「んもぅ…、あんなこと言うなんて…反則よ、反則。ちょっと本気にしちゃったじゃない。…やっぱり本当に裸エプロンにしたのはまずかったかしら?」
部屋に入って来るなりいきなり『お前を選びたい』だなんて…2年も会えなかった分ちょっかいかけてやろうと思ってたのに。先手取られたわ。…本心なのかしら?
「…より一層かっこよくなったわね。体付きから何から何まで。」
2年前からは日本で仕事、1年前から世界を飛び回っていた彼。彼が『更識流』を極めたのは私よりもはるかに昔、確か11歳だったかしら。その頃から『神無』襲名に向けて本格的にトレーニングしだしてたもの。
「男の子…よね、やっぱり。」
簪ちゃんの趣味を理解するために見たアニメで『これ使えそう』とか言って『似非飛天御剣〇』を独自に編み出した彼。『俺は剣よりも杖術の方がいい』とか言って移動法のみマスターしようとしていた。確か最後にトレーニングをしてるところを見たときは『神速』を習得しようとしてたわね。
「…どうしてそこまで強さを求めるの?」
ベッドで寝ている彼の頬を撫でる。…実際、『更識』『布仏』最強は伊達では無い。私の槍や簪ちゃんの薙刀、本音ちゃんの近接格闘を教えてくれたのは彼。彼の教えが無ければ私はロシア代表、簪ちゃんは日本代表候補生になれなかったかも知れない。
「学園最強…か…」
彼の前ではその称号を掲げたくない。…昔より強くなったから分かる。生身では彼に到底及ばない。それに…
「精神面ではまだまだ弱いもん…」
小さい頃、修行が辛くて彼に泣きついた。ずっと完璧であることを求められて、溜まったストレスを彼にぶつけた。何かが出来た時は彼に褒められに行った。彼に撫でてもらうと気持ち良かった。彼が『神無』を襲名してすぐ、私も『楯無』を襲名した。…当主としてになって、簪ちゃんに酷いことを言ってしまった時、彼の言葉で私も簪ちゃんも直ぐに仲を取り戻した。
――想いは言葉で伝えるもの。…相手がどう思っていてもそれを受け止め、自分がどうしたいかを話さなくちゃならない。
それは
――お姉ちゃんでも間違えるんだね。
と言ってきた。…流石にこれにはちょっとむかっときたので簪ちゃんをくすぐった。……その後、2人で笑ったっけ。
神無には『もっと俺を頼れ』と言われた。
嬉しかった。私は1人じゃないって思えた。虚ちゃん曰く、そこから少しずつ私らしさが戻ってきたらしい。神無曰く、まだまだお子様らしい。…反論出来ないのが悔しかった。
でも、5人で居る時がとても楽しかった。
だから、だからこそ…
神無が私達の前から居なくなった時は悲しかった。
いつもなら私の寝室の前で気配を探りながら仮眠をしている彼。私の手の回らない仕事を片付けてくれる彼。私に裁縫を教えてくれる彼。何かができたら褒めてくれる彼。
何が原因なのかは分からないけど、彼が居なくなった日、私は一晩中泣いた。全く眠れなかった。3人に聞いても『仕事だから仕方ない』と返された。それぐらい理解はしていた。…でも納得できなかった。…それでも。
「またこうして帰ってきてくれた。…もう私の前から居なくならないで…、傍に居てほしいの…。」
彼の顔をのぞき込む。…数年前とは違い、少し気の抜けた顔。…恐らく、敵意にのみ反応できるようになったのだろう。
「『真実』、また会えて良かったわ。…さて、起きた時ように、ご飯でも作りましょ!」
成長した私を見せてあげるわよ!
◆
「……ん?」
…あれ?…あぁ、楯無の裸エプロン…いや、あれは幻覚だ。それよりいい匂いが…
「あら、起きたの?どうせ食堂に寄らずに帰ってきたんでしょ?…もう少しで出来るから待ってて。」
「あ、あぁ…ッ!?ってなんで裸エプロンなんだよ!」
ビビるわ!…え、も、もしかして…
「な、なぁ…お前俺が部屋入ってきた時もその格好だったか?」
「さぁ?どうでしょう?」
ふふっ、と怪しげな笑みを浮かべる楯無。
「さ、そんなことより〜、出来たわよ。」
「…ん?」
楯無が作った料理は…ごく普通の和食だった。
「……え、えっと…嫌、だった?昔は豪華なのよりそういうのが好きだったから和食にしたんだけど…」
「いんや、大丈夫。…大好物だらけだ。」
「ご馳走様。いやぁ、美味かった。」
「お粗末。そう言って貰えると女の子としても嬉しいわ。」
いやマジで美味かった。…将来こんな嫁がほしい」
「え!?ちょ、今のどういう意味?」
「ふぇ?何が?」
…もしかして声に出てた?ま、いっか。
「…何か久しぶりだな。この感覚。」
「えぇ、丁度2年ぶりね。…改めておかえりなさい。」
「あぁ、ただいま。…この1年どうだった?」
「ん〜、別に大したことは無かったわね。織斑一夏君が世界初の男性操縦者になったことぐらいかしら。」
「…さらにそこに俺が入る、と…」
「…ほんと、厄介事増やすわね。っこのこの。」
両手で頬を引っ張ってくる楯無。
「や、やめ……」
「私ね…貴方が居なくなって寂しかったの。」
「…」
「まさかIS学園でこうして会えるとも思ってなかったし、最悪もう『刀奈』と『真実』としては会えないのかと思った。」
「…まあお互い当主だしな…。人の目があるところじゃ馬鹿騒ぎできないだろ。」
「うん…、あの5人でまた過ごせるのがすごく嬉しいの。だからね…。」
「あぁ、分かってる。もう皆に心配かけねーよ。」
事実、この数年でかなりの傷を負った。俺は『男の勲章』で済ますんだが4人には『無茶しすぎだ』と何度も注意されたのも記憶に新しい。
「約束よ?」
「あぁ、約束だ。」
そう言って差し出された小指に自分の小指を絡める。
「あと、…勝手にいなくならないでね?」
「…わかった。依頼が入ったらまずは内容をお前に見せる。」
『神無』は個人の護衛としても動くことがある。もちろん、国からや企業、個人からの依頼等いろいろある。
「うん、それでよし!じゃ、もう神無も疲れたでしょ?そろそろ寝る?」
「ん?ああ、そうだな。…先シャワー使っていいか?」
「えぇ。」
風呂に入れないのが辛いな。このIS学園は俺と織斑一夏が入学するまでは純度100%の女子高。…つまり風呂も女子風呂。アカン。
…というよりなんだあの織斑一夏とかいう奴は。何故あそこまで俺に付きまとおうとする。…いや…まさか、な…。
楯無→今恋をしていると気づいていない。
神無→???
という感じですな。