俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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前章 特訓は何故こんなに辛いのか。
その2 特訓は辛く、やはり辛い。


 

 学校の体育の時間。

 

 

 この日は球技大会に向けて、チームごとのバスケの練習にあてられた。チーム毎に別れて練習を始め、今は俺達も円を描くように広がりパスの練習をしている。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 シュっ……パシッ。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 周りはワイワイと楽しそうにパス練習をする中、我がチームはとても静かだった。寒い体育館が更に寒く感じるような感覚でランダムにパスを出していく。

 戸部が気まずそうに話しだした。

 

 

「……いや~、今日も寒いっしょ!」

 

「……そうだな」

 

「うむ」

 

「うん」

 

 

 

 

 ……。

 

 

「い、いや~、マジ寒いわ~」

 

 

 会話が無くもくもくとパスが回される状況に耐え兼ね、頑張って会話を試みようと天気や気温の話題を戸部がふって四回目、チームの城山も材木座も戸塚も一言しか返せずにいる。

 戸部はその様子にまた焦ったように会話を試みた。

 

 俺はそんな戸部を気にせず葉山達のチームを観察していた。

 葉山達は俺達とは違い、大和も大岡も、良く知らない別クラスの、え~と、A君B君も楽しそうに話をしながらパスを回している。

 

 

「でさ~! そこでつまらないエラーしちゃったから皆からブーイングの嵐でマジやばかったんだよね!」

 

「ああ、そういうのヤバイよな」

 

「でも最終的に試合は勝ったんだろ? ならよかったじゃないか」

 

 

 ヘラヘラと話ながらパスを回す彼らは話ながらもボールが回る速度が速く、その様子から既にレベルが高いのがうかがえる。

 パスする相手では無く、話をする相手に顔を向けているのにもかかわらずパスはしっかりと相手の胸元に飛んでいき、出された方もパスをしっかりと受け止めていた。

 

 比べてこちらのチームはどうだろうか。

 

 

「メテオ・ドライブ・スロー!!」

 

「あ、おっとと!」

 

 

 材木座の無駄に力の入った暴投に、戸部は頑張って手を伸ばすもボールはあさっての方向に飛んでいった。

 

 

「ふふふっ、我の必殺のパスは何人にも止められん」

 

 いやパスは取れなきゃダメだろ。

 偉そうにふんぞり返る材木座をジトリと見つめ、ため息をひとつ。

 

 このように、俺達はパス回しが五回も続かないのだ。ついでに会話のキャッチボールも続かない。

 

 チームワークも寄せ集めだけあってバラバラだった。順番通りに決まった相手にしかパスを回せないのだった。

 

 ふと目を上げると城山と目が合う。すると城山は何も言わず目を反らしてしまった。

 

 ……あの件以来城山とは話をしていない。

 先輩との約束だってある。進んで話をする相手では無いし、別に構わないが。

 

 こぼれ球を取りに行った戸部が中々戻ってこない。なので目だけで探して見た所、戸部は葉山チームに話し掛けられ足を止めていた。

 

 

「お、戸部! そっちはどうだよ!」

 

「いや~、ぼちぼち? そっちは楽しそうでマジうらやまだわ~!」

 

「一緒に組めなくて悪かったな。チーム決めた時、同じクラスは三人迄って知らなくてさ。わざわざ解散という訳にもいかなくて。次は、一緒にやろう」

 

「そうだな」

 

「いや~、しょうがないっしょ~。休んでたのは俺だし。例えチームが違くても、心はいつも一つだぜっ!」

 

「うわクサッ!」

 

 

 ワハハハッと笑いあう奴等。青春してるね~。

 

 戸部が俺達の視線に気付きやべっといった感じに走ってくる。その時葉山がこちらを見ていて、爽やかに手を挙げてきた。俺も手を軽くあげ答えてやると再び盛り上がりの無い練習に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 パス練習が終わり、それぞれドリブル組とシュート組で別れて練習をしている。

 俺もドリブルしながらゆっくり走っていると由比ヶ浜が歩み寄ってきた。

 

「ヒッキー、ドリブル超上手いじゃん! 経験者みたいだよ!」

 

 由比ヶ浜の讚美に少しむずがゆくなりながら何故ドリブルが得意かを教えてやる。

 

 

「中学校の時からパスの相手やらしてくれる奴がいなくてな。一人で立ってると教師が比企谷と誰か組んであげなさ~い、と非常に惨めになる事をクラスの皆に言われる。だから一人で出来るドリブルを頑張ってる風に練習して、あえて一人でやってるオーラを出して対策をしていたら、ドリブルだけは上手くなってな」

 

 由比ヶ浜がハハッと苦笑いで返す。その後励ますかのように元気な声で笑いかけてくれた。

 

 

「で、でもドリブル出来るって事はボール運びとかで大活躍じゃん! ヒッキー凄いね!」

 

 ふっ……甘い、甘いな。

 

「ドリブルは出来ても、相手がいなかったから誰かを抜くなんて練習、まるでやった事が無いんだ。さらにパスもあまりした事がない。つまり、ボール運びすら出来ないな」

 

「え、えぇと」

 

「さらにいえばぼっちが体育館に数個しかないゴールを使ってたらひそひそ文句言われるだろ?さらにフォームがキモいとか笑われる始末だ。だからシュートも出来ない。唯一出来るのは全員参加の試合に出て、せめて下手な所を見られないように目立たないよう隅で立ってて、逆に目立っちゃうぐらいかな」

 

 そんでもってバスケ部でも無い意識高い系男子に、ちゃんとやれよと怒られる迄ある。

 

「……なんかごめん」

 

 謝んないでくれよ。むしろ笑ってくれ。

 

 

 ……でもまあ案外このチームは悪く無い。

 

 

 ガンっ!

 

 ゴールの方を見るとリングにボールを叩き込み騒ぐ男が一人。戸部がリングにぶら下がりながら戸塚にVサインを出す。

 

「やっべ、ダンクとか出来ると思わなかったわ~! 今の凄くね?」

 

「うん、凄いね! 僕ゴールに手すら届かないよ!」

 

 

 戸部は運動部だけあって、能力が高かった。伊達にトップカーストな訳ではない。

 葉山が凄すぎるだけで、あいつも運動だけは出来るんだ。

 戸塚だってテニス部部長だ。やはり動きは軽い。ドリブルにパス、シュートまでそつなくこなしていた。

 

 

 そしてパス練を終えて離れていった城山へと目線を移す。そこでは城山がゴール下でシュートの練習をしていた。

 そこにボールを持って余所見をして歩いていた大岡がドンと城山にぶつかり尻餅をつく。

 

 

「あ、悪い」

 

 倒れた大岡に手を伸ばし軽々しくと立ち上がらせる城山。

 柔道部だけあって、体格も筋力も凄く、当たり負けをしない優れた肉体を持っている。

 

 こうしてみれば余り物チームは悪く無い、風邪休みのお陰で集まった、ポテンシャル事態は高いチームなんだ。

 

 勝ちを十分狙いにいけるだけのものはあると、思う。そんな事を思案していると、クラスの女子がわっと沸いた。

 

 その騒ぎの中心は葉山だった。

 

 さっき戸部がダンク決めたのに騒がれなかったにも関わらず、葉山がシュートを決めた途端歓声が沸き上がっていた。

 というかあいつ3P迄出来んのかよ……。

 

 

「いや~、隼人君マジ半端無いわ~! 今の軽く5点位入るっしょ~!」

 

「いやいやそんなシュート無いって」

 

 

 葉山に犬みたいについていきやべぇやべぇ言う戸部。凄く嬉しそうに笑っていた。

 

 

「マジかなわないわ~!隼人君マジ超人っしょ!」

 

 

 

 ……。

 

 その様子を遠目で眺めながら、俺は不安がよぎる。確かに葉山は凄い。凄いんだが、今俺が感じた問題はそこでは無かった。

 

「いや~、やっぱ隼人君すごいね~。とべっちだって凄いんだけどね」

 

 

 ワイワイはしゃぐ葉山達の姿を見て、俺は不安を抱いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 日曜日の朝、比企谷家にて

 

 

 

 

 日曜日の朝は最高だ。

 

 起きたらヒーロータイムから視始めてプリキュア視て、また二度寝してとダラダラゴールデンタイムを過ごすのは他では得難い安らぎがある。

 

 しかし、今はそのゴールデンタイムを奪われてしまっていた。

 

 戸部が奉仕部に来てからというもの、暇を見てはバスケの練習をするようになってしまったのだ。そして休日である今日もこうして朝から練習という文化部でありながら、休日練習が発生してしまった。家の玄関で靴ひもを結ぶ為に玄関に座ったら腰が上がらなくなってしまう。

 マジで、マジ行きたくねぇ……。

 

 本当何回サボってしまえと思ったかわからない。しかしそれを雪ノ下は絶対に許さないだろう。罵倒される自分を想像してハァ~っと大きな溜め息をつく。

 すると背後からトントンッと階段を下りる音が聞こえてきた。振り向くと我が妹小町と目があう。

 

 

「……なに、でかけんの?」

 

 

 勉強疲れか覇気のない顔でたずねてきた。

 

 

「ああ。休日の朝から外でバスケという、とても健康的な生活をおくろうと思ってる」

 

 

 あえて前向きに言う事で、小町から讚美なりちょっとした激励を受けモチベーションの回復をはかろうと試みる。

 兄という物は単純だ。妹の簡単な激励で頑張ってしまう物なのだ。

 

 

 

「ふ~ん」

 

 しかし妹から返ってきたのはいつものポイントとかの余裕を一切感じられない、たんたんとした一言だった。

 その余裕の無い様子に逆に激励してあげたくなっちゃった。

 

 最近余裕マジ無さすぎでしょう?

 

 小町はそのままリビングに入っていき、俺も観念して立ち上がりドアを開く。

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

 リビングから顔だけ出した小町に呼び掛けられ、顔だけそちらに向けてやる。

 

 

「帰りになんか甘いもの欲しい」

 

 

 

 ……へいへい。

 可愛い妹の為買ってきてあげましょう。

 

 手で了解を合図すると小町は小悪魔っぽく微笑み、一言”頑張ってね”と声をかけリビングに入っていった。

 

 

 兄という物は単純だ。妹の簡単な激励で頑張ってしまう物なのだ。

 少しだけ、少しだけ自転車をこぐ足が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 市が運営する体育館に集まり、俺達はバスケを練習していた。

 この体育館は雪ノ下が調整してくれたお陰で球技大会までの期間しっかり練習出来る場所として確保出来ていた。

 いや本当助かるわ~(白目)

 

 その雪ノ下を監督とし、俺と戸部はボールをドリブルしながらのシャトルランをやらされていた。

 

「ひ、ひぃい。も、もう駄目だ……」

 

 

 本日何回目かもわからない弱音を吐く。

 その弱音に雪ノ下は冷たくいい放った。

 

 

「本当に駄目ならそんな事も言えなくなるのよ。つまりまだ余裕があるみたいね比企谷君。1往復追加よ」

 

 

 ひぃい! と戸部と二人で声をあげる。

 

 雪ノ下から出されるメニューは確かに俺らが出来る範囲で調整されているし、水分補給の為のスポーツドリンクや足を冷やす氷等、雪ノ下と由比ヶ浜で用意してくれている。

 

 さらにいえばずっと由比ヶ浜が頑張れ~っと応援してくれている。女の子に応援されるなんて男にとっては嬉しい事だろう。でもどんなに環境が整っていようとキツい事には変わらない。

 

 逃げたい、楽したい、休みたい。

 

 シャトルランを終え地面に転がる。

 俺も戸部も息切れしながら天井を見上げた。

 

 

「いや、マジ雪ノ下さん厳しいっしょ! 部活よりキツいんだけど!」

 

「格好良い所を見せる為には他の人より努力しなくてはならないのは当たり前でしょう。これでも貴方は部活もあると遠慮している方なのよ?」

 

 雪ノ下の言う通り戸部は本来の部活に参加をした上で雪ノ下の強化訓練に参加している。

 両方を両立するなんてすごいなー。

 マジ片方しか参加してない俺がこんなにへばってるのにこう軽口叩けるとかマジ凄いと思う。由比ヶ浜からタオルが手渡され、汗をぬぐう。

 

「でもヒッキーもちゃんと着いてって凄いじゃん!」

 

「そうね。戸部君が部活に出ている間の個人レッスンも受けているし、貴方にしては真面目にやっている方じゃないかしら」

 

 自転車で毎日通学してたお陰で運動不足にはなって無かったからかな、なんとか練習にはついていってるとは思う。マジ逃げたくて逃げたくて仕方ないけど。

 

 しかし、俺だって前の件をなんとも思って無い訳じゃない。今回位少しだけ協力してやらん事も無いってだけだ。少しだけ決意を胸に秘め、俺は息を大きく吐いた。

 

 

「さて、休憩は終わりね。次はパス練習に移るわよ」

 

 やっぱり止めた。もう無理、逃げる。

 少しの決意なのであっという間に吹き飛んだ。マジで練習厳しすぎでしょう?

 

 ヨロヨロと出口に這っていく俺。

 

 速攻で決意を捨てる、そんな俺に優しい手が差しのべられた。

 

 

「大丈夫?八幡……」

 

 

 ……あれ?疲れすぎて幻覚かな?天使が見える。

 入口付近までこそこそ這って逃げていた俺の目の前に、入口から漏れた光を背にした大天使が屈んでいた。

 

 

「あ、さいちゃん! 来てくれたんだ!」

 

「うん。部活で遅くなっちゃってゴメンね?」

 

 

 そこに現れたのは、芸術品のような愛らしい大天使トツカエル、もとい戸塚だった。コートの下はジャージを着込んでいてすぐに運動が出きる体勢。喜び歩み寄ってきた由比ヶ浜に小首をかしげ手を合わせた。

 

 

「ううん! 協力嬉しいよ!」

 

「彼は、貴女が呼んだのかしら? 由比ヶ浜さん……」

 

「うん! 出来るだけ本番のチームで集まってチームワークとか身につけた方が良いと思って!」

 

 戸塚の登場に目を丸くしていた雪ノ下と戸部が戸塚によっていく。戸部は戸塚の手を取りブンブンと上下させた。

 

 

「マジ? 戸塚付き合ってくれるの? マジ優しいわ~!」

 

 

 おい戸部、戸塚に付き合うとか軽々しく言うんじゃねぇ。シバくぞ。

 色々な気持ちを込めた瞳で戸部の後頭部に念を送る。

 

 

「僕の為にもなる事だし、全然大丈夫だよ♪ 僕も前、奉仕部の皆に鍛えて貰った事あるしね。戸部君、八幡!頑張って球技大会勝とうね?」

 

 

 両手でガッツポーズを取り前かがみになるその姿に、俺は体の疲れやら陰鬱な気持ちやらが一気に消し飛んでしまった。やべぇ、逃げたくて仕方ない練習だったのに、今なら頑張れる気がするぜ! トツカ・セラピー、マジ効果的だわ。

 

 

「いやマジチームワーク良いんでないの? いける気してきたわマジで!」

 

「チームワークと言うなら他の人も全員揃えばもっと効果的なんだろうけど……」

 

「でも誰も城山君の連絡先知らないし、そんなに親しい訳でも無いしね……。そういや中2さんは?」

 

「あいつは声かけたけど、執筆が忙しいって断られた」

 

 

 由比ヶ浜が”え~!”とガッカリしている。

 

 しかしまあ、たかが1球技大会で休み迄練習を強要するのは違うと思うし、こればかりは材木座は悪く無い。由比ヶ浜もそれを解っているからそれ以上なにも言わない。

 

 

 

「……でも皆マジでありがとね。こんな事に付き合わしちゃって」

 

 襟足をかきながら戸部が言う。

 

「いいえ。奉仕部がそういう活動をする部活というだけよ。貴方達が休日に他校と練習試合をするのと同じだわ」

 

「それに友達じゃん! 手伝うのは当たり前だよ♪」

 

 二人は笑顔で答えた。

 俺も口にはしないが雪ノ下の意見には同意見。面倒でかったるいが、これが依頼なんだ。別に文句を言うつもりは無い。何これ俺社畜候補すぎ。確実に親父の血を引いてる。

 

 

 戸部が本当ありがたいわ~っと照れながらバスケットボールに走っていく。戸塚がそれを追いかけ二人でパス練習を開始した。

 

 遠くでボールを回す二人を眺め、そして雪ノ下と由比ヶ浜は俺の周囲に円の形で寄ってきた。思案顔で雪ノ下が腕を組む。

 

 

「しかし、今回の球技大会で海老名さんへのアピール、うまくいくのかしら?たかがバスケットボールの試合で活躍した位で、誰かの心を振り向かせる事が出来るとは思えないのだけれど……」

 

 確かにな。しかも相手があの海老名だ。まあ、難しいだろうな。というか、無理だろ。脈があるならまだしも、相手はそういうのをひたすら避けている。そういった相手を一回のサプライズごときで振り向かせるなんて出来やしない。

 

「……多分とべっちも解ってると思うよ。でもさ、後少ししかチャンスは無いなら全力で頑張らせてあげたいな……」

 

 

 ……。

 

 なんだか、今回の戸部の依頼には思うことがあるのか寂しそうな顔をする事の多い由比ヶ浜の横顔が俺の視界に残る。

 

 俺はなんだか、そんな由比ヶ浜の顔を見ていられなかったのか、つい先の話へとシフトさせる。

 

「……まあ、無理かどうかは戸部の問題だ。俺達はあいつの望むチャンスを作ってやる手伝いをすればいいだけだろ。いつも通りな」

 

 二人がうんと頷き、俺もパス練習をしている戸塚達に向かい歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 平日 学校の教室内部。

 

 場面は変わり、体育館の練習から次の日の休み時間の喧騒の中、俺はいつものように一人で頬杖をつき机に座る。

 

 大きなあくびを手で隠し、目をこすった。

 

 いや、やっぱ体が疲れてるわ……。

 普段使わない筋肉を使ったから筋肉痛もするし、何より眠い。今日の今までの授業、殆ど落ちてしまっていた。

 

 横目で戸部の方を見ると、やはり疲れているのか机で涎をたらしながら眠っていた。

 きったねぇな……。

 

 戸塚の方を見たら戸塚も同様、こくりこくりと船を漕いでいる。するとぽたっと涎をこぼしそうになり、慌てて起きて恥ずかしそうに口を拭く。

 何あれ可愛いな……。

 

 

 教室の後ろの方ではいつも通り女王三浦が従者を侍らせてたたずんでいる。

 ぐったりと寝ている戸部を見ながら、三浦は怪訝な顔をしていた。

 

 

「最近、戸部静かじゃない? なんか殆ど寝てるしさ」

 

「何か疲れてるみたいだよ? やっぱ戸部が大人しいと寂しいな」

 

 葉山の言葉にグフッと海老名が笑った。

 しかし話題をふった三浦は既に興味を失っており、再び携帯に目を戻す。

 

「いや、静かで良いんじゃない? 戸部は少し元気無い位で調度良いって」

 

 

 ……どんまい戸部。

 

 女王の興味はもはや携帯の画面に移っていた。戸部に対する興味なんてそんな物であったようだ。ここまでそれなりに関係のある三浦ですらアレだ。俺の戸部への興味なんざ天井のシミの数の方が気になるレベルだと解っていただけるだろう。

 女王の言葉にプッっと取り巻き達が笑い出す。

 

 

「ははっ確かに」

 

「ていうか涎きったねぇwww」

 

 

 

 三浦の言葉に乗っかる大和と大岡に苦笑いの葉山。そして葉山は微笑ましそうに戸部を見ていた。そこで由比ヶ浜がフォローの為か余計な事をいい始める。

 

 

「でもとべっち最近頑張ってるんだよ! 色々とさ!」

 

「……?」

 

「色々って何さ?」

 

 

 三浦の問いかけにギクッと後ずさる由比ヶ浜。余計な情報は与えないでくれよな。マジで。ただでさえ敵に回したくない連中なのに、戸部が練習、なんて知れたら”じゃあ、あーし等もどっかで遊びがてら練習しとく?”みたいに戸部の練習にかこつけた集まる口実にされる。

 

 そしてその口実のお遊び練習すらアイツ等にはさせたくない。

 なんとか誤魔化してくれ、とテレパシーを込めた目線を送ると由比ヶ浜があ~っ、とか言っている。あ、コレ駄目っぽい。

 

 しかし、なんと三浦は特に疑問に思うこと無く再び携帯に目を戻す。

 

 

「まあ良いけど。戸部だし」

 

「そうそう! とべっちだしっ!」

 

 

 

 どんまい戸部。

 

 お前のどうでも良さが功を制したぞ。ていうかお前ら友達ですよね?

 もしかしたらマジで俺の方が戸部の事思ってるんじゃ無かろうか、と戸部のただの知り合いである俺がそう思ってしまった。

 

 

 

 その時、わははと笑うトップカーストの様子をぼんやりと眺めていると、急に海老名がこちらを見た。ビクッと目を反らそうとすると海老名は三浦達に「ちとゴメン」と一言断り、此方に歩いてくる。

 

 え? 何?

 何見てんだコラ的なあれだったら嫌だな、なんて思っていると海老名が隣にきた。

 

 

「熱い視線を感じたよ~? もしかして隼人君に熱視線でも送ってたのかな? そういう意味深な視線を送るなんて、腐適切だと思います!」

 

 止めてくれ……、と困っていると三浦達の方をチラッと確認すると、本題っといった風に口元に人差し指をおく。し~っと唇を動かす動作に目を奪われた。

 そういう男心をくすぐる動作止めてくれないですかね……?

 

 

「ヒキタニ君。また、私が困っちゃう事してるでしょ」

 

 背筋が寒くなるような声音で一言告げる。

 でしょ。と確信している事を解らせ、尚且つ虚言や誤魔化しは言わないでという風に。

 

 

「優美子達もいるから静か~な声で目的だけ伝えるね?前と同じ、私は今の関係が大事なの。だから、とべっちに変な事はさせないで。お願い」

 

 

 先程とは違い、優しく、丁寧で理解を求めるような声音で、目を真っ直ぐ見ながら伝えられた。急な事に俺は少し戸惑うも海老名が言いたい事は解った。

 

 ……あれから戸部は戸部なりに沢山のアプローチをしていた。当然俺が知らない所でもあいつなりに努力していた事だろう。

 だが、海老名の心を変えるには至っていなかった、という事だ。

 

 戸部がいかにソレを求めた所で海老名はソレを拒絶している。

 

 それより今が大事だから。

 

 

 俺は脳裏に奉仕部と、そこで過ごす皆の事を思い浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「……言いたい事は解った。今も変わらず戸部の気持ちより今の時間が大事って事だろ? ……その気持ちは解る。だから、安心しろ。別に今回は戸部が海老名に気持ちを伝える事が依頼じゃない」

 

 俺の返事に良かったという風に微笑み、仲間の元に振り向こうとする海老名。

 

 

 ……その背中に一言だけ言っておこう。

 

 

「だけど今回の活動をきっかけに、あんたが”心変わり”するかもしれないけどな」

 

 圧倒的ドヤ顔で海老名を見上げてる。

 

 海老名はキョトンとした顔で俺を見た。

 

 

 

 

 ……やらかした?

 

 

 

 

 

 

 調子に乗りすぎた事を悔やみかける俺に対し、海老名はとても可愛らしい笑顔で笑いだす。

 

 

「あはははっ! そうなったら仕方ないね!」

 

 そして海老名は笑いながら三浦達仲間達の所に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……戸部は前回とは違う。

 自分の気持ちを伝える事に全力なんじゃない、自分を好きになってもらう為に今回は頑張っている。だから、いつか海老名が今より戸部を選ばないなんて決まっている訳じゃない。

 だから今度は、今回は戸部の依頼を達成するために動く。

 

 変わらないとは限らないんだ。

 一番大切にしたい物が。

 

 

 

 

 三浦は「何話してたの? めちゃ笑ってたじゃん」と海老名を迎え入れると海老名は「面白い話」と笑いながらはぐらかしていた。

 

 そしてロングホームルーム開始のチャイムが鳴ると共に俺はいつものようにだるそうに机に突っ伏す。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 その日の放課後、教室の黒板の前で俺達は立ち尽くす。

 

 

 黒板には球技大会のトーナメント表。

 そして俺達余り物チーム(いつの間にか

 チーム名がチーム・ヒキタニ)の対戦相手に、最も俺が見たくない名前が書かれていた。

 

 

 ”葉山チーム”

 

 

 

 

「…………」

 

「そういう事なんよ」

 

 

「マジかよ……」

 

 

 

 想定しうる、最悪の事態に俺は黒板に石化させられてしまった。

 

 




次へ……。
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