というか、今回は書いた私でさえ首をひねるところがあるので質問とか来てください。
なるべく答えます。
外の景色が夕焼けで真っ赤に染まる中、ある古いとも新しいとも言えない微妙な部屋では1人の少年が紙をめくっていた。
『ソーヤ、冷蔵庫の食材が底をつく。そろそろ買い出しに行く事をお勧めする』
「うん。わかった」
蒼也は図書館から借りてきた本を閉じて軽く伸びをした。
「レプリカ、今何時」
『5時だ』
蒼也は外をちらりと見て首を振る。
「まだ多分人がいる。もう少し暗くなってからにしよう」
『心得た。ちなみに今日の日没は6時ごろだ』
6時半頃に行こうか、と蒼也は言うと目深にかぶった帽子を壁にかけた。
◆◆◆◆◆
誰も通らなくなった夕暮れを蒼也が一人で歩いていた。
手のレジ袋にはスーパーで買った惣菜やインスタント食品に飲み物などがパンパンに入っている。
蒼也は現在引きこもり生活を送っているためあまり外には出ない。
だから、こうして一度の買い物でインスタント食品などのお手軽に食べられるものを大量に買ってしまうのだった。
蒼也は歩きながら足元に目をやる。そこには夕日によって長く伸びた蒼也一人の影があった。
(いつまでこの生活なんだろうな……)
蒼也の現在の年齢は10歳。
それは日本人ならば普通教育を受けるため小学校に通わなければならない年齢である。
だが、この転生してから蒼也は学校に通っていない。
いや、正確には一年生の時一ヶ月ほど通っていたのだが、蒼也の白すぎる肌、異常なレベルの白髪、灰色の目に学校では腫れ物のように扱われ、生徒は怯え、先生は気味わるがった。
だから面倒くさくなってやめてしまった。
不思議な事にこういうところは前世と変わらないらしいかった。
いや、世界が違うとしても生きているのは人間なのだから異端を排除しようとするのは当たり前の事なのかもしれない。
そうした人の悪意というものは決して慣れず、蒼也は人の目線が向けられることを非常に嫌う。
特に人とは違う白髪を見られることは特にだ。
だから、蒼也は外出の際は、黒のキャップに髪をギュウギュウと押し込み目を隠すためメガネをかける。
人の視線を避けるため、他と違う、この髪を隠すために。
しかしそれでも、蒼也だってこんな生活がダメなことくらいわかっている。
所詮引きこもりなど現実を受け入れたくない子供がやることだ。いつかは外に出なければならない。
でも、そのいつかはいったいいつ来るのだろうか。
いつ、こさせなければならないのか。
そんなことを考えていて注意が向いていなかったからだろうか、蒼也は前方からくるものに気づかなかった。
「うわあっ」
舌ったらずの高い声のものは蒼也の鳩尾に盛大な頭突きをかまして尻餅をつく。
蒼也の方も鳩尾への頭突きを耐えることもできず後ろにひっ倒される。
「いたた……」
蒼也は頭突きをかまされた鳩尾を抑えて、目にかかるうざったらしい白髪をはらう。
前に目を向ければ綺麗な茶髪を可愛らしいピンクのリボンでツインテールにしている少女がおでこを抑えていた。
どうやらぶつかったのはこの少女のようだ。時刻はおよそ6時で、こんな幼い少女がいるのは違和感を感じるない事もないが蒼也にはまったく関係がないことだろう。
蒼也はキャップを目深にかぶり直すため右手をつばへと伸ばす。
そこではたと気づく。
(帽子がない……!)
倒れた時に前髪が目にかかったことで気づくべきだった。蒼也があわてて周りをみるが近くに帽子がある様子はない。
蒼也がパニックを起こしかけたとき頭にポスッと何かを被せられる感覚がした。
蒼也が驚いたように前を見ると、ぶつかった少女が悪戯っぽい笑みを浮かべて蒼也を見ていた。
「さがしものはそれだよね?」
クスクス可笑しそうに笑って少女は肩を揺らした。蒼也は帽子のツバを握りしめうつむく。
「ありがと」
思わず聞き逃してしまうような小さな声だったが、少女にはしっかり聞こえたようでにっこりと笑う。
「どういたしまして」
なんとなく気まずくなって目をそらす。
蒼也はただひたすらに純粋で可愛い笑顔にただただ戸惑っていた。
蒼也は今まで人に陰口や蔑みの目などを向けられる事はあっても、このように笑顔を向けられる事などなかったのでどのようにしたらいいのかわからないのだ。
暇を持て余した蒼也は返してもらった帽子を白髪を隠すように深くかぶり直そうとする。
「ぼうしで隠しちゃうんだね……」
少女が残念そうに言った言葉に蒼也は帽子をかぶろうとしていた手を止めて、何が?と言う風に首を捻る。
「ううん、とってもキレイな髪だったから隠すのがもったいないなぁと思っただけなの」
「綺麗……?」
「うん。雪みたいでとってもキレイな髪だと思うの」
少女はえへへ、と笑いながらそう言って、さらに蒼也に顔を近づけて続ける。
少女との顔が近づいた事でふわりと少女の香りが蒼也の鼻をくすぐる。
「目もとってもきれいだし……。なのはは帽子で隠しちゃうのはもったいないと思うの」
「綺麗?俺が……?」
「うん?そう思わないの?」
思うわけがない。
いま少女が綺麗と称した白髪と灰色の目は、蔑みの対象としかされてこなかった。
人と違って、異常で、気持ち悪い。
そんなものだったのだ。
「気持ち悪くないのか」
ポロリと疑問がこぼれ出る。
その質問に少女は首を傾げた。それはもう心底不思議そうな表情で。
「どうして?なのははあなたの髪がなのはの知ってる中で一番キレイだと思うの」
「でも……」
「あなたはそう思わないの?」
「俺……?」
「うん。あなたは自分の髪がきれいだと思わないの?」
「そんなこと、考えたこともなかった」
ひたすらどうすれば自身の白髪を隠せるか、そればかりを考えてきた。
それを自分の髪が綺麗かだなんて全く考えたこともなかった。
「綺麗、なのか……?」
その時蒼也視界がじわりと歪んだ。蒼也はあわてて顔に手をやるとその灰色の目から暖かく涙が流れていた。
止めようと思って歯を食いしばり耐える。
これ以上見ず知らずの少女に弱みを見せるわけにはいかない。人とはいつ裏切るのかわからないのだから。
突然小さな手が蒼也の頭に置かれる。そしてその手は優しい手つきでゆっくりと蒼也の頭を撫で始めた。
「やめろっ……」
蒼也は驚きのあまり乱暴に少女の手を払った。しかし少女はそんな事は意に返さずさらに蒼也との距離を詰めて頭を撫でる。
「やめろ、よ……」
喋ったせいかまた涙が溢れてくる。喉がひくっとしゃくりをあげた。
「やめないよ」
少女はなおも蒼也の白髪に指を絡ませるように撫で続ける。
「な、なんで」
さらに喉がしゃくりをあげる。
「だって、あなた泣いてるの。なのはもね、とっても悲しいはこうやってお母さんに撫でてもらうの。
そしたらとっても心があったかくなるの」
うぅ、という声が口から漏れる。
涙が我慢できなくなる。
今にも溢れそうだった。
蒼也はずっと求めていた。
優しさを、笑顔を、そして人の温もりを。
自分には決して与えられず、欲しても得る事のできないものを渇望していた。
ついに蒼也の中で何かが決壊した。それは張り詰めた警戒心だったのかもしれないし、長年蓄積された猜疑心だったのかもしれないし、そのどちらでもなかったのかもしれない。
少女は膝をつき声を押し殺して泣く蒼也の頭を撫で続けた。
優しく赤子をあやすように。
優しく、優しく。
◆◆◆◆◆
『……ヤ、ソー……、ソーヤ』
レプリカの声に蒼也の目が開く。
「寝ちゃったのか」
蒼也はこしこしと猫のように顔を擦って自らのほおが濡れていることに気くと、小さく息を吐いた。
(夢、か……)
それは蒼也にとってとても大切な自らへの肯定の記憶。
あの時にあった少女とはあれ以降あっていない。
記憶の中の少女は、声も顔もぼんやりと薄れていくが、たまにこうして夢に見ることがある。
蒼也が壁にかかる時計を見れば、時刻は午後6時37分。少し寝すぎたようだがスーパーは開いているだろうし、差し支えはないだろう。
壁のハンガーラックに掛かったジャンバーを羽織って買い物への準備をする。
『ソーヤ、帽子はいいのか』
帽子、と言われて蒼也は壁にかかった黒のキャップにちらりと目を向けたが、すぐに視線を戻した。
「いや、いい。だって俺の髪……」
そこで一旦息をついて、あの日以来自らの心の支えの言葉を口にした。
「とっても、綺麗、らしいから」
そう言って、柔らかく微笑んだ。
どんどん話が短くなっていく……。
頑張ります。