからといって折角戸部が金を出して買った物を一気に処理なんて使い方をしては勿体無いと思い、丁寧に一個づつ点火していた。

 

 うねうねうねうね。

 

 灯りの中に黒いヘビが何匹も現れる。雨が降っても風が吹いてもたやすく崩れるその体はそれぞれが場所により形を変えて体を伸ばしていく。

 

 ちなみに俺は別段この花火が嫌いな訳じゃない。

 

 何故なら皆が我こそ私こそと派手な自己アピールをする花火の中、周りに流される事無く我が道をいき”うねうね”してみせるこの生き様は中々見上げた物じゃないかと思うからだ。

 

 最後に残ってしまったら、「せ、折角だから、やる?」 みたいな空気を醸し出され、やったらやったで盛り下がるであろうこの立ち位置がなんとも親近感が沸くしな。盛り下がるなら、そのままいない事にしてくれた方がいいっての。小学校のレクリエーション。

 

 だから俺はお前を絶対に最後の一人にはしない。他の花火が一花咲かせている内にお前もやるだけやりきってくれ。ひっそりとうねうね見るも無惨な残骸をさらしてくれ。俺のように。

 

 

 そんな理由で俺はヘビ花火をまず引き受けていたのだが、一人でいるのを見かねたのか、城山が隣に座り、一緒にヘビ花火を興じている。

 

 なんてか、気を使わなくていいって。正直かえって気まずいから。来たら来たでなんにも言わずにそこにいるし。そんな居心地の悪さを感じながら城山に目線をやると、なんとその目は花火では無く、俺を見つめていた。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

「もぉ~! 戸部先輩こっちこないで下さい熱いんで!」

 

 

「いやこれ シャッターチャンスっしょ! ザイモクザキ君とのダブルファイヤー撮って撮って!」

 

 

「ふっはははは!」

 

 

 

 ………………………………。

 

 

 

 

 …………………………………………。

 

 

 

「線香花火って、何か訴える物があるわね」

 

 

「わかるなぁ、ボクもなんだか好きなんだよね。何か心に来る物があって…………」

 

 

「綺麗なのになにか寂しくて、凄い優しい気持ちにさせてくれるよね」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「我、次はこの置く系花火を手に持ち、ブラック☆インフェルノやってみたいぞ」

 

 

「危ないから駄目!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 …………ゴクリッ。

 

 

 

 

 

 

 なんか言え!!!!!

 

 

 こっち見てるから何か言いたい事あるのかな? と思ったから待ってたのに、なにも言わずに見つめあってしまったじゃねぇか!

 

 月灯りの下で城山と二人見つめ会うとか、ちょっと海老名さんですら得しない!

 

 そしたら城山が照れたように頬をかきながら微笑んだ。

 

 

「…………すまん。なんか、見つめ合ってしまったな」テレテレ

 

 

 うわぁああ!!

 

 一色ぃ、戸部ぇ! どっちでも良い、この空気をぶっ壊してくれっ!

 

 エアー・クラッシャーの登場をこれ程望んだ時は無い!

 

 

 そうしている内に城山はジャケットのジッパーをゆっくりと下ろし、内側に手を入れた。その動作に俺の額から一筋の汗が流れる。汗が出ているのに少しも熱くない、寧ろひやりとする。

 

 やべぇ。

 

 そんな風にウホッな展開を恐怖していると、城山は内ポケットからライターを取りだした。

 

 

「まさか、お前とこうして花火を眺める時が来るなんてついこの前迄は思いもしなかったのでな。人間関係はどうなるか解らん、そんな事を考えていた」

 

 

 カチッという音と共にライターでヘビ花火を灯す。

 

 良かった……! やらないか的な言葉では無くて凄く安心した。すぐに逃げるように腰を上げてスタンバったまである。

 体育会系的な見た目で、坊主頭で、そして短パンにジャケットの下にタンクトップを着て。もし、危険なカミングアウトをされてしまっては信じてしまいそうな様相なんだよな。

 

 安心すると共に、言われた言葉をかみ砕き城山の言う”この前”の事について思い返していった。

 

 

 この前。

 コイツの尊敬する先輩を扱き下ろし、部活から追い出したあの日の事だろう。

 

 俺も、まあ思いもしなかった。

 今後関わる事が無いだろうからこその作戦であったのに、それが今こうして球技大会で共に戦い、焼き肉食って一緒にヘビ花火だ。人間関係なんてどうなるか解らないというのを確かに感じる。

 

 それを言ったら

 由比ヶ浜だってクラスのビッチ位にしか思って無かったのに今ではクラスで一番話をするようになったし、雪ノ下だって関わりにすらなる事無いだろうと思ってた。

 

 一色も最初嫌いなタイプと思ったし、戸塚なんて男だなんて思いもしなかった。(今も信じられず)

 

 そして、戸部も、城山も、依頼の後は二度と話す事は無いと、そう思っていたのにな。

 

 

「俺、先輩に柔道部に関わるなって言われてるんだけどな」

 

 柔道部事態になんの関わり合いは持ってないとは言え、柔道部であるコイツとこうして共に過ごしているのはあの時の先輩と交わした約束を明らかに反故にしているのだろうと思う。

 そんな事を思いながら俺もヘビ花火に火を付けた。すると城山も頷いて笑った。

 

「球技大会の時の俺は、柔道部の城山じゃなくて、チームヒキタニのセンター城山だ。問題は無い」

 

 

 フッ。

 思わず俺も笑ってしまった。

 

 真面目であろうコイツが在り来たりな屁理屈を言った事に笑いが出た。けど俺はそういう屁理屈は割と好きなのだ。

 

 

「じゃあ今はなんだよ。休日の城山か?」

 

 

「……うむ。同級生の城山だ。まあ、何の城山でも良い」

 

 

「なら、ケツバット城山だな」

 

 

「……それは止めろ」

 

 

 

 そんな他愛も無いやり取りをしながらヘビに火を付ける。

 辺りを囲むヘビ花火のうねりと共に、俺と城山という微妙な関係の時間を過ごした。

 

 俺はあの時のやり方を間違ったとは思っていない。結果依頼通り先輩を追い払ったし、結果として柔道部は助かった。なのに、どこか心に何か引っかかっていた俺を今の城山とのやり取りは、どこか安心させていた。

 

 

「お~、ヒキタニ君ヘビ花火やってたん? それヒキタニ君っぽいわ~!」

 

 

 そこで戸部がヘラヘラと現れた事でしんみりとした温かい空気は霧散する。

 

 俺がヘビ花火なら、まさにお前は空に飛び散る花火タイプだろうな。一瞬でデカイ音と共に咲き乱れる。主役の大花火の横の賑わいで。

 

 

「ヘビ花火か~。俺小学ん時この花火、靴の中でやられた事あるわ。あれさ、靴が駄目になってマジやばいんよ。ロケット花火とかで狙い撃ちされるとかも良くあるよね、やばいわ~!」

 

 

 ……なにお前いじめられてんの?

 どう考えても酷い扱いにも関わらずなんでそんな楽しそうなの? 楽しそうにしろ、という空気の奴隷なの? それともマゾなの?

 

 そんな話を聞くと、俺は誰かと花火なんてやらないから平和でいいなと思える。やる相手がいないからな。相手がいなければ戦争だって起こらない。つまり、俺には敵がいない。どやぁ。

 

 大和のロケットが背中に命中しただとか、大岡が手に発射式花火持ってヒュ~!なサイコガンみたいな事したとか、ネズミ花火でソニックブーム!だとか身振り手振りで表現する戸部。

 

 

 それを半分以上聞き流しながら最後のヘビ花火に点火する俺の後ろに、ニヤニヤと近付く影が一つ。すると点火されたネズミ花火が俺と戸部の間に投げ込まれた。

 

 

「えいっ!」

 

 

 ……うぉおお!

 

 バチバチバチバチ!!!

 

 慌てて立ち上がる俺達に、その火が付いたネズミ花火が派手な音と共に回転を始め俺たちに襲い掛かった。

 

 

「やべっ!! やばいわっ! やべっ!」

 

「一色っ! お前! あぶっ!」

 

 

 動き回りながら火花を散らすネズミ花火にワタワタと跳び跳ねる俺ら。その様子にこの騒ぎを引き起こした犯人が両手を合わせてきゃっきゃと笑い跳ねていた。

 

 

「アッハハハハッ♪ せんぱい動きヤバいですよ!」

 

 

 何故か途中で花火が俺達を追い掛けてきたからめちゃ焦る。ねずみ花火はたまに何故か人を追尾する。何故だ。何故俺を追う!

 

 花火が消え俺達も止まった。二人で膝に手をついて俯き、荒れてしまった呼吸を整える。

 はぁ、はぁ……。

 

「いろはす~! 奇襲はやばいっしょ!」

 

 

 抗議をする戸部に続き、息を切らしながら俺も一色に怨めしい視線を送る。

 

「ふははっ、八幡に戸部某よ! 無様なダンスであったな!」

 

 

「アハハ、二人とも焦りすぎっ♪」

 

 

 材木座が腹を抱えて笑い、由比ヶ浜も可愛く微笑んでいる。クソ、笑い事じゃねえぞ。ヘビ花火を楽しむ俺達になんて酷いテロ行為を。おかげで最後のヘビは誰にも見られる事無く一生を終えたぞ。

 

「ははは♪ 八幡も戸部君も反応が面白かったよ!」

 

 

 戸塚も線香花火をしながらハハハと笑っていた。戸塚が笑顔になれたならまあ良いです。

 

 

「じゃあせんぱい、次はこのトンボ花火を……」

 

 

「やめなさい」

 

 

 小悪魔のように第2陣を飛ばそうとする一色を雪ノ下警察が制してくれたお陰で連続テロは回避された。良識ある雪ノ下がいて良かった。後ろから軽いチョップを受けた一色がえ~、と唇を尖らせた。

 

 まあ俺らが逃げ回ってる時雪ノ下も隠れて笑ってたのは見てたけどな?

 

 

「ちぇ~。あ、でも花火、このトンボ花火7個で最後ですね~。まあ、夏の余りですから数大してありませんでしたし」

 

 

 そう一色が言い出したタイミングで雪ノ下の最後の線香花火が落ちる。

 短い花火大会が終わりを迎えようとしている。

 

 

 

 

「それじゃ、ラスボスやりますか!ラスボス!」

 

 

 そう言って戸部がデカい置き花火を取り出した。

 

 その花火は

 ”危険過ぎる! ダイナマイト花火!”

 ”子供は触らないで! 超危ない!”

 ”派手過ぎ!”

 

 と自らハードルを上げまくっている文字がプリントされている花火だった。

 

 

 因みにラスボスと呼ばれているのは最初戸部が取り出した際に俺が口を滑らせたから。

 

 完結記念にあのラノベ読み直してたからつい漏らしてしまった。まあ他にアレ読んでる奴、材木座しかいないだろうから別に良いけど。雪ノ下の髪が燃えないように気をつけなきゃ。

 

 

 

 戸部が地面に伏せて草の間に花火を立て、火を付ける準備をする。良くそんな躊躇いなく地面に伏せられるな。汚れとかそういうのを一切気にしないのだろう。

 

「そんじゃさ、点火と同時にいろはすの持ってるトンボ花火皆で飛ばそうぜ! 終杯の挨拶替わりに!」

 

 

 火を付ける為に這いつくばった戸部がその姿勢のままパチンと指を鳴らした。

 

 

「それ危なく無い?」

 

 

「大丈夫大丈夫! テントは離れてっし、仮にラスボスの火に飛び込んでも爆発まではしないっしょ!」

 

 まあ爆発かどうかは別にしても、トンボは上に飛ぶから投げる方向さえ間違わなければ大丈夫だろう。

 不安そうな由比ヶ浜も納得し、一色が花火を皆に配る。皆に残りのトンボ花火が行きわたり、それぞれ距離を取って天下の準備をした。

 

 

「んじゃ、点火するわ!カウントダウンよろしこ~!」

 

 

 すると由比ヶ浜がせ~の、と皆でカウントダウンするように促す。

 

 由比ヶ浜や一色、戸塚も元気良く数え、

 雪ノ下も城山も微笑み数字を口ずさみ、

 材木座は五月蝿い位に体全体で数え出した。

 

 俺はいつも通り口パク。

 こういう時はこの手に限る。

 

 そんな俺の思惑を察したのか、由比ヶ浜が俺の肩に手を乗せて笑いかけてきた。こう近くで促されたら、声出さなきゃ駄目、だよな。

 

 

 

 5、4、3!

 

 

 年末のテレビ番組みたいに皆で数える。こんな風にカウントダウンが始まると、この慰労会や球技大会の事が頭の中に蘇る。

 

 戸部が再び部室の扉を叩き、入ってきたあの日から対して日にちはたっていない。だけどそれでも長く感じるのはそれだけ濃密な時間を過ごしたという事なのだろうか。厳しい訓練や試合、運動部として活動をした事のない俺に、思わぬ所で青春の運動部のような物が少しだけ体験出来た。疲れた、とか面倒だった、とか、嫌だった事を上げればキリは無いが、それでも良かった事だって確かにあったように思った。

 

 2、1!

 

 

「ゼロ! っとと、あれ? 火が付かな、やべ、アレ?」

 

 

 合わせたカウントダウンを台無しにしながらモタモタ戸部が点火する。

 

 皆が手に持ったトンボを天に振り上げて、そして(寧ろ疲れる)慰労会の終わりを迎えた。

 

 バチバチと噴出する花火を皆で眺めながら、俺の視界の中で皆の笑顔がラスボスから上がる花火に照らされて輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 キャンプ場の入り口で皆が集まる。

 畳んだテントを運びきり、道具やら炭やらを撤収し後始末を終えてそれぞれが帰路へと足を向ける。

 

 その中で俺の肩には小型のクーラーボックスが下げられていた。

 

 

「……んじゃ、悪いけど貰って行くわ」

 

 

 そう軽く礼を言う。

 このクーラーボックスの中には例の陽乃肉が収納されている。

 雪ノ下はそれを聞くと頷いて髪をはらった。

 

 

「皆も納得しているし、構わないわ」

 

 

 あの不毛な王様ゲームの後、俺は肉争奪の本番を持ち掛けた。

 

 勝負という物に拘った雪ノ下がそれを受け、とうとう本番となる肉争奪戦が行われ、俺も材木座も新たに同盟を組むにまで至った。

 が、なんとその王様ゲームが功を制する。王様げーむを挟んだ事による時間経過により発生した満腹感によってライバル達が大きく減ったのだ。

 

 そう、普段好き好んで食べないような物も空腹なら美味しく見える。逆にどんなに美味しそうな物でも御腹が膨れれば魅力が失われる。

 まさかの展開で俺の望み通りの結果に近付いたのだった。

 

 後は食欲では無い物を望んでいた俺と雪ノ下、

 楽しそうだから参加した戸部と戸塚、

 そして腹一杯でも食い漏らしたく無かった材木座と決戦を行い、トランプゲームの大富豪や連想ゲーム肉を取り合った。

 

 大富豪を取った材木座に偉そうにされてした舌打ち、貧民になった瞬間屈辱に耐えられずに顔面蒼白で体を震わせる雪ノ下、3を残して革命を起こした戸部に笑顔で革命返しした戸塚。

 

 様々な激戦を乗り越え勝負を制したのはローカルルールの全てを短時間で制した雪ノ下の圧勝。

 俺もローカルルールを利用した戦略を駆使して頑張ったが、今一歩及ばず、無念に貧民で沈んでいった。

 

 

 

 

 そして結果として陽乃肉は雪ノ下に渡される、そうなるはずだった。だが帰り道で雪ノ下がこのクーラーボックスを俺に手渡したのだった。

 

 

「なんだ、クーラーボックスが重かったとかか?」

 

 勝ち取った雪ノ下がこの肉をどう扱おうと自由ではあるが、わざわざ俺に手渡す理由はない。寧ろ、由比ヶ浜に甘口で俺に対しては激辛な雪ノ下だ。俺なりに肉を手渡す理由を模索して口にした所雪ノ下は優しく首を振る。

 

 

 

「私は肉では無く勝つ事が目的だったから、もう十分楽しんだわ。なら肉は小町さんにあげた方が良いと思ったの」

 

 

「……なんで小町にやるって知ってるんだ」

 

 

 この人、どんだけ俺の思考よんでるのよ。

 俺の行動を大富豪の作戦だけじゃなく、景品の使い方まで見越されていた事実に思わず戦慄する。が、「簡単でしょう?」とどうしてそれを見切っていたかの答えを示された。

 

 

「貴方が頑張る時なんて決まっているじゃない」

 

 

 

 ……まあ小町の為だわな。

 

 それは確かにバレても仕方無い。だって妹が俺の最優先だもの。次に自分で次は金の為かな!

 

 とはいえ、ゲームに勝ったわけでもない俺が受け取って良いものか、少しだけ躊躇していると雪ノ下は少しだけ口元を緩ませて頷いた。

 

 

「……そして今回の一番頑張ったのは貴方だから。皆そう思うから文句を言わないのかしらね。依頼達成、お疲れ様」

 

 

 

 ……なんだよ、こんな風に労われて御褒美(高級肉)まで貰ってしまったら、やって良かったとか思っちゃうじゃねぇか。

 

 そしてまた次の依頼もズルズル手伝っちゃう事になると。やだ、雪ノ下ったら社畜作りが御上手ね!

 

 ……御上手ね。

 

 

 

 折角なので、俺も一言労った。

 

 

「お前も、監督お疲れさん」

 

 

「あら、比企谷君の癖に生意気ね」

 

 

 そう言いながら雪ノ下は少し嬉しそうに笑った。

 

 雪ノ下は一番貢献したのは俺だと言った。だがそれは違うだろう。

 

 雪ノ下が監督指導しなければあそこまで葉山達と接戦はしなかっただろうし、海老名さんに試合を良い位置で見せられたのは由比ヶ浜のお陰だ。

 

 材木座や戸塚もたかが授業の一環の球技大会にも関わらず休みを潰して練習に参加してくれて、一色なんて奉仕部にもチームにも関係が無いのにあんなに助力してくれた。

 

 城山だって本番になって理由も解らないまま巻き込まれたにも関わらず、あんなに必死に戦ってくれた。

 

 

 そして戸部本人も、今まで必死に積み上げた皆との距離感を捨ててまで本気で戦ったんだ。皆俺なんかより遥かに皆の方が貢献してると言える。

 

 ……だが皆も頑張った。皆一番だ!なんて言うのは葉山のやり方だ。だから俺は図々しくこの肉を頂いていこう。そして俺がこの肉を決して無駄にせず有意義に使わせて貰う。

 

 

「んじゃ、小町にすき焼きでも食わしてやるわ」

 

 

 言って軽く頭を下げた。雪ノ下だけでなく、周りにいた奴らまで頷いて微笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてキャンプ場を出て皆で駅に歩きだす。

 

 

「それにしても、なんか寂しいな~。バーベキュー、あっと言う間に終わっちゃったね」

 

 

 由比ヶ浜が皆に振り返りながら言う。

 

 

「大丈夫だよ! チームヒキタニは永遠に不滅だよ!」

 

 

 戸塚が笑顔で答える。

 

 

「またラウンドワンとか、あの体育館とかでたまには体を動かしましょう。罰ゲームありで♪」

 

 

 次に繋げようと一色が提案する。

 

 

「うむ! 我のメテオドライブシュートが吠えるぞ!」

 

 

 次もあると材木座は答える。

 

 

「それは良いな。日程が決まったら教えてくれ」

 

 

 城山も次の参加を表明する。

 

 

 

「そうね、また、体育館は借りておくわ」

 

 

 雪ノ下が具体的に進めていく。

 

 

 

「それマジ良いね~。やりましょやりましょ!ね?ヒキタニ君!」

 

 

 そして戸部は俺にサムズアップ。

 だから俺は笑い返して答えてやった。

 

 

 

「行けたら行くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回奉仕部の依頼として、珍しく結果は上々。

 

 後味も悪く無い。

 

 

 俺も肉が手に入り大満足だ。

 

 

 

 たまには、こんな風に終われる依頼があってもいいじゃないか。

 

 俺だって、たまには依頼を受けて良かったと思える事もあのかもしれない。

 

 

「ヒキタニ君、今回は本当マジありがと~! 今度遊び行こうね! 隼人君達も誘ってさ!」

 

「何それ絶対嫌だよ。」

 

 

 しつこく絡む戸部を追い払いながら、俺は珍しく平和に終わった今回の依頼にホッと一息ついた。

 

 

 

 

 




番外1 終


待って頂いた方々、本当に御待たせしました!

凄まじく間隔を空けてすみません!
仕事の転職やらでドタバタしてまして!

言い訳ですね(^_^;)

気をつけます。


また番外とか未練がましくやりたいと思ってますが、次は今回のような事が起きないよう、本編の時のように頭の中だけでは無く、ちゃんと文字にしてデータで完成させた後に投稿していきたいと思います。

その時はまたお付き合い頂けたら凄くありがたく思います♪

では本SSに御時間を割いてお付き合いいただきありがとうございました!


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