すみません。隔週更新と言ってましたが不定期更新になりそうです。
「知らない天井だ」
そんなおきまりの言葉で蒼也は新たなる生を始める。
蒼也は二、三度瞬きをして半身を起こして辺りを見渡す。
どうやらベッドに寝ていたらしく、視界には上京したての大学生みたいな1LDKの部屋が広がっている。
「とりあえず、転生は出来てるってことでいいのか」
(まずは持ち物の確認からかな)
蒼也がベットから降りて、立ち上がる。しかし、蒼也に伝わったのは視線の上がる感覚ではなく、顔に広がる鈍い痛みだった。
「いてて、転んだのか……?」
顔を抑えようと伸ばした手に違和感を感じる。
(手がちっさい?)
蒼也は顔を抑えようと伸ばした手をしげしげと眺めてから、左手、足、体と順にみやる。
「俺、いまこども?」
蒼也はそのことに気づきしばらくはぼんやりしていたが、すぐに開き直って、本来の目的であった持ち物の確認を始める。記憶にある体と勝手が違ったので3回ほど転びはしたが。
蒼也が10分の探索で見つけたのは二つ。
一つ目は預金通帳。贅沢しなければ10年はギリギリ食べていけるくらいの預金があった。
二つ目は黒い指輪。プラスチックではないが金属でもない。しかし硬い謎の物質でできている。よくわからないのでひとまず後回し。
(……これが現状なわけか。そして俺は見た目的に5歳前後。こんなんで俺は生きていけるのだろうか)
蒼也があまりにも心細い三つを並べて途方に暮れる。すると、机の上にのせた黒い指輪が低い音をならし、淡い光を浮かべた。
「ーー?」
黒の指輪からコードのようなものが伸び始め、首をかしげる蒼也の目の前で黒いなにかを形作る。そして、炊飯器台の大きさになると、それ以上大きくなることをやめ、プカプカ中に浮かぶ。
『はじめまして私はレプリカ。キミのお目付役だ。以後お見知り置きを』
「オマエ、ナニ?」
蒼也は目の前で起こったことに引きつった笑顔を浮かべて虚空をプカプカと浮かんでいるレプリカに尋ねる。
『私は、キミのサポートのために神から作られたキミのお目付役だ。あと私のことは【オマエ】ではなくレプリカと呼んでくれ』
「……ツッコミたいことは山どころかこの地球に広がる海ぐらいにあるけどとりあえず置いとく」
『賢明な判断だ』
「自己紹介からすればいいんだよなレプリカ?」
『私も名乗ったのだキミも名乗るのが礼儀だろう』
「俺は木崎蒼也。趣味は読書。よろしくレプリカ」
『うむ。よろしくソーヤ』
蒼也はぷかぷかと浮かぶレプリカをしげしげと見ながら自己紹介をした。
神の言った【魔法】という文化は蒼也の世界にはもちろん存在しなかったのでこういったレプリカのような魔法はすごく物珍しいのだ。
そんな事を考えていると、ふと先ほどある事に疑問を抱いた事を思い出した。
「なあ、レプリカ」
『どうした』
蒼也は今度は自分の体を眺めて続けた。
「何で俺子供なの?」
そうなのだ。これは蒼也としてはかなり気になる事だったのだ。
まあ、考えてもわからないので考える事を放棄したが。
しかし、どうやらレプリカはそういう理由も知っていそうだ。ならば、という事で聞く事にしたのである。
『神によれば厳守すべき魔界と天界のルールらしい』
「ーー?どういうルール?」
『私も詳しくは知らないが、確か転生は3歳、だったはずだ』
「……ふーん」
何故そんなルールを決めるのかはさっぱりだが、まあそういうルールならば仕方ないのだろう。
『ソーヤ、少し私からもいいか?』
「ん?なに?」
蒼也は首を傾げてレプリカに続きを促した。
『長い話になりそうだから座ったらどうだ?』
「ん?」
言われてみれば先ほどからずっと立ちっぱなしで足が疲れてきている。
「じゃあお言葉に甘える」
そう言って蒼也は新しくもなく、古くもない微妙な椅子に座る。
椅子を引いたときに床に傷がついてしまったが気にしない事にする。どうせ神からもらったものである。気にしたら負けだ。
「で、何について話すんだ?」
『魔法についてだ』
すると蒼也が少し口角を上げて目をわずかに細めた。
それはまるで新しい研究対象を見つけたマッドサイエンティストのような僅かに狂気を孕んだ笑みだった。
『私も詳しく知っているわけではないのだがな……』
レプリカはそう前置きして話を始めた。
この世界の人間は大きく2つに分けられるらしい。
それは、【魔法の源】たる【リンカーコア】がある人間とない人間。
リンカーコアのある人間は空気中の魔力素を体内に取り込み魔力を作る事ができる。
そしてその魔力を使用して科学の超発展たる魔法を行使するらしい。
「リンカーコア、か……」
蒼也が自らの胸を触りながら中を見透かすように見つめる。レプリカ曰くリンカーコアさ胸の中にあるらしいのでそう、可笑しな行為ではないはずだ。
そう、部屋の中で黒い炊飯器大の大きさの浮遊物と向き合って胸をなでつけている少年がいてもおかしくはない……と願いたい。
「でも、魔法ってそんなに普通な事なのか?レプリカに聞く限りじゃ魔法はかなり生活に密接してるっぽいけど、今俺が外に出たら箒で空を飛んでる人がいたりするのか?」
『……私にはこれ以上メモリーは与えられていない。すまないわからない』
「そうかぁ……」
『しかし、蒼也には悪いがここは魔法の世界ではない』
「ーー?なんで?」
蒼也はレプリカの言葉に首をひねる。
そんな蒼也をみてレプリカがテーブルに静かに腰を下ろした。最も、レプリカには腰に該当する部分はないのだが。
『……これはあくまでも私の推理でしかないのだが……構わないか?』
どうやらレプリカの中に大まかな推理はあるらしい。
「構わんよ」
蒼也はダークブルーのメガネを中指で押し上げながらそう返答する。
『おそらく世界が違うのだろう』
「ーー?」
眉間にしわを寄せて全く分かっていない様子の蒼也にレプリカが丁寧に説明を始めた。
『発展した世界、という意味だ』
「ーー?いや、ここは魔法の世界なんだろ?」
『いい方が悪かった。そうではなくて、平行世界での技術なのではないのか?』
「平行世界……ね」
『そんなものがあるかは疑問だが、今のところはそれくらいでしか説明できないな』
「んー、まあ、十分だ。取り敢えず説明がつけば俺としては十分だよ」
蒼也は一回深く頷いてほうっ、と息をついた。
『ソーヤ、話したついでだ。もう一つ話しておくことがある」
レプリカがその無機質な声に僅かに真剣みを持たせていった。それに気づいた蒼也も真剣な面持ちでレプリカに聞き返した。
「どした?」
『転生者のことだ』
「……それがなんだよ」
『わかっている。ソーヤが転生者と関わり合いにも戦う気もないのも理解している』
未だ険しい表情のままの蒼也をなだめるようにレプリカが言う。
『しかし、情報とは武器だ。知っているだけでも十分な対処法は立てられる。
それはすなわち自らが傷つく可能性を……』
「もういいよ」
レプリカの言葉を冷たく一言で止める。まるで、そんなものは関係ない、とでも言うように。
「俺は他人のためには戦わないし、自分のためにもよっぽどのことがないと使う気もない。俺はそんなに出来た人間じゃないし、そんな気もない」
『ソーヤ…………』
「俺は戦わないよ。多分特典も使う機会もないと思うよ」
蒼也はそう言ってぼんやりと天井を見つめる。古くもない、新しくもない微妙な天井。
「何より……」
そして蒼也はその目に物憂げなどろりとした何かを瞳に宿した。
「僕を迫害する相手を護る理由はないよね」
そんな悲しいことを言う。
『ーー!』
「だからさ、俺は、戦わない……」
『そうか……』
「……ああ」
古くもなく、新しくもない、どこまでも微妙な部屋。
そこには全てを諦めた、濁った瞳の少年がその拳を白くなるほど握りしめていた。
7月20日 大幅な改訂を行いました。