俺は戦わない。 《凍結》   作:世嗣

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3話 襲撃

 

 

部屋の隅のコーヒーメーカーがコポコポと音を立てる。

蒼也は備え付けの椅子に上って、台所に置いてあるコーヒーメーカーから淹れ終わったコーヒーを取り出した。

取り出したコーヒーはいかにも苦そうな黒に染まっている。

蒼也はそんなコーヒーをちらとみるとミルクどころか砂糖すら入れずに口をつけた。

 

「苦いなぁ……」

 

苦ければ飲まければいい、という人もいるかもしれないが、蒼也はこの子供が飲めばむせかえるくらい苦いコーヒーが嫌いではなかった。

 

蒼也は僅かに顔を綻ばせながら、まだ半分ほどコーヒーの残るカップを持って狭い自らの部屋を移動する。

 

その時、部屋の壁に下げてあるカレンダーが目に入る。そこの日付けは転生したあの日からちょうど5年を指していた。

 

蒼也はしばらくそれを眺めていたがすぐに辛いことでもあるかの様に目を逸らす。

黒く染まったコーヒーに自分の顔が写り込む。白髪で灰色の髪のそこそこ整った顔立ち。

生まれてから14年、転生してから5年ずっと見続けてきた、呪いとも言える自分の姿。

 

ーお前のせいで!

ーなんだ、キモチワリィ

 

フラッシュバックする記憶(トラウマ)。その記憶に蒼也は大きく目を見開き、唇を弱く噛む。

そして黒い鏡に映る自分を消し去る様に、残るコーヒーを一気に飲み干した。

 

「けほっけほっ、ごほっ」

 

苦いものを一気に飲んだせいかむせかえる。体が気管に入り込んだ異物を取り払うためしつこく咳を促す。

しばらくして咳が収まると、蒼也は深々と深呼吸をする。

 

動悸は起こっていないし頭痛もしないので大丈夫なようだ。

 

大丈夫、大丈夫、そうひたすら自らに暗示をかける様にそう繰り返す。

 

『ソーヤ、大丈夫か?』

 

背後から低い無機質な声がかかる。

 

「レプリカ、いたのか」

 

『いたのか、とはご挨拶だな。私は常にソーヤの側にいる』

 

「そうか」

 

『まあ、ソーヤが家を出ないから離れようがないのだがな』

 

「……ごめん」

 

レプリカのその言葉に思わず謝ってしまう。

そんな蒼也をみてレプリカはその無機質な言葉に諭す様な雰囲気を漂わせて続ける。

 

『別に責めているわけではない。ソーヤの人生を決めるのはソーヤ自身だ。私にソーヤの決断に何か言うつもりはない』

 

「うん……」

 

レプリカは蒼也の返答を聞くと満足した様に机の上に置いてある黒い指輪【トリガー】に戻って行った。

 

「……俺自身、か」

 

レプリカの口癖がが口から溢れる。

いつも蒼也を励ますように言ってくれる言葉だ。

 

自分の存在を確かめるかのように自分の異常なほど白い手をグーパーさせる。そして疲れたようなため息をして白髪を掻いた。

 

俺は戦わない。

そう言い聞かせてきたはずなのに、最近疑問を感じるのだ。

戦える力(魔法)を与えてもらっておいて、我が身かわいさに知らんぷり。たとえ神から強制されていないとしてもそんなことが許されるのか。

いや、まず自分が許せるのだろうか。

 

もし、蒼也が戦わなかったことで人が死んでも、それでも自分は関係ないと言えるのか?

 

「……………わからない」

 

どうすればいいのかわからない。

何がしたいのかわからない。

自分が何を考えているのかわからない。

何をすべきなのかわからない。

このままでいいのかわからない。

 

自分が何者なのかわからない。

 

わからないことがわからない。

 

そう、自問し続ける。

 

蒼也は悩みを打ち消すように右手で白髪をくしゃりと握る。強く引っ張られた数本の髪がはらりと抜けて、宙を舞う。

 

木崎蒼也は何者だ。

 

その疑問がグルグルと回り続ける。

 

神は乗り越えられる試練しか与えないと言うが、あの蒼也を転生させたあの神は、蒼也がこの試練を乗り越えられると思っているのか?

 

蒼也には……わからない。

 

「……俺は何がしたいんだ」

 

レプリカはきっと蒼也自身が決めること、というだろう。でも、今の蒼也はヒントよりも答えが欲しい。

迷う自分がしっかりと進めるような道が欲しいのだ。

 

「 」

 

ぼそりと口から想いが溢れでる。その言葉は小さく行った本人にすら届くことはなかった。

 

蒼也は数度ほおを叩き、頭を振ってネガティヴな思考を平常に戻す。

 

今更悩んだって仕方ないだろう。

蒼也は誰とも関わらないという最も最悪で最も蒼也にとって楽な道を選んだのだ。

今更悩んではならない。

 

蒼也は気分切り替えるためにコーヒーでも飲もうと台所へ向かった。

苦いブラックコーヒーでも飲めばいくらか気分は楽になるかもしれない。

 

次の瞬間、世界が変わった。

 

蒼也の目に入る景色が変質したわけではない。

言うなれば勘。

なんとなくそんな気がする程度だが蒼也を確信に至らせる何かがある。

 

実はこれは蒼也の特典の一つである

【感覚強化】の恩恵によるものなのだが、今まで魔法のまの字も触れようとしなかった蒼也に知る由はない。

 

「レプリカ!」

 

蒼也は机に置いてある黒塗りの指輪に叫ぶ。

 

『どうした?』

 

レプリカが指輪からコードが伸びるようににゅーっと出てくる。それを確認すると間髪入れずに質問を始める。

 

「もしかして、使われてるんじゃないのか?【魔法】⁈」

 

『何?』

 

レプリカに珍しく感情を感じさせるえらく人間らしい声だった。

 

『まて、少し探知してみよう』

 

レプリカが無言になったことで蒼也も同じように押し黙る。

 

『探知が終了した』

 

しばらく、3分ほどしてからレプリカがそういった。

蒼也はレプリカに目だけで続きを促す。

 

『結論から言おう。現在確かに【魔法】、正確には【封時結界】と呼ばれる結界魔法が行使されている』

 

「結界……」

 

なぜいきなり結界が張られたのか?

結界と言うからには誰かまたは何かを閉じ込めるために使われたものなのだろうが。いったい誰が、何のためにしたのだろうか。

考えられる可能性はおよそ3つ。

一つ目、転生者による敵対行為。

二つ目、転生者の魔法に蒼也が巻き込まれた偶発的事故。

三つ目、原作が開始した。

 

まず、この中で一番可能性が高いのが三つ目である。

蒼也はこの世界の原作を知らない。しかし、魔法のある世界、と言うからには主人公は魔法使いだと考えるのが自然だ。つまり、原作が開始されているのなら結界が使用されているのは極めて普通だとも言える。

 

まあ、自身のわがままが入っていることも願望も入っているかもしれない。

 

逆に一番可能性が低いのは一つ目だろう。

もし敵対行為なら蒼也のリンカーコアの反応から判断したのだろう。

この結界を発動した人間が魔界側の転生者だとしても、ただ魔力があるからという理由だけで攻撃をしてこないだろう。という、三つ目と同様に蒼也の希望的観測が入ったものだが、あながち間違ったことは言っていないのである。

 

しかし、現実は蒼也の甘い考えを打ち砕く。

 

『ソーヤ、謎の飛行物体がこちらに迫っている』

 

「……俺の存在に気づいてないってのは?」

 

蒼也の質問は即刻レプリカに否定される。

 

『さっきついでにあたりの魔力反応を一通り探ってみたが、周辺どころか結界内にソーヤと術者以外の魔力反応はなかった』

 

レプリカはそこで一旦区切って高度を上げて目線を蒼也の位置まで合わせる。

 

『狙いはソーヤしかいない』

 

そう、蒼也にとって最も残酷な事実を述べた。

 

 

 




わずかばかりのタイトル詐欺になってしまった。
すいません。
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