俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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 試合ラストです!
 前回迄のも含め、台本形式を修正いたしました! 初の試みでお見苦しい所があるかもしれませんが、お付き合い頂けたら嬉しいです!










その7 最後の力を振り絞り、そのシュートは放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半開始からしばらくたった。

 

 

 

 

 

「リバンッ!」

 

 後半に入り、追い詰められていたはずのチームヒキタニによる追い上げにより、一回ゴールを決められながらも、なんと同点に迄あと2点、という所まで追い上げていた。

 

 そして今、再び点差を広げようと放たれた葉山チームのシュートのリバウンドを狙い、ゴール下で城山と大和が競り合っている。

 

 

 後半、何分経過したのか。

 

 それを今の俺に見る余裕は無かった。

 

 

「……ハァ……ハァ……」

 

 もう喉がカラカラだ。冬だってのに体が熱い。

 相手チームのエース、葉山隼人を邪魔し続けた俺の体力はもう殆ど残っていなかった。

 

 

 

 こいつ、どういう体力してんだ……。

 

 俺は葉山を睨み付ける。

 後半が始まってからありとあらゆる手を使って葉山を妨害してきた。その成果あり、後半葉山は前半ほど驚異的な活躍をしていない。

 だが、コートを縦横無尽に走り回り、こちらが少しでも油断すればあっと言う間に抜かれ、置いてかれる。

 

 俺は後半ボールに触っていない。

 ただ、葉山の周りに引っ付いているだけだ。

 

 だが、そんな状態で走り回っているにも関わらず葉山に疲労の様子は無かった。

 

 

 なんちゃってスッポンディフェンス。

 これ、すっげぇスタミナ使うな……。

 

 山王の一ノ倉、やっぱあいつも王者山王だ。

 今さらだけどすげぇよあいつ……。

 疲れきった体を押して、腰を落として張り付く。

 

「……もう限界だな」

 

 

 ……!?

 

 葉山の一言を認識する頃には、葉山は既に俺を抜きゴール下へ移動していた。

 

 ……くそっ……。

 

 無理だと解っているが、精一杯やろうと葉山に手を伸ばす。しかし、俺の手が葉山の妨害になるはずもなかった。葉山はシュートの体勢に入った。

 

 

 

「ウホホホッ!」

 

 ……!

 

 突然の奇声に意識が戻される。

 そして俺が伸ばした手の先を見ると、シュートの為に飛び上がった葉山と、そのシュートを後ろから叩き落とした男の姿が入った。

 

 

「ゴール下のキングコング三世!!!」

 

「戸部!」

 

 

 

 弾かれたボールは城山の方に飛んでいき、見事ボールを奪い返した。

 反対コートへ皆走り出す。

 

 そして戻りながら俺の肩を叩いていく戸部。

 

「ヒキタニ君! あとは任せるっしょ!」

 

 

 そして戸部は皆の後を追った。

 

 

「比企谷君」

 

 肩で息をする俺の背後から雪ノ下の声が響く。

 

 

「……お疲れ様。後は貴方は葉山君マークを外れ、大岡君について頂戴」

 

 

 そうして俺は時計と点数を見た。

 

「やっと終わった、か」

 

 ようやく、俺が葉山に付くノルマが終わった事を確認した。大きく息を吸い、呼吸を整える。

 

「ええ、お疲れ様。貴方にしては良く頑張った方じゃないかしら?」

 

 

 雪ノ下の労いに俺はいつも通り、減らず口で返してやる。

 

「まだ終わってねぇし。それに俺にしてはってなんだよ。寧ろ全体で見ても超頑張ってるし俺」

 

 

 雪ノ下は少し微笑むと、再び試合に集中した。

 

 ……ふぅ。

 俺も気分を入れ換え試合に戻っていく。

 

 

 もうクタクタだ。だが、一仕事終えたという事実が、少しだけ元気を与えてくれた。

 次のマーク対象者の前にいき、再び体を広げる。そこには俺と同じように消耗しきった大岡がいた。

 

「……く、……う……」

 

 

 大岡の背はまるくなり、息をするたび肩が上下している。目も誰かみたいによどんでいた。

 

 ……やれやれ、御互い大変だったな。

 

 マークする敵とはいえ同じような苦しみを味わっていた大岡に少しの親近感を感じざるおえなかった。

 自分と同じ苦労をしている人間を見ると何故か励まされる。

 心が暖かくなり、大岡に”お疲れさん”と心の中で労いつつ、俺は再びスッポンもどきを開始した。

 

 

 ……ぐぃ。

 

 

 

「ヒキタニ、すそ引っ張んな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワァアアアア!!

 とうとう葉山チームが追い付かれ、葉山チームへの応援が熱くなる。

 

「「「「は・や・ま! は・や・ま!」」」」

 

 

 ボールは葉山が確保、そこに戸部が立ち塞がる。

 

 

「隼人君! 悪いけど、負けねぇから!」

 

 戸部の宣戦布告に、葉山は困ったように微笑み、そして回転しながら戸部を抜こうとする。

 

 

 戸部は回転に惑わされる事なく、ボールに手を伸ばし弾いた。

 

 葉山はこぼれそうになるボールを器用に拾い、確保する。

 

 

「……部活もこれ位真面目にやれよな」

 

 やむ無く葉山は大和にボールを戻し、そしてボールをリターンして貰おうと走り出す。

 

 

「俺はいつも真面目っしょ!」

 

 葉山を追い、大和と葉山の間に入るように走り出す戸部。

 

 そして大和からのリターンを見事カットしてみせた。

 

 

 

 きゃあああああ!!

 

 会場から悲鳴が上がる。

 葉山がやられるのを会場の殆どの人間が望んでいない。中にはブーイングを出している奴もいる。

 

「葉山君頑張って~!!」

 

「きゃあああ! 負けないで~!!」

 

「戸部引っ込め!」

 

 

 おお、怖い怖い。

 しかし、前半気になって仕方なかったであろう会場の声はもう戸部には聞こえていないようで、そのままゴールに走り出した。

 

 

 だがその先には葉山チームAがスタンバイしていた。後ろには葉山が立ち塞がる。挟み撃ちの形になった。

 

 

 戸部はとっさにゴール脇に待機していた戸塚にパスを出し、左回りに相手を避ける。

 

 

 

「戸部君! お願い!」

 

 

 相手を抜き、戸塚からのリターンを受け取ると、戸部はゴールに飛び上がった。

 

 

 

 

 ダンッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に鈍い音が響く。

 ゴールリングにボールが入る事はなかった様子だ。そして……、

 

 

 

「痛っ……」

 

 

 そこにあったのは戸部が覆い被さる形で倒れ混む葉山の姿だった。

 

 

 

 

 

 会場から悲鳴があがる。

 

「葉山君大丈夫!? ちょっと戸部、葉山君に何すんのよ!」

 

「マジありえないんですけど! ひどくない?!」

 

「葉山君怪我してない!? 可哀想~!」

 

 

 やれやれ、今のワンプレーで戸部にヘイトが向けられてしまった。

 

 ……随分な言われようだが、今のプレイは戸部が飛び上がった後に割り込んだ葉山のファウルだ。現に戸部にフリースローが与えられた。

 しかし、それが会場の熱気に油を注いだようでさらにブーイングが激しくなる。

 

「ハァアア!? なんで戸部のフリースローな訳ぇ!? おかしくない?」

 

「葉山君可哀想~!」

 

「意味わかんないんだけど!」

 

 

 

 ギャアギャアとすさまじいブーイングが始まってしまった。ルールや結果がどうではない。

 あいつらは葉山の味方で、葉山のサポーター気取りなのだ。

 

 

「は、隼人君、ごめん。大丈夫?」

 

 戸部が葉山に手を伸ばす。

 葉山は手を取り、微笑み返しながら立ち上がる。

 

「今のはどう考えても、俺が悪い。すまなかった」

 

 

 立ち上がると、葉山は会場の誤解を解こうと今のプレイを説明する。

 

 しかし会場のブーイングは暫く止まらなかった。なんとか誤解を解こうと試みた葉山が何を言っても葉山君優しすぎ~、と返してくるだけだった。

 今の会場は何を言っても一度言った言葉を引っ込められないのか、葉山の味方をしたいのか解らないが止まる気配が無い。

 

 

 

 そのやりとりをやれやれという気分で見つめていると、ゴール下にある葉山ベンチにいた由比ヶ浜の様子が目に入る。

 

 由比ヶ浜は、会場のブーイングに負けないように俺達を必死に応援してくれていた。

 

 ……その声は、どんなに周りが煩いにも関わらず耳に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 葉山チーム ベンチ

 由比ヶ浜・サイド

 

 

 

 時計が止まり、数分後。

 ようやく会場が落ち着きを取り戻し、戸部のフリースローの準備が始まる。

 

 ゴール下にぞろぞろ待機する両チーム。

 

 

「とべっち、大丈夫かな……」

 

 戸部を心配する由比ヶ浜。

 三浦も観客の一部に呆れていた。

 

 

「隼人が何言っても聞きやしないしさ。本気に隼人の味方なのかって言いたくなるよね。ねぇ、姫菜」

 

 

「……そうだね~」

 

 

 ……?

 

 心ここに有らずな様子の海老名に二人は疑問符を浮かべた。

 そうしていると、由比ヶ浜にとって信じられない言葉が耳に入ってきた。

 

 

「ていうかさ、ありえなくない? なんで戸部のフリースローな訳ぇ?」

 

「倒されたの葉山君じゃんね? マジありえない」

 

「誰も戸部の活躍なんか見に来てないってのね」

 

 

「!?」

 

 由比ヶ浜達の後ろで他クラスや他学年から集まったと思われる女子達が内緒話、というには大きすぎる声で文句を言っていた。

 

 今までも材木座や比企谷に対し、小馬鹿にしたような声が聞こえてきた。必死すぎ、みたいな。しかし、今は葉山に突っ込んだ事で戸部が攻撃対象になってしまった。

 

 

 

「戸部さ、葉山君の金魚のフンのくせに張り切りすぎだよね。それで葉山君に迷惑かけるなんて信じらんない」

 

「ていうかさ、いつも葉山君に付きまとうのってさ、おこぼれ目当てなんじゃない?」

 

「ありえる~!」

 

 

 あまりの言葉に由比ヶ浜は戦慄した。

 

 拳を握りしめて、小刻みに震え、息を飲んだ。

 しかも彼女達の話は、もはや試合中のプレイの話ではない、悪意に満ちた笑い話へと変化していた。

 

「でもさ、葉山君と戸部だと、ブランド品とセール品って感じしない?」

 

「あるある! 正直、戸部ってなんか言えばなんでもやるじゃん? 安売りしすぎだよね~!」

 

 

 

 

 あんまりだ。

 戸部の優しさを馬鹿にした。今、必死で頑張ってる彼を侮辱された。葉山との友情を馬鹿にした。

 

 噂話をする女子達に振り返り、由比ヶ浜は息を吸い込んだ。

 

 

「あんたたちさ……!」

 

「煩いなぁ!!!!」

 

 

 

 しかし、由比ヶ浜が怒鳴るより先に、誰かの怒号が鳴り響いた。

 突然の覇気のこもった怒鳴り声に、女子達や由比ヶ浜は止まり、そこにいた三浦ですらびくついた。

 

 

 

 

 

「い、今のだれ……?」

 

「わ、わかんない。超怖くなかった?」

 

 

 誰かも解らぬ怒鳴り声にざわめきだす。

 

 そして由比ヶ浜は声の主に振り向いた。

 

「ひ、姫菜・・・」

 

 

 海老名は表情を変える事無く試合を眺めていた。割れ関せず、という風を装って。

 

 

「今の声、海老名さんじゃない?」

 

「マジ? あんな声出すの?」

 

 

 だが、とうとう声の出所がバれ、注目が集まってしまった。ひそひそと海老名を指差しながら話をする。

 海老名は何も言わず、平然とした顔で前を見続けた。

 だが、彼女の手はかすかに震えている。

 

「姫菜……」

 

 由比ヶ浜が海老名の手を取り、握りしめる。

 海老名はその手を優しく握り返し、コート場の彼らをただ見つめていた。

 

 その様子に、三浦が大きな溜め息をついて髪を払う。由比ケ浜はただ、その手を握ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「煩いっつったのが聞こえなかった訳ぇ?」

 

 

 再び響く怒号。

 

 その声は、由比ヶ浜から先ほどの反対側から響き渡った。

 その主は悪口を言っていた女子らに振り返り、腕組しながら睨み付ける。

 

 

「え? え? 三浦さん?」

 

 急に向けられた敵意にひそひそ話をしていた女子達がびくつく。

 三浦はそのままその女子達に向かっていき、壁を叩く。

 

 

「あんね? あーしも隼人の応援だけどさ、戸部だって一応あーしの友達なんだよね? ソレを悪く言われるとあーしだってムカつくに決まってんじゃん? わかる? わかるよね?」

 

 ひぃ、という声を出して怯む女子達。

 しかし、その中の1人が反論を始めた。

 

「い、いや別に、私達も葉山君を応援したかっただけで……」

 

 

 勇気を振り絞り対抗したであろうその言葉に、三浦の額にビキッとした何かが走る。

 

「あ!? 煩いって言ってんの! わかったかって聞いてんだって!」

 

 

 有無を言わせぬ三浦の威圧の前に女子達は無言でコクコク頷いた。そしてさ~っと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

 

 

 彼女らが散っていくのを、そして周りのヒソヒソと話をしていた連中が静まるのを確認すると、三浦はふん、と鼻を鳴らし髪を払う。そして海老名達の横に戻ってきた。

 

 

「……たくっ」

 

「優美子!」

 

 

 由比ヶ浜が三浦に飛び付く。

 嬉しそうにはしゃぐ由比ヶ浜に照れ、頬をかきながら引き剥がす。

 

「別にあーしもムカついただけだしっ……!」

 

 

 照れながら髪をくるくるさせる三浦は海老名の隣に戻っていった。

 

 

「……ありがと」

 

「……ふん」

 

 

 海老名がボソりと呟き、三浦は微笑んだ。

 

 

 そんな時、コートの中では戸部のフリースローが放たれた。

 

 

 パシュ!

 

 リングをくぐり、ネットをくぐる音が鳴り響く。

 そして、見事ゴールを決めた戸部が拳を天井に掲げ、微笑んだ。

 

 

「入ったぁ!! やった入った! ヒキタニ君!」

 

「良いから戻れ! 次来るぞ!」

 

 

 

 フリースローが入ったのが嬉しかったのか、やべー、やべー、言いながら走っていく戸部。

 その笑顔は前半とうって変わって、試合そのものに真剣に、そして楽しそうに笑っていた。その笑顔は、普段の彼のソレとはどこか違って見えた。

 

 

「……こっちの事なんかまるで知らないで、はしゃいでるね」

 

 

 由比ヶ浜が微笑み、二人の顔をみやる。

 

 

「まー、戸部だし、いいんじゃない?」

 

「そうだね。戸部っちだしね」

 

 

 

 女の子三人は優しい笑みを浮かべながら、再び応援を開始する。

 

 

 

「ヒッキー! とべっち! 頑張れ~!」

 

「隼人も負けんな~!」

 

 

 

 そこの応援席にはもう、先ほどのような悪意の声は無い。ただ、純粋に、コートの上の選手たちを応援したいという気持ちの篭った声援だけが響き渡った。

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 時計を見る。

 残り、三分って所か。

 

 点は同点、前半からは考えられない健闘ぶりだ。

 

 

 ボールを持った葉山に、戸部は必死にディフェンスを繰り広げる。

 葉山が抜こうと戸部の後ろのゴール下に目を配る。

 

 しかし、そこには城山によってガードされた大和と戸塚にガードされた葉山チームのAによってゴール下は溢れている。

 

 ボールに集まる初心者の図、それにより葉山の折角の運動能力がいかせず攻められずにいた。

 

「隼人君、俺もうキツいわ……」

 

「それは俺もだよ……」

 

 もういくらなんでも戸部も葉山も限界だった。

 二人共肩で息をしている。

 

 

 お前らが限界なら、俺はもう限界突破してるっての。だから……。

 

 

 

 パシッ。

 

 

「……なっ!?」

 

 お喋りしてる間に俺がボール貰ってくぞ。

 さっさと終わらせたいからな。

 

 背後から近付きボールを掠め取る。

 

「くっ! 比企谷!」

 

 

 よし、とうとう葉山を出し抜いた。

 後ろから近付く俺に気付いた戸部が葉山に話し掛けた所を狙った。

 

 葉山が此方に気付くも、もう戸部が邪魔に入る。

 

 

 

 いやキツい。キツくてやばい。

 だが、折角のチャンスに飛び付かずにいられなかった。得意のドリブルでゴールに向かい走り出す。

 

 後少しで試合が終わる……! あと少しでこのキツイ戦いが終わる! そう思うと自然と元気が沸いてきた。

 これはアレだな。試合が終わったらカラカラに乾いた喉を潤す為にもマッカン2本を一気に飲んじゃおうかな。やだ、そんな贅沢した事ない! 歯と一緒に脳もとろけちゃいそう!

 

 

 

「いかせるか!」

 

 

 ……あ、

 

 

 物思いにふけった一瞬をつかれ、大岡によってボールを弾かれてしまった。

 

 やるな、大岡。俺の意識の隙間を狙うとは……。

 

 だが、大岡が弾いたからこっちボールからだし比較的ゴールにも近い。ここからならチャンスはまたあるだろう。

 そう見切って大岡にボールを取られないように大岡の前に出てボールを追うのを妨害する。

 

 

 

 

「ふんがっ」

 

 

 ……ん?

 

 そんな俺の考えを欠片も知らないボールに突っ込む1人の男の姿が、視界をよぎりコートから飛び出した。

 

 

 ……お前、コートから出たボールを追い掛けた花道がかっこよかったって言ってたけど、今それやんなくても良いだろ。出ても、こっちボールだし。

 

 

 そして飛び出した男は空中でボールをキャッチし、俺を見た。

 

 

「……ヒキタニ君! 後、よろしく!」

 

 

 

 飛び出した戸部は俺の方にボールを飛ばし、そして壁に激突していった。

 

 

 

 ガァン!!

 

 

 

「……と、戸部!!」

 

 

 背中から壁に。突っ込んだ戸部を見て葉山が大声をあげた

 

 

 

 

 

 

 ……だか、ナイスだ戸部。

 

 

 戸部から受け取ったボールを持ち、一気にゴールに向かい体を反転させる。その俺の行動を邪魔するものはこの場には存在しなかった。

 

 何故なら、今、この瞬間特殊空間が作動したからだ。

 その名も、戸部式「ザ・ワールド」

 

 

 

 目の前で、ボールを持った俺を見る事無く固まる大岡、そして後ろにいる葉山の意識は完全に俺から離れている。

 なんなら大和、うちのチームの優しい戸塚あたりも固まっているだろう。

 

 そう、戸部を心配したからだ。

 

 

 ダムッ!

 

 

「……は! まずい! 比企谷を!」

 

「あ、あれ? やべっ!」

 

 

 ザ・ワールドが解除され、葉山たちの意識が戻る。だが、もう遅い。お前たちが邪魔するにはもはや位置が悪い。

 俺はドリブルだけは得意だ。よって一気に十分な距離を離す事くらい出来た。

 

 

 俺ははっきり言って戸部に興味が無い! だけど戸部が本当に大事な奴は視界も意識も壁に突っ込んだ戸部に向けられる。

 

 つまり、戸部に友情を感じている者だけが固まり、戸部に興味が無い者だけが動ける一瞬。それが戸部式「ザ・ワールド」だ!

 

 

 

 大岡と葉山を置いてきた事によりゴールまでがら空きだ。俺は真っ直ぐゴールへ向かう。

 

 

「させるかぁ!!」

 

 

 ……!

 横から妨害しようと割り込む奴と、前から迫る奴が1人づつ。

 

 

 そうか、戸部に興味が無い奴は俺だけでは無かったな、葉山チームA君、B君。

 

 

 後少しでゴール下まで行けたのだが、すんでの所で挟まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なら、後はあいつに頼むとするか。

 

 俺は雪ノ下に反対されていた仙道式パスをかましてやる。

 俺に仙道みたく動き回る味方にパスを出すような技術は無い。

 だが、お前はそこにいるだろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 材木座!

 

 

「ふしゅる~!! ふしゅる~!」

 

 

 

 

 

 

 

「い、いつのまにお前がそこにいるぅ!!」

 

 

 A君が良いリアクションをしてくれた。

 

 

 

 説明する。材木座はずっとそこにいた! 戸部のフリースローの時からずっとな。

 

 何故ならバテていたから。

 

 

 でも解らなかっただろう?

 

 何故なら材木座は全くボールに触っていないから。最後の接戦の時に、全く活躍をしていない男にまで意識を向ける奴なんてそういない。

 

 これが材木座式ミス・ディレクションだ。

 

 

「ふしゅる~、ひぃ……ひぃ……」

 

 材木座は息も絶え絶え、顔の穴という穴から出せる汁を出しながら立っていた。

 そう、あいつも最後の最後まで、試合で戦っていたんだ。

 

 

 材木座の様子にヒいている観客もいるだろう。

 だが、お前には聞こえるだろう?

 

 お前の為の声援が。

 

 

 

 

「いけ~!! 中2ぃ!」

 

 

「え~っと、中2先輩、がんば~!」

 

 

「ザイモクザキ君、いけぇええ!」

 

 

 

 

 誰1人お前の正しい名前を言っていないが、お前を応援する声が聞こえるだろう?

 

 どうやら聞こえていたようで、材木座はフッ、と微笑みを浮かべてシュートフォームを決めた。

 

 

「ハァ……ハァ……、ふ、フハハハ! く、喰らうが良い! 我がひ、必殺! メテオ・ドライブ・シュートを!!!」

 

 

 

 

 

 

 そして材木座は、最後の力の全てを乗せたシュートを放ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続く

 誤字や気になる点等御座いましたらご指摘頂けたら幸いです!
 続きも連投稿いたします。

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