ご主人様が鎮守府に着任致しました!   作:アメリカシロヒトリ

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第4尾 タマモの異様なテンション~またはタマモは如何にしていがみ合うのを止めて漣と和解する事になったか~

 振り返ってみれば、朝から今現在に至るまで、今日という日は驚きの連続だった。突如として起こった未知なる敵の来襲。それに呼応する様にして現れた謎のセーラー服少女、漣。そして、彼女と交わされた一連の問答。

そのどれもが、一つ一つでも十二分に異常な事態であった事に疑いを挟む余地はない。だが、現在進行形で体験しているこの新感覚サーフィンこそ、或は本日一番の驚嘆すべきじじ

 

 

「ちょぉっとお待ちを、漣さん!?さっきから、バシャバシャと私達に潮水がかかってるんですけど、潮水がっ!お肌が荒れたり服が駄目になったらどうしてくれやがるんですか!?」

 

「うーるっさいなあぁ!何さ、あんたらがトロトロしてるからこうして善意で運んであげてるのにさっきから文句ばっかりべらべらべらべらと、そんなんじゃいつか旦那様に愛想尽かされるよっ!」

 

「よしころーす。ご主人様、こんな女に最早用はございません。即刻、処刑タイムといきましょ・・・って痛いぃ!痛いですぅ!」

 

 

 うん、君は少し落ち着こうね、タマモ。一度漣に付き合うと決めたんだし、中途半端は許されない。こうして彼女の世話になってるのも、彼女の言う通り自分達が海上を行く術がなかったからなんだし。

 

 

「それは・・・ぐぬぬ、その通りでございますが・・・」

 

 

 不承不承、とった様子で黙り込む愛狐。正直言って申し訳ないような気もするが、こちらは漣に手を煩わせている身なのだ。身内びいきを避ける意味でも、ここは厳しくいくべきだろう。・・・少々仕返しが怖いが。

 

 

 さて、現在自分達が進んでいるのは陸路ではなく、海路だ。漣の口振りから察するに、これから向かう場所は軍事基地の様なものと考えて相違ない筈。『鎮守府』というのが何なのかいまいちピンと来ないが、少なくとも開発の進んだ――つまり、人の手と目が大いに行き届いている筈の――あの港町周辺にそんな派手な基地が存在するとも思えない。だとすれば、こうして海を行く事に何の違和感も疑問もない訳だが、問題となったのはその移動方法だった。

 自分達は先の聖杯戦争に於いて勝者となった身ではあるが、その権威を振りかざす様な生活をむしろ嫌って片田舎に居を構えていた。そんな自分達が、仮にも軍船なみのスペックを誇るであろう彼女に着いて行けるような性能の船舶など所持している筈もなく。かといって行先も分からぬのに、またぞろタマモに海面を凍らせてもらって進むというのも、自分がコードキャストで支えられる分を含めたとしてもあまり現実的ではない。

 

 と、八方塞がり気味になったところで、本日最高のドヤ顔をキメた漣から提案を受けたのである。『そんなら私が二人を背負っていきますか!』、と。

勿論、それはいくら何でもと一度は断ったのだ。見るからに軍人然とした、それこそフランシス・ドレイクの様な女傑ならばまだしも、彼女の外見はあくまでも可愛らしい少女のそれだ。仮にそんな申し出を受けたとしてもおいそれと受けるわけにはいかない話である。

 

 而して恐ろしきは艦娘たる彼女に秘められたパワーか。ものは試しだと勧められるままに漣に担がれてみれば、彼女は何のこれしきとでも言いたげに易々と海上を走って見せた。彼女の側に無理をしている様子などはなく、むしろ揺れも少なく快適だったくらいだ。

 その様子を見ていたタマモから微妙に殺気の籠った視線を送られたりはしたものの、一応は漣に運んでもらう有用性を認めたタマモをもう片方の肩に担ぐ事によって何とか解決。こうして、自分達は大海原を行くに至ったわけである。

 

 

「はぁ。せめてこの尻尾があと一つもあれば・・・いやいや、それだとあいつらがまた出てきてしまいますし。えぇい、9本残ってるうちに1尾でフルスペックを発揮出来る様にでもしておけば・・・」

 

 

 何やらブツブツと危ない事を呟くタマモを敢えてスルーして、自分は漣との会話を続ける。

 

 

「・・・てなわけで、私達駆逐艦のメイン火力はこの酸素魚雷。こっちの連装砲と比べてコストはかかるし本数にも限りはあるけど、その分威力には自信アリ!ってね~」

 

 

 なるほど。この連装砲というのはサイズや砲塔の長さから言って、あの怪物(駆逐イ級、と彼女は呼んでいるらしい)が口から放っていた砲弾と同威力のものと見てよいのだろう。

それで駆逐級を蹴散らした後、その魚雷であの半人半機械の方を倒す手筈であった、と。

 

 

「ん?あぁいや、それは多分無理かにゃ~」

 

 

 なに―――――?

無理と、今、君はそう言ったのか?

 

 

「そ。さっきのヤツは軽巡クラス。駆逐クラスの漣じゃあ、砲火力も装甲も耐久力もあと一歩及ばないんですなぁ、これが」

 

 

 しかし、さっきは自信があると言っていたじゃないか。

 

 

「そりゃあ、攻撃を当てられればね。でもあっちだってデクの坊じゃないのよ。奇襲強襲何でもアリの夜戦ならともかく、真っ昼間に正面からの殴り合いじゃあとてもとても」

 

 

 駆逐艦一隻の手にゃあ負えませんやなぁ、と。まるで冗談めかして彼女はそう言った。

 

 彼女が言っている意味は、つまりはそういう事だろう。喩え敵わぬ相手だろうと、無事に帰れる保証がなかろうと関係はないと。ただ、深海棲艦と呼ばれるあの異形を殲滅する為に、躊躇もなく馳せ参じたのだと。

 全くふざけている様でありながら、その実些細な拍子で血生臭い一面を覗かせるところが、少しタマモと似ていると思った。

 

 

「ナハハ、そんなに立派なもんじゃあないのヨ。ただ単に、意地みたいなものだから」

 

「・・・漣さん。私、もしや貴女の事をごか」

 

「あっ、鎮守府に着きましたよお二人さん」

 

「止めないで下さいご主人様!今こそ世の為人の為月の大自然を守る為、この悪逆非道の残虐超人に光の鉄槌をばーーーーーーーっ!!!」

 

 

 どう!どう!こ、ここで暴れられると自分にまで被害が及ぶ!それに今、多分漣は大事な事を言っている!

 

 

「鎮守府なんて知った事ですかっ!今はとにかくこのマセガキに天誅を、一心不乱の大天誅をォ!!」

 

「だぁーーーーーもうっ!さっきからうるさいし!そんな耳元でぎゃんぎゃん騒がれたら、機関の調整ミスっちゃう、じゃ、あっ」

 

「あっ?」

 

 

 あっ?

 瞬間。正面を向いていた筈の視界が90°上方に急旋回。あぁ、星が見えてきたなぁ。もうこんな時間になっていたのか。ここは街から相当に遠く離れた地点だし、さぞ綺麗な星が見えるだろう・・・と。そこまで考えたところで、自分達は頭から真っ逆さまに落下した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 重い。

 

 空気の重さが尋常ではない。

 

 誰一人として一言も発することなく、赤レンガの建物――漣曰く、これが『鎮守府』だそうな――へ向かって歩を進める。長い船旅(?)を終えてやっと陸に着き、目的地を目前としながら何故にこの様な空気に包まれなければならないのか。その理由は、今の自分達の有様にある。

 

 先程のゴタゴタの中で、集中を乱した漣がエンジン操作を盛大にミス。それまで海面とぴったり着いていた筈の両脚が盛大に空を切り、自分達は海面へと思い切りよくスッ転んだ。

ただでさえ日が沈んできたと言うのにこの濡れ姿では、夜風が体の芯まで沁みて行く。正直少し泣きそうだった。

 

 せめて多少なりとも暖を取れればと、出力を最低に絞った呪相・炎天を焚いてもらっている。本来なら炎天を使うタマモを中心とし、自分と漣がそれを囲む形になるべきなのだろうが、タマモと漣が頑なに隣り合うことを拒んだために、自分を真ん中として、タマモが符を持った腕を伸ばすという不自然な体勢となってしまっている。

 

 

「あーあー言わんこっちゃない。寒いなー、寒いなー」

 

「ぐぎぎ・・・ですからこうして、火を分けてあげてるじゃないですか」

 

「いやー、誠意が感じられないにゃ~?言うてみ、ごめんなさいって言うてみ?この漣に言うてみ?おん?」

 

「むきいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 あつっ!!あ、熱い!タマモ、火力!火力がおかしい!か、顔が焼けそうなのだが!

 

 

「あばばばばばば!?も、申し訳ありませんご主人様っ!!はい、ふー。ふー」

 

 

 ひ、酷い目に遭った。顎が軽く焦げた様な気がする。

 

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!ワロス!ワロス!メシウマすぎワロタっ!!」

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛~~~~~っ!!!」

 

 

 薄々、本当に薄々思っていた事だが、この漣という少女、なかなかによい根性をしているものだ。確かに自分達が濡れ鼠と化したのは、タマモが騒いだところに依るものが大きいのは確かではある。その弱みに付け込まれては如何なタマモと言えども、強く言う事もできずに毛を逆立て唸る程度の事しか出来はしない。ほんのちょっぴり良識を残している愛妻の姿はなんとなく可愛らしかった。

 

・・・あと、それを笠に着てここまでタマモの神経を逆撫でできるその心根には、一周回ってある種の尊敬にすら抱く。無論見習うべきはその度胸であり、面の皮の厚さについては、ウチの愛狐にこれ以上重ねたら皮が千枚張りを通り越して万ま

 

 

「ごしゅじん さま。 なにか おっしゃいまして ?」

 

 

 いえ何も!!

 

 

「ククク・・・あんた達、本当に面白いね」

 

 

 いや、何を他人事の様な顔をして笑っているのだろう。事の発端はウチのタマモだが、それを複雑にしたのは明らかに君なのだが。

 

 

「あはは!ごめんごめん、怒らないでちょ?ほら、丁度間宮さんも見えてきたし!」

 

 

 そう言って、漣は俄かに歩くスピードを上げる。その口角はうっすらと持ち上げられており、『間宮さん』に行くのはよほど上機嫌になる事柄らしい。

 

さて、いい加減君のマイペースには慣れたものだが。一応聞いておくと『間宮さん』というのは一体何の事を指す言葉なんだ?

 

 

「行けばわかるっ!」

 

 

 これだった。いっそ清々しいとすら言える。

如何にもご機嫌な漣とは対照的に、タマモは終始ペースを握られている事が余程気に入らないと見える。不満げな様子を隠す事すらせず、思い切り漣へガンを飛ばしながら舌打ちをしまくっている。未だ負い目が彼女の中で優勢らしくはっきりと不平を述べる事はしないが、単なる怒気が少しずつ殺気に置き換わっていく様を横で見るのはかなり肝が冷える。あと、また上がってますよ。火力。

 

 

「いっそ全て燃えてしまえばよいのですっ!!」

 

 

 果てしなく物騒だった。漣が漣なら、タマモもタマモだ。

 

 

「ご主人様にはタマモの気持ちがお分かりにならないのですか!?こんなポッと出のピンク髪にいい様にされて、く゛やしくはならないんですかっ!?もう私は我慢の限界にございます!!不肖、このタマモ!今この時よりこの尻尾に懸けてお誓い申し上げます!この屈辱、この怒り!未来永劫に渡って、決して忘れることはないだろうとぉーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在自分達が座っているのは、和の風情が全面に押し出されたそこそこの大きさの甘味処、そのテーブル席である。漣に導かれるまま、赤レンガを完全に無視して踏み込んだ、漣曰くの『間宮さん』の店内であった。

 

 

「きゃーーーーーーーーっ☆見て下さいましご主人様!!何ですかコレ、いいんですかコレ?採算とかカロリーとかそーゆープロブレムはこの際関係ナッシングなんですか!?こんなヤッバいパフェを目の前にしてはこのタマモ、理性など因果地平の彼方へ置き忘れてきてしまいます☆」

 

「いいんですよぉタマモっち。そしてぇ、更に漣のパフェも加わって倍率どーーーーーーーん!」

 

「キターーーーーーーーッ!!ちょ、ちょっと漣さん!そのショコラ的部分、おひとつ私に頂戴な?」

 

「いーよー。そんかし白玉とトレードしてね!」

 

「応さご遠慮召されるな!」

 

 

 いや、君達仲良くなりすぎではないのか。特にタマモ、その尻尾に懸けた誓いとやらはどこに行った。確かにあのまま険悪なムードでは困るが、この落差はいくら何でも想定外を通り越して常識外れのそれだろう。

 

 

「それではそれでは、いただき、ま~~~~ふっ」

 

 

 聴いちゃいない。流れる様に注文された超弩級サイズのパフェから、これまた大きな一口を切り出してタマモは思い切りよくかぶりついた。『私、幸せです☆』とでも言いたげな表情でもにゅもにゅやっているのを見せられると、許してしまいそうになるのがズルいと思う。

 

 

「・・・どうよ?」

 

 

 答えは知っているけどね、とでも言いたげな表情で漣が問う。

 

 

「・・・・・・・・・おぉいしいですねぇ~~~~~っ!何て言うんですか?この?キメ細やかーなクリームと?丁寧に丁寧に濾された?餡子が?うまぁく絡んで?口の中で溶けあう様でいて互いを邪魔しない?且つ食道に重たくないこの完璧な調和?しかも、この、ふうーつが、いいあんあいをはんみをへいこうひへ、もうとめあえあえん!!」

 

「でっしょ!へいっ」

 

「えいっ」

 

「「あぁーーーーい!!」」

 

 

 最後の方はもう色々支離滅裂になりながらも、すっかり意気投合したダブルピンクが熱い友情のハイタッチをかます。ちなみに漣はデラックスギガサンデー、タマモは超級あんみつ丼なる品をそれぞれ注文していた。

極上の笑顔を浮かべてスイーツを突っつき合う女子二人という如何にも絵になる光景に、思わず顔が綻んでしまう。そもそも自分達は一体何をしにここに来たのだったかと考えたが、今それを言うのは無粋だろうな、とも思った。

 

ちなみに自分が食べているのは普通の串団子。本当なら辛味が食べたい所だったが、看板に甘味処とある通り甘いものはあっても辛いものが置いてあろう筈もなく。「こっちでそれはちょっと」、と普通にお断りされてしまった。残念だが、仕方がない。

 

 

「ふふふ・・・あれだけ喜んでくれれば、私も作った甲斐があるわ」

 

 

 そう言って自分達の座る席近くに佇んでいる女性こそ、この甘味処の店主。漣がこの店を『間宮さん』と呼んでいたのはつまるところ、この店の象徴である彼女が間宮さんその人である、という訳だった。

 しかし、少し申し訳なく思ってしまう。普通ならば、このテの店というのは遅くとも夕方には店じまいするのがお決まりな筈である。にも関わらず、日も暮れようという時に入店した自分達は迷惑な客だったのではなかろうか。

 

 

「あら、そんな事はありませんよ?いつもは漣ちゃん一人で寂しいくらいでしたから。これから皆さんでこの鎮守府を賑やかにして頂けたら、私も嬉しいです」

 

「あーいや、間宮さん、この人達にはまだ・・・」

 

「え?あ、ごめんなさい!私、余計な事言っちゃったわね」

 

 

 何だろう、またもや自分が置いてけぼりにされたまま話が進んでいるようである。頼りのタマモは完全にパフェの甘みにやられてふにゃふにゃに溶けきっており相談も出来ないし、この場は流されておくしかないか。

ひとまずは間宮さんの謝罪を受け取り、その上でわざわざ謝ってもらうほどの事ではない、そもそも自分は何故謝られているのか分かっていないのだし、そんな自分に頭を下げられては却って息苦しい・・・と、そう伝えた。

 

 

「うぅん、それでも、ごめんなさいね。それじゃあ、漣ちゃん?」

 

「うん。どっちみち、早い方がいいからね」

 

「見込みはあるの?」

 

「そこは、漣の審美眼を信用して頂くということで」

 

「まぁ!全く、随分言うようになったんだから」

 

 

 変わらず、やはりこちらを置いてけぼりにしたままで会話が続いていく。一応何らかの決着を見たらしい物言いだが、一体何の話をしていたんだ?

 

 

「うん。これ食べたらね、いよいよ本日のメインイベントの始まりよ」

 

 

 メイン、イベント?

 

 

「そう!」

 

 

 急に立ち上がった漣は手に持っていたスプーンを天高らかに掲げ、今日一番のドヤ顔(記録更新)でこう宣言した。

 

 

「これから、岸波サンには『工廠』へ向かってもらいます!!」

 

 




ムーンセルの手を逃れたハクノを待っていたのは、また地獄だった。
希望の後に住み着いた欲望と暴力。
聖杯戦争が生み出したソドムの街。
怒りと悲しみ、絶望と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた
ここは衛星のゴモラ。

次回「建造」。
来週もハクノと地獄に付き合ってもらう。



という訳で、書き溜めもなくなったので次回からは隔週投稿くらいのペースになると思ってください。
いや、なんのかんの言いつつ早速明日にでも投稿する可能性もありますが。
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