第1話「懐かしき学舎」
1
煙草を吹かしながら投げられる細く鋭い視線が、国際線の降り口から出てくる客、1人1人を捉えていく。
普段から数多くの人が行き来する中にあって、その全員を確認するのは、ほとんど不可能に近い。
だが、男は構わず、目的の人物を探し続ける。
吐き出す煙に、隣のご婦人が迷惑顔をするが、男にとってそんな物、狸の置物程度の価値しかなかった。
先月、昇進試験に合格して、巡査部長から警部補に昇進した
極東戦役終結。
その情報は外務省のみならず、欧州に潜入していた外事警察官からももたらされている。
だが、それが全ての終わりではない事は、斎藤自身、誰よりもよく判っていた。
確かに、形としての極東戦役は終わった。その存在は最後まで一般に知られる事はなく、日本という国家への被害も最小限に抑えられた事は喜ばしい事である。
だが、第二次世界大戦が終結した後、日本軍やドイツ軍の残党の多くが活動をつづけたように、戦いを続けようとする輩は必ずいる。更に言えば、紛争に乗り遅れた連中が、「おこぼれ」に肖ろうとして、砂糖に群がる蟻のように、意地汚く勝者へ這い寄ってくる可能性もある。
それを考えれば、油断している時間は1秒たりとも無かった。
やがて
「・・・・・・・・・・・・チッ」
出てくる人ごみの中に目的の人物を見付け、一馬は舌打ちを漏らした。
何の事は無い。相手は自分達の存在を隠す事も無く、堂々とゲートから歩いて出てきたのだ。ひときわ目立つ巨体を見せ付けるようにして。
間違いない。欧州戦線での報告にあった、眷属の残党たちだ。
大女は、腕の中に少し小柄な少女を大事そうに抱いているのが見える。
周囲にいる女たちも、間違いなく奴等の仲間だろう。
古来より、俗に言う「鬼」と呼ばれる連中がいる事は知識として知っていたが、アレ等がそれに当たるのだろう。
戦役が行われている間、この東京近郊には鬼払い結界なる、あの手の連中を退ける結界が張られていたのだが、つい先日、それが解除されたらしい。その途端にこれである。
一応、周囲には一馬の他にも、数名の0課刑事が張り込んで見張っているが、その全員に対し、手出し無用の命令が来ていた。
相手は常識外の力を持った連中だ。仮に挑んでも返り討ちに遭うのがオチである。
この中で互角以上に戦えそうなのは、一馬くらいの物だった。
「来ましたね、主任」
「ああ」
傍らに立った同僚の言葉に、一馬は頷きを返した。
今は一馬の部下として、組織時代に得た諜報能力を存分に駆使している。
あの鬼たちの入国を事前に察知したのも、由美の手腕に拠る物だった。
「連中の行先について、何か判ったか?」
「今のところは何も。相手が人間でないとあっては、その行動を予測する事も難しいようです」
鬼の行動パターンを、こちらの予想に当てはめるのは、ほぼ不可能に近いと言う事だろう。
人ごみの中に隠れても、尚、鬼たちの姿は遠目に見えている。特に一際大きい大女などは、周囲を押しのけるようにノシノシと歩いていた。
「行くぞ」
タバコの火を灰皿に押し付けると、一馬は由美を引き連れて鬼たちの後を追う。一定の距離を開けつつ、追跡を行うのだ。
やがて、
気配を隠そうともしない鬼たちとは違い、一馬と由美の気配は、人ごみに隠れ、すぐに見分けがつかなくなった。
2
欧州から戻って翌日の事だった。
3学期の、それもかなり中途半端な時期だと言うのに、友哉達2年A組は、転校生を迎える事となったのだ。
4月のアリア、5月の茉莉、9月のワトソンと彩夏に続き、通算で5人目となる転校生である。
多すぎると言えば、かなり多すぎる数字ではあるが、今回ばかりは仕方ないと友哉は思っていた。
ぶっちゃけ、友哉には誰が来るのか、この先の展開が読めている。
まあ、師団か眷属、そのどちらかから武偵校に梃入れがあったのは間違いないだろうが、それでも概ね、理想通りの形になった為、友哉としては満足行く結果だった。
やがて、入ってきた女生徒を見た時、
友哉は、自分の予想が外れていなかった事を悟った。
「リサ・アヴェ・デュ・アンクです。この2年A組の
リサは極東戦役の停戦条約により、師団、と言うよりもキンジに譲渡され、今も寮でキンジに仕えている。それを考えれば、彼女もまた武偵校へ編有してくるのは自然の流れであると言えた。
救護科、と言う選択も、実に彼女らしいだろう。生来、戦いを望まないリサであるが、医療知識は若干ながら持っている。救護科なら、彼女の能力を十全に発揮できるはずだった。
丁寧なあいさつをするリサに対し、クラス中から喝采が起こる。
礼儀正しく控えめなリサの態度は、クラス内で一気に溶け込んだ感があった。
荒くれ者の多い武偵校の中にあって、ある意味「癒やし」的な雰囲気のあるリサは、人気が出る事間違いなかった。
それに、
友哉は隣の席をチラッと見る。
すると、茉莉が目をまん丸くした状態で、口に手を当てて驚いている。
視線の先には、クラスの皆から質問攻めにあっているリサの姿がある。
イ・ウーで同期だったリサが転校してくると言う事態は、茉莉にとっては青天の霹靂に近かったのかもしれない。
しかもリサの話では、茉莉はリサと仲が良かったというのだから尚更だろう。
嬉しさと驚きが混ぜ合わさったような視線を向けて来る茉莉に対し、友哉は笑顔で頷きを返す。
茉莉が驚くのを期待して、敢えて友哉はこの事を彼女に伝えないでおいたのだ。どうやら、その狙いは的中だったとみて間違いなかった。
「友哉さんは意地悪です。こういう事であるなら、ちゃんと教えておいてください。ビックリしたじゃないですか」
休み時間になり、茉莉は溜息と共に頬を膨らませている。
彼女の前には、ニコニコ顔のリサが姿もある。
持ち前のほんわかキャラで、すっかりクラスの人気者になったリサは、つい先ほどまで、皆から包囲されて質問攻めにされていたのだ。
このほのぼのキャラに加えて気配り上手、更に可愛いと来れば、人気が出るのは当然の事だった。
「あはは、茉莉が驚くのが見たくてさ。こういうのも、悪くないでしょ」
「ええ、お陰さまで。とっても驚きました」
珍しく、友哉に対して少し不機嫌そうな態度を取る茉莉。さすがに、今回の「奇襲」には面食らったと見え、彼氏と言えど友哉に対して言いたい事があり過ぎるようだ。
勿論、本気で怒っている訳ではないようだが。
とは言え、
「本当にお久しぶりです、茉莉様」
そう言って笑いかけて来るリサのお陰で、茉莉の不満も一瞬で解消してしまう。
「リサさんも、お元気そうで良かったです。イ・ウーに残留したって聞いた時は、どうなるかって心配したんですよ」
イ・ウー壊滅よりも先に逮捕されて脱退した茉莉と違い、リサはボストーク号の決戦後もイ・ウーに残り続けたのだが、理子やジャンヌなど、彼女と親しかった人間の大半が組織から抜けてしまった為、そうとう肩身の狭い思いをしたのは想像に難くなかった。
「でも、もう大丈夫ですよ。ここにはリサさんに優しくしてくれる人がたくさんいますからね」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね、茉莉様」
何となく、キャラが似てるなこの2人。と友哉が内心で思っていると、教室の扉が開いて、見慣れた小柄な影が入ってくるのが見えた。
「おーい、友哉君。借りてた漫画返しに来たよー ごめんね、遅くなって」
言いながら、堂々と教室に入ってくる瑠香。
2年生の教室に1年生が入ってくるのは、普通はかなり緊張する物だと思うのだが、友哉の戦妹として、既に何度もこの教室を訪れている瑠香に気兼ねは無い。
クラスメイト達にも、明るく挨拶をしていた。
と、友哉達のすぐそばまで来てリサを見た瞬間、瑠香は目を輝かせた。
「ふおおおおおお!?」
思わず奇声を上げる瑠香。
そのまま、姿が霞む勢いでリサに駆け寄る。
「ナニコレ、ナニコレ、どうしたのコレ!?」
「取りあえず、落ち着いて」
苦笑しつつ、友哉はリサから瑠香を引き剥がす。
だが、瑠香の興奮は収まりそうにない。
「え、何? 友哉君たちのクラスでメイドさん雇ったの?」
「ハズレ・・・・・・じゃないね、概ね」
言いながら、友哉はリサを差す。
「この娘はリサ。欧州で一緒に戦った娘だよ。メイドっていうのは間違いじゃないね。キンジのだけど。で、リサ、こっちは僕の戦妹で四乃森瑠香。仲良くしてやって」
「はい」
頷いて立ち上がると、リサは瑠香に向かって一礼する。
「リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します。四乃森瑠香様。今後とも、なにとぞよろしくお願いいたします」
「えっ うえ、あ、こ、こちらこそ」
上級生に馬鹿丁寧なあいさつをされ、戸惑う瑠香。
そんな瑠香に、茉莉も笑い掛ける。
「瑠香さん。リサさんは、私の昔のお友達でもあります。瑠香さんも、お友達になってあげてください」
「ああ、そうだったんだ」
言いながら、瑠香は両手でリサの手を取った。
「よろしくお願いします、リサ先輩!!」
「はい、こちらこそ!!」
挨拶を交わしてから、瑠香はやや呆れ気味の視線をキンジに向ける。
「それにしても、遠山先輩の武勇伝ってすごいですよね。そのうち宇宙人の女の子とかもナンパしてくるんじゃないですか?」
「するかッ お前は俺を何だと思ってるんだ!!」
『ジゴロの遠山』
とは、その場にいた全員(リサを除く)が同時に思った事である。
何しろ、キンジの周りには女関係の話題が事欠かない。
ざっと並べただけでも「本命:アリア」「本妻:白雪」「側室1:理子」「側室2:レキ」「愛人:ワトソン」「フランス現地妻:ジャンヌ」「香港現地妻:ココ姉妹」「妾1:菊代」「妾2:萌」「妹:かなめ」「メイド:リサ」と言った感じだろうか?
なかなかな武勇伝振りである。「本命」と「本妻」が別であり、かつ「側室」と「妾」と「愛人」を、それぞれ別枠で確保しなくてはならない辺り、相当である。これで本人は「女嫌い」を自称しているのだから、何かの冗談だとしか思えないのだが。
「それはそうと、友哉君」
「おろ?」
リサに一通りのあいさつを終えた瑠香が、思い出したように話題を変えた。
「さっき、そこで紗枝先輩と会って伝言頼まれたんだけど、『こっちはいつでも良いから、都合がいい時に来て』だってさ」
「ああ・・・・・・・・・・・・」
瑠香の伝言を聞いて、友哉は頷きを返す。
昨日、とある事情で紗枝に電話を掛けたのだが、生憎彼女は所用で出られなかったため、メールにメッセージを残しておいたのだ。
その返事が、瑠香を介する形で返って来たらしい。
「どうかしたんですか、友哉さん?」
茉莉が、心配顔で訪ねて来る。
救護科の紗枝の名前が出た事で、少し不安になっている様子だ。
そんな茉莉に対し、友哉はフッと笑いかける。
「何でもないよ。ちょっと、先輩に依頼したい事があっただけだから」
そう告げる友哉。
だが、茉莉は尚も、心配そうな眼差しで友哉を見続けるのだった。
3
「「デートに誘いなさい」」
第一声が、それだった。
授業が終わり、午後の専門科目も終わった茉莉は、その後、瑠香、彩夏と合流し、いつも通り、ロキシーでガールズトークに花を咲かせていた。
そんな中、2人が口をそろえて茉莉に言い放ったのが、冒頭の言葉だった。
「な、何ですか急に?」
目をまん丸くしてたじろく茉莉に対し、2人はズイッと身を乗り出してきた。
「まったく、ほんとにもう、茉莉ちゃんは、いつまで経っても茉莉ちゃんだよね」
「よく判りませんが、すごく失礼な事を言われているのだけはよく判ります」
「『ヘタレの魂100まで』って言う諺が、確か日本にはあったわよね」
「ありません」
チームメイト2人に、茉莉はジト目になって突っ込みを返す。
2人は、昼間の友哉に対する、茉莉の態度について言及しているのだった。
曰く、あそこでどうして、もっと突っ込んで話を聞かなかったのか、と。
「だって、友哉さんは何か、大事な用事があるみたいでしたし・・・・・・」
尻すぼみ気味に言い訳する茉莉。
だが、友哉があのような態度を取ると言う事は、何か他の者には言いにくい事を隠している時だった。
だが、
「甘いッ」
ズビシッ
「キャッ!?」
いきなり彩夏から額にチョップを喰らわされ、短い悲鳴を上げる。
いきなり何をするのか、と涙目で睨みながら抗議しようとすると、その前に茉莉の鼻先に指が突きつけられた。
「たとえ相手に嫌がられても、自ら突っ込んで行く。それこそが彼女の役割でしょうが!!」
「いや、それじゃあ、ただの迷惑な人ですから!!」
ヒートアップする彩夏に対し、うんざりした調子で返す茉莉。
公衆の面前で、何をのたまっているのか、この英国少女は。
「でもさ、茉莉ちゃん」
冗談はこれまで、と言った感じに、瑠香は口調を改めて言った。
「茉莉ちゃんってこれまで、友哉君とデートらしいデートなんてした事無いよね」
「それは・・・・・・・・・・・・」
確かに。
言われてみれば、茉莉は今まで友哉と、2人きっりでどこかに出かけると言う事は無かった。出掛ける時は大抵、他のメンバーが一緒だった。
しいて言うなら付き合い始める前、一緒に学園祭を周った時くらいだったが、あれは正直、カウントに入るとは思えなかった。
「ここらで、友哉君誘って、どっか遊びに行ってみれば? 彼女っぽくさ」
「で、でも、遊びにって言われても、どうすればいいのか・・・・・・・・・・・・」
いかんせん、今までの人生の大半を修行と勉強に打ち込んできた茉莉である。急に「女の子っぽく彼氏とデート」と言われても、なかなかピンと来るものではなかった。
「そう、難しく考える物でもないでしょ。いつもあたし達とやってるみたいなことを、今度は友哉とやれば良いのよ」
街に出て、買い物をして、少し喫茶店でお茶でも飲んで帰ってくる。
ただそれだけでも、いつもとは違う新鮮さが味わえるはずだった。
「あたし達も協力するからさ。頑張ってみようよ、茉莉ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
瑠香の励ましに、茉莉も不承不承ながら頷きを返す。
確かに、もし今以上に友哉と楽しい時を過ごせるなら、それは間違いなく幸せな事だった。
その頃、
訓練を終えた友哉は、その足で救護科等に赴き、高荷紗枝の元を訪れていた。
3年生の3学期ともなれば、既に就職活動で大わらわな状況である。
かく言う紗枝は、既に卒業後の進路については決まっているのだが、当然、学校を去るに当たって行わなくてはならない身辺整理は山のようにある。
私物の撤去に使用していた医務室の掃除。更に患者の引き継作業と、毎日が忙しい限りだった。
そんな中で、友哉の頼みを聞いてくれていた。
「結論から言うわね」
友哉のカルテに目を通しながら、紗枝は口を開く。
欧州から帰還した友哉が紗枝に依頼したのは、自身の健康診断だった。
思うところあって、自分の健康状態をチェックする必要に迫られた友哉は、気心の知れた紗枝が在学している内に、必要な事はやってしまおうと考えたのだった。
「ハッキリ言って、この所見からは、異常らしい異常は見られないわね。骨も筋肉も、内蔵、神経、血管、特に異常な数値は出ていないわ」
「そうですか・・・・・・・・・・・・」
紗枝の言葉に、友哉はほっと息を付いた。
整形外科等は紗枝の専門外の事なのだが、彼女の口利きで幾人かの救護科学生の元を周って検査を受けたのだ。
「どうする? 何か気になる事があるのなら、もう少し詳しい検査をしてみましょうか?」
「いえ、これで充分です」
紗枝の申し出に対し、友哉は首を振って謝辞する。
紗枝や、彼女が推薦する救護学生の診断である。その結果はそこらの医師の物よりも信頼できる物だった。
それに、友哉自身としては、今現在、自分の体に異常が無ければそれでいいと思っていた。
友哉は、体の中に爆弾を抱えている。
それは、ずっと以前、それこそ武偵校に入る前から気付いていた事だった。
本来、飛天御剣流と言う剣術は、使用者の体に掛かる負荷が半端な物ではない。下手をすると、技を撃つだけで筋肉や骨が断裂してもおかしくは無いくらいである。
その為、使用者には強靭な肉体が求められる。
これが武藤海斗のような、充分に整った体つきをしている人物であるのなら何の問題も無い。飛天御剣流の技によって起こる強烈なフィードバックにも耐えられる。
だが、友哉は先天的に華奢な体付きをしている。その為、海斗ほどには技の負荷に対する耐久性が高くないのだった。
友哉は生まれ持った剣術の才能でカバーする事によって飛天御剣流を問題無く行使しているが、それがいかに危険な状態と同居しているか、他ならぬ友哉自身が判っていた。
極めつけは、奥義、
未完成状態の頃は、それこそ一発撃つだけで凄まじいダメージが体にフィードバックしていたが、香港での戦いの際に完成させた事で、かなりダメージを軽減する事に成功してはいる。しかしそれでも、最終的に衝撃をゼロにはできなかった。
これは欧州での決戦の後、海斗にも警告された事だ。「天翔龍閃を使い過ぎれば、いずれ友哉自身が身を滅ぼす」と。
だが、友哉はまだ、戦いをやめるつもりはない。
友哉の仲間達はまだ、苦しい戦いの渦中にいる。それを考えれば、いずれ滅びるこの身であったとしても、使い潰すくらいの覚悟を持って、戦い続ける心算であった。
宵闇の天に、朧げに月が浮かんでいる。
淡く輝く光は、しかし同時に地上をも薄暗く照らし出し、一種、不気味な様相を齎していた。
その異様な雰囲気の元、
白刃が、煌めいた。
次の瞬間、血飛沫が盛大に飛び散り、路地や壁を朱に染め上げる。
次いで、その朱色の発生源である肉の塊が、嫌な音と共に地面に倒れ伏した。
辺り一面を赤に染め、その中央に無造作に置かれた肉塊。
まるでそれ自体が、グロテスクなアート作品を連想させる。
「フンっ」
そのアートの製作者は、自身の「作品」を見て、不気味な笑いを見せた。
「何とも、帰国早々手洗い歓迎だな」
周囲を見回しながら、満足げに笑みを浮かべる。
転がっているのは恐らく、この国の警察官だ。こちらの帰国に気付いて待ち構えていたのは大したものだが、戦力を見誤ったようである。
「さてさて、こんな雑魚に比べれば、奴の方がまだマシである事を祈る次第なのだがな」
言いながら、倒れ伏した警察官の首を爪先で蹴り上げる。
そこには、死者に対する尊厳など微塵も感じられない。
ただ、自分の足元にあるごみを蹴り飛ばした。そんな感じである。
「よし、行くぞお前等」
そう言うと、自ら先頭に立って歩き出す。
その姿を、月明かりは不気味に照らし上げていた。
第1話「懐かしき学舎」 終わり