1
「成程ね。まあ、だいたい事情は分かったわ」
ランジェリーショップの床に正座した友哉と茉莉。
その目の前には、腕組みをした彩の姿がある。
試着室から転がり出てきたとところで見つかってしまった2人は、そのままその場で彩から、お説教を受ける羽目になっていた。
一応言っておくと、茉莉は服を着ている。
の、だが、
店のド真ん中で、わざわざ正座してお説教モードに入っている為、当然ながら周囲の注目を覿面に集めてしまっている。
はっきり言って、そっちの方が恥ずかしかった。
「まあ、2人が付き合っていると言う話は分かった。アンタ達は若いんだから、ある程度、羽目を外したいって気持ちも判らなくもないわ。けどね、」
語気を強めながら、彩は2人を睨み付ける。
「友哉、アンタ、女の子に誘われたからって、こんな所にノコノコと入って来るんじゃないわよッ それとも何? アンタも自分用の下着買うの?」
「い、いや、そんなつもりは毛頭無いけど・・・・・・」
「瀬田さんも、もうちょっと自分を大切にしなさい。あんな事して、もし万が一の事でもあったらどうするの?」
「その、すみません・・・・・・・・・・・・」
怒られて、縮こまる友哉と茉莉。
だが、実のところ2人とも、彩の説教は殆ど聞いていない。と言うのも、周りを気にして集中できないからだった。
当然だが、店内でこんな事をすれば、周囲の視線を否が応でも集める事となる。
今も周りの人たちの視線が痛々しく突き刺さり、正直かなり、居心地が悪かった。
「とにかく、デートするなとは言わないから、せめてもう少し節度を持ってしなさい」
「「はい・・・・・・・・・・・・」
激しくどうでも良いから、さっさと終わってくれ。
友哉と茉莉は、揃って同じことを考えていた。
そんな2人を、嘆息して見詰める彩。
本当に判っているのかどうか知らないが、これ以上は引き止めるのも酷だろう。折角のデートの最中に。
説教をしつつも、そこら辺を汲み取れないほど、彩も鈍感ではない。
「さて、私はもう行くわ。2人も、まだどっか行くんだったら、あまり羽目を外しすぎないにしなさいね」
言いながら、2人の横を通って歩き去って行く彩。
だが、茉莉の横を通る寸前、彼女の肩を叩き、
「頑張ってね」
友哉には聞こえないくらい小さな声で、そう囁きかけた。
それを聞いて、ほんのり顔を紅くする茉莉。
その横では、1人分かっていない友哉が、怪訝そうに首をかしげていた。
2
ランジェリーショップを出てから、友哉と茉莉は次の目的地に向かって歩いていた。
時刻は昼時。
昼食を食べようと繰り出している家族連れやカップルが、そこかしこに散見できる。
そんな中で、友哉と茉莉は互いに並んで歩きながらも、先程から殆ど、会話らしい会話をしていなかった。
ランジェリー・ショップでの出来事が、あまりにインパクトが強すぎたのである。お互いに。
結局、あの後も友哉は、店員から「お客様、先程は失礼いたしました。これなどは、お気に召すのではないでしょうか?」などとしつこく勧められ、殆ど逃げ出すような勢いで店から出て来たのだった。
だが、
友哉は見逃していなかった。
そんな混乱の中でも、茉莉はきっちり買い物をしていたのを。
しかも、買ったのはあの、友哉が選んだ下着だ。
あんな際どい下着、いったいいつ穿くつもりなのだろう?
友哉はそんな事をぼんやりと考える。
武偵校セーラー服の短いスカートでは、少し強い風が吹いただけで中身が見えてしまう。事実、藍幇城では茉莉自身が、その悲劇を味わっている筈なのだが。
加えて、茉莉の性格から言って、あんな恥ずかしい物を普段から着るとも思えないし、何より友哉自身、茉莉があんなものを穿いている所を、他の男には見られたくない。
イマイチ、購入した意図が判らなかった。
『ま、いいか・・・・・・・・・・・・』
友哉はそう思い、思考を打ち切る。
正直、ランジェリーショップでの事を、これ以上引きずりたくない、と言うよりも思い出したくなかった。
そんな事をしているうちに、2人は次の目的地へと入った。
茉莉が友哉を連れて来たのは、裏路地風の場所に開業している銃剣類を扱った武器専門店だった。
看板には「新井銃砲刀剣店」とある。
武偵が国際的に認められるようになってから、日本でも民間の武器専門店が出店するようになっていた。勿論、店を出す為には、国から厳しい審査を受ける必要があるのだが。
日々、凶悪化、複雑化する犯罪に対応する為には、武偵や警察のみならず、時には民間人ですら武装する事を迫られるのだった。
しかし、
デートの目的地に、武器屋を選ぶというのも、なかなか「武偵」らしいと言えるだろう。
一般人の常識からは外れている事は間違いないが。
店内に入ると、小規模ながら品ぞろえが充実しているのが判る。
ガラス張りのショーケースには、きちんと整備された大小の銃が並び、壁には刀剣が掛けられているのが見える。
「へぇ・・・・・・・・・・・・」
友哉は感心したように、周囲を見回しながらため息を漏らす。
「結構、良いお店だね」
「好かったです」
友哉の言葉を聞いて、茉莉も笑みを返す。連れてきた彼女としては、友哉に気に入ってもらえてうれしかったのだろう。
友哉は、刀剣が飾られている棚に近付き、品定めをする。
一口で刀剣と言っても、様々な種類がある物だ。
西洋剣に、中華風の青龍刀、レイピアのような刺剣、そしてもちろん日本刀。
大きさも大小さまざまで、中には、友哉が両手で持っても振るえなさそうな物まであった。
「いろんな刀がありますね。あ、あれなんか、どんな人が使うんでしょう?」
傍らの茉莉も、初めて見る面白い形の剣に、若干興奮気味なようだ。
こうして見ると(興味のジャンル)はともかく、しっかりデートっぽい雰囲気を作れているような気がした。
かく言う友哉自身、メイン武装を日本刀にしているせいで、洋の東西を問わず、刀剣には非常に興味が高かった。
その時だった。
「何か、お気に召した物はありますか?」
不意に声を掛けられて振り返ると、青年が笑顔を浮かべながら歩み寄ってくるのが見えた。店のエプロンを付けている所を見ると、恐らくこの店の店員なのだろう。
「あなたは?」
「失礼しました。当店の店長をしております、新井と申します。どうぞ、これからもごひいきにお願いしますね」
その言葉に、友哉は少し意外そうな顔をする。
このような武器店の店長を務めている割に、その新井と言う青年は、虫も殺せないのではと思える程、人がよさそうな好青年だったのだ。
「・・・・・・・・・・・・いい店ですね。いろんな武器が揃っていて面白いです」
実際、銃や剣のみならず、炸薬を抜いた手榴弾等も展示されている。
そこでふと、新井の目が、友哉や茉莉が手にしている竹刀袋に向けられた。
「・・・・・・日本刀、ですね。それも、かなり使い込んでいるとお見受けしました」
「判るんですかッ?」
茉莉が驚いたように声を上げる。
普通に考えれば、竹刀袋に入っている物を実際の刀剣だとは思わないだろう。まして、種類まで完全に言い当てられるとは思っても見なかった。
「ええ。全体や刀身の長さと重心、袋から浮き上がった若干の形状で種類は判りますし、持ち方を見れば、どの程度、その人物が使い込んでいるかは想像できます」
新井の答えを聞いて、友哉は、ふむ、と考え込んだ。
この青年、ただの武器屋の主ではない。目利きの才能も充分に備えていると見た。
「ここでは、武器の整備とかもやっているんですか?」
「はい。銃や剣は勿論、防弾服の整備も承っています。それに製作もできますよ」
予想以上の答えに、友哉は内心で唸り声を上げた。
実のところ、それまで整備をお願いしていた平賀文が来学期には渡米すると言うので、誰か代わりの整備士を探していたところなのだ。
壁に並ぶ刀剣は、どれも入念に整備されている事が判る。どれも、今すぐ取り出して使えそうなほどだ。
この店ならば、平賀に代わって整備を任せる事も可能かもしれなかった。
「また来ます。その時は、よろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ。御贔屓にお願いします」
そう言うと、2人は互いに笑みを交わし合った。
3
新井銃砲刀剣店を出たところで、時刻は昼に達しようとしていた。
そこで友哉と茉莉は、軽めの昼食を取り、次の目的地へ向かおうと店を出た。
その時だった
「ちょっと、そこのあなた達!!」
「おろ?」
「は、はい?」
突然、背後から呼び止められ、振り返る2人。
見れば、カラフルなメイドのような衣装を着た少女が、2人に駆け寄ってくるのが見えた。
歳は恐らく、友哉達よりも1歳か2歳、上だろう。少しほんわりとした雰囲気の優しげな少女である。
少女は近付いて二人を見極めると、ニッコリ微笑んで言った。
「うん、合格。これなら何とかなりそうね」
「あの、何か用ですか?」
怪訝そうに尋ねる友哉。その傍らでは、茉莉も事態を飲み込めずに困惑顔を見せている。
街頭で、いきなり不躾な視線を送られ、不審に思わない方がおかしかった。
そんな2人に対し、少女は目の前でパンッと掌を合わせて頭を下げて来た。
「お願いします。どうか、助けてください!!」
街頭で、見知らぬ少女にいきなり頭を下げられ、何かをお願いされる。
まったく意味が判らない事態に、友哉と茉莉は揃って首をかしげるのだった。
喫茶店「リトルスター」は、本日新装開店したばかりの店である。
元々は別系列の大型店から分かれた店で、本格的なブレンドコーヒーや紅茶、そしてレベルの高いケーキが売りの喫茶店である。
そのような人気の高い店である為、開店するに当たって行われた宣伝の効果もあり、初日から長蛇の列が作られるに至っていた。
だが、ここで店側に誤算が生じる。
当初予定していた数を遥かに超える客が殺到してきたため、スタッフの対応が追いつかなくなってしまったのだ。
このままでは、どうしても、お客様を待たせる事になり、ひいては店のイメージダウンに直結してしまう。
「そんな時に、あなた達を見かけたって訳」
そう言うと、少女は2人にニッコリと微笑んだ。
「事情は分かりました」
話を聞き終えた友哉は、恐る恐ると言った感じに手を上げて質問する。
「けど何で、僕はこの恰好なんですか?」
げんなりとした調子で尋ねる友哉。
青を基調としたブラウスとスカートに、白のエプロンとヘッドドレス。足にはニーソックスを穿き、スカートとの間に「絶対領域」を恥ずかしげに形成している。
友哉の恰好は、利恵や茉莉と同じ、ウェイトレスメイド姿である。
渡された制服に着替えたら、こんな事になってしまっていた。
傍らの茉莉も、笑っていいのか同乗して良いのか判らない、と言った顔をしている。
欧州から帰国してわずか数日。この東京の地に「
げんなりしてくる。
どうにも自分は、
もちろん、どれだけ「実戦」を重ねても、慣れる事は未来永劫あり得ないのだが。
そんな友哉を見て、主犯である利恵はと言えば、満足そうに笑顔を浮かべている。
「うんうん。私の見立て通りね。あなたみたいな子は、うちの制服が似合うと思ったのよ」
いかにも「いい仕事をした」と言った感じに頷く利恵。
対して、当然ながら納得しない
「僕は男ですよッ」
詰め寄りながら抗議する。
しかし、
小柄で線も細く、体付きがいかにも華奢な友哉。おまけに目鼻立ちに幼さが多分に残り、声も高音に近い友哉。
どこからどう見ても、立派な「女の子」だった。
「またまた~ もしかして、あなた達の間じゃ、そう言う冗談が流行っているのかしら?」
「本当にッ 本当のッ 男ですッ」
一節ずつ、強調するように言い放つ
流石に自信が揺らいだのか、利恵は確認するように茉莉を見る。
「もしかして、マジ?」
「・・・・・・・・・・・・」
対して、苦笑気味に頷きを返す茉莉。
女装した友哉の事は可愛いとは思うが、それでも酷である事に変わりは無い。
普段から弄られ体質な茉莉としては、今の
これで、利恵は諦めてくれるだろう。
そう思った、次の瞬間、
「ま、大した問題じゃないよね。こんだけ可愛いんだし」
あっけらかんとして言い放つ利恵に、思わず口をあんぐりとあける友哉と茉莉。
利恵はそのまま、
「さて、かき入れ時で忙しいからね。たっぷりと働いてもらうわよ。あ、報酬はきちんと用意させてもらうから安心して」
「は~な~し~て~!!」
「諦めましょう、友哉さん、じゃなくて友奈さん」
引きずられていく友哉。
その後から、茉莉も嘆息気味に続いた。
緊急で街頭ヘルプを募るだけの事はあり、確かに店の盛況ぶりは威容と称しても良いほどだった。
まず、どれだけ時間が経過しても、空席が出来るという事が無い。客が立って空いた席には、すぐまた次の客が間髪いれずに座る、というような事が繰り返されている。
客が品物を注文する声も、あちこちで交錯している。
スタッフ達は、この日の為に訓練を重ねて来た言わば「精鋭」達であるが、それでも許容限界をとっくに超過し、皆が皆、へとへとと言った体である。
そんな中、彗星の如く現れた2人のヘルプスタッフが、押し寄せる客をバッタバッタと斬り伏せるように、次々と注文をさばいていく様は、見ていて爽快と行ってもよかった。
「ご注文はお決まりでしょうか? アメリカンのブレンドがお二つ、特性ショートケーキに、デラックス・苺パフェですね。かしこまりました!!」
「お皿下げまーすッ 21番テーブル、オーダーお願いしまーす!!」
まるで蝶が飛ぶような可憐な姿に、男女問わず、目を奪われる客も少なく無い。
中には露骨に声を掛けてようとする者までいるが、
2人の活躍のおかげで、それまで息も絶え絶えの状態だった正規スタッフたちも、息を吹き返していく。
臨時のヘルプに負けるな、とばかりに、店内を駆け回る姿が目に付く。
「いやー、思った以上の掘り出し物だったわ、あなたたち」
2人の活躍を見て、利恵も絶賛している。
2人をスカウトして引っ張ってきた彼女としては、自身の慧眼に対して絶賛したい心境だろう。
「もうね、いっそこのまま、うちに就職しない? あなた達なら、即戦力として期待できるから、給料も倍は固いわよ」
「お断りします」
笑顔で、きっぱりと言い捨てる
お金をもらえるのは無論、
ここは丁重に断っておくのが得策だった。
一方で、利恵の方でもさして本気では無かったらしく「残念」と舌を出して笑顔で言いながら、厨房の方へと下がって行った。
何とも、不思議な雰囲気を持った女性である。
と、その時、
「あの、そう言うのは、本当に困ります」
何やら、茉莉に言い寄っている男がいる。
派手ではないが、上方から服装までしっかり決めた、所謂イケメン風の男だ。
手まで取って、相当に馴れ馴れしい雰囲気である。見ている友哉の中で、苛立ちが一気に募って行く。
「あの、困ります。お仕事の最中ですので」
「ええ? 良いじゃん、ちょっとくらいさ」
離れようとする茉莉の手を強引に掴み、逃がすまいとしている。
その姿に、ムッとする友哉。
ただでさえ茉莉に声を掛ける男を見るだけでムカつくと言うのに、この忙しい時に迷惑な話である。
しかもこの男、テーブルの向かいには彼女と思しき女性を座らせておきながら、茉莉をナンパしてる状態だった。
そうとう、チャラい性格なようだ。向かいに座った女性も呆れ気味にそっぽを向いている事から考えて、このような事は日常茶飯事のようだ。
「ねえねえ、この後時間ある? 良かったらこの後さ、どっか遊びに行かない?」
この手の事に慣れていない茉莉としては、対応に困っている様子だ。
ここは自分が、
そう思って、前に出かける友哉。
だが、それを遮るように、慣れた足取りで近付く影があった。
利恵は男と茉莉の間に入ると、柔らかく、それでいて毅然とした調子で言った。
「お客様、申し訳ありません。他のお客様にもご迷惑になりますので、そう言った事はご遠慮ください」
きっぱりと言ってのける利恵に、周囲も感嘆の声を上げる。
友哉もまた、驚いて利恵の行動を見守っていた。
だが、言われた男の方はと言えば、どうやら馬鹿にされたと思ったらしく、頭に血を上らせて言い募って来た。
「ああッ!? 俺は客だぞッ 客にそんな態度取って良いと思ってんのかよ!?」
完全に言いがかり以外の何物でも無い物言いで、利恵に迫る男。
さすがの利恵も、狂騒状態になった客に対する術は無いらしく、戸惑ったような表情を浮かべている。
「申し訳ありません、お客様。ですが・・・・・・」
「『申し訳ない』で済む問題かよ!?」
男はいきなり掌でテーブルを叩き、大きな音を立てて威嚇してくる。
「客に対する態度がなってねえなッ 小学生からやり直して来いよ!!」
「申し訳ありません!!」
「謝るなら態度ってもんがあるだろうがよッ 土下座しろ土下座!! まずはそっからだろうが!!」
完全に調子に乗った風で、利恵に言い募る男。
他の客も、委縮したように、成り行きを見守る事しかできない。
そんな中、
「あ? 何だテメェは? テメェも一緒に土下座するってのか?」
男は声を荒げるように言いながら、
「おお、お前もイケてるじゃねえか。どうだ、お前も付き合わないか? いい店に連れてってやるぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
「武偵です。威力業務妨害、並びに強要罪の現行犯で、緊急逮捕します」
そう告げると、男が何か言う前に、取り出した手錠を男の手首にガチャリと掛けてしまった。
その冷たい感触に、ようやく意識が事態の成り行きに追い付いたのだろう。顔を上げてわめきたてる。
「お、おいっ 何だよこれッ ふざけんな!!」
「テメェ、こんな事してタダで済むと思うなよッ 俺は・・・・・・・・・・・・」
言い募る男を無視して、
「茉莉、
「了解です」
頷いて、携帯電話を取り出す茉莉。
次の瞬間、期せずして店内から拍手が巻き起こった。
3
店を出た友哉と茉莉は、並んで歩きながら、帰宅する道を進んでいた。
あの後、やって来た車輌科に男を引き渡すと、利恵だけでなく店長まで出てきて、2人にお礼を言ってくれた。
ある種の「イベント」が功を奏し、その後も店は大盛況のまま営業を終え、2人は賄い食と日当を貰って店を出たのだ。
利恵だけは名残惜しそうに、「働きたくなったらいつでも来てね」と言っていたが、そこは丁重に断っておいた。
とは言え、
「何だか、慌ただしい一日になっちゃったね」
「あうッ すみません」
何気ない友哉の一言に、茉莉は恐縮した体で謝る。
彼女としては、もう少し別の形でのデートを希望していたのだろうが、どうもやはりと言うか、こんな形になってしまった。
しょぼんとする茉莉。
そんな茉莉を見て、
友哉はそっと、彼女の頭に手を置く。
「友哉さん?」
怪訝な面持ちの茉莉に対し、友哉は笑顔を向ける。
「今日は誘ってくれてありがとう。また行こうね」
どんな形でのデートだろうと気にしない。2人で一緒にいれるだけで幸せだった。
そんな友哉の笑顔に引き寄せられるように、茉莉もまた笑顔を浮かべる。
デートは何と言うか、満足のいくものではなかったが、友哉が喜んでくれたのなら、茉莉としても文句は無かった。
このまま、
このまま何事もなく終われば(多少のドタバタはあれど)楽しい一日として、初デート記念日を刻む事ができただろう。
そう、このまま、何事も無く、終わる事ができれば。
だが、
運命を告げる、携帯電話が鳴り響く。
通話ボタンを押し、耳に当てる。
《緋村か、儂じゃ!!》
「おろ、玉藻?」
何やら切羽詰まった声を上げる玉藻の様子に、怪訝な面持ちとなる友哉。
何か起きた。
明らかに、そう思わせるような緊迫した様子に、友哉は目を細める。
《よく聞け緋村。先程、大気中の魔力に変動が起こった》
「それって、まさか・・・・・・・・・・・・」
玉藻の言葉に、
友哉は「その可能性」に行き付き、絶句する。
早すぎる。まだ、もう少し間があると思っていたのに。
だが、
真実は残酷に告げられる。
《緋緋神が、目覚めたぞ》
その瞬間、友哉は己の周囲が暗黒に包まれたような錯覚に陥った。
第6話「デート・ア・パニック Bパート」 終わり