俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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その6 そして後半戦へ。

 

 

 

 後半まで後1分。

 観客達も前半の試合展開に満足し、楽しそうに話をする。

 

 後半何点差つけるか、どんなスーパープレイが出るか盛り上がっている。葉山のチームも立ち上がり、試合の準備に動き出した。

 ベンチでも三浦や海老名から葉山に激励が送られる。

 

 

「んじゃ、隼人後半も頑張って」

 

「ああ、ありがとう」

 

「大和君も大岡君も頑張って! ……男達がお互い汗を足らしながらぶつかり合う、デュフフwwwwやっぱりスポーツ物は良いよね~(笑)」

 

「擬態しろし」

 

「ははっ……、ほどほどにね」

 

 由比ヶ浜は点差を見て溜め息をつく。

 

(ヒッキー、大丈夫、かな……)

 

 

 

「「「「「オオオオオ!!!!」」」」

 

 

「」ビクッ

 

 会場に獣の咆哮のような声が響き渡る。

 皆声のする方を見ると、ヒキタニチームが肩を組みながらコートに突撃してきた。

 

「!!?」

 

「うわぁあ! なんだなんだ!」

 

「どしたんだ?」

 

 

「「「「オオオオオ!!! 」」」」

 

 ドドドドドッ!

 

 葉山チーム側コートで止まるとダッシュで円陣を組始めるチームヒキタニ。

 あまりの出来事に会場は静まりかえり、葉山達は由比ヶ浜を含めて固まった。

 

 

 

 

 

 すると円陣の中からボソボソと話し声が聞こえてくる。

 

 

「ヒキタニ君、や、ヤバイ超はずい」ヒソヒソッ

 

「うるさい俺もはずいんだ黙ってやれ」ヒソヒソッ

 

「……うぅ……」

 

「いいから早くしてくれ、早く」ヒソヒソッ

 

「う、うむ。コホンッ」

 

 

「絶対絶対葉山チームに勝つぞ!!!」

 

 

「「「「オオオオオ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………シ~ン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに……あれ……?」

 

「わ、わかんない……」

 

「戸部達、何やってんの?」

 

 

 

 

 ザワザワザワザワ。

 会場はざわめき、どうすれば良いのかという空気が流れる。

 

「ひ、比企谷?」

 

 

 ビィイイ!!

 

「!?」

 

 

 そこで鳴り響いたのは休憩終了のブザーだった。

 

「……いくぞ。」ボソッ

 

 四人は頷く。

 

 

「へいへい!! 休憩終了だぞ! 早くコート入ってこぬか!」

 

 ……!

 

 急に材木座のヤジが葉山チームに投げられる。

 そこから一斉にチームヒキタニからヤジが飛ばされた。

 

「そうだよ! 他の試合もあって時間無いんだから早くコートに来てよ!」

 

「そうダゾー!!(裏返り)」←城山

 

「おらおらジャンプボールだぞ! 戸部はもうスタンバイしてんだぞ!」

 

 

 

 急に飛ばされるヤジに葉山チームは混乱しているっ!

 

 

「は?へ、は?」

 

「比企谷……」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 唖然とする会場、そして葉山チームを見渡しながら俺はニヤリと笑う。作戦の成功を確信して。

 

 今俺たちは葉山チームに対しヤジを飛ばしている。

 

 そう、後半開始は休憩終了のブザーと共にジャンプボールをして試合開始をするとルールブックに書いているし、それがマナーだからだ。

 にもかかわらず、葉山チームはジャンプボールをスタンバイしてないどころか、誰一人コートに入っていない。これは重大なマナー違反だった。

 

 こちらのチームはもうコートに入り、戸部はジャンプボールのスタンバイも終わっている。審判さんだってボールを準備しスタンばっている。

 なのに葉山チームは未だにベンチにいるとかどうなってるんだ?

 

 

「くっ、皆! ジャンプボールは俺がやるから早くコートに!」

 

 葉山の号令で焦りながらコートに入る葉山チーム。俺達はその間もヤジを止める事はしない。

 

 

「ほ、ほらほら! 他の試合もあって時間無いんだから、早くジャンプボール、ジャンプボール!」

 

「そうダゾー!」

 

 

 

 

「お、お前らが訳わかんない事してっから遅れたんだろ!」

 

 当然ながら相手チームから文句があがる。しかし、その答えは用意してある。

 

「は? 俺達はただ試合前に円陣組んでエールしてただけじゃないか。体育会系じゃ当たり前だろ? それにブザー前には静かにしてたし、時計を隠したりなんかしていない。お前らが勝手に俺達のエールを鑑賞してただけだ」

 

 

 大岡はぐぬぬっと悔しそうだ。

 俺は一切間違った事は言っているつもりは無いし、ルール違反だってしていない。寧ろグレーゾーンなのは葉山達の方だ。

 

 そこで戸部から注意を受けてしまう。

 

 

「皆やめるっしょ! そんな汚い言葉は止めて、試合に集中しようぜ! キリッ!」

 

 

 うわ~、戸部さんスポーツマンみたいでかっこいいわ~。

 てか口でキリっとか言うな。

 

 

 これでヤジを飛ばす俺らの中で戸部は混ざってない事をアピールする。

 

 そしてヤジも言葉を選んでいた。

 誹謗中傷はしていない、ただ、マナー違反について文句を言ってるだけだ。

 

 だが相手が誰であれ、非難されるのは気持ちの良い事じゃ無いよな?

 自分に非があると感じても、俺たちの行動に腹を立てたとしても、どっちだろうとハーフタイムに受けた激励や心の準備を吹き飛ばすには十分だ。

 

 

「ほら審判さん、もう相手もコートに入りましたしジャンプボールを」

 

 急ピッチで準備を開始した葉山チームがスタンバイし、ジャンプボールの体制に入る。

 

「くっ!」

 

「おっしゃ!」

 

 ジャンプボールは完全にスタートを挫かれた葉山が遅れ、戸部が弾いたボールが俺達のゴール側に飛ばされた。

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 そのボールはスタート時点で俺達が占領しまくっいる葉山ベンチ側、そこには俺達四人がしきつまっていた。

 

「よし、ボール来たよ!」

 

「確保!」

 

「」←大岡

 

「ふぬぅううう!!」

 

「取ったぞぉ!」

 

 

 急かされた葉山チームはコートに入るもポジショニングが甘かった。ゴール下は大岡しかおらず、スタートから四人でゴール下を確保した俺達四人に牧のごとく取り囲まれ大岡は何も出来ない。

 

 ボールを確保した城山がボールをゴールに叩き込み、俺達はシュートにいった城山以外でダッシュで戻る。

 

「ナイッシュー!!」

 

「ナイッシュー!城山!!!」

 

「ナイッシュー」

 

 

「ウオオオオ!!」

 

 

 必要以上にテンションを高めるチームヒキタニ。チーム内での励まし、咆哮。勢いをどんどんつけていく。

 

 

「……? なんだコイツら、急にテンション超高くなりやがった」

 

 

「な、なにあれ~?」

 

 とうとう観客側にも不自然さが伝わった。

 

 人と接してる際、テンションを合わせるという事は重要だ。楽しいであろう話をしてる時には明るく、怒られたらシ~ンとする。

 人が無意識に行うコミュ力の一つだろう。

 

 これに落差があると人は一気にさめる。

 

 面白い話をしたと思って、ふ~ん、しか返ってこないとテンション下がる。

 真面目な話をして、マジうけるとか言われるとテンション下がる。

 好きな子に愛を囁いても相手がなんとも思ってなければ皆に曝されてテンション下がる。

 

 誰の体験談かな~。

 

 

 だからお互いのテンション管理はコミュニケーションではかなり大事と言える。

 

 どうだ?

 相手だけめちゃ必死だと、超ヒくだろ、テンション下がるだろ。前半やった、相手の空気を読む能力を利用した戦術の応用編だ。

 

 開始のタイミングを戦国時代の武士達の如く声と勢いで出鼻をくじき、なんだか解らないうちに相手だけめっちゃ勢い付いている、うわ相手にしたくね~。

 

 勿論これは皆の笑い者になる。

 特に俺や材木座みたいな奴がこれをやるとそれはもうゴキブリを見るかの如くだ。

 

 

 だが、戸部の御笑いキャラなら後から笑い話にする事は十分出来るし、戸部には汚い所はやらせてない。

 それに、葉山ならどうせ間もなく”本気でぶつかり合う熱い戦い”に変えてくれるし、後の戸部のフォローだってしてくれるだろ。

 

 だから、この勢いのうち相手に息を尽かせないまま策をぶつけていく。

 

 

 

「落ち着いて、とにかく一本取るぞ! 相手の勢いに誤魔化されないで、楽しくやろう!」

 

 葉山がディフェンスに下がりながら周りに指示を出す。

 そこに俺が立ちふさがった。

 

 

「……後半は比企谷が俺のマークか。色々小細工してくれるな」

 

「人間はいつだって、勝てないと思われる相手にだって、作戦や工夫を尽くして勝利を掴むんだよ」

 

 

 前半はゾーンだった俺達だが、後半はマンツーマンでいく。

 

 オフェンスに力をさかせたい戸塚と体力切れの材木座は……、ええっとA君B君に、大和には城山、消去法で葉山には俺を。

 

 そして一番の狙い所、大岡vs戸部だ。

 

 

 

 

 

 戸部がドリブルをしながら、大岡と牽制しあう。

 

「いや全くなんだよお前ん所のチーム(笑)すげぇなある意味」

 

「……」ダムダム。

 

「何、お前も大変だな~。大丈夫なん?」

 

「……」ダムダム

 

「……えぇと、戸部ぇ、反応無し?」

 

 ダンッ!

 

「え?」

 

 戸部は大岡がきょどった隙を見逃さず、その一瞬で大岡を抜き去る。

 

「!?」

 

 ガァン!

 

 戸部は渾身のダンクを叩き込み、定位置に向かって走り出す。

 

 

「……ごめん大岡。俺ちとマジだから、後でね」

 

 

 通り過ぎる一瞬で戸部はフォローをし、それ以上話す事なく次のスタンバイを始める。

 

 

「な、は? おいおい待てよ、お~い!」

 

 

 戸部が急におどけるのを止め、真剣にプレイを始めた時、その変化で一番混乱するのは誰か。

 

 それは雪ノ下いわく風見鶏大岡だろう。

 読み通り大岡はひきつった笑いで、おどおどし始めた。

 

 人の顔色を伺う大岡だから、普段明るい友人の変化に付いていけず、寧ろ内心何か怒らせたのではないかと不安になっているかもしれない。

 

 

「あ!」

 

 バシッ!

 

 混乱した大岡が苦し紛れに葉山にパスを出すがそれを葉山にやられたように戸部がスティールをかます。

 

「速攻!」シュッ

 

 戸部はボールを戸塚にパスをし、戸塚の放ったボールは見事ゴールネットをくぐる。

 

 

「あ、わ、悪い隼人君」

 

「気にするな大岡。次取り返そう」

 

 

 悪いな大岡。多分お前も良い奴なんだろう。

 お前の優しさに漬け込むようで悪いが、今回は戸部の味方でお前の敵なんだ。だから、容赦なくお前の優しさという穴を突く。

 

 

「戸部があんなに本気になるなんてな。また君が何かやったのか?」

 

 葉山と向かいあい、マークすると話しかけてきた。

 

「何もしていない。あいつが凄いだけだ」

 

「……そうか」

 

 ……グッ!

 

 ザンッ!

 

「……!」

 

 葉山が俺を置いてボールを持つ大岡にヘルプにいこうとするが、体重を前に乗せたタイミングで進行方向に割り込み、葉山の邪魔をする。

 

 

「悪いが、今大岡に楽をさせる訳にはいかないんだ。ピンチになったら、あいつはまずお前を頼るだろ? だから、俺はただひたすらお前にまとわりつく。ボールを持ってようが持ってなかろうが、な」

 

 

 前半材木座がやったなんちゃってスッポンディフェンスだ。

 

「……厄介だな」

 

 葉山のキツい目線から、反らす事なく真正面から見据える。

 

 油断なんかしたら一瞬で置いてかれる。

 大岡を追い詰めるまでは、絶対コイツを自由にはしない。後半終了まで体力が続かなくても良い、俺の全てでコイツを止める。

 

 俺の得意分野も使ってな。その名も、口撃だ。

 

 

「……お前さ。進路調査の時教室で大岡に少しムキになったろ?」

 

 葉山は俺が話し出した瞬間、右から抜こうと一歩を踏み込む。

 俺はなんとか反応し、再び進行方向に割り込んだ。

 

 

「……だからなんだ?」

 

「あの時、戸部に空気を変えて貰いたくて、話をふったんだろ? お前が誰かを頼ったのを俺は初めて見た」

 

 

 葉山は体制を変え、背中を俺に向ける。

 俺は審判に見つからない程度に裾を引っ張ってやる。

 

 

「……く、お前!」

 

「ディスティニーん時お前が一色と三浦に囲まれて困ってた時、戸部がお前を助けにいったろ? お前を助けた、いや、そもそも完璧超人のお前を助けようなんて考える奴、俺は戸部しか知らない」

 

 

 グ……!

 葉山が裾を引っ張られるのを嫌がり、回ろうとした時を見計らい葉山の足を向く方に体をねじ込む。

 

「キャンプも一緒、部活も一緒。俺の知る中で、お前が学校の男友達で一番大事なのは戸部だろ? そしてお前を一番に思ってる男友達も俺から見た所戸部だな。なぁ、その友達が今本気になって勝ちたいと願ってるんだ。どう思う?」

 

「く、お前な……!」

 

 

 

 こうしているうちに俺達のチームは得点を重ねる。葉山は俺の言葉に、大岡は戸部の態度に翻弄され、振り回されていた。

 

「……くぅ!」

 

「……ぬんっ!」

 

 大和もゴール下で城山により中に入れず、ボールを持ったまま何も出来ずにいる。

 

 前半、城山は体格に恵まれた自分を自覚し、相手に怪我をさせないように気を向けていた。

 しかし今は球技大会に全力を尽くしてくれている。城山も戸部と同じ、本気になってくれたのだろう。大和はやけっぱちシュートを放つも城山によりカットされた。

 

 

「やるな城山!」

 

「……お前もな!」

 

 やだぁ、なんかあそこだけ温度が違う。むさくるしい。

 二人共デカイから威圧感半端ない。

 

 

 城山は戸部にパスを出し、戸部はそれを受けとるとゴールに走り出す。大岡が頑張って追いかけるが追い付かず、再び戸部によるダンクが叩き込まれた。

 

 

 

 

 

「……よし!」

 

 

「戸部先輩!」

 

 

 急にコート外から声をかけられたと思うとそこには一色がいた。

 すると一色は指でコート内を指し戸部を誘導する。

 

 

「次は大岡先輩にボールを集まるよう誘導して、そこからプレッシャー? をかけていって下さい!」

 

「おう!」

 

 急な指示に戸部はなんの疑問もなく応じる。

 一色、お前監督みたいな事出来たんだな、と驚いていると一色が携帯を片手にウインクしてきた。

 

 見ると雪ノ下も携帯を片手に戸塚に指示を出している。

 なるほど。考えがあるってこの事か。

 確かに前半雪ノ下はメガホンを使ってはいたがその指示がコート全体に届く事はなかった。

 その為主力で常に走り回らなければならなかった、特に指示を迅速に出したい戸部への指示が遅れがちだった。

 

 これならフルコートで伝達が可能で作戦から実行迄のラグをかなり解消する事が出来る。

 

 

「……三浦先輩に見付かったら怒られますし、葉山先輩にこんな所見られたら点数下がっちゃうんですけどね」

 

 一色は戸部への指示が終わるとがこそこそコートを移動し、可能な限り小さい声で伝えられるよう勤めていた。

 それ、多分焼け石に水だと思うけど。

 

 

 葉山側のコートから由比ヶ浜達の応援が聞こえる。見れば跳び跳ねながら全身で応援している由比ヶ浜と楽しそうな海老名がいた。

 

「とべっち! 凄いよ! 凄い凄い!」

 

「とべっち、かっこ良いよ!」

 

 

「……よっしゃ! 次いこう!」

 

 

 戸部は歓声に片手を上げて少し答えると再び走り出す。その態度は前半とはうって変わり、凛々しい物だった。

 

 

 俺も、再び葉山にこびりつく。

 次々と点差を埋めていく俺達に会場は混乱をしていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……とべっち、本気だね」

 

「……」

 

 由比ヶ浜の言葉に、海老名は反応を返す事なく試合を眺めていた。その視線は、いつもヘラヘラと薄っぺらい笑顔を浮かべる男の、必死に戦う姿だった。

 

 

 

 すると観客の中から不穏な声がしてきた。

 

「ねぇ、相手必死すぎない?」

 

 

「……!?」

 

 聞こえてきた声は、何か人を馬鹿にしたような声音で悪意に歪んでいた。

 

 

 

「ね? 葉山君の活躍見に来たのに、全然見れないし。何あれ、隼人君に対抗するつもりなのかな? ちょっとマジになりすぎだよね~」

 

「ちょっとヒくよね。相手、正直面子ビミョ~だしね~」

 

「わかるわかる~! 戸部は軽くてヘタレで眼中に無いし、戸塚は女みたいで全然ときめかないし、後は知らない人ばっかじゃね~?」

 

 

 

 

 

 葉山を見に、わざわざ他のクラスや学年から集まった女の子達が戸部達に批判の声を上げていた。

 

 体育館の中の、陰険な言葉に由比ヶ浜は胸を締め付けられた。

 

 

 




続く


昨日に間に合わず!
すみません。

さて、次で試合は終了です。

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