何はともあれ眼前の三体、まずはこれを撃滅するべきだ。ここまで陸に近づいてしまった連中を潰しておかない事には、陸上の人々が更に危険に晒されることになる!
「承知致しました。多少サイズは大きいですが、やってみせましょう!このキャスター、海戦如きに怯みは致しません!」
鏡を振り回し、キャスターは砲撃の真っただ中へと飛び込んでいく。サーヴァントとしては脆弱な彼女の体にとってはそう何発も受け止められる攻撃ではないが、宝具たる鏡と彼女の俊敏性の前ではそうとも限らない。
敵にぶつけたり攻撃を受け止めたりと非常に罰当たりな使い方をされる彼女の宝具は、本来であればそのランクはEXにも及ぶ神宝中の神宝。所謂至宝というものである。故にその強度は生半な一撃で破られるものではなく、彼女が押し負けることはあってもその鏡自体が砕かれる余地は無きに等しい。
そして、彼女の敏捷性はランクにしてBランク。総合値で言えばD~Cランク相当程度の彼女にとっては、魔力に次ぐ隠れた長所と言うべきステータスである。
まして奴らの行動はエネミー程度の粗末なものだ。ただでさえ一方向に飛ぶ砲弾を、単純に目の前の敵に向けて撃つだけ。そんな一撃を喰らってしまうような彼女でない事は自分がよく知っている。
襲い来る敵弾を躱し、時には鏡を用いて弾き、いなしながら、着実に彼らへと接近していく。奴らの黒く無表情な貌から焦りを読み取る事は出来ないが、キャスターが奴らを追い詰めていることは確かだ。
「はいそちらさま、懐ががら空きでございます。申し訳ありませんがこのまま・・・」
そこに、自分が後方から的確な指示を出せれば。
「死んでくださいます?」
奴ら程度の敵であれば、仕留めるのは容易いだろう。
「ふふ、うふふ。何だかこの血、脂くさ・・・ってか臭っ!?臭い、脂って言うか油臭いぃ!うわーん助けてくださいご主人様ーーー!!」
・・・相変わらず緊張感がないのは彼女の病気みたいなものなので仕方がない。それより、今はあとの二体を倒す事が先だ。
「勿論です。ですがここは一旦距離を、っと」
言い終わるか否かのタイミングで、左右からの砲撃を回避する。削られた波止場から大きく粉塵が上がり、キャスターの姿はすっかり隠されてしまった。好機だ、キャスター!!
「承知しましたご主人様!よいしょーーーーーーーっ!!!」
気合一発。盛大な雄叫びをあげたキャスターが両腕を天に掲げ、彼女自慢の宝具を振り回す。どういう原理か、キャスターの周囲を一周・二周と回転する度に、勢いを得て彼女の鏡は威力を増していく。
ただでさえ鋭利なその鏡はいよいよ切れ味を充実させ、容赦のない一撃がついに怪物の横っ腹へと叩きこまれる。目標を見失い茫然と立ち尽くしていた敵にはこれを避ける手段など無く。一体目に突き刺ささった宝具は、そのまま敵を貫通して二体目へと直進する。
連中もかかしではない。反射的に味方が砕け散った方向へ向けて砲撃を行ったが、それも無意味。あれだけ大きな隙を見せてしまったのだ。半端な防御礼装程度ならば容易く切り裂いてしまえるほどに強化されたキャスターの一撃は、最早あの程度では止まらない。むしろ砲弾すら真っ二つに両断し、最後の一体へと押し迫る。
これで最後の一体にトドメを―――――
「―――――!!!ご主人様、お下がりをっ!!」
――――――っ!!!!
突如として襲来した爆炎と暴風によって、その場の全てが一時の空白に包まれた。
「――――!!―――――――!!!!」
まさに寝耳に水。勝敗が決するというその瞬間に差し込まれた、熱と音の暴力。
咄嗟に自分をかばったキャスターのおかげで、自分の被害はその場から吹き飛ばされるに留まったのだとに気付いたのは必死の形相で自分の容体をチェックするキャスターが目に入ったのと同時の事であった。
「―――様、お気――か―。ご主人様!!」
やや音が遠いが、まるで聞こえないというほどではない・・・。恐らく一過性のものだろう。両の手を軽く握ってみても―――よし、感覚の齟齬はない。
うん、自分は大丈夫だ、キャスター。
そう返事をして状態を起こす。・・・覆い被さられたままでは自分の足で立つ事も叶わぬので、出来ればそこをよけてはくれな
「―――あぁ、良くぞ、良くぞお気を取り戻して下さいました・・・!!」
むぐっ。有無を言う暇もなく、キャスターに強く抱き締められる。大きくも収まりのよい、突けば弾くようでいてやさしくこちらを包み込む形のよい乳房を顔面に押し付けられては胸の一つも高鳴ろうという・・・待て待て、今はそんな事をしている場合ではない。
「はっ!?あわわわわ、申し訳ございませんご主人様!!まずは落ち着いて深呼吸、深呼吸プリーズ?」
すー。はー。すー。はー。
うん、落ち着いた。すわバラバラ死体かとも思ったが、何とか一命を取りとめたようだ。外傷も内臓へのダメージも少ない。まだまだ自分は大丈夫だ。
しかし、今自分の身に起きたのは何だ。いや、何が起きたかは明白だ。電脳体とは便利なもので、爆発の衝撃くらいでは気を失っても記憶は損なわない。
事の真相は単純。キャスターの攻撃が炸裂するほんの一瞬前に、鏡に砲撃が着弾。その爆発に自分はまきこまれたのだ。
より問うべきはむしろもう一つ。今の一撃は一体『何者から』放たれたものなのか。
先程までいた怪物――最後の一体はキャスターの一撃には貫かれなかったものの、爆発に巻き込まれて結局爆散したようだ――による攻撃でない事は確かだ。やつらの火力を明らかに上回る一撃であったし、あのような一撃を放つ余裕があったとも思われない。
而して、周囲を見渡してそれらしき敵の影は見受けられないが・・・
「情けない限りではありますが、私も同様にて―――いえ、あそこに御座います!!」
あそこ!?
いや、しかし敵影などどこにも――――
「よく目を凝らしてご覧下さい、あの水平線ぎりぎりのポイントです!!」
水平線・・・視力を強化しても、ぎりぎり視えるか否かという地点だ。
使われなくなって久しい、半ば持ち腐れになりかけていた魔力回路を起動する。忘れかけていた、見えない何かが全身に満ちて行く感覚。その滾りを両の眼に纏め上げ、キャスターの指し示すモノへと精神を集中する。
―――なるほど。確かに見えたが、これは。
「・・・えぇ。正直に申しまして、今の私達には打つ手がございません」
視界に漸く捉えられたものは、更なる異形。
先程の怪物を二回りも上回るサイズに、鈍色にギラつく砲塔部分。その数は確認できる分だけでも大小含めて8門を数え、その砲撃能力が今までの比でない事を容易に窺わせる。
極め付けには、その体。ヒトの顎らしきものが上下に分かれ、喉の奥から女性が這い出している。頭部はやや小さな上顎部ですっぽりと覆われており、その表情を察する事は出来ないが、まさか微笑みを浮かべているという話もないだろう。まるで機械と生体をぶつ切りにしてぐちゃぐちゃと混ぜ合わせたパーツをそれらしく受かべた様な、正に化け物。本能的な嫌悪感を煽る奇怪なフォルムに、思わず目を背けそうになる。もしもあのような形状を取る理由がこちらの精神を揺さぶる事ならば、その目的は大いに達成されていると言ってよいだろう。
見れば、ヤツの右腕側に備えられた砲塔から噴煙が立ち上っている。これはまさしく、つい先ほどの砲撃を行ったのは彼女であるという動かぬ証拠だろう。サイズ自体はそう非常識なものとは思われない。小柄なキャスターと比べても恐らく同程度、おおよそ常識的な人間サイズであるはずだ。
それにも関わらず、あの距離から、あの威力の砲撃。はっきり言って、旗色は相当に悪いと言わざるを得なかった。
どうにかして奴の隙を見つけなければ。
しかし、敵は悠長に待ってはくれない。自分たちの無事を認めると、今度は左腕側の砲をこちらへゆっくりとかざし始める!
「くっ・・・!ご主人様、お下がりを!こうなれば致し方ありません。このキャスター、未だ奥の手は隠しておりますれば!出番ですよ、愛しの黒天洞ちゃ」
「ほいさっさぁーっ!!」
「んどぅーるっ!!」
まさに窮地、防戦一方となるかと思われたその時。キャスターの頭を踏み台に、一人のセーラー服少女が戦場へ乱入した。
「おのれ悪の深海棲艦め!この漣が成敗してくれます、トゥッ!!」
この場に合わぬやけにテンション高めな決めゼリフに続けて、少女は何かを発射する。見れば敵の方も注意を完全に少女の方へと変更し、迎撃態勢を整えていた。
いや、まぁあれだけ騒いでいれば当然なのだが。とにかくチャンスには違いない、キャスター!
「な、なんかよく分かりませんが隙が出来たのはその通り。今のうちです!氷天よッ!!」
自分の様な凡百の魔術師には決して読み解く事のできない、複雑な文様の刻まれた符を海へ投げ込んでキャスターは高らかに唱える。それは彼女の最も得意とするところである『呪術』。彼女自身を素材として生み出されるその術は、通常の魔術とはその性質を根本から異にする。
純粋な物理現象として放たれるその術は対魔力による減衰を受けず、たとえ大海原が相手でもその効果は変わらない。
キャスターの唱える『氷天』、その意味は氷結現象。その影響を受けた海面は一瞬にして凍り付き、キャスター一人乗った程度では壊れない強固な足場と化していく。
「どりゃあああああああ!氷天!氷天!氷天氷天氷天氷天、も一つおまけに氷ッ天ッ!!!えぇーい何でもいいからとっとと凍り付きやがれ☆」
声を荒げて呪を唱える姿は何と言うか、身も蓋もあったものではないがそれはそれ。優雅さなどかなぐり捨てて、数秒前まで勝機の見えなかった敵へとキャスターは突進する。
よし!乱入者が何者かも気にはなるが、現在この場の流れがこちらへ向いているのは確かだ。このまま一気に攻め立てれば・・・・
「ぎゃ~~~~っ!?ちょっと何してくれてんの!?折角の魚雷が全部凍って沈んじゃったんですけど!ここは漣の出番なんですから、モブは退がっててよね!」
「あだぁっ!!」
!?
な、殴った!?殴ったぞあの少女、何の前置きもなしに思い切り、キャスターの後頭部に思い切り拳骨をぶち当てた・・・!
「なっ、んななっ何しやがるんですかこの野蛮人!!第一先程もいきなり人の頭を踏み台にしおってからに、何ですか?天は人の上に人を作ったとか言っちゃうタイプ?」
「なんですとこの淫乱ケモ耳!何なのその耳と尻尾?キャラ付け?キャラ付けなの?それともただの痛い子なの、死ぬの?」
「ぶち転がしますよまな板娘!て言うか何故に淫乱ですか!?」
「ピンク髪は淫乱って相場が決まってるんですぅー!あとあんたはまな板のスゴさを全然分かってねぇ!」
「あなたもピンク髪でしょうが!」
け、喧嘩をしている。あの二人、あろう事か敵を目前にして、至極どうでもいい内容で口汚く相手を罵っている。
・・・何と言うか、漫才をする余裕があるのなら敵の方も向いていてほしいものである。いや、あれでも一応敵の攻撃を避けているのはさすがなのだが。
二人で言い争いながらジグザグに移動しているお蔭で、敵は却って狙いが付け辛くなっている様だ。思わぬ戦術的意義があった事に驚きを隠せないが、まぐれだろう。間違いなく。
とにかく、非常に馬鹿げた言い争いを続けながらも二人は敵へと距離を詰めていく。あそこまで接近できれば、最早あの高威力砲撃も大した意味を為さない。よし、このまま決着を、
「上等じゃいこのボンクラァ!なんなら先にそっちを沈めてやんよ!」
「馬鹿な事仰らないで下さいます!?私が本気出したらあなたが私に勝てるわけないでしょう!!」
―――――え。
―――――えぇ!?
あまりにあり得ない事態に、少々硬直してしまった。あの二人は何を考えているんだ!?あそこまで敵に迫っておいて、敵を目前にして緊急停止&口論開始とはどういう了見なんだ!
見れば、敵もこれ幸いと全砲を二人の前に突き出して砲撃の準備を始めている!二人共、今は争っている場合などでは――――
「「うるっさいんじゃ(です)、あなたは引っ込んでて下さい(まし)!!!」」
自分が静止に入るか否か、二人は完璧に同時のタイミングで敵を睨み付ける。
自分へ向けられた砲塔など意にも介さず、キャスターは思い切り力強く踏み込み、必殺の間合いへと入った。仮にも魔術師たる彼女が、わざわざ自ら近接戦闘を挑む必要性がどこにあるのか。
・・・その答えはマスターたる自分なればこそ当然の様に知っている事であるが、同時にある意味で彼女の神髄を突くだろうその一撃から目を背けたくもなるというものだった。
「一合!二合!!とぅっ!!」
そんな自分の心配――キャスターが怪我をしないか、という様な話では断じてない――を他所に、瞬く間に相手の懐へ飛び込んだ彼女は、相手が身構える間すら許さずに初段のローキック、次段のハイキックを叩きこむ。完全に無防備な体勢から渾身の二度蹴りを喰らった敵は、完全に空中へと放り出された。
「ナイストス、キタコレッ!酸素魚雷、一斉発射ぁーっ!!」
そこへ空かさず、謎の少女が円筒状の物体を打ち込んでいく。その物体は動く敵へとぶつけるには些か速度に乏しく思えたが、身動きの取れない空中にあっては関係ない。
その間に2~3度のバックステップからのハイジャンプをかましたキャスターが、異形とその物体の諸共に照準を定め、右脚を大きく突き出した渾身の飛び蹴りを超高高度から叩きこむ。
「大☆天☆罰!!」
ぎゅぴーん。
どこから聞こえたとも知れぬサウンドエフェクトをバックに、いやに派手な煙と爆炎を伴って爆散。
キャスター最強の必殺技である呪相・玉天崩と、その爆発にあの物体――セーラー服少女は『酸素魚雷』と叫んでいたが、まさか本物の魚雷なのか。魚雷って宙に放るものではなかった様な――が誘爆、連鎖的な大爆発というあまりにもあまりな一撃を受け、文字通り粉々に砕け散った死体からは血の一滴も流れては来なかった。
何と言うか。つい先ほど出会ったばかりにしては息がぴったりすぎるのではないか。荒れ果てた港は一体どうしたものか。あの敵は結局何者だったのか。そもそも君はどこのどちら様なのか。
疑問や謎はいくらでもある筈なのに、それを追求する気には全くなれなかった。
「今の爆発みたっしょ?喧嘩するだけ時間の無駄だと思いますけどねー!」
「吠えてなさいこのねらー娘が!第一私が起爆して差し上げたからこそのあの威力でしょうが!」
「アーアーキコエナーイ。て言うか漣も自分で打ち抜けばあれくらいできたし!調子乗んなしこのおばさん!」
「よっしゃ話し合いは無意味みたいですねー。さくっと丸焼きにして差し上げますからとっととかかってこんかいおらー!!」
もう本当に、半分以上廃墟と化した港をバックに言い争うダブルピンクを見ているだけで、精神的疲労が全てを上回っていった。
2尾目にして早くも漣と出遭うことが出来ました。
今回はエキシビジョンマッチ同然の戦闘描写ですが、今後どれくらいしっかり書いていくかは反応を見てという事で。
今回から、非ログインユーザーからも感想を受け付けました。
何分初投稿ゆえ分からない事が多いので、システム面で何かやらかしがあれば一言教えて下さると幸いです。